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初めての異世界と初夜

俺たちの部隊に新しい仲間が増えてから一週間がたった。

今の家は小振りながらも一応は二階建ての一軒家であるはずなのに、人口密度が異常なほどに高い。

一回は霹靂ガールズが占領して俺の部屋はエレインとユノが独占している。

ただ最近はふたりとも朝早くからどこかへ出掛けて不在の日が続いている。

「おい!レイカ様にはやくお菓子を持ってこい!この汚物が!つくづく使えないな男という人種は」

忍者服ではなくラフな格好をしたシルはクナイを向けて俺にお菓子を催促してくる。

金雀児部隊を希望した霹靂の部隊だがさすがに俺の家に住まわせることはできなかったーーエレインとユノの猛反対のせいでーーので別の物件を探してそこに住み着いている。

まあ、家のお隣さんなんだけど。

ナチュラルに男子区域に住み着いたお隣さんの魔の手は我が家にまで及んでいる。

エレインたちがいればまだ何とかなる・・・・・・ならねーな。うん。

「うるせー!何で異世界出身者たちはこんな食欲旺盛なんだよ!ていうかお前たちに割り当てられた経費は全部渡しましたよね?なんでこんな2日3日で使い切っちゃうの?」

「当然であろう!私たちはいつも明朝から日が暮れるまで訓練をおしているのだからそれに見合った食事をしなければならない!なっぜこんな事が分からんのだ!汚物めが!」

「それならなおさらなんで毎食おやつなんだよ!飯を食え!いや、たべてください。本当に今月厳しいんです」

「お前が出す飯はいつも野菜ばっかりではないか。レイカ様が野菜嫌いなのを知っての狼藉か!」

「従者なら主人の健康管理くらいしっかりしろよ!ていうかだな。なんでお前たちは毎日毎日家にくるんだ!訓練つったって最近は俺の部屋でマンガ読んだりアニメ見てるだけじゃねーか!」

「な、なにか文句があるのか!お前だってずっと家にいるじゃないか!そ、それになんだこれは!」

シルは顔を真っ赤にして俺が大事に本棚の奥に隠してきた親友より受け継がれしエロ本をクナイで突き刺す。

「そ、それをどこで!まさか中を見たのか?見たんだな?」

「こ、こんな卑猥な物をよくも私に見せてくれたな!」

「と、とりあえず俺の、男の財産を八つ裂きにするのだけはやめてください」

「このことは碧さんに報告させてもらう」

「よせ!それだけはよせ!リアル阿修羅になるよ!わかった、わかりました。家にあるお菓子はすべてお前たちに贈呈するから」

「十秒で持ってこい!」

「五秒で十分です」

なんて言ってしまったけど、ぶっちゃけもう菓子がない。マジでない。言ってしまえば冷蔵庫も空っぽ。

でも、だいじょーぶ!

だって、さっき俺はちゃんと家にあるお菓子を全部って言ってやったもんね!

ん?これは。俺はリビングにあけられていない緑色の箱を入手した!


そして五秒後、俺は手ぶらで再びシルの前に立っている。

「あ、あ、お、おまえ」

俺は目の前の無惨な姿になったエロ本を抱き抱えるようにしてうずくまる。

「フンッ、お前が屁理屈を抜かしたうえに、あまつさえ青汁など持ってくるからだ」

そう、、俺が持ってきたのは青汁です。

だって、一矢報いてやりたかったんですもん!

刑務所で俺にドックフードを出しやがったあいつに、飢餓状態のときにご飯を作ってやるって言われて有頂天になってた俺に出された物がドッグフードだったときの絶望を味わってほしかった!

ついに号泣しだした俺にシルはすこしばつが悪そうな、あきれたような顔をして

「今から買いに行く。私もついて行ってやるから。な?」

えっ?


わーい!初めての女の子とふたりっきりのデートだ!

男子諸君!俺は今を持って非リア同盟を卒業します!ツイッターのフォローも解除しなきゃ!

俺の隣には長めスカートにカーディガンという割とシックな感じではあるが女の子らしい格好をしたシル。

かわいすぎる。

最初はジャージで出て行こうとしてたみたいだが、縦ロールたちに引き留められておめかしさせられている。

これで化粧してないんだから、きっと学校にいる休憩時間ごとにトイレに行ってメイクをチェックしている奴らから見ればさぞかし憎らしいことだろう。そして化粧濃いやつに性格が良いのはいない。ギャルがお宅に優しいなんて言ってるけどあれただの年伝説だからね?普通に汚物をみる目で見てくるわ。シルには負けるけどな。

もともとシルがかなりの美人なのとセミロングの黒髪とあって清楚な雰囲気があふれている。最高です。

でもさっきからまわりの視線が集まりすぎて、恥ずかしさ半分に誇らしさ半分と言った感じ。なかなか悪くない。

「な、なあ天満。あ、汚物」

「言い直すな。最初ので呼べ」

「なあ、汚物。さっきから視線が集まっている気がするんだが」

まあ、いいけどさ。

「それはお前が注目されてるんだよ。俺にはさっきから殺気しか飛んでこない。さっきだけに」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「お前がかわいいからだと思うぞ」

「なっ!にゃにを抜かすのだ貴様は!」

よかった反応してくれて。危うく死んじゃうところだったわ。

「なんでそんなにテンパってるんだよ。そっちの世界でも言われてたんじゃないのか?」

「わ、私の国は男と女が私生活で会うことはないのだ。女王さまが男が大嫌いでな」

「ほーん、なんで?」

「昔、男に襲われてしまったらしい。5人がかりで」

「えっ」

ついつい頭の中でみだらな情景が浮かんでくる。

「返り討ちにしたらしいが」

「あ、そう」

「その男たちは全員全裸で町中を馬に引かれて、性器を切り取って口に詰められ、その姿を高名な画家に描かれたのち、クビを打たれた」

「ふ、ふーん。そうなんだ。悪い奴らだね」

こっわ!なにそれ、クビ着ることをしなくてもそいつら勝手に死んでいくだろ。

男子諸君、気をつけような?やるなよ?

程なくしてコンビニに到着した。

そんな生々しいお話を聞いた時点でかなりギリギリなのだが、その猛烈な吐き気は一気に脂汗に変わって体中から吹き出る。

「あれ?天満く・・・・・・」

「は、春桐さん」

「だれだ?」

俺たちは店員さんとお客さんの迷惑にならないよう無言でそっとコンビニを出た。


「春桐さん?」

春桐さんはコンビニを出てからずっと手をプルプルさせている。

「その子は何なの?」

「え?」

「その子と何かあるのかって聞いてる」

「な、何にもないです。コンビニに買い出しに来てるだけです」

正直に答えた。なんで買い出しに来ているかは言わなかったけど。

すると春桐さんは、もう見るからにパァっと満面の笑みを浮かべる。

なんでそんな顔するんだよ。てか、ヤバい。これまでのストレスが吹っ飛んだ。プラマイゼロどころか完全にメーターがプラス枠をぶち破ってる。

「私は霹靂の部隊のシルだ。よろしく。この汚物にあまり近寄るのはよしたほうがいい」

「あ?」

・・・・・・ん?

「ヒッ!」

完全に般若。失神レベル。その顔にははっきりと、コロすぞ、と書かれている。

「お前、いま三宮くんを汚物って言ったか?」

「え、いや、その、いってませんけど?」

この子うそつきました。まあ、賢明な判断ではあるけどな。てか、シルが携帯電話のバイブみたいにブルブル震えてる。

「あの、春桐さん?」

「はっ」

俺がおずおず名前を呼ぶと春桐さんは我に返ったらしく、般若のマスクを脱ぎ捨てていつもの穏和そうな優しい顔に戻る。

「なに?」

「いや、なにって・・・・・・」

いい笑顔なんだけどさっきの見た後だとちょっとギャップがありすぎて・・・・・・。

「あ、私もう行くね。じゃあね三宮くん」

いつもの変わらない笑顔で大通りに消えていった。

「シル、大丈夫か?・・・・・・シル?」

声をかけても返事が返ってこない。

どうしたんだよ、と振り返ってみるとシルはすでに昇天していた。


「ひっく、こわいよぉ、あの女こわいよ天満ぁ」

「はいはい、怖かったな」

とりあえず、近くのファーストフードに入って泣き出すシルの頭を優しく撫でている。

さっきからしゃくりあげている、シルはよほど怖かったのかガラにもなく俺の手をぎゅっと握りしめている。

おれは別にいいのだが、さっきから俺への視線には身の危険を感じるものがある。

俺が泣かしたわけじゃないからね。

「とりあえず帰るか・・・・・・」


春桐さんのとある一面を垣間見てから数日。

俺たちは碧先輩の机に置かれた一枚の書類に目が釘付けになっていた。

「先輩、これって・・・・・・」

「さっき、恵先生から渡されたんだけど。たぶん今回はマジよ。後ろに校長先生がいたから」

紙にはこう書かれていた。


金雀児部隊の皆様へ

今回経費を精査しましたところ、金雀児部隊は成果の割に経費が異常に多いことがわかりました。

一週間以内に成果を残さなければ部隊の解散、もしくは相応の処分が下されます。

今月の経費 12000円


たったこれだけの文章なのに上層部の方々の怒りがひしひしと伝わってくる。

「でも、テンマ。ボクたちはそれなりの成果は残していると思うけど」

「たしかに、わたしたちはこの間モンスターをたくさん討伐しましたし、お菓子モンスターたちを仲間に引き入れたりしてるです」

エレインの主張にユノも乗っかる。

言われてみればそうだ。

ここ最近、俺たちはかなりの仕事をしていると思う。極力生活費は押さえているし・・・・・・生活費?食費?

なんだこの12万円は?

「天満、この12万円の経費ってどういうこと?」

「・・・・・・」


ミッション!一週間以内に1000体のモンスターを狩れ!



「ユノ!洗濯代がかさむからそんな派手な殺し方しなくていい!エレイン、モンスターで土偶を作るのはやめろ、碧先輩が落ちただろ!。レイカ!なんでお前はさっきから爪の手入れなんかやってるんだ、働け!シル・・・・・・さん?オスばっかり狙ってないでメスも狙って?オスを殺すときのあなたの表情はなんでそんなに壮快そうなの?おい、チクリ魔・・・・・・セリシア!お前はなんで逃げ回るんだ」

レイカの能力は座標操作ということ走っていたが、シルとセリシアの能力も勝るとも劣らない。

シルは身体を霧状に変化させて敵の能力を受けることなく逆に体の中に入り込んで体の内側から攻撃を仕掛けている。

セリシアは一度に扱えるのは一体に限るが現実に存在せずとも自分の想像の中の魔中を呼び出し操ることが出きる。今はシロクマのような形をした魔中を召還しているのだが、こいつはかわいさを意識するあまり爪も牙も持っていない魔獣を召還している。殺し方が潰す、という至ってシンプルなものであるがかなりの吐き気を催す。

セリシア本人は熊の飢えに乗っているにも関わらず逃げ腰なためさっきから逃げ回っている。

地獄絵図。こんなにかわいい女の子たちがこんな顔をして殺戮を繰り返しているが何よりつらい。

もう、帰りたいな。

「たしか、任務は1000体ですよね?もう帰りますか、碧先輩?」

となりにうずくまり、モザイクをふんだんに使っている碧先輩に尋ねる。

「そ、そうね。でもまだ150体に届いてない」

さらにもう一発でかいのをまき散らす。

しかし、多聞天候校のエリア内のモンスターはすでに片づけている。それでもまだ150体に達していないというなら、このエリア内で任務を達成するのは無理だろう。

かといって、他校のエリアに踏み込んだらそれはルール違反だ。その場で袋叩きにされる。

となると、仕事効率がよく、なおかつ他の生徒たちが行かないようなところは?

「異世界に行ってモンスターを倒すのはどうですか?」

ここらが妥当なところだろう。勝手に行っても問題ないのかは知らないけど。よくても碧先輩が許さないだろうけど。

「ダメに決まってるでしょう。たしかに任務中だってことを学校に伝えているから、問題にはならないけど、いきなり無鉄砲につっこんでも結果は見えてるわよ」

「ですよねー、冗談でーす」

ま、分かっちゃいたんだけどな。

さて、じゃあどうするか。あと今日をのぞいたら6日あるけど、どう考えたって6日で1000体は無理だ。

「ボクたち異世界のことならなんでもしってるけど?」

いつの間にか俺の後ろに浮かんでいたエレインが事もなさげに言ってきた。

後ろを振り返るとすでに蹂躙は・・・・・・戦闘は終息していた。

「私たちも妖精族やら獣人族に比べたら体したものではないがそれなりのことは知っているぞ?」

レイカに続いてシルとセリシアもうなずく。

「なんでエレインたちの方が詳しいんだ?」

「なんでって、そもそも私たちとは生きてる年数がけた違いだからな。獣人は500年が平均寿命だと言われているし、妖精族なんてのは不老不死だと聞くからな」

「「え?」」

俺と碧先輩の声がハモった。

待て待て。たしかユノはまだ12歳だとか言っていたな。エレインは・・・・・・

「テンマ?いま、えー、ひょっとしてエレインって大年増なの?実は俺の曾曾曾おばあちゃんよりも年上?クソババアじゃーん、とか思ったんじゃないのかい?言っておくけどね、ボクたち、いや妖精族だけじゃなくても、魔神族とか天神族、それに悪魔族と鬼神族、あとは女神族もだ!神聖にそもそも年齢なんて概念は存在しないんだよ!やめてくれ!そんな慰めるような目でボクを見るな!」

「ババアの言うことはほっときましょう。つまりわたしたちは異世界については十分な知識を持っているので異世界行きはとくに問題ないとおもうです」

「だそうですよ碧先輩?どっちにしても、このままじゃミッション失敗になって、部隊解散になるのは約束された確実な未来です。まごついている時間はありません。行きましょう?」

碧先輩は渋い顔をしながら考え込んで、しきりにエレインとユノに目配せしている。

まあ、たしかにこの二人は心配だよな。なにするか分からん。

「エレインとユノなら大丈夫ですよ。こいつらなら鍋をたたく音を聞いたら飛んで戻ってきますんで」

「ちょ、ボクたちはそんなに食い意地貼った覚えはないぞ」

「そうです、わたしたちはそんなにがっついたことはありません。最近ではこのスナックモンスターたちの方が問題あるとおもうです」

「なっ!だれがスナックモンスターだ。私たちは日本の文化を学ぶためにお菓子を食べているのだから、お菓子を食べるのは当然だろう」

「そ、そうだ。レイカ様をスナックモンスターなどとのたまうとは失礼だぞ!」

「日本のお菓子を学ぶなら綿菓子を食べるべきです。ポテチやらコーラばかりを食べているとすぐに太りますよ!機械さえあれば後はザラメをを入れてオハシをクルクルしていればすぐに完成する素晴らしくインスタントでおいしい綿菓子を食べずして、どうして日本のお菓子を学べるですか?」

「それに、シル。キミはいまレイカに限定してスナックモンスターと言ったな。キミも本心ではレイカがスナックモンスターであることを認めているんじゃないのかい?」

「そ、そんなことは・・・・・・」

「ちょっとシル?なんで黙るのよ。私はスナックモンスターなんかじゃないわよね?」

と、どうでもいいような会話が紡がれるのを近くで見ている碧先輩。

俺から言わせれば、お前らはみんなスナックモンスターにグラトニーレベルの食い意地張ってるよ。お前らのせいで部隊解散の危機に陥ってるんだぞ?

「こ、こいつらがいれば問題ないと思うんですけど、いかがでしょうか」

「私が危ないと感じたらすぐに撤退っていう条件を守れるならいいけど。まあ、他に手段がないしね。それより、この子たちちゃんと命令を聞いてくれるかしら?」

「・・・・・・」


「おおーーー」

目の前一面に広がる青々とした草原。ところどころにモンスターはいるがそれすらも異世界感を沸き立たせている。

それに都会暮らしをしているからこそ、この澄み切った空気が心地よい。

「ここが異世界か。平和そうなところだな。碧先輩も初めてですよね?」

「うん。初めて地平線なんてみたよ。日本だとまず見れない光景だね」

「ボクたちからしたらテンマたちの世界の方がよっぽど魅惑的に思うけどね」

「大婆様は長生きしすぎて飽きちゃったのかよ。それに思ってたよりモンスターの数が少ないな」

「すぐに移動するですよ。こんな遮蔽物がなにもないところでモンスターの大群に襲われたらひとたまりもないです」

「大群!すぐ行こう、今すぐ行こう!どこに行けばいいんだ?」

「たしか、北の方に巨大樹が会ったと思うわよ」

「きょ、巨大樹?それはもしかして俺たちを堪能しようとする巨人がうじゃうじゃいたりするのか?」

「まあ、たしかに巨人はいるですね。でもだいじょうぶ、おそらく、きっと、たぶん突然は襲ってきたりはしないとおもうです」

「おい、ユノ。巨大寿はよそう。町とかはないのか?異世界観光してみたいんだが」

「天満。私たちはモンスターを倒しにきたわけで、観光に来たわけじゃないのよ?」

「ふーむ、しかしどの町に行くにしても必ず巨大樹は通ることになるぞ?」

シルは地図を片手に再びふーむ、と唸る。

「ちょっと、待ちなさいよ」

ふふんっ、とレイカが前に出てくる。

「私の能力を忘れたのかしら?私は座標を操れるのよ?つまり、一瞬で町に送ってあげることもできるんだけど?」

このドヤ顔がイラつく。

「待って。それだとモンスターを倒せないでしょ。任務のために来たのよ私たちは。だからその提案は却下ね」

碧先輩がノーとばかりにバッテンを作る。

「そ、そんな・・・・・・」

ガクリとその場にひざまずき、動かなくなるレイカ。

「いや、ですからとりあえず早く移動を・・・・・・」

「もういいわ。こうなったら私が勝手にあなたたちを町にとばすわ。さっきも私の出番が少しもなかったじゃない」

「だから、移動を・・・・・・」

「いや、お前ずっと爪をいじってたじゃん」

「だってみんなあんなに派手な能力を使いまくってる中私だけ上空に飛ばして墜落させるってダサすぎるじゃない!だいたい、天満たちだってなにもしなかったじゃない」

その言葉に碧先輩は視線を逸らす。

まあ、この人はただ吐いていただけだもんね。


「十二時の方向敵です!」


セリシアの声が響きわたった。

反射的にセリシアの指す方に視線を向ける。

土肝を抜かれた。あれアリかよ。

誇大な草原に地面を埋め尽くさんばかりのモンスターの大群。

なかにはチラホラと大型モンスターもいる。巨人族まで交じっている。

巨人族は文字通り人間のビッグバージョンだが、魔力が全員同じ、地を操る魔法を使う。

そして、巨人族は昔から獣人族から戦争を繰り返しているらしく、そのほとんどが戦乱狂なのだそうだ。

「だから、わたしは早く移動しようといったですよ?なんで聞いてくれなかったからですか?」

「おい!お前ら一応霹靂の部隊とか言うエリートなんだろ。おいちょっと待てよ。逃げるなよ!ていうか、なんでお前らの能力はそんなに撤退に特化してんだよ」

座標移動で逃げおおせるレイカに霧で霧散していくシル、かわいらしいヒヨコ型の魔獣を召還して飛び去っていくセリシア。

こいつら仲間を平気で置き去りにするとか、本当にいい性格してるわ。

「い、いったんもとの世界に戻って出直しましょうか?」

「そ、そうね。そうしようか。あの子たちはおいていっても問題ないわよね」

「なんの問題もありません。おいていきましょう」

俺たちは先ほど通ったばかりのモンスターベントに向かって駆け出す。

「ちょっと、あなたたち」

俺たちとモンスターベントとの間にレイカが現れた。

「何だよ。お前ら俺たちをおいて行ったくせにしゃあしゃあと」

俺だけでなく、碧先輩もお怒りモードだ。

「ちょっ、ち、違うわよ!私たちは敵の敵情視察に行ってきただけ。私たちがあなたたちを裏切るわけないでしょ」

「そうだぞ、天満。私たちはチームなのだからな」

「その通りです。私たちは仲間はなにがあっても見捨てないし、裏切りません」

レイカに続き、シルとセリシアまでもが姿を現す。

「とりえず町まで飛ばさせてもらうわよ。いいわね碧?」

「分かったわ。お願い」

碧先輩はチラッと多一群の方を向いて仕方ないとばかりにうなずく。

「みんな一応手をつないでおいてもらえるかしら。落っことしたら大変だしね」

「落っことすのかよ!頼むぞマジで」

「ま、任せてよ」

俺たちが手を握り合うのを確認するとレイカはパチンッと指を鳴らした。


「ふざけるな。冗談だろ?あいつ絶対わざとだろ!ひーーー」

落っことされた。巨大樹に落っことされた。

俺の後ろには鎧に身を固めた巨人2体に、巨大熊を軽々と肩に担ぐ巨人1体に追い回されている。

なぜこうなった?

一応刀を召還してはいるがとても有効だとは思えない。

「俺のもんだーーーーーー」

「ひーーー」

俺の真横に拳が振り落とされる。

ヤバい、あれ喰らったら間違いなく死ぬ。だって殴った後に巨大なクレーターができてるし。

戦うか?やっちゃう?いやその前に捕まったらどうなるんだろ。やっぱ食われるのかな?

お父様、お母様、妹よ、俺のことは忘れないでね?そういえば最近電話も来てないな。この前は学費が未納だって先生に怒られた気がするけど、大丈夫だよね?

「かかってこいやーーー、巨人殺しの照合は俺のものだーーー」

俺は勢いに乗って近くの高木に飛び移り、あっと言う間に敵の頭上をとる。

全身に魔力をふんだんに流し込み、猛スピードで頭をかち割りにい・・・・・・

「ぶえっ」

捕まった。

わあ、ごつごつしたおっきな手だな。

そして、新たな発見。

巨大熊を担いでいたのは女だった。

「おめえ、人間か?」

「こんにちは、人間の三宮天満っていいましゅ。異世界からきました。初めての異世界なので最高の思い出を作りたいと思っていましゅ」

「ほー、異世界からきたんか。オラも異世界いきたいべ」

「大変申し訳ないのでしゅが、僕たちの世界はあなたのような見目麗しい貴婦人には大変住みにくいところでありますので」

「お、オラをがわいいっていうのか。うれしいねー。よっし、ぎめた!」

ヨダレが!ヨダレが俺に着きそう!ってかくっさ!こいつ絶対口洗ってねーわ。

「なにをでございましゅか?僕たちの世界は本当にこないでくださいよ?」

「オラ、おめえをお婿さんにするっぺ」

「はい?」

こ、こいつはなにいってんの?

お婿さん?なにをバカなことを・・・・・・

「「うぉぉぉぉぉぉ」」」

「は?」

鎧の巨人が雄叫びをあげる。

「グルダに婿だっぺさ」

「めでてーなー。早速村のもんに報告してくるっぺ」

う、嘘だろ?俺の初めての人がきょ、きょ、巨人だと?


「飲んでるっぺか?ほら、オラのも飲め」

「あ、はい。後でいただきます」

俺は手渡された大きなグラスを横に置く。

誰がお前が口付けたのを飲もうと思うんだこのデカブツ。

俺はあの後必死の抵抗むなしくあっさり巨人族の村まで連れてこられた。

巨人族の皆様は準備が早く、府がくれる頃にはもう結婚式?が始まっている。

俺はその申し出を受け入れた覚えは一切ないけどな。

さっきから周りの巨人族は俺をねぶるように見てくる。

そしてもう一つの発見。

俺は巨人族の女性にはめちゃくちゃモテる。それはもう引くレベルで。

「そ、そういえばダルダさん?」

「ダルダでいいっっぺよ」

「ダルダさん」

「ダルダってよべっていってんのが聞こえねーんか、糞餓鬼」

「・・・・・・ダルダ」

「なんだっぺ?」

「そ、村長さんはいないのかい?ほら、挨拶しときたいなーって」

「あー、あのブスか。あいつはそろそろ出てくるっぺよ」

「そ、そうなんだぁ」

絶対こいつとは結婚しない。もともとする気なんてさらさらないけどな。


「ラセルがきだぞーーー」


一人の巨人が大声でそんなことを言った。

「ダルダ、ラセルっていうのは誰のことなのかな?」

「んあー、ラセルはさっきおめえが聞いてきた村長だっぺよ」

「そ、そうなんだ」

こいつがブスと罵るくらいなのだから、村長は世界最高峰のブスに違いないのだろう。

・・・・・・ん?

歓声に包まれながら現れたのはブスとはとうてい言い難い美女だった。

他の残念な巨人(当然ダルダも含まれるよ)のようなゴツゴツした体ではなく、スラッとした体を申し訳程度に胸巻きと腰巻きが隠しているだけの。

か、かわいい。

「ケッ、あんなブスのなにがいいんだかオラにはわかんね」

「てめーはなに言ってんだ?」

「あ?」

「あの美しいお嬢様のどこがブスなんだ。なめてんの?お前みたいなのがあの方のことを話すことすらおこがましいわ」

俺自身なんでこれほどまで怒っているのかは正直分からない。おそらくいままでの鬱憤がたまっていたのだろう。

「お、おめえはさっきオラのこと見目麗しい貴婦人って言ったっぺ」

「それくらい嘘だって気がつけよ。お前のどこに美人要素があるって言うんだ?教えてくれよ?」

俺とダルダの険悪な雰囲気に気がついたのか、周りの巨人たちも顔をひきつらせながら見ている。

「お、おい、異世界人。ダルダをあんまり刺激しないではくれねーか?こいつは怒ったら収集がつかねーんだ」

「もう、手遅れだっぺ。婚約の儀式は中止だ。こいつはなにがあっても」


殺す


ダルダの周りの空気が一気に張りつめたのが分かる。

今にも失禁しそうな俺はありったけの魔力を体中に巡らせて電光石火のごとく疾走した。


村から逃亡して数分。

俺は後ろに迫る狂乱ジャイアントから全力で逃げている。

頭の中では捕まったら死ぬ捕まったら死ぬ捕まったら死ぬと再三連呼している。

「まちやがれーーー」

真後ろから放たれる咆哮に体中が震え上がる。

「レイカ!レイカ!レイカ!」

大声で助けを願った。

この際恥じも外聞もどうでもいい。助けてくれたら何でもする。お菓子も好きなだけ買い与えるし、我が家ですら差し上げよう。

「オラを前にしてまだ他の女の名前をよぶっぺか!」

「貴様を異性として意識した覚えはないし、それに結婚するんなら貴様じゃあなくてレイカを選ぶね」

「ふぁあ」

なんだ今の声。あいつにしてはかわいい声だったな。

「ね、ねえ天満。今のは本当かしら?ぷ、プロポーズって言うことでいいのね?」

俺のすぐとなりに、赤面してもじもじしながらも俺の全速力についてくるレイカがいた。

「レイカ!ありがとう。くると信じてたよ。詳しいことはあとで話すからとにかく助けてくれ。後ろの巨人に追いかけられているんだ」

「そんなことより、さっきのことは本当なの?ねえ、どうなの?」

「状況を見ろ!ほら後ろのダルダさんはそうとうお怒りだぞ!」

「わ、私にとっては大事なことなのよ!さあ、答えなさい!」

くっそ、こいつもなかなか面倒くさいな。

「お、お前のことはとりあえず友達から始めていこう、な?」

「ともだち!分かったわ。友達を助けるのは当然のことよね」

「ああ、そうだ。友達じゃなくても家族でも良いぞ?家族を助けるのは当然のことだろ?」

「か、家族!そ、それはさすがにまだ早い気がするけど。さあ、手をつないで」

「ほら、頼むぞ!」

「ぎがあああーーーーーー」

「「ひーーーーーー」」

パチンッ

森の中にレイカの指を鳴らす音が響いた。


「ふーん、それで?巨人族と結婚しちゃったわけだ」

「ぐすっ、してないって言ってるだろ。ひっく、なんで俺だけあんな目にあったんだよぉ」

レイカのおかげで町の中に飛ぶことに成功した俺は一気に力が抜け、半ば引きずられるようにして碧先輩のいる町外れの一軒家に向かった。

俺はいまみんなに囲まれながら布団の中に潜り込み、巨人族にされたことを事細かに、詳らかに報告した。

「てんまにそんなことをするなんて。わたしは怒りました。あのデカブツたちはいますぐにでももぶっ殺してきてあげます。待っててくださいねテンマ」

「うん、よろしくなユノ」

「よろしくじゃないわよ。巨人族からせっかく逃げたのにまた喧嘩売りに行ってどうすんのよ」

優しいユノを押さえつけ、碧先輩は疲れたように言う。

「そうだね。たしかにボクも巨人族のガキどもは最近調子に乗っていると思っていたとkろだったんだよ。まかせてテンマ。妖精族が全勢力をあげて巨人族を根絶やしにしてくるぜ」

「待ちなさいってば。天満もかわいそうだけどその巨人におべっかかいた天満も天満よ。それよりモンスターを倒してさっさと帰るわよ」

「うっ、うっ、」

俺は再度あのダルダの顔を思い出して体が震え出す。

さっきから俺の手を握って背中をさすってくれるシルがお母さんみたいでホッとする。

シルは将来良いお母さんになると思います。男嫌いの問題が解消されれば。

それに比べて、レイカはさっきからなにを思い出しているのか知らないが、時々ふにゃっと顔を緩ませている。

セリシアは情報収集に出掛けたらしい。

「はあ、仕方ないわね。ほら天満。町の観光に行くんでしょ?行くわよ」

布団越しでも分かるほどに震える俺を見て碧先輩が仕方ないわねえ、とばかりに異世界観光を提案してきた。


宿から出た俺たちは様々な人種が集まって喧騒とした町の大通りを歩いている。

道には屋台が所狭しと並んでおり、食欲をくすぐるような臭いがあたりを包み込んでいた。

「といっても、俺たちはお金を持っていないんですが」

「それなら、適当なクエストでも行くですか?」

「それって、ギルドみたいなところ?」

「そうです。この町のギルドは比較的大きいのでいろんなクエストが並んでるですよ」

「だそうですけど、碧先輩。どうします?」

「たしかにお金も手にはいるし、モンスター討伐もできるから一石二鳥よね」

クエストを受けることに決まった。


ギルドに着いた俺たちはとりあえず適当なクエストをと思ったのだがあいにく、異世界の文字はさっぱり分からない。

まあ、みるからに危険そうなのは絵を見て判断できるけど。

あの巨人の絵が描かれているやつは絶対にやばいと思います。

「なあ、エレイン。俺たち文字が読めないからお前が適当に選んでくれないか?」

「まかせてくれよ」

エレインがそういう自信満々な顔をするときは絶対厄介事を持ってくるんだよな。

「はあ、いいかエレイン?、まずあの巨人が描かれているやつは絶対にNGだ。いいか、絶対だぞ?あと、確実に成功できるという確証があるものにしろ。分かったな?」

「・・・・・・はい」

「声が小せぇ」

「はい!」

エレインは小さな体を駆使して掲示板の前まで飛んでいった。

以来を取りに行ったエレインに若干不安を残しつつもギルド内に設置されたテーブルに座った仲間たちと一人の少女をみる。

「天満。クエストは持ってきたの?」

きれいな黒髪を後ろでポニーテールにしている14歳の少女。

俺の滞在を快く思わないのか、俺に体してのあたりがかなりキツい。ていうかすでに呼び捨てにされているんだが。

「やっぱり、俺は沙耶ちゃんをクエストに連れて行くのは反対なんですけど」

「あたしもそう思うけど仕方ないじゃない。千枝さんにお願いされちゃったら、居候させてもらっている手前断れなかったのよ」

俺たちが現在滞在しているのは一人の老婆、千枝さんとその孫の沙耶ちゃんが所有する一軒家だ。

たまたま町の外れに飛んだとき、その現場を見られてしまって今は家の大部屋を一部屋貸してもらっている。

町を散策に行こうと家を出たところ、忙しい千枝さんのお手伝いをしていた沙耶ちゃんに出くわしてしまい一緒に連れて行ってほしいとせがまれた。

町はなにがあるのか分からなかったし、正直ケガでもしたら責任をとれないということで断ろうと思ったのだが、千枝さんが

「私の手伝いばかりさせてろくに遊んでやれていないんだ。町に行くなら連れて行ってやってはくれんか?」

とお願いをされてしまった。

「でも、さすがにクエストは危険なんじゃ」

「別に私はあんたに助けてもらうす気なんてさらさらないから」

「っていってもなあ」

俺は救いを求めようとシルの方をチラッと見る。

シルは一瞬えっ、ここで私にふるのか!といった顔をしたが

「ま、まあいざとなればレイカ様に家まで転移していただけばいいのではないか?」

「できるか?レイカ」

「う、うん。できると思うぞ。か、家族の願いであれば仕方がないな」

「「家族ってなんですか?」」

家族、という単語を聞いてユノとシルが俺に問うてくる。

待て。あのときはなりふり構わずあんなことを言ってしまったが落ち着いて考えてみるとかなり恥ずかしいことを言ってしまった気がする。

「か、家族って言うのはアレだよ。ほら、助け合って生きていこうみたいな?」

「ということはわたしもてんまの家族と言うことになりますね」

「貴様、レイカ様にまた変なことを吹き込んだのではあるまいな?」

「そ、その話は置いといてだ。それができるんなら安心だな。あと、セリシア。一応沙耶を守るために小さくても良いから魔獣を召還してくれないか?」

「い、いいですけど、どんな魔獣がいいですか?」

「小型でもし俺たちからハグレたとき位置を知らせてくれるようなヤツはいないか?あと、少しでも戦力になるやつな」

「分かりました。それなら咆狼とかが良いですね」

そういってセリシアは沙耶ちゃんの肩に触れる。

セリシアの触れたところに魔法陣が浮かび上がり、そこから小型の狼が召還された。

「狼か。こいつはどんな能力があるんだ?」

「この子は私から一定距離以上離れると大声で叫んで、この場合沙耶ちゃんが危険な状態にあったら巨大化して沙耶ちゃんを連れて私のところまで戻ってきてくれます」

「便利だな!」

「一応、私が印を残しておくわね」

次はレイカが沙耶の腕を握り、腕にさっと、指をなぞらせると紫色の文字が浮かび上がる。

「その印があるとどんなことができるんだ?」

「ん?私の印を残しておくと印の場所に確実に転移ができるのよ」

「台無しだよ!セリシアの出番を奪うなよ!」

「たっだいまー。クエストもらってきたぞ。今回のクエストはこれだ!」

    クエスト

西のピット村に押し寄せている吸血鬼を討伐せよ。

                    成功報酬:金貨50枚



「金貨1枚って日本円に直すといくらなんだ?」

「一万円ジャストだよ」

金貨1枚が一万円。50枚だと・・・・・・

「先輩、俺こっちの世界で生きていきます」



レイカの指パッチンで本来の移動距離50キロを一瞬で移動して俺たちはピット村に訪れていた。

ピット村ではすでに吸血鬼の襲撃に備えて巨大なバリケードや魔法の準備などを始めていた。

クエストを受けてこの町に来たのは俺たちだけではないらしく、他の村や町からクエストを受けてきた者も多数いるようだった。

だからだろう。見たこともない身なりに、最高年齢17歳の俺たちをみて村の人々は俺たちに夜通し見張りをさせたのは。


「暇ね」

碧先輩は高台に置かれたイスに腰掛けながらグチをこぼす。

たしかに暇だ。到着してからいままでずっと見張りを任されている。もちろん飯も支給されていない。どうなってんだよ。

「こいつらも早々に寝ちゃいましたしね。こっちの世界にいられるのも後5日くらいなのでその間にケリがつくといいですけど」

「そうね。村に着いたらそれなりに優遇されるものとばかり思ってたわ」

「子供だからってかなり冷遇されましたもんね俺たち。レイカたちも自分たちが霹靂の部隊だってことを必死に訴えてたけど信じてもらえていませんでしたし。霹靂の部隊って案外しょぼいのかもしれないですね」

「たしかに・・・・・・ん?あれはなにかしら?」

「どれですか?」

「あれよあれ」

碧先輩が指さす方向を凝視していると・・・・・・

「吸血鬼ですね。間違いないです。すごいですね先輩。あと、聞きたいことがあるんですけど」

「うん、言わなくても分かるけど一応言って?」

「なんで吸血鬼の軍勢の中に巨人族がちらほら交じっているんでしょうか」

間違いない。そろって白い服を着ている吸血鬼のなかに間違いなく巨人族が入り込んでいる。

「こ、今回は良いチャンスだわ。天満のその巨人族のトラウマをここで払拭するのよ」

「たしかユノは巨人族が大嫌いだったはずですよね」

敵の襲来を村の人々に教えることより俺は自分自身の身の安全を考える。

「ユノ?起きてくれ。巨人族とその付属品の吸血鬼たちがおそってきたぞ」

「むにゃ、もう少し寝させてほしいです。てんまはいつも朝が早いですね」

「そんなこと言わないで助けてくれよ。あんな思いはもうしたくないんだよ」

「てんまならなんとかなりますって」

「だって、俺なぜか巨人族にはやたらモテるんだよ。惚れた巨人族ほど怖い物はこの世にないとおもう」

俺はもうすがるようにしてユノに頼み込んだ。

俺の願いが通じたのかユノはがばっと起きあがると、

「てんまにあの下賤な巨人族が求婚してくるですか。これは由々しき事態です。任せてくださいてんま。わたしがやつらを懲らしめてみせるです」

おぉ!ユノさんマジかっけー。惚れそう。

「早く起きるです。敵がきたですよ」

普段は朝に弱いユノが率先して周りの寝坊助を起こしている姿に感動しつつ、俺は敵の襲来を村の人々に伝えていないことを思い出す。

「碧先輩、すぐに焔の魔法を上乗せした矢を放ってください!」

碧先輩の矢を使って周囲に敵の襲撃を知らせる算段だ。

「任せて。ついでに爆音も一緒に届けてあげるわよっ」

碧先輩は巨大な弓を召還し、思いっきり引き絞って放った矢を上空ではなく、下に向けて放った。

「え?」

碧先輩の放った矢は真っ黒な暗闇の中に光の残像を残しながら地面に着弾した。


ゴォォォォォォンン


碧先輩が放った矢は轟音と地面に巨大なクレーターを残して消えていった。


「敵襲だーーー!距離があるうちにでっかいのぶっ放せ!」

碧先輩による警笛によって村の人々は飛び上がって、次々に遠距離型の魔法を放つ。

もちろん飛び上がったのはエレインたちもだ。

目を覚ましたエレインは即座に戦争に参加する。

さすがは生きている年数が違うだけあって戦争にもなれているご様子だ。

セリシアも熊型の魔獣を召還して敵陣へと送り込んでいる。自分が見ていなくても魔獣の見た情報が脳に直接送られてくるので遠隔操作もお手の物らしい。

あんなに大きな魔獣が襲いに来たら俺だったら即退散するけどな。

「ユノ、なんかお前の出番なさそうだな」

俺は仲間の圧倒的なまでの火力を笠に平常心を取り戻し、余裕が出てきたみたいだ。

だからこんなフラグが立つと分かるような言葉を吐いてしまったのだろう。

「なんですと!せっかく魔力を練っていたのですよ!わかりました。わたし今から突っ込みます」

「待て待て落ち着け。他の奴らの魔法が当たったらどうするんだよ」

「あんなノロい魔法なんてあたるわけないのです」

吐き捨てるように言い残してユノは闇の先に煌々と魔法の光が交差する敵陣へと消えていった。

「困ったわね」

碧先輩がつぶやく。

「たしかに困ったことになりました。巨人殺しのプロフェッショナルであるユノが行ってしまったら俺を守ってくれるよう人がいなくなります」

「ま、まあたしかにそれも困ったことなんだけ、吸血鬼たちが他の方角からも攻めてきてるのよ。あきらかに人員不足だわ」

「俺は行きませんよ?」

碧先輩はにっこりと笑った。


「いやだーーー、行きたくない。碧先輩は俺が巨人のお婿さんになってもなんとも思わないんですね!見損ないました。はなせーーー!だいたい、魔法を使えない俺になにをしろって言うんですか!俺は村の子供たちと一緒に地下の隠し部屋に引きこもります!」

デパートでおもちゃおねだりをする子供さながらの抵抗を繰り広げる俺。

そんな俺をさっきから見てくるエレインたちの視線が痛い。

「ア、アオイ。テンマにあんまり乱暴なことはしないでくれよ?」

「分かってるわよ。でもさすがにあの数はヤバいでしょ!」

碧先輩はビシッと暗闇の中魔法による発光が煌めく方を指さす。

暗がりの中には暗がりのなかでも分かるほどに敵の数が増えていた。主に巨人が。

「ユノたちがやってくれますよ。ひっ!先輩先輩!あの巨人さっき話していたやつです!ほら!俺をガン見してるヤツです」

暗闇の中でもわかる。あれはダルダだ。

なぜかって?今おれと目が合ったとたんにこっちに猛ダッシュしてきているからさ。

「ちょっ、天満すごい勢いで突っ込んできてるわよ!あんた何とかしなさいよ」

「無茶言わないでくださいよ」

俺と碧先輩が互いを押し合っていると、エレインとシルとレイカが前に立つ。

「ど、どうしたんだ?おまえら」

「なるほどね。テンマに身の程をわきまえずちょっかいを出してきたのはあいつか」

「ええ、間違いないわ。私の家族を寝取ろうとしたのはあいつで間違いないわ」

「わ、私はその、レイカ様のお供をするだけだ!」

そう言うと、エレインたちは巨人ダルダに突っ込んでいった。


「ほんとうに、皆様には感謝しております。ありがとうございました」

無事町を守りきった俺たちは町の集会場でMVPとして見たこともないほどの豪勢な食事と讃美の歓声に囲まれていた。

まあ、ほとんど俺はなにもしてないんだけどね?

「それにしてもあのテンマにちょっかいだした巨人はなかなかに骨があったね」

「そうですね、まあレイカ様のお力があればあんなもの敵でもありませんが」

「まあね!そういえば、シル。あなたあの巨人にたいして男を相手にしたときのような形相を浮かべていたけど、なにか恨みでもあったの?」

「いっ、いえなにもありません!」

こいつらは割と余裕な感じだったけど、ダルダの方はもう死ぬ一歩直前だったぞ。

あの超絶美人の村長巨人が助けに入らなかったら間違いなく死んでた。

「エレイン、レイカ、シル。その、ありがとな?」

すこしダルダがかわいそうになったりもしたが、ダルダの顔を思い出すことでその思いは払拭できた。ブスでよかった。ダルダでよかった。

唐突に零を言われた三人は少し頬を紅潮させ

「気にすることないよ、同じ部隊の仲間じゃないか」

「そうよ、家族を助けるのはとーぜんよ」

「き、気にすることはない。私はレイカ様の力になりたかっただけだからな」

と言ってくれる。

本当に三人に助けてもらわなかったら今頃俺は巨人族の村でブスの頂点ダルダを花嫁に盛大な結婚式が開かれていたところだ。

「ん?」

俺が珍しく心からこいつラに感謝していると、服がチョイチョイと引かれる。

「てんま。わたしもがんばったのになんで誉めてくれないのですか?不公平はよくないと思うのです」

俺の服を引きながらユノはふてくされたように言った。

「そうだな。ユノも巨人たちと戦ってくれたもんな。よしよし」

ユノの小さな頭を優しく撫でつけてやる。

碧先輩の方から舌打ちが聞こえた気がするけどそれは放っておこう。

「天満様、こちらが報酬になります。お納めください」真っ白の髪を後ろで結び、髪と同じ色の髭を蓄えた老人がパンパンの革袋を八袋を差し出してきた。

「あ、ありがとうございます。って重っっっ!」

革袋自体がかなりの大きさなので一人ではとても持つことさえできないような重さだ。

おっと、ヨダレが。いかんいかん。

「こ、こんな大金初めて見ましたよ。合わせれば家も買えるんじゃないんですか?てんま、本当にこっちの世界に住んだらどうですか?一生遊んで暮らせますよ?」

八袋の革袋を八人に分等し、受けっとったユノが俺を誘惑してくる。

なに言ってんのよユノ、ダメに決まってるでしょ」

碧先輩は呆れたように頭を掻く。

「そ、そうだぞ。俺の家族たちもいるんだから」

春桐さんもいるし。俺の未来嫁候補をのこしてこっちの世界に越して来たとして、またダルだみたいな奴に捕まったらたまったもんじゃない。なんか俺こっちの世界だとやたらモテるし。やっぱこっちの世界で生きようかな。

日本ではバレンタインチョコなんて妹と母さんにしか貰ったことないし。

「それで、天満。私たちはいつここを立つのだ?」

並べられたデザートのクリームを盛大に頬につけて食べるレイカの世話をしながらシルが尋ねてくる。

レイカもそうだが異世界出身のお嬢様方は食い意地がハンパない。色気なんてあったもんじゃない。

「なにか用事でもあるのか?」

「ああ、せっかく戻ってきたのだし一度国に帰ってこようかと思ってな。移動時間はレイカ様がいらっしゃるのでたいしたことはない」

「なるほどな。そうだな、あと二日くらいはこっちの世界にいると思うぞ」

「ちょっと天満、なにあんたが勝手にきめてんのよ。私よ!部隊長は」

「だ、だってどうせ碧先輩もこっちでモンスター倒さないと困るでしょ?」

「そうだけど!」

「いいですか?碧隊長」

シルが碧先輩に聞き直す。

「いいわよ!行って来なさい」

俺の時と違って碧先輩は嬉しそうな顔でうなずいた。

ああ、隊長扱いされたかったのね。


「ちょっと、天満。ちゃんとあたしについてきてなさいよ」

「どこまで行くの、千枝ちゃん。もうかれこれ一時間は歩いてるけど?」

「うっさいわね、あと少しで着くっていってるでしょ」

「いやいや、そのセリフ三十分前にもきいたんだけど」

「細かい男は嫌われるわよ」

俺は今千枝ちゃんと二人で近隣の山まで来ている。なんでも千枝ちゃんがどうして行きたい場所なのだが沙耶さんが忙しいのとすでに七十を超えているらしくこれなかったそうだ。

今日は朝から碧先輩たちは用事があるらしく残された俺は庭で日向ぼっこをしていたところを千枝ちゃんに捕まってしまった。

「どこに行くくらいの華くらいは教えてくれてもいいんじゃなあいの?」

「・・・・・・」

んーーー、会話のキャッチッボールが成り立ってないな。

それから二十分ほど登り続けること二十分強。開けたところに出た。

周りは木に囲まれ所々から木漏れ日が指している。奥の方には形の違う碑が二つ立っていて、隅には小さな水池から水が流れている。

千枝ちゃんはなれた手つきで池から置かれている手桶で水をすくい碑に水を注いでいる。

「千枝ちゃん、もしかしてここは」

「あたしのママとパパのお墓。二年前に町に魔神族が攻めてきたときにあたしをかばって死んじゃったの」

千枝ちゃんは何気ない風で言った。口調こそそんな感じだが顔は憂いに満ちている。

「そうだったんだ」

それ以外にかけられる言葉を俺は持ち合わせていない。俺も親戚を亡くしたことがあるが変に同情されても煩わしいだけだ。

と、唐突に千枝ちゃんが

「あんたたちって異世界からきた強い魔法使いなんでしょ?ならあの魔神族だって倒せるんじゃないの?」

「え?」

「無理なの?」

「ほかのメンバーは結構強いと思うけど魔神族なんて倒せるわけないよ。それに俺に至ってはろくに魔法が使えないんだから」

そもそも魔神族なんてのがいたこと自体初耳だ。

俺の言葉を聞いた千枝ちゃんの表情が見るからに暗くなっていく。

「そ、そうよね。絶対主の魔神族になんかあたしたち人類が勝てっこないわよね」

「で、でも何か手伝えることがあったら言ってよ。そのときは助けてあげるから、ね?」

「ふ、ふんっ、あんたなんかに頼らないわよ。さ、これで用事は終わりよ。さっさと帰りましょ」

千枝ちゃんはふてくされたような顔をして来た道を下っていく。

「ま、待ってよ千枝ちゃん」

早足で山を下る千枝ちゃんは今にも泣きそうな顔をしていた。


なんだこれは。

日が来れ町のはずれにある一軒家にて。

広い食卓の上には所狭しと料理が並べられていた。その豪勢な料理を一日町を観光してきたエレインと碧先輩とユノ、それから一時報告のため国へ帰っていたレイカとシルとセリアシアが目を輝かせて見入っている。

「こ、これをボクたちが食べていいのかい」

「クエストの後だし、千枝の面倒も見てくれたからね。私には恩返しなんてできないがせめていい物を食べてもらわないとねぇ」

沙耶さんは優しそうな顔で最後の料理を運んだ。きっと二人だけだった食卓に大勢のお客さんが来てはしゃいでいるのだろう。

「「「いただきます!」」」

俺たちは丁寧に合掌をして飯を食らい始めた。

こいつらは俺が合掌をするのを見て真似ている。

大半は見たこともないような料理ばかりだがチャーハンは母国と同じ感じだったので一口食べてみる。

「う、うまい!なんだこれ冷凍食品とは比べものにならん」

「れいとうしょくひん?」

「ああ、えっとすでに調理された食品を凍らせて暖めたらすぐに食べられる保存食です」

「ねえテンマ、その冷凍食品って家の冷凍庫にたくさんある奴とは違うの?」

「いや、あれこそ紛れもない冷凍食品だ。しかもホームセンターで大人買いしたやつな。消費期限ぎりぎりだとかなりお手軽に手にはいるんだよ」

「おい、貴様。先日貴様の家で食事をしたときにやけに多様な料理が多かったが、よもや我々にその消費期限ぎりぎりの冷凍食品を食わせたわけではないな?おい、こっちを向け」

「お前ら、うまい!天満って料理の才能があるんだとか言ってくれてたから言い出せませんでした」

「そういえばチラッと見たんですがゴミ箱にあふれていた冷凍食品の袋に一ヶ月前の日付が書いてありました」

「おかげさまで家計が助かりました。あれがあったから経費オーバー額が十三万円にならずにすんだよ」

俺は居候娘五人に袋叩きにされ、今晩のディナーはチャーハン一口で終わることになった。


「さぶいさぶいさぶい」

「あんたが悪い。あの子たち消費期限の冷凍食品を食べさせたあんたが悪い」

「だって、あいつらがきてから俺はろくなご飯も食べられない日が続いたんですよ?少しくらいはやり返したかったんです」

「いま、本音が出たわね。まあ、今晩はこの屋根裏で寝なさい。お休み」

碧先輩は俺にそう言い残すと暖炉の効いた暖かい寝室へ戻っていった。

俺は服を何重にも着込み布団を被り大型犬用の犬小屋に体を押し込んで寒さを凌いでいた。入ってみて気がついたのだがこの中以外と広い。あと一人入れるくらいのスペースが余っている。

この異世界とにかく夜は冷え込むのだ。今も俺の吐く息は白い。

「エレインたちは絶対許さん。帰ったら我が家の倉庫に長年眠っているとっておきの缶詰めをごちそうしてやる」

俺がそんな奸計にほくそ笑んでいると不意に耳障りな音を立てながら扉が開いた。

「いい部屋じゃないか、程良く頭も冷えるんじゃあないのか?」

「いや、寒すぎだろこの部屋。鼻水凍っちゃってるよ!」

「お前が私たちに食べられるのかどうかも怪しいような物を食べさせるからだろ」

「お前はそんなに食べないから良いけどエレインとかユノとかレイカとか以外にセリシアもめちゃくちゃ食いまくるじゃん。食べ盛りの域を超越している女四人を俺だけで扶養するのは無理があるんだよ、そもそも」

「そういえばなんで碧隊長のところには誰も行かないのだ?そうすれば少しはお前の肩の荷も下りるだろうに」

「いや、なんか碧先輩のいる女子区域は身の安全も考えて一つの家にもう何人もルームシェアするのが決まりだからいきなり五人も住まわせることはできなかったみたいだな」

「そういうことか、まあ今の家も居心地が悪いわけではないがな」

「そりゃどうも。ところでその大量の毛布はなんだ?俺に差し入れ?」

「・・・・・・」

俺の質問にシルは無言で手に持った毛布を握りしめた。

「わ、私の寝る場所がなくなった」

「は?」

「借りている一部屋なんだがもともとぎりぎりだったのだが今夜はレイカ様がお疲れのこともあって布団を二枚使って寝ていらっしゃるのだ。おかげで私は寝る場所がなくなったがレイカ様のああいうところも可愛らしい」

「いや、お前レイカにだけ甘過ぎだろ。はぁ、それで?寝る場所がなくなったから俺の部屋で寝ようと?でもあいにくもうすでにこの超一流ホテルはもう俺が寝ているんだが」

「ボロボロの犬小屋を超一流ホテルというあたり相当だな。いや、私はその隣で寝るから問題ない」

シルはそう言って俺のスイートルームの隣に寝転がって歯をカチカチいわせながら毛布に潜り込む。

いや、さすがに男の俺が女の子を寒い外に寝かせて自分だけ気持ちよく寝るわけにもいかないだろ。

俺は少し震えながら寝始めるシルに

「シ、シル。場所変わるぞ。ここもそこそこ寒いけどそこよりはマシだろ」

「だ、大丈夫だ。寒いくらいで音を上げるようでは霹靂の部隊の一員として顔が立たん」

「ほら、いいから変わるぞ」

「わ、わかった。だがお前も一緒に入れるだろ。その大きさからみて二人なら何とかは入れるだろう」

「ふたりで?」

「そうだが?」

シルは恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる。

「なにをそんなに動揺しているのかはわからんがお邪魔するぞ」

シルは俺の赤面を意に介することなくラブホ・・・・・・じゃなかったドッグハウスに入り込んでくる。

「お、お手柔らかにお願いします」

俺は新米夫婦の初夜の日の気分でシルに向かって頭を下げた。

するとシルは俺の考えていることを察したのか見る見るうちに赤くなって

「き、貴様!なにを破廉恥なことを考えているのだ。私は別にそんなつもりで言ったんじゃない!おい、泣くな」


正直寝るどころの話じゃない。俺の頭はガンガン冴えてます。

俺のすぐとなりでは真っ赤にした耳だけのぞかせて毛布に潜り込んでいるシル。

さっきからシャンプーのいい匂いがする。

そしてこのボロ小屋は人間二人用のスケールではないらしいがシルがスレンダーなこともあってまだ割と余裕がある。

あまりの居心地の良さについついこれが大型ブルドッグことジャイアントブサイク用の小屋であることを忘れていた。

なんでマーベルブサイクなんて名前がつけられているのかと言えば、まあ名前の通り顔面が冗談抜きでブサイクだからだ。もうブルドッグとしての原型をとどめていないレベルでだ。

こんな呪われた犬種を飼っていたこの家の宿主は相当のブス専だったのだろう。

「なあ、シル。さっきから俺の方に寄ってきてるけどなにか意味があるのか?」

俺が聞くとシルはビクッと体を硬直させると、ボソボソと

「なんか気まずいのだが。こんなところをレイカ様たちに見られたらどうしよう」

「お前、いまさらそれを言うな。俺もちょっと怖くなってきただろうが。寝室でも詰めれば何とかなるんじゃないのか?」

「いや、もうここに落ち着いてきたから今日はここで寝る」

「そうか」

・・・・・・

またしても二人の間に沈黙が訪れる。

・・・・・・

沈黙を打破したのはシルだった。

「なにか話題を作ってくれ」

無茶ぶりだったけど。

そうは言われてもな。

「えーっと、レイカとはどういう繋がりなんだ?」

即興にしてはなかなか良い話題だと思う。

シルは毛布の中から顔を出して考えるような顔で

「レイカ様とは任務では上司と部下の関係だが、私生活では友達、いや親友・・・・・・姉妹のような仲だ。私たちはいまでこそ国に仕える最強部隊として名を知られているが子供の頃レイカ様とセリシアはスラムにいたのだ。三人とも親に捨てられたから生きるために力を合わせて生活をしていたのだ。運のいいことに話達した地は皆強力な魔力を持っていたからスラムではかなり名が知られていた。時期にその噂が国の上層部の耳に入ることになり私たちは国お抱えの部隊になったのだ」

気軽に聞いたつもりだったのになにか重大なことを聞いてしまった。

まさかあのお嬢様がスラム出身だったなんてな。

「そういえばお前たちが探してた独裁領域っていう奴。そんな危なさそうな奴を見つけてどうするんだ?」

「実は私たちの国は今敵国に周囲を固められていて非常に危うい状態なんだ。まだ襲撃されてはいないもののいずれはそのときがくる。だからその前に牽制のためにも絶対的な力が必要なのだ」

「ちなみにそいつはどんな魔力を持っているんだ?」

「まだ定かではないが、自分の魔力を高密度に分散させた範囲内でなら全知全能の力が振るえるらしい」

「そんなおっかない奴お前たちで捕まえられるのか?気づかれたら一瞬で殺されちゃいそうだけど」

「そのために私たちが選出されたのだ。霹靂の部隊は皆遠距離攻撃や一瞬で移動ができるからな」

「なるほどねぇ」

言われてみれば、その独裁領域の魔力の保持者からしてみればレイカなんて殺されはしないが殺すことも困難だろう。

「でも、なおさらそんな強力な魔力を持ってるならもうとっくに殺されてると思うけどなぁ」

「どうしてだ?」

「日本では特異能力者と一般人が共存してるから一般人たちの安全とやっぱり、制御できない力は処分するべきっていう考えで危険な能力が発言したら即研究室に送還されて解剖されてから殺処分するっていうのが法律で決められてるんだよ」

「そうなのか・・・・・・それはもったいないことをするものだな」

「考えようによっちゃそうかもな」

「天満はどう考えているのだ?」

「俺はやっぱり殺すべきだと思うぞ。そいつ一人を殺すか、暴走されてたくさんの人が殺されるか、を選ぶんだったらやっぱり犠牲が少ない方を選んじゃうな」

「そういう考えもあるのかもな。でも私はやっぱり・・・・・・」

・・・・・・ん?

途中で途切れた言葉を不思議に思いつつもすぐとなりを見ると、シルはすーすーと寝息を立て始めていた。

「中途半端なところで終わらすなよ」

呟くと俺もつられるようにして眠りに就いた。


眠れる訳ないですよね、こんな状況で。いったい僕はなにを考えていたんでしょうか。

一応多感な高校生の端くれである俺がすぐ近くに美少女が眠っているのにそう易々と眠ってしまう方が不健全ってもんだ。

当然童貞の俺に襲うなんて選択肢は与えられてすらいないわけだが、まあ?ちょっとくらいなら。ほっぺをツンツンするくらいならいいっすよね?ね?

秒速五ミリのペースで左手の人差し指をシルのチークに近づけていく。

いざゆけ三宮天満!ここでやらない方が失礼だぞ!

「起きていますか?天満さん」

「ブフォッ」

「あ、失礼しました」

「待ってください、沙耶さん。違います誤解です。俺は断じてそう言う行為をしようとしたわけでもなく、なんというかその、うちの国の男は本能的に柔らかい物を見たら一度触れなければ気が済まない習性があってですね」

「それはアブナイ国ですね。いいんですよ、私なんかに気を使わなくたって。これでもあなたの四倍以上は生きているんですから。それじゃあ、出直して来ますね」

「やめて!そんな、もう、最近の男の子ってばホント若いんだから、みたいな顔は止めてください!なにか用ですか?」

「いやね、少しお話したいなって思っただけよ」

「聞きましょう」


次章に続く


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