夢
夢なので、多少のおかしな点はお見逃しを。
これは、廃墟の夢。
二人の男は対峙する。
仲が悪いわけではない。
片方の男が、剣を鞘から抜き出す。
「あれは俺のものだ。――返してもらうぞ」
「……」
もう一方は口答えをしない。ただ、否定的な態度もとらない。
その態度に、男は苛立ち始める。
男は――その弟は、何も持たず、兄の前に立ちはだかる。大切なものを懐にしまい、兄に対峙する。
お守りについている金具が、太陽に晒され、きらりと光る。
兄の目に光が入り、それを以て、苛立ちがさらににじみ出る。
ギラリと、怒りへと変わった目が、男に降り注ぐ。
それでも男は、何もしようとしない。ただ困ったように笑う。――昔のように。
そんな様子に兄は。
「――仕方ない」
剣の刀身をさかさまにして、空へと突き上げ。
弟の元へ行き、そのまま――
――振り下ろした。
弟の頭部に鈍い音を立てて、当たる。
地に張り付く弟を見下す。
「痛い、よ……」
弟は頭を抱えながら兄に向けて言う。
それを聞いてから、兄はもう一度――。
何度も何度も。そのやり取りを繰り返した。
いつまでも、続けた。
一撃一撃……苛立ちが募っていく。
いよいよ、もう一度刀身を逆にして。
――――――――。
飛び散る弟。その手は、懐に入れたままで、思い出を守るように、お守りを握りしめていた。
「何で、渡してくれねぇんだよ……!」
目の前の惨状が起こってもしょうがない時代、それですませることができても、実の弟を殺めてしまった、その事実は心をえぐるものだった。
憎んでいたわけではない、ただ駄々をこねた結果こうなってしまった。
自分の幼さと、どうにもならない後悔が、押し寄せてくる。
自然に涙がこぼれる。もうどうにもならないのに。
「さっさと渡してくれれば……!!」
いや、違う。俺が早まった結果だ。
もう目的なんてどうでもいい。
兄は弟の亡骸を抱えて、伝わらない気持ちをこぼす。
不意に。
肩を、誰かに叩かれる。
振り返ると、――幻影だろうか、それとも――奇跡だろうか――弟が立っていて、困ったように、笑った。
涙が溢れだす。
幻影は、それを慰めるように、微笑む。
触れられる距離にいるのに――決して触れられない、後悔しても、戻って来ない。それを痛いほど、思い知らされる。
「ごめん……ごめんなさい……ッ!!」
謝るたび、弟が微笑む。
きっと、嬉しいのだろう。兄が自分を大切に思ってくれて。
廃墟が、きしむ。
兄が、こぼす。
「俺も、もう――」
そこにいたはずの影はもう、いなかった。
裏話~
夢見た当時、何故が弟は魚だった。
――ほんと、何でだろ。