君が歌うまで泣くのをやめない
昨日は彼女の地雷を思い切り踏み抜いてしまったらしい。恐ろしくもあったが、彼女の新たな一面を知る事ができ、ますます好きになった。やはり彼女を諦める事なんて絶対に出来ない。
この溢れる想いをどうやって彼女に伝えようか。言葉だけではどうしても伝えきれないだろう。
そうだ、想いをメロディに乗せよう。そうすれば、ただの言葉よりも何倍も想いが載るだろう。
●
「今日は御崎への想いを歌にしてみた」
「……今までの行動も大概ですけど、それ、普通の人にやったら引かれますからね?」
「それはつまり、他の人には告白するなと言う遠回しな告白か!」
「いえ、これ以上被害者が増えないようにと言う他の人への配慮です」
いつもの素っ気ない受け答えにも大分慣れてきた。むしろ、ある種の照れ隠しなのではないかと思うようにさえなって来た。そんなこちらの考えなどお構い無しに、御崎は言葉を続けた。
「でも先輩って、作曲とかできたんですね。初めて知りました」
「いや、今回初めて作った」
「え?」
「何ならギターだって昨日買ったばかりで弾いたこともなかった」
そうなのだ。歌に想いを乗せようと思い立った後、すぐにギターを買いに行き、ネットを参考にしつつ曲を一曲書き上げたのだ。
「うわあ……。というか、そんな状態でよく作曲なんてできましたね」
「『御崎にどうしてもこの思いを伝えたい』と思っていたら、案外なんとかなったぞ。」
「……そうですか」
彼女に顔を背けられてしまった。いかん、少々調子に乗りすぎただろうか。それとも、俺の作って来た曲に不安を感じているのだろうか。
「ただ、ここで弾き語りをしようとギターを持ってきてたんだが、受付に『中で歌われると他の方の迷惑になるので』、と言われて取り上げられてしまった」
「受付の人、超ファインプレーですね」
御崎は、心の底から助かった、というような顔をしてこちらへ振り向いた。それ程までに俺の作った歌が酷い物だと思っているのだろうか。かなり自信があったつもりなのだが。まあ良い、聴いてもらえば分かるだろう。
「そんなこともあろうかと一応CDにも焼いて来たんだが」
「結構です。要りません。持って帰ってください」
●
その日、商店街のアーケードで泣きながら弾き語りをする男がいると話題になった。彼の歌は見る者の心を揺さぶり、僅かに用意されていたCDは全て完売したらしい。