表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウィスティリアプロジェクト

マリー・ウィスティリアと妖精の花(中)

作者: 猫藤涼水


 『マリー・ウィスティリアと妖精の花(中)』



〇登場人物

●マリー・ウィスティリア(17)

 魔法大学で「大魔導師」の学位を取ることが夢の高校生。

●ジョージ・ガーデニア(17)

 マリーの幼馴染み。

●ジュリア・コルチカム(27)

 指定違法魔術である死霊術を操る怪しげな女性。

●イライジャ・ヴェラトルム(29)

 元騎士団員の吸血鬼。




  10年前の回想。ウィスティリア家。


ジョージ「マリーすげーな! 魔法何でも使えるじゃん!」

マリー「でしょ? 私はもう立派な魔法使いだもん!」

ジョージ「まー俺も使えるけどな」

マリー「私の方がすごいもん!」

ジョージ「俺の方がすげーし!」

マリー「ほんとに私だもん!」

ジョージ「じゃ俺よりすごいって証拠見せろよ証拠」

マリー「いいよ! 私将来、大魔導師になるから!」

ジョージ「無理だろ」

マリー「無理じゃないもん!」

ジョージ「じゃマリーが大魔導師になったら俺のお嫁さんにしてやるよ」

マリー「約束だからね! 絶対だよ!」

ジョージ「分かってるって。約束な!」


  指切りするジョージとマリー。



  タイトルコール。

ジョージ(N)「マリー・ウィスティリアと妖精の花」




  現在。車に乗るマリーとジュリア。


ジュリア「マリーちゃん、何ニコニコしてるの?」

マリー「えっ、私笑ってました?」

ジュリア「ええ」

マリー「あはは……ちょっと、子供の頃のこと思い出してて」

ジュリア「ふぅん。そろそろ着くわよ」


  停車。車から降りるマリーとジュリア。


ジュリア「森の中にこんな遺跡があるなんて、幻想的よね」

マリー「私もこういうのは好きなんです」

ジュリア「あら、そうなの。目的地の神殿もきっと気に入るわ。綺麗なところだもの」

マリー「そこまでたどり着くのに苦労しそうですけどね」


  あはは、と笑うマリー。


ジュリア「あら、そんなことないわよ?」

マリー「え?」

ジュリア「そこ見て」

マリー「?」

ジュリア「あそこ、神殿の入り口なの」

マリー「えっ、すぐ目の前じゃないですか!」

ジュリア「そうよ。驚いたでしょう」

マリー「驚きますよ。まさか車で来られるような場所に妖精の花が咲いてるなんて」

ジュリア「んふふ。さあ、行きましょう」


  遺跡内に響く2人の足音。


ジュリア「神聖な魔力に満ちているから、聖属性の精霊や妖精達からすると過ごしやすい環境なのよね、ここ」

マリー「それで花もここに?」

ジュリア「おそらくね。ほら、あそこ。祭壇を見て」

マリー「あれが……」


  妖精の花に駆け寄るマリー。


ジュリア「妖精の花。青の妖精が宿っているわ」

マリー「これが妖精の花! ……でも、そんな……咲いてない。蕾のままじゃ願いは叶わない……」

ジュリア「そうなの。私も花を見つけたときは歓喜して、そして落胆したわ」

マリー「え……?」

ジュリア「叶えなくてはいけない願いがある。花を咲かせなくてはならない」

マリー「ジュリアさん……?」

ジュリア「待てば咲くというものでもない。水をやればいいというものでもない」

マリー「…………」

ジュリア「花を咲かせるにはどうしたらいいのか、情報を集めたわ。手段を問わずにね。そしてやっと手立てが見つかったの。何だと思う?」

マリー「えっと……」

ジュリア「んふ。それはね……円環を無限に循環し増幅した魔力の供給。それも、生体内で精製されたものでなくてはならない」

マリー「……まさか!」

ジュリア「そう、エンドレスバースト状態のあなたが、花を咲かせる手段なの。騙してごめんなさい。私の願いのために、花の養分になって、マリーちゃん」

マリー「くっ!」


  走って逃げようとするマリー。


ジュリア「逃がさないわ!」


  マリーの腕を掴み、ナイフを首筋に突き付けるジュリア。


マリー「ひっ……!」

ジュリア「綺麗なナイフでしょう? このルーンナイフが私の魔力触媒なの」

マリー「や、やめて……!」

ジュリア「それはできないの。都合良く、偶然目の前に現れたエンドレスバースト患者を手放すなんて、もったいないもの」

マリー「…………」

ジュリア「大丈夫、痛いのは一瞬よ」

マリー「助けて、ジョージ……」

ジュリア「……助けなんてこないわよ。私の希望の前に絶望しなさい、マリーちゃん」


  ナイフでマリーの首を刺すジュリア。

  ザク、と肉の断ち切れる音。


ジュリア「……んふ」



  間。



  街の時計塔の時計がカチと進みゴーンゴーンと鐘の音。

  ばさばさと鳥達が飛び立つ。


ジュリア「聞こえる? マリーちゃん。大丈夫、うまくいけば死なずに済むわ」

マリー「ぁ……ぅ……」

ジュリア「あなたの体内を巡る魔力の循環ルートに花を割り込ませるために、傷を付ける必要があったの。魔力は当然血液と共に循環するから。でもそうよね。血が身体の外に出ていることは変わりがないし……暴走魔力を全て花に供給し終える頃には……やっぱりごめなさい、マリーちゃん」

マリー「……ジョージ……」


  マリーのネックレスが発光、魔法が起動する音。


ジュリア「どんなに呼んでも、その彼はこないわよ」

マリー「助けて……ジョージ……」

ジュリア「ああ、もうすぐ私の花が咲くわ。これで彼とまた日の下を歩ける! あなたのおかげよ、マリーちゃん」


  マリーの頭を撫でようとして魔法の障壁に阻まれるジュリア。


ジュリア「きゃっ!? こ、これは……!? マリーちゃんのネックレスが光って……しまった、ただのネックレスじゃなかったのね……!」


  ネックレスが強く発光し、魔法が発動する効果音。

  召喚魔法によって現れるジョージ。


ジョージ「このペアネックレスにはな──、」


 はっと息を呑むジュリア。


ジョージ「条件発動の魔法障壁と生命維持魔法、そして召喚魔法がかけられていたんだ。装備者が生命的に危機的状況に陥ると発動して、魔術的に繋がっているもうひとりのネックレス所持者を召喚する。去年、マリーの誕生日に俺がプレゼントしたものだ」

ジュリア「そう……じゃああなたがジョージ君。この子のナイトということね」

ジョージ「そしてあんたがマリーを傷付けた張本人だな」

ジュリア「ご名答。きちんと名乗ってあげましょう。私は最新特殊魔法技術の元研究者。ジュリア・コルチカム。死霊術士、ネクロマンサーよ!」

ジョージ「ネクロマンサーときたか……!」

ジュリア「あなたを倒せば、マリーちゃんを好きにできるわね」

ジョージ「それができればいいが、あんたはネクロマンサーだ。死霊術は習得に必要なプロセスの中に自身の魂魄への呪術的接触があり、そのせいで通常魔術は使用を封じられる」

ジュリア「ヴィリロス学園の生徒は優秀な子ばかりね」

ジョージ「ネクロマンサーが戦うならゾンビの兵隊でも用意しなくてはならないが、死霊術は指定違法魔術。騎士団に追いかけ回されながらどうやって死体を手に入れる?」

ジュリア「ご推察の通り、私はゾンビなんて引き連れていないわ。1匹もね」

ジョージ「俺は学生だが、腕に自信はあるぞ。今すぐ降参し──、」

ジュリア「──だけど、戦うための力がないとは言っていないわ」

ジョージ「何だと?」

ジュリア「私は死霊術師ネクロマンサー。魂を知る者。死に対する理解を深めるということは同時に生への理解を深めるということ」

ジョージ「生への理解……? 何を言って──」


  ザク、と自らの首筋にナイフを突き立てるジュリア。

  血が噴き出す。


ジョージ「自分の首にナイフを!?」


  笑い声をあげながら、血液を吹き出して、ジュリアが倒れ込む。


ジョージ「し、死んだのか……? なんで……。いや、それよりマリーを」


  マリーに駆け寄るジョージ。


ジョージ「マリー。マリー大丈夫か」

マリー「う……ジョージ……」

ジョージ「すぐに病院に連れてくからな」


  ぶつぶつと呪文の詠唱を始めるジュリア。


ジュリア「命巡らせるスープよ、黄昏に堕ち理を示せ。……空駆け生まれ膨れ上がる悪鬼となりて我が身護り敵を討て。……明暗の狭間より力を引き出し戦慄に舞い踊る燃ゆる魂……! 〝血鎧纏う骸の夜想曲 (ペルパティエスト・ト・エマ・ノクターン・テラグーディ)〟!」


  ジュリアの首筋から溢れ出る血液が鎧を形作る、ぐしゅぐしゅとグロテスクな音。


ジョージ「!?」

ジュリア「お待たせ、ジョージ君」

ジョージ「血液による武装魔法……! 生への理解、そういうことか!」

ジュリア「私の全身を巡る生命のスープの力を味わいなさい! 我が血よ、槍となり敵を穿て!」


  血の槍がジョージに迫る。


ジョージ「〝覇王の拳 (グロスィア・トゥ・ヴァシリア)〟!」


  魔法の発動音。

  ジュリアの槍を受け止めるジョージ。

 

ジュリア「あら、上級肉体強化魔法。それも事前詠唱による即時発動なんて……ヴィリロス学園の生徒は化け物なの?」

ジョージ「マリーに手を出したヤツは許さない。すぐに終わらせてやる」

ジュリア「言うじゃない。我が血よ、拳となりて敵を討て!」


  振り下ろされる拳をいなして体術で反撃するジョージ。掛け声や怒号。


ジョージ「くらえ!」


  大ぶりな攻撃が直撃するが、無傷のジュリア。


ジュリア「私の鎧はそう簡単には打ち破れないわよ」

ジョージ「チッ」


  連続して攻撃するジョージ。ふふ、と笑うジュリア。

  攻撃しながらジョージが魔法を発動する。


ジョージ「〝水の剣 (クスィフォス・ネロウ)〟!」


  水の剣を装備して斬りかかるジョージ。


ジュリア「水の剣!?」


  慌てて防ぐジュリア。

  ジョージの攻撃が続く。

  連撃の最後の一撃を防いで、距離を取るジュリア。


ジュリア「驚いたわ。まさか2つも魔法を事前詠唱してストックしていたなんて」

ジョージ「不測の事態に備えて、いつもそうしてるんだ」

ジュリア「んふ、物騒ね。我が血よ、剣となり敵を斬れ!」


  血の剣で何度も斬りかかるジュリアとそれを水の剣でいなすジョージ。

  剣戟の音と掛け声や怒号。


ジュリア「くっ……!」

ジョージ「オラァッ!!」


  大ぶりな攻撃をするが、防がれるジョージ。


ジョージ「くそっ」

ジュリア「んふっ! 決め手に欠けるようね、ジョージ君?」

ジョージ「……どうしてマリーを攫った?」

ジュリア「妖精の花を咲かせなくてはいけないの。叶えたい願いがある」

ジョージ「願いだと?」

ジュリア「助けたい人がいるの。今のあなたと同じ気持ちよ」

ジョージ「それは誰だ?」

ジュリア「彼は私の恋人で……ねえ、どうしてこんな話をするの?」

ジョージ「力になれるかも知れない。マリーを解放して──、」

ジュリア「いいえ、お喋りは終わりよ!」


  斬りかかるジュリア。

  防ぐジョージ。

  更に追撃するジュリアとそれを防ぐジョージ。

  剣戟の音と掛け声や怒号。


ジュリア「防戦一方では勝てないわよ! 最初の威勢はどこ?」

ジョージ「言ってろ」


  激しくなる剣戟の音。掛け声や怒号。

  ジュリアの息が上がってくる。


ジョージ「息切れか? 更年期障害なんじゃないか?」

ジュリア「な……私はそんな歳じゃないわよ!!」


  ジュリアの攻撃が続くが、全て防がれる。


ジュリア「はぁ、はぁ……その剣は飾り? どうして攻撃してこないの?」

ジョージ「剣は元々防戦向きの武器だ」

ジュリア「く……」


  また斬りかかるジュリア。防ぐジョージ。


ジョージ「時間切れが近いようだな、ネクロマンサー?」

ジュリア「……!」

ジョージ「血液による武装魔法。一見おぞましく強力な魔法に見えるが、実はそうでもない」

ジュリア「くっ!」


  ジュリアがまた攻撃を開始する。

  いなしながらジョージが語る。


ジョージ「ネクロマンサーが単騎で戦うために編み出したこの魔法は魔力だけでなく……血液も継続消費するんだろう? 失血が続けばどうなるか、説明するまでもない」

ジュリア「どうやって見破ったの!?」

ジョージ「血を使うってところから想像はしていた。無駄話を慌てて切り上げたし、可能性は高いと思ってカマをかけただけだよ」

ジュリア「勘の良い子は嫌いよ……!」

ジョージ「何もしなくてもそのうちあんたはガス欠だが、貧血状態でふらついてるなら──、」


  ジョージの攻撃。

  防ぐことができず、斬りつけられるジュリア。


ジュリア「きゃあっ……く……」


  ばたりと倒れ込むジュリア。

  血鎧の魔法が解除される。


ジョージ「時間切れだ、ネクロマンサー」

ジュリア「……ふ」

ジョージ「?」

ジュリア「それはあなたよ、ナイト君」

ジョージ「何を言ってる」

ジュリア「ねえ、空を見て」

ジョージ「……空?」

ジュリア「星が綺麗でしょう?」


  ばさっと翼の音と共に現れるイライジャ。


ジョージ「!?」


  イライジャがジョージを蹴り飛ばす。

  壁に激突する音と悲鳴。


ジョージ「ぁ……うぐ……」

イライジャ「お待たせ、ジュリア」

ジュリア「いいのよ、イライジャ」

ジョージ「なんだあいつは……翼……?」

ジュリア「私の血を使って」

イライジャ「いや、これ以上君を消耗させられない。ひとりでやるよ」

ジュリア「ん……」

イライジャ「さて……」


  ゆっくりと振り向いてジョージに歩み寄るイライジャ。


イライジャ「僕の恋人に手を出したね。許さないよ」




  続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ