表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

作者: ヤマ

夢なので、多少のおかしな点はお見逃しを。

 これは、廃墟の夢。

 二人の男は対峙する。

 仲が悪いわけではない。

 片方の男が、剣を鞘から抜き出す。


「あれは俺のものだ。――返してもらうぞ」


「……」


 もう一方は口答えをしない。ただ、否定的な態度もとらない。

 その態度に、男は苛立ち始める。

 男は――その弟は、何も持たず、兄の前に立ちはだかる。大切なものを懐にしまい、兄に対峙する。

 お守りについている金具が、太陽に晒され、きらりと光る。

 兄の目に光が入り、それを以て、苛立ちがさらににじみ出る。

 ギラリと、怒りへと変わった目が、男に降り注ぐ。

 それでも男は、何もしようとしない。ただ困ったように笑う。――昔のように。

 そんな様子に兄は。


「――仕方ない」


 剣の刀身をさかさまにして、空へと突き上げ。

 弟の元へ行き、そのまま――

 ――振り下ろした。

 弟の頭部に鈍い音を立てて、当たる。

 地に張り付く弟を見下す。


「痛い、よ……」


 弟は頭を抱えながら兄に向けて言う。

 それを聞いてから、兄はもう一度――。

 何度も何度も。そのやり取りを繰り返した。

 いつまでも、続けた。

 一撃一撃……苛立ちが募っていく。

 いよいよ、もう一度刀身を逆にして。


 ――――――――。


 飛び散る弟。その手は、懐に入れたままで、思い出を守るように、お守りを握りしめていた。


「何で、渡してくれねぇんだよ……!」


 目の前の惨状が起こってもしょうがない時代、それですませることができても、実の弟を殺めてしまった、その事実は心をえぐるものだった。

 憎んでいたわけではない、ただ駄々をこねた結果こうなってしまった。

 自分の幼さと、どうにもならない後悔が、押し寄せてくる。

 自然に涙がこぼれる。もうどうにもならないのに。


「さっさと渡してくれれば……!!」


 いや、違う。俺が早まった結果だ。

 もう目的なんてどうでもいい。

 兄は弟の亡骸を抱えて、伝わらない気持ちをこぼす。

 不意に。

 肩を、誰かに叩かれる。

 振り返ると、――幻影だろうか、それとも――奇跡だろうか――弟が立っていて、困ったように、笑った。

 涙が溢れだす。

 幻影は、それを慰めるように、微笑む。

 触れられる距離にいるのに――決して触れられない、後悔しても、戻って来ない。それを痛いほど、思い知らされる。


「ごめん……ごめんなさい……ッ!!」


 謝るたび、弟が微笑む。

 きっと、嬉しいのだろう。兄が自分を大切に思ってくれて。

 廃墟が、きしむ。

 兄が、こぼす。


「俺も、もう――」


 そこにいたはずの影はもう、いなかった。

裏話~

夢見た当時、何故が弟は魚だった。

――ほんと、何でだろ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 終わり方が素晴らしい。 夢見た当時、何故が弟は魚だった。で二度美味しい。 やっぱ夢の話好きだなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ