君が巻くまで泣くのをやめない
昨日の手作りケーキ作戦は失敗してしまった。しかもあろう事か、御崎に不器用だと思われてしまった。なんとかして、自分が不器用ではない事を証明しなくてはならない。
その為にも、今回の告白も手作りの贈り物をすることにしよう。料理以外の手作りの品でオーソドックスなものと言えば、編み物だろう。編み物と言っても様々だが、俺はマフラーを作ることにした。
理由は2つ。1つはこれだけ大きなものを1日で作り上げたら、俺が不器用だというイメージを払拭できるだろうという打算。そしてもう1つは、
「御崎! 好きだ! 俺とマフラーを恋人巻きする仲になってくれ!」
彼女と恋人巻きがしてみたかったからだ。これは、誰しもが1度はやってみたいと思うカップルの行動の内の1つだろう。
「恋人巻き? 何ですかそれ?」
「1つのマフラーを2人で一緒に巻くんだ」
「お断りします」
何故か、にべもなく断られてしまった。御崎は恋人巻きに憧れたりしないのだろうか。……考えてみると、御崎はそういった浮ついた事に憧れるような人間では無かった。明らかに今回の作戦は失敗だ。しかし、ただで引き下がる訳には行かない。ここで食い下がるのも男の意地の見せ所だ。
「せめてこのマフラーだけでも受け取ってくれ!」
「……そもそも先輩」
「なんだ?」
「今って、春じゃないですか。マフラーなんてもう使う機会無いですよ」
彼女に言われて初めて気がついた。そうか、もう既に冬は終わっていたのだ。
「どうしてそんな『盲点だった』、みたいな顔ができるんですか!」
「じゃあ冬になったら使ってくれ」
彼女は真剣な顔をして、一瞬押し黙った。
「言いたいこと、分かるだろ」
「……はい」
彼女に、こちらの意図はしっかりと伝わったようだ。今回の贈り物は受け取ってもらえそうで、少しほっとする。
「あ、すみません。やっぱり今はいらないので持って帰ってください」
その日、季節外れのマフラーをして泣く男が、近所で話題になった。