表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

第三章 賢者の平日 -2-


「いやー、今日も平和だなぁ」


 ずずーとお茶をすする。お、茶柱。


「あんたも働け!!」


 そんな俺に、豪速球――もとい豪速石が飛んできた。それをひょいと躱しながら、俺は怪訝な目を向ける。

 その先では、愛花と誠也先輩が迫りくる下級魔族の群れと戦っていた。襲いかかる人型リビングデッドを、知性のないトロールを、狂ったサーベルタイガーのようなケルベロスを、千切っては投げ千切っては投げ。軽い大道芸じみた気配でばったばった薙ぎ倒していた。

 今日はなかなか多いが、昨日一昨日の土日もこんな風に魔族に襲われ、それを愛花と誠也先輩の二人が倒してくれていた。何と言うか、慣れと言うのは怖いもので、こんな風景も日常に見えてきた。あぁ、平和っていいなぁ。ずずー。


「人が怒鳴ってんのにお茶をすすり続けんな! さっさとあんたも手伝いなさいよ!」


「バカなことを言うなよな、愛花。聖剣も抜けない俺じゃこんな連中を相手にしたらすぐ死んじゃうだろ」


「抜く気もないくせにぬけぬけと……っ」


 何か上手いこと言われた。


「でも確かに、勇太くんでは下級魔族でも相手にするのは厳しいだろうね。僕たちが頑張るべきだろう」


「おぉ、誠也先輩が優しい」


「ね? (ぱちん」


「いやぁあああ!! あのウィンクが今は魔族の群れの数万倍恐ろしい!!」


 あの人、何でちょくちょく本気で俺に色目を使ってくんの!? 女子にモテる前に男子にモテるとか俺の人生酷すぎない!?


「バカなこと言ってないで、お主も働かんか、たわけ!!」


 そんな声と同時、俺の視界が反転した。首がゴキリと音を立てる。――どうやら、バックドロップをがっつり決められたらしい。


「な、何で女神様が普通に現界してるんですかね……?」


「分身じゃというておるじゃろ。それより緊急事態じゃ。――誠也、愛花。その魔族の群れを早く討伐せよ。事態は一刻を争う」


「御意に」


 二人がその言葉を聞いた瞬間、目の色が変わった。

 聖拳・メリケンサックも聖剣・ラクスエクエスも、黄金に光りはじめる。その威光だけで小さな魔族は灰になっていく。それ以外の魔族も、悶え苦しんでいる。

 二人が何もない空間を殴り、切り裂くと同時。

 その黄金の光は爆発し、周囲一帯の魔族を軒並み殺し尽くした。きらきらと黄金の光の残滓だけが、幻想的に残る。


「な、何て大技を隠し持ってるんだ……っ。こんなのさっさと使えばあんなに苦労しなかっただろうに……」


「残念ながら、日に一度が限度なのよ。それに私と誠也先輩の力が必要だし。まぁ戦闘職のタッグってところよね」


「あぁ、でも安心してくれ。――僕の大切なパートナーは君だけだよ(ぱちん」


「そのウィンクが何よりも安心できないんだけど!?」


 何、大切ってそういう意味なの!? いらねぇよ、そんな大切!!


「世間話はそれで終いにしろ。それよりも、重要なことがある」


「あぁそれで現界したんだっけか。で、その内容は?」


「パーティの最後の仲間――賢者の転生先を発見した。じゃが、それは既に魔王軍にも見つけられておった」


「まさか、今日に限ってやたら下級魔族の大群で押し寄せてきたのって――」


「おそらくは足止めじゃ」


「な、なんだってーっ!?」


 全く気がつかなかったぜ! 言われてみると確かに怪しさ満点だったけど、全然気付かかなかったぜ!!


「――って、別にいいんじゃないか? この際、このメンバーだけでも」


「賢者がどうなるかを想像もせずに楽な方に流れるな、阿呆……」


 いや、だって魔王が動き出しているってところに自ら飛び込まなくても、ねぇ?


「そもそも、このメンバーをよく見てみよ」


「何って、俺を護ってくれる盾じゃないか」


 何を今さら、と愛花と誠也先輩、そして自分の胸を順に見る。

 殺人料理マシーン。

 イケメンホモ。

 役立たず。


「このパーティ全然ダメじゃん!!」


「自分が役立たずっていう自覚はあるのね……」


 当たり前だ。俺は自分をクズだと理解した上で、更生する気など欠片もない筋金入りのクズなのだから。


「それにな。魔王側が先に賢者に接触した場合、賢者は殺されるどころか、その魂を未来永劫幽閉されることになる。死よりも苦しい、無限の闇だけが待っておるのじゃ」


「こ、ここに来てまさかのシリアス路線だと……ッ!?」


「じゃから、緊急事態じゃと言うておるじゃろうが」


 いら立ったように女神様が言う。


「……いや、待て。まさかここに来て誠也先輩みたいなホモとか、いっそクレイジーサイコレズみたいなぶっ飛んだキャラで助けた瞬間に俺がぶっ殺されるんじゃないだろうな……?」


「その心配はない。心根も趣味嗜好も至って平凡な人間じゃ。写真はあるぞ」


 そう言って、女神様は俺に一枚の写真を渡した。

 そこに映っていたのは――



 ロリ巨乳。



「今すぐ助けに行くぞ!!」


「本当に予想通りのクズっぷりじゃな!?」


 驚愕する女神様を置いておいて、俺はそのロリ巨乳を助ける為に全力で走り始めるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ