表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

君が読むまで告白するのをやめない

 昨日は彼女にダサいと言われてしまった。不器用と思われているだけならまだ良いが、ダサいと思われているのは不味い。センスの無い男は嫌われてしまう。

 どうにかして、俺がセンスに溢れる男だということを伝えなければならない。その為に何か良い方法は無いだろうか。考えてみるが何も思い浮かばない。行き詰まった頭を切り替えるべく、家の外に出て、夜空を見上げた。その瞬間、名案を思いついた。これなら、御崎に俺のセンスをアピールできる。


「月が、綺麗ですね」

「は?」


 御崎の所を訪れるや否や、俺はその言葉を口にした。夏目漱石がI love youの和訳として提唱したとされる言葉だ。かなり有名だとは思うが、これを実際に告白の際に口にした者はなかなかいないだろう。それをあえて使うことで、文学的センスに溢れる男である事を伝えることができる。実に良い案を思いついた。さあ、御崎は一体どう答えてくれるんだろうか。


「あの、先輩」

「なんだ」

「今、真昼なんで、月なんて見えないですよ」


 躊躇いがちに何を言おうとしているのかと思えば、なんだ、そんなことか。


「そんなことは今は関係無い。ただ、夏目漱石に倣って告白してみただけだ」

「は?」


 急に後輩の目が据わり始めた。気のせいか、周りの気温が低くなった気がする。


「あれは夜に2人で散歩している時に、ふと溢れる思いを伝えたくなって、それでも照れ臭くて直接告白なんてできないから、夜空に浮かぶ月と想い人を重ねて想いを伝えようとする、日本人の奥ゆかしさを表した名文なんですよ。それを、夜でもない、月の出ていないこんな昼間に使ってしたり顔をするなんてどうかしてます。文学的情緒の欠片もないですね。夏目漱石の文学全集を1から読み直して出直してきてください」


 その日、泣きながら本屋で文学全集を注文する男がいたと、近所で話題になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ