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第二章 毒するフォーチュンクッキー -2-


「はぁ、朝から魔族退治とかやってられないわね」


「ぶ、ぶふぅ……」


「結構疲れちゃったし、これじゃ授業中寝ないか心配だわ」


「ぶぶぅ……」


「……何か言ったら?」


 そう思うんなら俺を殴る手を止めようぜ!!


 ――そんな訳で、無事に下級魔族であるリビングデッドの犬の群れを全て蹴散らしたところで、愛花から殴られまくっていた。鏡はないが、たぶん俺の自慢の小顔は倍くらいに腫れ上がってるんじゃないだろうか。


「何か謝罪の言葉でも?」


「お……」


「お?」


「俺は悪くねぇ――ぽうる!?」


 絶対にこの状況で言ってはいけない言葉ランキング第一位、そして、この状況で言いたい言葉ランキング第一位の言葉を放ったら思いっきり顔面を殴られた。


「ば、おま、メリケンサックは駄目だって……」


「あんたが勇者じゃなかったら釘バットを一ダースくらいは用意したんだけど。私の慈悲をありがたく受け取りなさい」


「慈悲の言葉を辞書で調べ直せ!!」


 少なくとも人を伝説の武器メリケンサックで殴り続けることではないと思う。こいつもまぁまぁ魔王の素質があるんじゃなかろうか。


「でも、確かに勇太に勇者の記憶がないんじゃ仕方ないか」


「その納得は五分前にしてくれませんかね……」


「うるさい」


「じゃが、まぁ確かにお主らの言い分も分かる。記憶のない勇者と、威力はあれども拳以外に武器のない武闘家では、敵の襲来にも備えるのは厳しかろう」


 ポンコツ女神様がもっともらしいことを言い出した。元はと言えば、俺に記憶がないのは彼女が転生に失敗したからだと思うんだが。


「安心せい。既に三人目の仲間は見つけておる」


「な、何だって!?」


「ふふん。わしとてただ呑気に過ごしておる訳ではないのじゃ」


「巨乳か!? そいつは巨乳なのか!?」


「どっせーい!!」


 この世の何よりも大事な質問を放ったところで、愛花にぶん殴られた。だから、メリケンサックは駄目だって……ッ。


「男じゃよ」


「チェンジ」


「チェンジとかないのよ……」


 愛花に呆れられたが、せっかくのパーティなのにまともな胸がないとか、この悲しみが女には分からないのだろうか。お前だって胸がないのに。


「それで、女神様。その三人目とは?」


「どうやら、お主らの学校におるようじゃぞ」


「ベッタベタな展開だな……」


 もう少しこう、地球の裏側ブラジル人みたいな捻りが欲しい。


「とりあえず、そういう訳じゃから早く学校へ向かうぞ」


「そうですね。――ほら、さっさと行くわよ勇太。――勇太?」


「分かってるけど、どうした?」


「あんた、勇太よね……?」


「自分で認識できなくなるくらい人の顔面を殴るんじゃねぇ!!」


 今の俺の顔がいったいどうなっているのか、確かめるのが恐い。


     *


 ――そんなこんなで。


「……なんでこそこそと隠れなきゃならんのだ?」


 登校してきた俺たちは、どういう訳か校舎の影に身を隠す羽目になっていた。


「あれか、俺みたいな人間と一緒にいるのが見られると困るとか言うそういうスクールカーストの話なんだな!? ちくしょう!!」


「それもあるけど」


 あるの!? 自虐的なギャグのつもりだったんだけど!?


「そうではなくてな。単純に、魔王一派に発見されると困るのじゃ」


「困る?」


「勇者であるお主のように、選ばれし勇者の生まれ変わりとして覚醒しておらん場合がある。そうなると、下手にお主らが接触することで魔王一派が覚醒前に殺そうとするやもしれん」


「な、なるほど……」


 しかしこの女神様、ずっと俺たちの傍にいるな……。何なの、俺のこと好きなの?


「阿呆なことを考えるな。これはせめてナビゲーター的な役割を請け負っておるだけじゃ。女神としてのわしの本体は天界におるし、覚醒した生まれ変わりか魔族でなければわしのこの姿は見られん」


「あぁ、幽霊みたいな?」


「神をそこらの死者の魂と同列に扱うとは、お主……。いや、そういう出自の神もおるにはおるが……。――そも、わしは幽体ではなく多少であれば物理的には干渉できる、分身のようなものじゃぞ」


 何か、女神様(幼女)がすっかり落ち込んでしまっている。どうやら、神様として敬われてなくて拗ねているのだろうか。めんどくせぇ……。


「ふん、面倒くさくて結構じゃ」


「あぁ心の声も聞こえるんだったな……。で、何でそんな風に俺たちの前に出て来てるんだ? どうせならまるっと本体ごと出てくればいいのに」


「神が下界に降りると、霊的なものにあまりに影響を及ぼすからな。自分の世界ならまだしも、余所で勝手は出来ん。――じゃが、お主らの手助けもせねばなるまい。じゃからこのような形になったのじゃ」


「ふんふん。俺たちの為に手を尽くしてくれた、ってところか。何だ、良い神様じゃないか」


 俺がそう呟くと、ぴくりと女神様の耳が動いた。――何と言うか、めっさそわそわしているような気もするんだが……。


「……女神様、女神様。その御目で誰がその転生した勇者パーティの一員なのか、俺に教えてくれませんか? 俺たちじゃどうしたって出来ないんですよ。神様の力を頼りたいなぁ」


「ふふん、しょうがない奴め!」


 あぁ、下手に出たらすぐに機嫌が回復した。何だ、チョロ神様だな……。


「おぉ、ちょうどおったぞ。あやつじゃ」


 そう言って女神様が人ごみの一団を指差した。


「……女子しかいないぞ」


「よく見てみよ。中央におるじゃろ」


「ん……?」


 言われてみると、確かにいる。

 眼底を突くほどのキラキラオーラの塊だ。

 長身痩躯の美形だった。髪は柔らかそうな白銀色で、瞳もどこか青っぽい。明らかに日本人離れした顔立ちで、背中に花を背負ってキラキラした笑顔を取り巻きの女性に向けている。


「誰だ、あのイケメン……」


「名前は志貴誠也しきせいやと言うらしいな」


「あぁ、誠也先輩か」


 何故か、愛花が納得したように頷いていた。


「知り合いか?」


「まさか。ただ女子の間じゃ有名よ? 二年の誠也先輩って言ったら見ての通りのイケメンだし。告白して玉砕した子もかなりいるみたいよ」


「まだ六月下旬だぞ。どんだけ早いんだよ……」


 俺たち一年が入学してまだ一学期も終わっていないと言うのに、噂を嗅ぎつけ速攻で告白してフられるとか、アクティブが過ぎるだろ。


「でもあんなのでフリーらしいから、チャンスあるかもって思う人も多いみたいよ」


「お前もその一人?」


「冗談。あぁいうイケメン・オブ・イケメンズみたいな人は逆に超冷める」


「ふーん。で、まさかあれが勇者の仲間だってか?」


「そうじゃが」


「愛花。今すぐ釘バットを用意しろ」


「何でよ」


「バカか、お前! イケメンの癖に選ばれし勇者の一員とかいう属性まで付いたら、もうそいつが主人公じゃん! 勇者だけど俺が完全に脇役じゃん!! だったらせめて顔をボッコボコに歪めてやんないといけないだろ!」


「いっそあんたが魔王じゃないの……?」


 本気で愛花がドン引きしているみたいだが、男心(主に妬み嫉み)が分からんとは、彼女の方に問題があると思う。


「――っは! そうか、分かったぞ。イケメンだけど実は遊び人だったとか、そういう奴だな! もしくは道化師とか! 魔族と戦うときは白塗り赤鼻でどうぞ!!」


「職業は聖騎士パラディンじゃな」


「ガッデム!!」


 この世に神はいないのか!!


「いや、目の前におるじゃろ」


「ちくしょう、このポンコツめ!!」


「ものすごくいわれのないそしりを受けておるな……」


 また神様が肩を落とした気もするが、そんなことはどうだっていい。


「まぁとりあえず、早めに接触した方がいいかしら。勇者や武闘家の私たちと会えば、前世の記憶も蘇るかもしれないし」


「それは別にいいけど、どうするんだよ」


 憎たらしいことこの上ないが、件のイケメン志貴誠也は、今も女子の大群に囲まれている。あの輪の中に入って「お前は聖騎士だったんだ!」なんて力説する勇気は俺にない。


「そうね、どうしたもんかしら」


「女神様が、朝みたいに結界を張ればいいんじゃないか?」


「いや。生まれ変わりとして覚醒していなければ、あの結界の中ではそもそも動けんよ」


「本当に使えない神様だな……」


「もう少し敬わんか……?」


 敬ってほしかったらせめて成果を上げてほしいものだ。今のところ朝の結界以外に神様らしい活躍はない。


「しょうがない、じゃあ呼び出すか」


「呼び出すって?」


「告白は受けるんだろ? だったら、放課後に体育館裏へ、みたいなラブレターを送れば取り巻きの女子はどこかに置いて会いに来てくれるだろ」


 そう言いながら、俺はカバンの中から紙を取り出し、手早く手紙を作り始める。


「……何してんの?」


「何って、手紙作ってる」


「見せてみ」


 ぺら、と作りかけの手紙を取り上げられた。



『お 前を 殺 す。それが 嫌な、ら 放課後 体育 館 裏 に来 い』



「ただの脅迫文じゃないの!!」


 あぁせっかく雑誌の文字を切り貼りして作った愛(という名の憎しみ)が籠った手紙が!?


「はぁ、仕方ないから、私が代わりにするわよ」


 俺の手紙を細かく千切りながら、愛花がため息交じりに言う。


「でも便せんとかそういうのじゃないと怪しまれるんじゃないか?」


「一番怪しい怪文書作ってたくせによく言うわね……。まぁ、でもそうね」


 そう言って、愛花はポンと手を打つ。


「今日の四時間目、調理実習だし。そのときにクッキーでもこっそり作って添えれば、それっぽく誤魔化せるんじゃないかしら」


「女子の手作りクッキーだと! ちくしょう、これだからイケメンは!!」


「騙すのに使うだけなんだから別にいいでしょ」


「それはそれ、これはこれだ! くそ、俺だって一度くらい女子の手作りクッキーを渡されて『ずっとあなたのことが好きでした』とか言われてみたい! ていうか手作りクッキーが貰えるなら告白とかいらない!!」


「……何よ。そんなに私の作ったクッキーが食べたいの?」


「別にそういう訳じゃねぇよ。女子が作った、ていうことだけが大事なの」


「……………………あっそ」


 何だか視線が一瞬極寒に冷えた様な気もするが、気のせいだろうか。


「ほら、とりあえずさっさと授業に行くわよ」


 俺がイケメンに対する百の呪詛を並べる間にも、愛花は俺を引きずって教室へと向かうのだった。



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