刑務所に入れられることがありませんように
刑務所に入れられることがありませんように
「今日の放課後に危険区に行きます」
危険区域。
それは「穴」の付近を示す言葉で、モンスターの数も多ければ、その強さも違う。
ゆえに、鍛練やノルマを効率的にやろうとせる生徒にはもってこいの場所だ。
「先輩、いきなりどうしたんですか?」
「だって、よくよく考えてみるとユノちゃんが入ってきてから一回も実践をしていないのよね。それにあんたはちゃんと実績残さないと経費申請書をだしても受理されないわよ」
「そ、そんな!おい!お前たち!だらけるな!って、エレインはどこに行った!」
「エレインは飛んでいったです」
「あいつフザケやがって。今すぐに戻ってこないと、帰ったらお前の荷物一式玄関に放り出すぞ!」
「テンマったら、なにを言ってるんだいい?ボクはちょっとトイレに行こうとしただけじゃないか。ひ、ひどいぞ、全く」
ユノの歓迎会アンド親睦会の日から2日後の月曜日。
碧先輩も言ってたとおり今後の生計の為にも今日はなにが何でも討伐に行かなければならない。
土曜日はなぜかエレインとユノのテンションが最後になって低くなってしまったが、翌日には完全に回復した。正直ウザいレベルにまで。
というわけで、宣言通り放課後に危険区に出てきているのだが。
「先輩、あいつらはモンスターになにか恨みでもあるのでしょうか」
「さ、さあ」
正直言ってどん引きである。
危険区に入るなり俺たちは大型モンスターのオーブに出くわしたのだが、ユノが
「任せてください」
と、返事を待つことなくオーブに猛突進をして衝撃でオーブの体がふたつに千切れた。
エレインでさえも引いてた。
そのエレインも現在暴れまくっている。
あいつの能力、造形天理で小さなモンスターも大きなモンスター構わず融合させて俺の目の前では八本のモンスターで形成された柱がグニョグニョ動いている。
しかもところどころに目があったり口があったりで、僕もう意識を手放しそうです。
隣にいる碧先輩も口元に手を当てて必死にブツを吐のを我慢している。
ていうか碧先輩すでに落ちてるだろこれ。
あっという間に辺り一面のモンスターが消え去っていた。
ていうか本能的に逃げていったんだけど。
「お、お疲れさまです」
「なんで敬語なんだい?ボクたちの仲じゃないか」
「向こうにもたくさんいるので殺りに行きましょう」
エレインの平静さも怖いけど、ユノの人格が変わってませんか?大丈夫ですよね?ね?
「そ、そうだな。倒し特に越したことはないよ、あ、ありませんよね。行きましょうか」
「私たちにしてほしいことがあったらなんでも言ってくださいね」
「ふたりしてどうしてたです?」
「い、行きましょうか。あ、俺、僕が案内させていただきますね」
なんでこのふたりは、これが普通でしょ?みたいな顔してるんだよ。怖いよ!
「ちょっと、待つです!」
「ど、どうした」
ユノは日頃の雰囲気にそぐわない強い声音を出す。
「テンマ、アオイ!早く伏せて!」
すでに伏せているエレインも真剣な表情をしている。
「どうしたのよ、ふたりとも」
「霹靂の部隊です」
「へきれきのぶたい?なんだそれは」
「ボクたちの世界にある最強国家の部隊だよ。3人で形成されて、霹靂の部隊だけで一つの国を沈めたらしいんだ」
「でも、あれ人間じゃないのか?」
「たしかにそうね」
「霹靂の部隊は人間の部隊ですよ」
「人間でもこっちにくることがあるのね。早く報告しましょう」
「そうか。でも、気づかれたっぽいぞ?」
「「「え?」」」
3人の声がハモる。
いやだって俺いま、あの蒼髪の女の子とこの距離なのに目がガッツリ合ってるんだわ。
あっ、チクったな、チクったろ今。
「逃げるです」
はやい!ユノはやい!どう考えたって俺たちをおいていく気満々のスピードだろそれ。
でも、こういう時ってだいたい捕まるんだよね。
「止まりなさい」
「え?」
一瞬で景色が変わった。
遥か前方には俺たちがさっきまで隠れていたビルと、その先に走り続ける碧先輩たちの姿がある。
「がはっ!」
突然背中に強い衝撃が走る。
「ざ、座標操作」
「よく分かりましたね。私たちの言うとおりにしなければ今度はその頭の中にこの石を転移します」
「いや、それ死ぬじゃん」
「当たり前です」
金髪の縦ロールというファンタジー世界のテンプレともいえる女性は、キッと俺をにらみつけてくる。
あれ?もしかしてこの角度からならパンツが丸見えなのに気がついたのか?いまのうちに目に焼き付けておくとしよう。
「レイカ様こいつを殺すと情報が損なわれる可能性があります」
「そうですね。わかりました。頭に打ち込むのはやめます。腕にします」
「賢明です。レイカ様。この汚物は私が早急に殺してしまいましょう。わざわざレイカ様の手を煩わせるわけにはまいりません」
古の忍者みたいな身なりをしたの女の子が赤色のクナイを召還して俺に向けてくる。
「まちなさい、シル。あなたが男嫌いなのは知っていますが、私的な勘定で人を殺すのは良いことではありませんよ」」
「も、申し訳ありません、レイカ様」
「あ、あのレイカ隊長」
さっき俺たちの事をチクリやがった蒼髪の少女がおずおずと言った感じで手をあげる。
「どうしたのですか?セリシア」
「えと、その、その人たぶんレイカ隊長の、その、し、し、下着を見てます」
「「「「「!!」」」」」
それを聞いた、言った三人は顔を赤く染め上げ俺を血走った目で見下ろす。
「・・・・・・てへ?」
「き、貴様ー!」
ひときわ顔を真っ赤にした縦ロールの手から忽然と小石が消える。おそらく座標を操作したのだろう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ん?」
なにも起きないけど。失敗?
「なぜ、お前は生きているのだ?」
「さ、さぁ?」
「お、おちついてください!シル!」
目を血走らせ両手の指の間いっぱいにクナイを召還させた忍者をチクリ魔が必死に押さえている。
「と、とりあえず撤退だ!一度基地に戻る!」
俺は霹靂の部隊の基地とやらに連れて行かれることになった。
「さっさと知っていることを吐け!」
「うるせーな!知らないって言ってるだろ!てか懐中電灯をこっちに向けんな、まぶしいだろ!」
俺は基地に戻るとか言うからてっきり異世界に連れて行ってもらえるのかと思っていたのだが、連れてこられたのは刑務所。そして今は小部屋に入れられてキッツーイ拷問を受けている。
俺は怒っている。
連れてこられたのは刑務所だし、ご飯はカツ丼でもなくドックフード、飲み物は青汁。
やってられるか!
さっきから何回も目の前に腰掛けている縦ロールに小石やら鉄釘やらを打ち込まれてるはずなのに全く効かない。
というわけで俺はさっきから敬語からタメ口に切り替えている。
TAKE1
「ていうか、お前どう考えてもおかしいだろ!ここ刑務所だぞ!それになんだこのドッグフードの山盛りと青汁は!なめてんのか!お前が食ってるそのカツ丼は俺が食うべき者なんだよ!」
「破廉恥な人間以下の貴様には犬の飯とこの苦い青汁で十分だ。昔は私もおばあさまにお仕置きで青汁を飲まされたものだ」
「そ、そうか。案外うちのやり方と似通ったものがあるな」
「お前も。この青汁は健康にいいらしいのだがそれ以前に精神衛生上悪いし、食べ物はおいしく食べなければならな・・・・・・って、そんなことより早く答えろ!我らの国の千里眼能力者がここには世界さえも飲み込んでしまうかもしれぬ程の強力な能力を持った者がいるらしいのだ!その者を我らの国へお呼びして国王を守っていただかなくてはならないのだ!」
「それは何回も聞いたよ!俺はそんなのしらねーよ!名前くらい分かんねーのかよ」
「たしか、絶対領域とかと呼ばれているらしい」
「中二病がつけそうな名前だな!呼ばれてるヤツがかわいそうで仕方ないわ!」
TAKE2
「あ、あなたいい加減にしてもらえるかしら。私たちに与えられた時間は有限なのよ?教えてくれたその暁には私たちが食事を用意してあげるわ。もちろん、解放だってしてあげるわよ」
「なんでお前は知ってる前提で話を進めたがるのかな!マジで知らないんだって!だいたいそんなヤツならとっくに処分されてると思うぞ」
「え?あなたたちの国では強い力を持った人は殺されちゃうの?」
「そうだよ。上の奴らは自分たちの保身を第一に考えていらっしゃるからな。まったっくたくましいことだよ」
「そうなのね。私の国では力がすべてだからいくら身分の低い者でも力があれば優遇されるわよ」
「平和なんだな」
TAKE3
「お願いします!教えてください!このとおりです!」
「分かったよ」
「本当ですか!」
「うちの国ではマンガとかアニメが盛んなんだ。いわゆる嗜好とか娯楽とかな」
「そ、それはどこに行ったら手にはいるのかしら。ぜひ連れて行ってくれるかしら」
「それより、その絶対領域の王っていうヤツの事はいいのか?まあ、知らないんだけど」
「はっ!」
「お前、忘れてたろ」
「忘れてない」
だんだんこいつの性格が分かってきた気がするな。
「まあ、そいつに会いたいんだったら俺らの仲間になるのが一番はやいんじゃないのか?」
「どういうことだ?」
「俺たちがいるのは東京という日本の一部だ。そんなに強力なヤツなら間違いなく東京にいるはずだから俺らの学校の適当な部隊に入った方が情報の収集が楽だぞ。それに部隊に入れば一日三食おやつ込みが約束されるぞ」
「な!お、おやつというのはいわゆる金平糖とかドーナッツとかのことか」
「もっとたくさんの種類のお菓子を好きなだけ食える。入る部隊によるけどな」
最後の方はあえて小声でで言い添えておく。
育毛剤とかにもよく書かれてる、個人差があります、みたいなやつだな。一応自分の不利なことでも伝えておかないといけないからな。隠してたら契約を解除されてしまう。家庭科の授業で習った。
「な、なるほど」
「どうする?もしうちの高校に入るんだったら手伝いしてやるぞ」
「入る」
俺は解放される事になった。
刑務所の外にでると、出所した人の気分が分かる。もしかしたら作家が編集部とかに缶詰から解放されたときの気持ちに似てるのかもしれないな。
日光ってすばらしい。俺は最強だーー!って気分になるのも分かるかもしれない。
「レイカ様!ほんとうにいいのですか!この汚物の言うことを真に受けてはなりません!」
ものすごい剣幕で抗議するシル。遠目に見ている俺ですらただならぬ物を感じる。
「お、落ち着いてくださいシルさん。レイカ隊長のいうことは聞かないと」
忍者以外はうちの高校に入ることに賛成らしいけど、どうしよっか。
俺絶対碧先輩とかに怒られるよな。結局助けもこなかったけど俺見捨てられたの?
春桐さんに会いたいな。
「それじゃあ、行くぞ。なにがあっても攻撃するなよ?お前たちが攻撃しない限りこっちは攻撃したらいけないことになってるから」
「わかった。聞いたなみんな!」
「それじゃ、行きますか」
最強の部隊って言われてるらしい5人はそれはそれは嬉しそうな顔をしながら後ろについて来る。
とくにリーダーが。
多聞天高校最高幹部が所有しているこの建物の最上階。
碧たちはびくびくしながら赤い絨毯のうえを歩いている。
霹靂の部隊に見つかり逃げている最中天満が一瞬で敵に捕まったのに気がついた碧は全力で天満を助け出そうとしたが、言っても殺されるだけだという判断からエレインとユノがそれを必死に止め、無理矢理多聞天高校に逃げ帰ってきた。
碧たちは助けを求め生徒会長である春桐春那のもとに走った。
通達を受けた春那はすぐに臨時会議を設け、全学校の有力部隊に緊急収集をかけた。
「あいさつは抜きにして早急に会議を進めようか」
部屋に通されると、暗い部屋に円を描くようにして並べられた机の中央に立たされる。
机は並んでいるが席に座っているのは春桐春那だけで、あとはモニターに顔だけ映し出されている。
「やはり三宮天満は処分するべきだったな」
「いまからでも遅くはない。全部隊に探させてヤツを処分する。その霹靂の部隊とやらも一緒にな」
「落ち着いてください。早合点は止めましょう。彼は魔力の制御率が極めて高い、それに霹靂の部隊というのはかなり強力な部隊らしい。ならそれをどうにか丸め込んで味方につけれれば最高ではありませんか?未開の地の情報も手に入ります。すべてを私に一任くださればどうにかして見せますよ」
「なるほどな。ならどうにかしてみたまえ。キミが言うなら間違いないのだろう。みなもそれでいいかね?」
「いいだろう。だが制限時間は24時間だ。それ以上は待たねえ」
「それだけあれば十分だよ持国天高校生徒会長」
「よし、ならばこれで会議を終了とする。24時間後に再度会議を行なう」
会議はあっと言う間に終わり、机の上のスクリーンには真っ黒になっている。
「もう、会議は終わったですか。早いですね」
「春那はなにも話してなかったみたいだけど?」
「前回万全を尽くすのでご心配なくという大見得を切ってしまった手前あまり発言力はありませんので」
「そ、そのごめんね?」
「気にしないでください。それより、金雀児部隊も収集が掛かっていますので」
ピピピピピピッ
「失礼しますね」
春那は突然掛かってきた電話にでると驚いた顔をし、その後二言三言話したあと通話を終了した。
そして、穏やかな、安心したような顔で碧たちを振り返り、
「三宮さんが見つかったようです。その、霹靂の部隊を連れて」
「「「は?」」」
学校に帰る途中に出てきたモンスターたちは俺が手を貸すまでもなく一瞬で縦ロールたちが片づけてくれた。
あっさりと学校までたどり着いた俺を出迎えたのは金髪の美青年と行程一面に整列している無数の部隊。
一瞬縦ロールたちが身構えたが、結局大事になることなく自体は収集した。
ちなみになんでこんなに人が集まってたのかは結局碧先輩にも教えてもらえなかった。もらったのはお腹への重たい拳だけだ。
ま、そんなわけで霹靂の部隊、縦ロールことレイカ、忍者ことシル、チクリ魔こと桐乃は正式に多聞天高校へと編入した。
ちなみに入った部隊は金雀児部隊だった。