第六章 最低で最低のfinale -1-
「無事じゃったか」
ふわり、と女神が舞い降りる。
魔王が去ったことで、ジャミングが解けたのだろう。事の顛末を知らない様子で、女神はきょろきょろとあたりを見渡していた。
「わ、わたしたちは無事です」
「けれど、勇太くんが……」
「さらわれたか?」
「だったら百倍マシですよ」
ガン、と愛花がブロック塀を殴りつける。その手にあったメリケンサックの威力で、がらがらと崩れ落ちていく。
「どういうことじゃ……?」
「勇太くんが、魔王の誘いに乗ったんです。魔王に与すれば世界の半分をやると言われて」
「……その状況が目に浮かぶのが何とも言えんな」
そんな馬鹿な、というありきたりなセリフは微塵も浮かばないくらいには、勇太の手のひら返しには厚い信頼があった。
「あいつ、本当に裏切りやがったわね……っ」
ガンガンと、愛花が怒りに任せて拳を振るう。塀もアスファルトも電柱も、あっという間にただの瓦礫の山へと変えていく。
「落ち着きなよ、愛花ちゃん。これは勇太くんの作戦かもしれない」
「作戦……?」
「結局のところ、僕たちはみんな助かった。あのまま勇太くんが魔王を突っぱねていたら、揃って全滅していたかもしれない。それを見越していた、とか」
「あ、あとは、実は仲間になったふりをしてるだけで、魔王の隙を窺っている、とか」
「まぁそうよね。順当に考えれば、勇者が普通に魔王の仲間をするはずがないわよね」
そう言って、愛花は拳を降ろす。
「けどね」
神妙な面持ちで、愛花は女神や誠也の顔を見る。
「あいつ、本当にクズよ?」
それを言われてしまうと、反論が出来なかった。
どれほど推論を重ねたところで、この場の誰しもが「いや、結局ただ裏切っただけだろ」という結論にしか至れない。
「い、いや! 駄目だよ。仲間を疑ってしまえば、勝てるものも勝てない!」
パンパンと手を叩いて、誠也が場を取りなそうとする。――実際問題、勇太の持つ聖剣でなければ魔王に届かないことは確かなのだ。
彼が完全に寝返ってしまったことを認めれば、それは既に敗北していることと同義だ。
僅かでも、希望を繋がなければいけない。
「大丈夫だ。いくら勇太くんでも、本当に裏切ったりはしない。彼は勇者の魂を持つ者だ。たとえ未だに彼の中で眠っているとしても、その誇りは失われてはいないはずだ」




