第五章 裏切りのまっ昼間 -2-
「無事にテストも終わったな……」
金曜の午後。
三日続いたテストをくぐり抜けた俺は、帰路につきながらほっと安堵のため息を漏らす。
幸いというべきか、ここしばらくは魔族たちも大人しく、安心してテスト勉強に集中できた――のだが。
「……うぅ、でもまさか、数学のテストに英語が出てくるなんて……」
どうやら、裏技(婉曲表現)でテストを乗り越えた俺とは違い、真帆は完全に失敗したようでさっきから落ち込んでいる。いるのだが……。
「まさかとは思うけど、πは英語じゃないからな……?」
「え」
まさしく鳩が豆鉄砲を、みたいな顔をして真帆が硬直する。
これはもうヤバいとかいう次元を超越している気がするんだが……?
「まぁテストよりも大事なことがあるよね! 具体的には世界の命運とかね!」
「……それを言い訳にして現実逃避しても、あんまり意味はないと思うんだけど……」
愛花の冷静なツッコミに、真帆の笑みも次第に引きつっていく。なんというか、これ以上責めるのは可哀そうだった。どうせテスト返却で現実は突き付けられる訳だし。
「しかし、しばらく魔族の動きがなかったのは、むしろ怪しいな」
「そうだね。中級程度では相手にならないと分かって、準備を固めていたのかもしれない」
「……ってことは、上級魔族を集めているのか?」
どれくらいの強さかは分からないが、上級、という響きだけで若干恐ろしくなる。
「もし集められたら、厄介ではあるね」
「ど、どれくらいの強さなんだ……?」
「そうねぇ。中級以下は、どこにでもいるモンスターよ。村とか街の外に出れば、そこらでかち合う。単騎なら相手にはならないけど、連戦になると、もし回復が追いつかなければちょっと危ない。そんな相手よ。――けど、上級魔族はそんなところにはいないわ」
俺の問いに、愛花が答えてくれる。何でもないように言っているが、その言い方が、逆に俺の不安を駆り立てる。
「ダンジョンとか城とか、そういうところに座して待つのが、上級魔族。私たち四人パーティが、何度も死にかけながら倒すレベルよ」
「ま、マジで言ってんのかよ……?」
それを、俺たちの討伐の為に集めている……?
「今すぐ逃げよう!」
「世界の命運はどうすんのよ……」
俺の英断をあっさり一蹴して、愛花がため息をつく。
「安心して大丈夫だよ、勇太くん」
「な、何を根拠に言ってるんだよ、真帆」
「だって、前世でわたしたちはその上級魔族をほとんど倒したもの」
「……へ?」
「魔王城に向かう前にね。主要都市の上級魔族は軒並み倒してから行ったから。中級から新たに上級魔族が生まれているかもしれないけど、それにしたって一人か二人だろうし。そんなに怯えるほどじゃないよ」
「そ、そうか……」
思えば、既に一度は魔王を封印しているのだ。その封印が解けたせいでこんなことになっている訳だが、魔王一人が復活したところで、魔王軍の全てが復活する訳ではない。
だからこうして、中級以下の魔族たちを群れで仕向けるしかなかったのだろう。そうでなければ、そもそも向こうの戦力がすぐに枯渇してしまう。
「じゃあ、安心じゃねぇか。既にこっちはパーティ全員揃ってるんだし」
「安心できない要素があるでしょ」
「何だよ」
「それはお主じゃ!!」
突然現れた女神様が、俺の耳元で叫ぶ。キーンと嫌な音が響く。
「な、何してんですかね、女神様……」
「様子を見に来て見ればこれじゃ。――よいか、魔王討滅にはお主の聖剣・イクスクレイヴが必要なんじゃ。それも抜けんで何が安心か」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。いつまでも過去の俺だと思ってもらっちゃ困る」
ふふん、と鼻を鳴らす。
「ほう。何か進捗でもあったか」
「まぁ見ていてくれよ」
そう言って、俺は右手を掲げる。
「蘇れ! 聖剣・イクスクレイヴ!」
俺の右手を中心に、黄金の光が迸る。ちょっとしたびっくり人間染みた光量のその中央から、一振りの剣が姿を見せた。
柄も鞘も黄金で作られた、そら美しい剣だった。見るだけで目に焼きつきそうなほどの、暴力的な魅力と存在感だった。――それは、まさに神に選ばれた者であることを証明する剣。
「おぉ、聖剣を呼び出せるようになったか!」
「これで下級魔族に襲われたって何にも怖くねぇんだぜ!」
それくらいならこの威光だけで勝手に焼け死んでくれるからな!
「では、抜いてみせよ!」
「まぁ待て。そう焦るなよ」
そう言って、俺は柄に手をかける。
皆より出遅れてはいるが、これでも俺は勇者の生まれ変わりだ。聖剣一つ抜けないで何が勇者だ。これを抜いて初めて、俺は(ぐきっ
「っぐぬぅぅう……っ」
鯉口を切ろうとした親指を完全に突き指して、俺はその場で悶える。ちょ、これは洒落にならない痛みなんだけど……。
「何じゃ、聖剣はまだ抜けんか」
「じ、自在に出せるだけでも進歩じゃねぇかな……?」
「頑張りなさいよ。その聖剣、勇者のあんたにしか抜けないんでしょ?」
やや呆れた口調で愛花が言う。どうでもいいけど、みんな突き指した人間をもう少し心配してくれてもいいんじゃないだろうか。
「確か魔術でなくて魔法なんだっけか。俺じゃなきゃ絶対に抜けないし、鞘だって壊せない。そもそも勇者じゃなきゃ触れない。そういう物理法則みたいなもんらしいな」
「でも、それがないと魔王の討伐は出来ないんだよね?」
真帆が困ったような笑みで問いかけてくるので、俺も黙って頷いた。
「まだしばらくは、こちらから魔王へ仕掛けるのは控えた方が良さそうだね」
「ほう、それはいいことを聞ききましたね」
瞬間。
背筋が凍った。
魔族に襲われる度、いつも悪寒はあった。だがどこかで、大丈夫だろうという慢心があった。それは間違いではなくて、実際に俺は何もしなくても何とかなってきた。
なのに。
このたった一言だけで、どうしようもなかった。
この場で漏らしていないことが嘘のようだった。なぜ涙を流して震えていないのか、理解に苦しむ。それくらいの、圧倒的絶望の塊だった。
「落ち着きなさい、勇太。ただ魔力に当てられてるだけよ」
俺の背中をポンと愛花が叩く。そこから力が注がれたように、ふっと背中の冷たさが消えた。――だけど、となりで愛花が震えているのが分かる。そう理解している彼女自身も、抗えないほどの魔力を感じているのだろう。
「これはまずいぞ、勇太――」
「黙っていてくれませんかね、異教の神よ。我ら魔族に信仰するものはなく、ただ魔王様のみを崇拝する。あなたは、必要のない存在ですよ」
ビキリ、と。
俺たちの目の前に空間に、まるでガラスのように亀裂が走った。
それは広がりを続け、人一人が通れるほどの、裂け目へと姿を変える。――その様子を、俺たちは黙って見ているしかなかった。
その手前で叩いた方が有利なのは、分かっている。だというのに、同時にそれは即座に自分が死ぬというビジョンを見せつける。
「待てよ。待ってくれ! こんなマジもんだなんて聞いてねぇ!! こんなやつと戦えっていうのか!?」
「初めからそういうておるじゃろうが! どの道、ここでお主らが――」
「さえずらないで下さいよ、女神。それに、勇者が臆するのも当然でしょう?」
バキっと、その裂け目を更に砕くように手が伸びる。
「かの偉大な魔王様の側近である上級魔族の私が自ら足を運んでいるのです。伝説の勇者であろうと、今のようなただのお子様には、いささか刺激が強すぎる」
現れた男に、更に俺はぞっとした。
長身痩躯の異邦人だった。髪は長く、それをオールバックにしている。そのせいで元来の肌の白さが見せつけられて、うすら寒いものがあった。白人なんかとは違う。蒼白で、どこか病的だった。
身に纏うのは、漆黒のローブ。勇者の記憶なんか微塵も蘇っていないのに、あのローブが持つ魔術的な何かは、俺たちのそれぞれの武器にも匹敵し得ると分かる。
「その姿では初めまして、ですね。私は、そうですね。暗黒神官とでもお呼び下さい」
「中二病じゃねぇか!!」
パン。
思わずツッコんでしまった俺の横を、何かが駆け抜けた。頬に鋭い痛みが走る。
「何か言いましたか?」
見れば、その男――暗黒神官の杖が光っていた。何かの魔術で、俺に脅しをかけたのだろう。
ぞっとした。ぞっとして、ぷちんと頭の回路が恐怖の計測をやめた。
魔王の側近だか上級魔族だか暗黒神官だか何だか知らないが、そんな属性爆盛りの適当な敵キャラなんぞに俺の命を奪わせる訳にはいかない。何故なら――
「さぁ、魔王様の手を煩わせるまでもない。君たちは私が殺――」
「嫌じゃボケぇ!! 俺はどうせ死ぬなら美人の手で服上死って決めてんだ!!」
手ごろにあった石を投げつけて、ツッコミの代わりにする。登場してから物々しく色々言いやがって! 俺はおっぱいに挟まれて死ぬと決めたんだ!!
「お主、まだそんな意味のない死に様を求めておるのか……?」
女神様が呆れているような気がするが関係ない。そもそも、美人の胸の中であろうと何だろうと死ぬこと自体が嫌だ。いきなり勇者の生まれ変わりだ何だと言われて本当に魔族に殺されたりするほど、俺は不幸キャラではない!!
「と言う訳で。愛花、誠也先輩、真帆!! みんな全力で俺を護って下さい!!」
「どうせ役に立たないから分かってるわよ!」
愛花の頼もしい答えと共に、三人が前に出る。――既に、その手には各々の武器が具現化されている。
「あなた方は確かに強い。しかし、既に前世から嫌というほど戦っているのです。対抗策の一つや二つ、あってしかるべきでしょう?」
目の前の男が、にやりと笑う。
同時、杖を掲げて何か日本人の俺には聞き取れない言葉を紡ぐ。
「魔王様の封印を解いたのは、この私ですよ? 私の魔術を舐めないで頂きたい」
瞬間。
視界を覆い尽くすほどの、夥しい魔方陣が現れる。
「何だこれ……ッ」
「まずい! 誠也先輩、真帆! 早く魔方陣を壊さないと――」
「遅い」
パチン、と暗黒神官が指を鳴らすと同時、その魔方陣を砕くように、その奥から無数の獣が姿を現した。
「リビングデッドの犬――じゃねぇぞ!?」
それは、そんな易い相手ではなかった。
現れたのは三つ首の犬に、巨大な蛇。ライオンの頭に山羊の身体に尻尾は蛇、なんて化け物までいる。ケルベロスだとかバジリスクだとかキマイラだとか、そういうRPGで見るような怪物ばかりだ。
それが、百や二百では聞かないほどの数で召喚されていた。
「ヤベェ! くそ、聖剣・イクスクレイヴ!!」
俺は手にしていた黄金の剣をもう一度掲げた。それに呼応するように、眼底を突き刺すほどの黄金色の光が溢れ出る。
下級魔族ならそれだけで灰に変えるほどの威光だ。たとえいま召喚されたのが中級魔族であっても、まともに動けるはずが――
「と思うでしょう?」
にやりと、気味悪く暗黒神官が口角を吊り上げる。
同時、俺の光が、割れるように掻き消された。
「な、にが――っ!?」
「神ほどではないにしろ、魔王様にだって“加護”がある。上級魔族であるこの私が直接召喚した魔族には、須らく魔王様の加護が宿るんですよ」
「冗談だろ!?」
せっかく剣を呼び出せるようになってこんなひと山いくらみたいな魔族を退けるくらいは出来ると思ったのに! そんな俺の活躍すら見せてもらえないと!?
「さぁ、楽しい楽しいショータイムです」
ばっと暗黒神官がローブを広げる。それを合図にするように、無数の獣たちが俺たちに襲いかかってくる。
「いやー! た、助けてー!!」
「あんたもそれらしく戦いなさいよ!?」
聖剣片手に戦術的撤退(またの名を追いかけっこ)を始める俺に愛花から怒号が飛ぶ。しかし、相手取りたくとも出来ることと出来ないことがある。
愛花や誠也先輩は、直接その手で召喚された魔族たちを叩き伏せている。加護とやらのせいで手こずってはいるが、ダメージを負っている様子はない。二度、三度と攻撃を重ねて滅している。真帆も、いくつも魔法を乱発して広範囲で魔族の相手をしている。流石に一体辺りへの威力は愛花たちに劣るが、それは数でカバーする気なのだろう。
では、俺に出来ることとは何か。
手元を見る。
聖剣(不良品)。
俺のステータスを想像する。
村人A。
「もはや勇者ですらねぇじゃん!」
いや、覚醒してないからそりゃそうだよ! だって記憶もねぇんだもん!
「おやおや。どうやら、勇者様は本当にまだ覚醒していないご様子」
「バレただと!? まさか、あいつ解析系の魔術まで!?」
「尻かじられながら逃げ回ってるせいでアホがだだ漏れてんのよ!!」
あぁ、道理で痛いと思った!!
「ふふふ。どうです、この暗黒神官の力は!!」
暗黒神官は高笑いしながら、更に杖を振る。
さんざん愛花たちが屠ったと言うのに、たったそれだけで元の数――いやそれ以上の魔族が召喚される。
「これじゃ、埒が明かない!!」
「愛花ちゃん! 僕と君で決めるよ!」
愛花と先輩が構える。
同時、黄金の光が溢れ出る。
「させると思ったか!」
「わたしが援護する!!」
魔族を一斉に愛花たちに差し向けた暗黒神官に対し、真帆が火炎の魔術で足止めをする。
その一瞬で十分だった。
愛花と先輩が拳と剣を振り抜くと同時、爆発するように光が走る。辺り一帯を焼き尽くすような、高エネルギーの塊だ。いくら加護があろうが、防げるものではない。
「なるほど。これは恐ろしい量のマナ――いや、神から直接供給されたエーテルか。これでは確かに防ぎようはない。魔族にとってはほとんど生物兵器にも等しい力ですね」
暗黒神官は召喚した魔族たちを立てにして何とか乗り越えたようだったが、代わりにあれだけの数がいた魔族は皆灰となって消えていった。
「だが、一度きりの大技。即座に追撃に行けない時点で無駄ですよ」
愛花たちが僅かに息を整えた瞬間だった。
杖を掲げた暗黒神官の周囲に、また無数の魔方陣が生み出される。
「嘘……っ!? そんな魔術が使えるほどのマナはこの世界にないはず……っ」
「人間と違い、我々魔族は大気に存在する魔力――マナに頼らずとも、己が魂の魔力――オドのみで戦える。上級魔族である私のオドと、別の世界からわざわざマナを注いでもらわねばならない君とでは、格が違う」
魔方陣を破壊しようとした真帆の魔術ですら、数が足りなかった。
倍か、三倍は向こうの方の数が多い。それが、現状のその魔力とやらの差を如実に示しているのだろう。
「これが、上級魔族……っ!?」
こんなの、どうしたって勝てる訳がない。
そもそも四人で挑んでやっと倒せるような相手に、俺みたいな足手まといがいるのだ。そんな縛りプレイで勝てるなら、誰かがとっくに魔王だって討伐している。
「理解したようですね」
また召喚した無数の幻獣や怪物たちを従えて、暗黒神官がにやりと笑う。
「さぁ、ここらで幕引きとしましょう。勇者の首を持ち帰れば、魔王様もさぞお喜びになる」
「いやー!? そんなのグロ規制のないハイレーディングなゲームの中でやってくれ!!」
俺の生首をデザートの皿に乗せるのだけは勘弁願いたい!
俺が真剣に逃げ惑い始めるが、愛花たちも新たに召喚された魔族の相手で手いっぱいの様子だった。俺に迫る魔族の相手は出来ないようだ。
「――っ! 勇太、こっち!!」
「護ってくれるの!?」
「広義ではそうなると思うわ!」
どういうこと、それ!?
しかし、問い詰めている余裕はない。駆け出した俺は、真っ直ぐに愛花の元へ行き――
「どっせーい!!」
「どぼじで!?」
即座にラリアットで吹っ飛ばされた。めきゃ、という音はちょっと骨が鳴っただけで、頸椎がイカれた音ではないことだけを願う。
ぴゅー、と宙を舞う俺に、愛花が言葉を投げる。
「暗黒神官は、さっきから召喚魔術しか使ってない! 魔王を復活させるほどの腕前となれば、それだけ召喚魔術に秀でているってこと! なら、懐に飛び込めば勝機はある!! さっさと聖剣でぶった切りなさい!!」
「それが抜けたら苦労はしねぇんだよ、馬鹿ぁぁああああ!!」
このままじゃただの犬死にじゃん!! 大将を敵に投げつけて殺してしまったとか孔明が聞いたら憤死するぞ!?
「ここで聖剣が抜けないんならどの道死ぬのよ! 諦めなさい!!」
「無茶苦茶だお前!!」
仮にもお前たちを率いる勇者に何て仕打ちをするんだ、この野郎!
投げつけたい言葉は腐るほどあるが、しかし、綺麗な放物線を描いて飛んでいる俺は、あとものの数秒で暗黒神官と激突する。
腹をくくり、柄に手をかける。
「こうなりゃやけだ! 追い込んで活路でやってやろうじゃねぇか!!」
少年漫画なら、この土壇場できっと俺に秘められた力が目覚め(ぐぎっ
「ですよね!!」
聖剣を抜こうと鍔を弾いた親指が再度あり得ない方向に曲がっていた。やっぱりこんな状況でも聖剣は抜けなかった。
そのまま、俺はぶつかる寸前、聖剣を盾にするように構えた。鞘に入っていても、多少は俺の身を護ってくれるはずだ。
「甘いですね!!」
しかし、暗黒神官が杖を振る。同時、その眼前に光り輝く魔方陣が生み出される。魔族の気配はない。たぶん、防御の為の盾か何か――
「ちくしょう!!」
毒づいた直後だった。
バキン、と。
暗黒神官の眼前にあった防御の魔方陣が砕け散っていた。
「な、んと――ッ!?」
「え、ちょ、くそ!!」
状況が分からないながらも、俺は身を任せ鞘に納まったままの聖剣と己の身体とで、暗黒神官に激突した。
骨と骨がぶつかる嫌な音がした。正直、吹っ飛ばされたとき以上に痛い。
「召喚魔術に特化したあんたが即席で生み出した防御魔術までには、魔王の加護とやらもないでしょう!」
「なら、それは鞘に納まっていようと聖剣に触れるだけで著しく摩耗する。人一人がぶつかるだけで、砕けるほどに!」
「だからここで、わたしたちがチェックをかける!」
ザッ、と。
倒れた暗黒神官に、三人の伝説の武器が突き付けられる。
暗黒神官が僅かでも自身の杖を動かせば、その瞬間に彼の首が飛ぶ。
「くっ!」
それが分かっていて動こうとした暗黒神官の魔王に対する忠義は、立派なものだっただろう。
だが、既に愛花たちが動いていた。
拳を突き出す。
剣を振り抜く。
魔術を解き放つ。
三人の最大火力の一撃を浴び、暗黒神官は白目を剥いて倒れた。これだけのダメージを受けて他の魔族のように塵になって消えない辺り、流石は上級魔族と言ったところか。
気絶した彼の姿を見て、愛花がふぅと息を吐く。
「案外、何とかなったわね」
「いや、これ以上長引かせると危ないところだった。一度傷付けば、そのまま一気に持って行かれた可能性は十分にある。短期決着に持っていったのは正解だったね」
「や、やりました」
「……………………、」
皆がハイタッチをし合う。が、俺はその輪に入れない。
それに気付いていないふりをするように、愛花が汗を拭う。
「やっぱり勝利って清々しいわね」
「俺を特攻させといてどの口が言うんじゃぁぁあああ!!」
インド映画みたいに九十度横に曲がった首と、壊れた人形みたいにあり得ない方向に曲がっている両肘とを見せつけながら、俺は今世紀最大の真っ当なツッコミを放つのだった。




