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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自己中心の崩壊

作者: 海野 絃

 是非読んでください!………とは言えないですね。

 でも、せっかくここまで来てくれたのなら読んでくださいな?

 勇者がいた。その瞳は光に満ち溢れ、神々に認められし世界の導き手だった。彼には目的があった。それは邪悪な魔王を倒すこと。そして闇を打ち払い、世界に光を取り戻すこと。そのために彼は仲間を集め、数多の魔物を大量虐殺し、己の正義をもって魔王を全否定した。


「勇者ぁぁぁああああ!」

「魔王ぉぉぉおおおお!」


 激闘に死闘を重ね、勇者一行に魔王を倒す瞬間が訪れる。勇者の剣が魔王の腹部に突き刺さり、強さの象徴たらしめていた魔王が膝をついたのだ。


「死ね」


 勇者が剣を引き抜く。その傷口からは大量の血が噴き出す。


「我が負けるというのか…!」


 魔王は手にしていた自らの剣を豪快に振り回し、空いている手で傷口を押さえ、震える足で勇者たちから距離を取る。そして闇に染まった世界を見下ろしていた玉座に至り、足から力が抜けたように座る。


「そうか………やはり負けたか…フフハハハハハ!」

「何がおかしい!」


 勇者の仲間が玉座で笑う魔王に叫ぶ。他の仲間や勇者は魔王の動きに警戒して、魔王の周辺を包囲する。それでも魔王は笑い続けた。そして……力なく魔王は剣を床に落とす。


「神に忌嫌われた我々魔物は滅びろ…貴様はそう言いたいのだな?神よ…」


 魔王は咳き込むように吐血し、剣を落とした手に視線を落とす。すると、その手は弱々しく震えていて、魔王の顔から笑みが消える。


「なぁ勇者よ……魔物と動物の違いがわかるか?」

「勇者、罠かもしれない。早くとどめを」


 悪行に悪行を重ねた魔王の言葉に勇者の仲間達は耳を貸そうとしない。しかし魔王に傷を負わせた勇者は魔王に力が残っていないことを確信し、最後に言葉を残そうとしている魔王にとどめを刺すことができなかった。彼は光を愛する勇者で、その良心がそうさせた。


「わからんか………では、我々魔物が何をしたというのだ?」

「それはてめぇ…!」

「よせ戦士……もう魔王に俺らの声は届いていない」


 魔王の目には彼が最も愛した暗黒の闇が広がるばかりで、勇者一行の姿はすでになくなっていた。つまりは魔王の独り言である。


「なぜ貴様らの村を襲ってはならん?……あそ…こはどこまでも広大な草原で…魔物も動物も共に共存していたはずだ。そこを……貴様らが奪ったのだろう?なぜ襲ってはならん?元々は我らが大地。いや、誰のものでもなかったはずなの…だ」


 魔王がゆっくり息を吐く。玉座からは大量の血が滴り、魔王の死期を告げる何者かを招くレッドカーペットを成す。


「なぜ人間を食ってはならん?貴様らも…ゴフッ!…食うではないか。豚を、鳥を、牛を………なぜ食ってはならん?………………所詮貴様らは人間の味方しかできん………存在だ」


 レッドカーペットを歩き出したのは勇者だった。


「闇を愛して何が悪い?我らにとっては…………闇こそ美しい…………だから光を愛す者達と戦わねばならなかった………貴様らも望んだであろう?我らと戦う時を…!」


 魔王は見えてもいないのに、勇者の顔に向かって血塗れの手を伸ばす。


「そして我は負けた………貴様に負けた………が、人間に負けたわけではない」


 魔王の手は勇者の鼻先を掠め、魔王の膝の上に落ちる。


「貴様は弱き人間どもが、我を嫌う神々が、我に差し向けた刺客にすぎん………貴様は決して英雄ではない……我1人が倒れたとて………世界は何も変わらんのだからな………」

「何?」


 勇者が初めて疑問を顔に出す。


「闇を……ハァハァ………愛すゴ八ッ!………る者として…………………………我が死をもって………魔物の……迫害されし者の………反撃の………狼煙と……な…ろう」

「どういうことだ!魔王!」

「貴様1人で……世界が…光になると思うな……ゆう…しゃ……真の…魔物は…せか…いだ…」



 こうして魔王は死んだ。そして世界中の魔物達が魔王の死によって同時に人間が暮らす町や村を襲いだした。勇者達は急いで各地を巡ったが、多くの人が魔物によって殺され、いくつもの町や村が地図から消えた。勇者も人間で、身体は1つしかないのだ。同時にいくつもの町を救うのは不可能で、数千万人もの人を同時に守ることもできなかった。さらに、魔王討伐中の勇者の不在は虐殺され続けた魔物達に希望を与えた。


 結果、魔王の死で闇を打ち払うことはできなかった。


 そして勇者は生涯、血で汚れた手を血で洗い続け…英雄と呼ばれることもなかった。しかし、彼は手に届く範囲で弱き者を助けた。その小さな小さなことでも成し遂げられない者がほとんどで、その点…彼は本物の勇者だった。



 これは光を愛する者と闇を愛する者が繰り広げた世界のほんの小さな出来事。それだけで世界は変えられず、しかしそれをしなければならない理由も確かにあった。そして変わらぬ世界は時間だけを進めるのだ。


 世界に光を取り戻す。それはただ人間にとって都合がいいだけ。

 世界を闇で支配する。これもまた魔物にとって都合がいいだけ。

 変わらぬ世界は果たして何を求めるのか?

 どうでした?そんなに?それは残念だ。

 でもさ、魔物を敵対思想の持ち主と考えると…戦争も当然に起きるよねって話なだけだから。

 しかし、個人的にはどの時点で負けになるのか疑問なんだよね。

集団のトップがやられた時?

トップが敗北を認めた時?

集団に甚大な被害が与えられた時?

集団が全滅した時?

集団の心が折れた時?

 これが謎でさ。魔王が死んだからって魔物が消えるわけじゃないじゃない?

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