表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

誰が彼を殺したのか。

作者: 木原 柳

アパートの一室から救急車のサイレンが街に響くのを大迫優は聞いていた。

何時もは鬱陶しく感じるサイレンも今日は気にならない。

アルコール度数の高い酒を煽り自分の好物に舌鼓を打つ。

腹が満たされると少し部屋を見渡した。

今日までありがとうと呟いてみるもキザに思い自嘲気味に笑う。

誰の目も気にする事無いのにと大迫は思うがやはり週間からか恥ずかしさを感じた。

机の上を片付けると用意してあった紙と瓶を机に並べた。

丁寧に紙を置く、この日の為に試行錯誤しながらも書いたのだ多少の誤字には目を瞑って欲しいものだと大迫は思う。

瓶を開き錠剤をヨーグルトの中に投入した。

一気に飲み込む。

横になろうと飲み込んだ直後に思いベットへと移動した。

そのまま布団を被っていると目の前が急に暗くなった。

頭が痛く手が震え初める、心臓の音がやけに大きく胸が痛い。

息が苦しい、なんだ楽じゃないんだなと頭の冷静な部分考えていた。

苦しいまま大迫は意識を失った。


はっきりとしない意識で周りを見回す。

病室だろうか前後の記憶が無く思い出そうにも靄がかかったように感じた。

「小畑さん?」

看護師にそう声をかけられた。

小畑友紀とベットの名札に書いてあるのを見た。

「大丈夫ですか?意識ははっきりしていますか?」

「大丈夫です。何があったんですか?」

小畑が尋ねると看護師が顔を曇らせた。

「…覚えて無いんですね。」

その言葉が聞こえたと同時に看護師の顔に穴が空いた。

「なんだそれ…」

小畑が思わず呟いた。

「あれ程死んじゃ駄目って言ったじゃないのぉ!」

顔に広がった穴のせいか声が低くなっていた。

気持ち悪い小畑がどんどんと顔が溶けていく看護師を見て思った。

顔が溶けていき身体が溶けていき最後は蝿が来て溶けた物体を食べていた。


ハッと気付くと目の前に医師がいた。

「診察しますので口を開けて下さいね。」

しばらく呆然とした小畑だったが意を決して質問する。

「…あ、あの…先程の看護師さんは…?」

「はい?小畑さんどうしました?」

医師が訳が分からないといったふうに小畑に尋ねた。

「…いや、先程ベットにいた看護師さんは…」

そう答えた小畑だったが自分が今椅子に座っているのに気づき口を噤んだ。

「もしかして薬が合わなかったかもしれませんね。」

医師がそう言った。

そうかそれで幻覚を…小畑がそう思う確かに先程から頭が酷く働かなかった薬のせいかと自分を納得させた。

「ちょっと見ますね。」

優しそうに微笑んだ医師の笑顔に小畑は安心する。

目を見てライトをあてる、左右に動かし眼球の動きを確かめていた。

「じゃあ次は口を開けて下さい。」

医師が言う指示に従う。

口を見るのかと思ったが医師の手が喉の辺りに来る。

グッと喉を抑え付けられた。

驚き固まってしまった。

喉をもっと押し込まれていく呼吸が出来ない。

凄い力で喉を締め付けられていく。

段々と意識が遠のいていく。

医師の顔が涙を流しながらも笑顔で口をずっと動かしていた。

「ごめんなこんな事しか出来なくて。」

謝るくらいならしないでくれ小畑が場違いにもそう思った。


「ライターいいかな?」

目が覚めると横に気の良さそうな人がいた。

「…持ってませんけど。」

「煙草吸わないの?人生の半分は損してるよ。」

そう言ってカラカラ笑う男が横に座っていた。

屋外のベンチに座っているそこで初めて自分がどこに座っているのか分かった。

辺りを見渡すと後ろに病院が見える。

「何で入院してるの?」

突然横の男から質問された。

「分かりません。」

小畑がそう答えると男は小畑を見つめて笑い出した。

「分かりませんてなんでなんだよ!」

身振り手振りを大袈裟に男が小畑に笑いながら返答した。

「貴方は何で入院したんですか?」

この騒がしい男を嫌いにはなれなかった、逆に少し好きだと思う。もう少し喋りたかった。

「俺はストレスでね。」

少し真面目に答えた男が小畑の目に悲しげに映った。

ストレスというには胃潰瘍とかそんな感じだろうか、小畑がそう思い返答する。

「それは大変ですね。今は大丈夫なんですか?」

「まぁ俺は大丈夫よ、けど家族には迷惑かけちゃったな。」

男がそう答えると立ち上がった。

小畑の顔を見てじゃあと手を上げて行こうとした。

小畑もつられて会釈するもさり際に男が呟いた。

「善人面するなよ、お前が悪いんだ。」


男と別れてから看護師が来る。

顔に穴は空いていない。

「病室に戻りましょうか?」

看護師がそう言うやいなや車椅子が後ろから当たってきた。

文句を言おうとするも誰もいない。

看護師がそのまま後ろに付き病室に連れて行かれた。

「小畑さん。今日から相部屋ですからね。

隣の方に挨拶されてはどうです?」

看護師がそう言うと隣人を紹介された。

「初めまして小畑ともうします。隣なんですが音とか五月蠅かったら言って下さいね。」

「知ってます。」

隣の病床の女性はそう言うと微笑んだ。

綺麗な人だったが変わり者という言葉がぴったりだった。

「私を見て綺麗だと思ったでしょう?

だから貴方は犯罪者ですよね。」

まるで話にならなかった。

小畑は意味が分からず会釈してカーテンを閉めた。

横から何か意味の分からない言葉を喚き散らしていた。


夜まで続く隣の人の言葉に辟易とした。

余りに続くのでナースコールを押す。

ドロドロの固まりがカーテンを開けて小畑に聞く。

「どうしました?」

気が狂いそうだった。

「助けてくれ!」

小畑が叫ぶと医師がやって来て喉を掴み安静にしろと喚いていた。

そんな様子を女が指を指しながら笑う。

男が女を殴りつけているのが視界の端に見えた。

ドロドロの塊が泣いていた。

女が叫ぶ

「犯罪者はそうやって死ねば良いんだ‼」

その時全て思い出した。

全てが黒く染まっていく。




小畑友紀は医者の父と看護師の母の間に生まれた。

上に兄がいて両親の仲も兄弟仲も良かった。

兄は頭が良かった医者の父を尊敬していて自分も医者になる夢を持っていた。

両親もそんな兄が誇りだっただろうし友紀も兄が理想の男だった。

そんな理想の兄が高校生の時大学受験に失敗した。

周囲からは合格確実とまで言われていて順風満帆といった風にみえたのだがそれでも駄目だった。

そんな兄が泣きながら悔しがっていたのを友紀は見た。

プライドが高い兄のそんな姿を見たのは初めてだった。

そして周囲を寄せつけなくなった兄が部屋に籠もり死にものぐるいで勉強したのを友紀は知っていた。

そんな中次の年医大に受かったのは自分の事のように嬉しかった。

自分も医者になるんだと強く思ったのはこの時だったかもしれない。

兄に負けず勉強したそれこそ兄を超えるように死にものぐるいで勉強した。

そして兄と同じ医大に行けたそれがたまらなく嬉しかった。

両親も兄も喜びその日は酔っ払った父が

「お前らは俺の誇りだ!」

と大声で叫んだ。近所の迷惑だっただろうがその時は迷惑よりも喜びの気持ちの方が大きく皆笑顔だった。

そんな中、兄が事件をおこした。


始まりは早かった警察がやって来て一家に避難を促す。

詳細を聞けば兄が強姦して相手を殺害した。

現実感の無いそんな中言われるがままホテルへと家族で逃げた。

ニュースで全容が分かった。

兄が昔から片思いしていた女性にストーカー行為を繰り返してその女性の通勤途中に襲いかかりレイプして胸と喉を複数回刺したらしい。

嘘だと思ったが被疑者である兄も自白しているとニュースでは言っていた。

あんなに気の良い兄とニュースで言っている兄がイコールで結ばれなかった。

ニュースでは現場に落ちている煙草が捜査の決めてになったらしい。

煙草を吸わない奴は人生の半分を損している、その言葉が兄の口癖だった。

一瞬兄の顔が思い浮かんだ。


一晩明けて現実感の無いまま学校へと向った。

汚物を見るように周囲が友紀を見た。

ニュースでは父がマスコミに囲まれていた。

どうする事も出来ずに周囲から距離をおかれて逃げ帰るようにホテルに戻った。

母はホテルに戻ると憔悴しきっていた。

家に戻れず父の帰りを待つ。

父が疲れきった顔でホテルに戻ってくると勤めていた病院を休職してきたらしい。

母の実家に逃げる事をホテルで話合った。

友紀も大学を休学する事にして避難する事にした。

夜の間に家に戻り必要な物をとると逃げるように母の実家に行った。


母の実家に行くとニュースでは散々流れていたがそれまでだった。

自分たちに危害が加わる事が無いそれだけで安心出来たがそれも長くは続か無かった。

ネットでは既に友紀達までの本名が出回り拡散され次の日には噂の的になる。

母も父も憔悴しきっていたがそんな事お構いなしなんだろう、と友紀は思う。

母の実家までネットでは噂されこれ以上迷惑をかけれないと父が家に戻る事を決意したがこれが必要以上に注目をかってしまった。

家に戻るとマスコミに囲まれ、壁には落書きが書いてあり、毎日のように脅迫電話がかかってきた。

母の実家に帰った事も何故かばれていて小旅行だの好き勝手に言われた。

そんな日を一ヶ月以上続けた。

もう限界だったのだろう父が夜遅くに帰ってくると母と二言三言言葉を交わしていた。

父が寝ている友紀を確認して寝ていた友紀の上に跨り首を締めた。

両腕で頸動脈を押さえつける。

苦しさに目を覚ますと父が泣きながら呟いていた。

「ごめんなぁ…こんな事になるなんて…こんな事しか出来なくて…!」

最初で最後の父の涙を見た。

最初少し抵抗していたが次第に出来なくなり意識を失った。


目が覚めたこの時目覚めたのが良いのか悪いのかは友紀には今だに判断がつかない。

首の周りが赤く染まっていた。

リビングに降りて行くと首を吊った母がいた。

母の眼は飛び出し舌が伸びていて下には汚物が溜まっていた。

父は喉を包丁で切っており血が辺りに飛び散っていた。

思わず嘔吐した。

こんな事なら死ねば良かったと思ったが死ぬのは怖く助かった命を無駄にしてはいけないとその時は思った。

急いで救急と警察に連絡した。

けたたましくサイレンが鳴り到着すると両親だったものを運んでいった。


それからは早かった。

両親の葬式を行い。

家を引き払った。

大学も辞めて両親が残してくれた遺産で生活をした。

そんな折兄の自殺を知った。

刑が確定した兄がタオルで首を吊ったらしい。

引き取りに行くも葬式は簡単に済ませた。

参列者は親戚が少しの寂しい式だった。


そして小畑友紀だった名前を変えた。

大迫優それが新しい名前になった。

だが世間はそれで許してくれなかったらしい。

ネットに新しい名前が広がり始めた。

それまでバイト生活をしていたが新しい名前がネットで広がるとクビになり職も転々と変わっていった。

遂に生きる事を投げ出す決意をした。


いくつかのドラッグストアで錠剤を買う。

カフェイン多く含む錠剤ヨーグルトに溶かし一気に飲み干した。


頭がガンガン痛み、吐き気が襲ってきた。

胸の鼓動が大きくなって倦怠感が増す。

意識は暗闇に囚われるとやっと楽になれると思った。

死が優しく迎えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 哀しい話ですね。 純文学のようです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ