いつか女の子たちとデートできますように
いつか女の子たちとデートできますように
「うまいです!なんですかこれは!はじめて食べました!」
ガツガツとその小さな口いっぱいにカレーライスを頬張るユノ。
俺はいま多聞天高校の5つある食堂のひとつ、黄昏食堂の四人席にユノと向かい合う形で座っている。
碧先輩とエレインはユノのことを報告しに恵先生のところに行っている。
果たして彼女たちは無事に帰ってくることができるだろうか。
それにこの少女、いま食べてるカレーを含めるとこれで8杯目だ。
空腹なのは分かるけど、さすがに大丈夫なのか?
12歳の少女の胃袋ってこんなにでかいんだ。
すでに8杯目のカレーを完食したユノは、はふーと満足そうにしている。
「ごちそうさまでした。ほんとうにおいしかったです」
「ユノちゃんの世界ではどんなもの食べてるの?」
「だいたい木の実とか鹿とかイノシシとかです。でも料理はしないです。木の実もお肉もぜんぶ焼くだけです」
「それはかなり、その・・・・・・ワイルドだね」
「おいしくないこともないですけど、さすがに飽きました」
「飽きたんだ」
「たっだいまー、あれ!ボクのゴハンがないぞ!どういうことだい!」
「入隊の手続きはだいたい済ませてきたわよ。まだ細かいことも残ってるけど。・・・・・・スゴい食べっぷりね」
恵先生のところから無事帰ってきた碧先輩はテーブルに並べられた空の皿をみて、苦笑する。
テーブルに丸めて置かれているあの長い伝票をだれがレジまで持って行くんだろうね。
「それにしても、突然のことなのに恵先生よく許してくれたわね」
お腹が空きました、そういってその場でぶっ倒れたユノを俺たちはモンスターと幾度となく戦いながら無事学校に戻ってくることができた。
ただ、亜人がこの学校で生活するためにはどこかしらの部隊に入隊しなければならない。
まあそれに関してはユノもご飯が食べられるならどこでもいいです、と言ってくれたから俺たちの部隊に入れることには何の問題はなかった。
ただその手続きにかなりの時間と手間がかかる。
恵先生に事情を説明したり、身分証作ってもらってたりと、とにかくやることが多い。
きっと、今回も面倒を増やしやがってとか何とか言って恵先生にしばかれるんだろうな。
ただそんな憂鬱な気分も目の前で年相応のあどけない顔をして笑う新しい仲間を見ると、少し晴れたような気がした。
かくして、ユノは正式に金雀児部隊の一員となった。
ちなみに、俺の家に居候するらしい。
ピピピピピピッ
ユノが正式に部隊への加入が認められてから二日後の土曜日。
昨日、黄昏亭で軽めの昼食を取っていたとき碧先輩とエレインが
「明日は、ユノちゃんの歓迎会と親睦会ということで、町に行くわよ!」
そんなことを言い出した。
それからというもの、女の子たちと一緒に遊びに行くのは初めてのことなのでずっとそわそわしていた。
集合時間は10時にステュクスゲートの出口ということになっている。
ステュクスゲートというのは、俺たちが生活している東京と外をつなぐ通路のことだ。
他にも東西南北にゲートがある。
ゲートまでの距離は徒歩で小一時間ほどで着くけど、もしもに備えて今日は朝6時に目覚ましをセットしておいた。
男たるもの、女を待たせてはいけない。
逆に1時間くらい早く行っておいて、「ごめんね、待った?」と聞かれれば、「いや、俺もちょうど今来たところ」って言ってあげるくらいのことはしないといけない。
本当に彼女がいたらめんどくさいと思う。
マンガとかでみると、そんな大変そうには見えないけど実際は一時間とか超長いし、行く場所も予算と相談して調べておかないといけない。
なにより金がかかるのだ。
ただでさえ、俺はエレインの食費に加えてブラックホールとつながっている胃袋をもつユノの食費も負担している。
もちろん、養うためにそれなりの手当はでるけど、この二人は手当の全額を食費に回しても追いつかない。
俺の財布のみならず、通帳まで食らいつくす勢いだ。
「まだ、5時じゃないですか。てんま起きるのは早すぎるです。わたしはもう少し寝させてほしいです」
「テンマ、うるさーい。人がまだ寝てるでしょ」
「お前たちはまだ寝てていいよ」
俺が使っているアラームは父さんが改造していることもあってかなりの音が出る。
そんな爆音の目覚ましを前にしたら普通の人は眠気なんてものは消し飛ぶはずなんだけどな。
このふたりの図太さにはすこし不安すら覚えるわ。
まあ、確かに6時に起きても特にやることがない。
「朝飯でも作っとくか。こいつら連れて店で飯食べると財布に入れる物がなくなっちゃうしな」
手馴れた動作で冷蔵庫から卵、牛乳やベーコンを取り出して調理していく。
ベーコンを焼いていると、もそもそと布団から出てきて
「いい匂いがするです。朝ごはんはまだですか?お腹がすきました」
目をこすりながら台所に入ってくる。
「ユノはあの爆音で起きなかったのに、飯のにおいで起きるとかどうなってんだよ。あー、分かったよ、すぐに作ってるからそんな睨むんじゃねーよ」
そういって俺は幼気な視線を向けてくるユノの分を皿に盛りつけてテーブルに並べてやる。
「ほー、なんか葉っぱが多い気がします」
「だって野菜で腹を満たしてもらったほうが安上がりなんだよ。パンは多めに切っといてやったからそれで我慢しろ」
と、こんな感じでユノはうちに居候するようになってからエレイン同様ヒモライフを満喫している。
とは言っても、はじめのうちは家の家事を手伝ってくれてはいたのだ。
ただ、気持ちは大変ありがたいのだが、ユノが部屋の掃除をするとまるでドロボウが盗みに入ったあとさながらに荒らされるし、洗濯を任せてみたら洗剤を入れずに洗ったり、逆に一本丸ごと入れて洗濯機を爆発させたり、料理をさせれば大量の肉に火を入れただけの男飯を作って見せたり。
結論、まったく役に立ちませんでしたこの子。
「む?あ!ボクのご飯も早く出してくれテンマ!ユノに食べ尽くされる!」
ガバッと起きあがって俺に飯の提供を要求してくるエレイン。
ご存じの通りこの子もまったく役に立ちません。
「はいはい、分かったから。でも食ったらすぐに準備しろよ。そろそろ出といた方がいいから」
「ふぁふぁみまふぃた」
「ふぉーふぁい」
「食べながら返事するな」
そんなわけでユノちゃん歓迎親睦会が始まった。
「遅い!」
「いってー」
「なんで約束の時間から30分も遅れたのよ!」
「し、しかたないじゃないですか。このバカどもが準備するのが遅いうえに、途中何回もお腹が減ったもう歩けないですとか、ボク忘れ物したからそこで待っててくれよすぐに戻るからさとか、言って結局20分くらい待たされたりしたんですから」
「私はいっかい迷子になったです。なんで、私から目を離したですか。もしなにかあったらどうするですか」
「俺が悪いのか?手を握っててもいつの間にかいなくなってたユノが悪いんじゃないのか」
「人に責任をなすりつけるのはよくないことです。私は迷子にされても一生懸命探したのに、てんまはどうして探してくれなかったです?」
「探したわ!街中しらみ潰しに探させていただきましたけど!」
「努力しても成功しないことはざらにあることです。でも、その努力をやめてしまってはいけないですよ。わたしは応援するですからてんまもがんばってください」
この子は本気でこれを言っている。
そうじゃないと、こんな一点の曇りもない笑顔はできない。そう、落ち着くんだ三宮天満。この子は天然100%で悪気もなければ、悪意もない。
見るのだ、この笑顔を。どうだ?許す気になってきただろう?
耳元で、ボクのことをバカって言ったな!ってパンチしてくるヤツは晩飯を抜いてやろう。
「そうだな。悪かったよ。ユノはなんにも悪くない」
小さな犬耳が生えた頭を優しく撫でてやる。
「やっぱり、てんまはわたしのこと子供扱いしてるとおもうのです」
ユノは頬を赤らめながら、ぷいっとそっぽを向く。
「ロリコンくんはいつまでユノちゃんの頭を撫でてる気かしら」
ギロッと鋭い眼光と凍てついた声音を放ってくる碧先輩。
「ロリコンじゃないですよ!」
俺はあわてて頭から手を引く。
「ていうかボクそろそろ街に行きたいんだけど」
「わかったって」
「でも、外出許可をとれてよかったわね」
さすがに、いくら何でも部隊に入隊したとはいえモンスターが軽々障壁から出てきていいわけがない。
出るためにはいくつかの手続きを踏まなければならないし、常に位置情報を送信するビーコンを体に打ち込まれるなどして、もしもに備える。
そんなに厳重に取り締まっているのに歓迎会や親睦会なんかによく許可がおりたものだ。
「じゃ、行きますか」
「ごはんを食べにですか?」
「アホか、遊びに行くんだよ。飯は我慢しろ」
「へー、これがエイガカンですか」
「はじめて見たよ。でっかいテレビだね」
「券は買ってあるからポップコーン買ってくるね」
「まって。私が買ってくるから天満は2人を見張ってて」
碧先輩はそう言って後ろにいる、ニット帽を深くかぶってうまく変装しているユノとユノの着ている服に潜り込んで身を隠しているエレインを指さす。
「いや、やっぱり俺が買ってきますよ。先輩にパシリをさせるわけにはいきませんし」
「そういう気遣いをしてくれるなら、あの2人のことを見てくれる方がよっぽど助かるわ」
やだよ。そんな子たち知らないよ。何回迷子になったユノを探し回ったと思ってるの?
もうやだよ。映画見て早く帰りたい気分だよ。
「わ、分かりました。で、でもすぐに帰ってきてくださいね。頼みますよ本当に」
「分かってるってば」
ひらひらと手を振って碧先輩はポップコーンを買いに行ってしまった。
「エイガ楽しみです。今日はどんなの見るですか?」
「ボクもそれ気になる。どんなのみるんだい」
「あー、これから見るのはファンタジー世界の話だぞ。結構有名になってるからもしろいと思う」
「なるほどです。ファンタジーって言うのは私たちの世界のことを言うのですよね」
「そうそう。本当の異世界の話じゃなくて、あくまでフィクションの話だけどね」
「それは楽しみだね。そうだ!おもしろかったらお土産買っていかないかい?ボクほしいやつがあるんだけど」
そういって指さしたのは今回見るものとは遠くかけ離れた恋愛物の映画ででてくるキャラクターたちのシール集だ。
「今から見るのは、これじゃなくてこっち!しかもシールとかなにに使うんだよ」
「ボク、シールは貼るんじゃなくて1枚も貼らずに飾っておく主義なんだよね」
「よくわかった、お前にシールは必要ない。だいたい、たった八枚のシールがなんで1500円もするんだよ!高すぎるだろ」
「おまたせ。ポップコーン買ってきたよ。あれ?エレインちゃんどうしたの?なんで天満をにらんでるの?」
「テンマがボクにシール買ってくれない!」
「そんなことより、映画始まるから中に入るぞ」
ごまかすように早足でシアターへ向かった。
「うっ、うっ、最後のシャロがハジメに殺されるところが泣けたよ!」
「ひっく、ひっく、なんで獣人はいつも出番がすくないんですか」
エレインとユノは映画館から出てきてからずっと号泣している。
ていうか、見た映画ってテンプレすぎるファンタジー物だったはずなんだが。
あと、公衆の面前で大泣きしないでください。さっきからいろんな人が見てるんです。
「なんで、お前たちはあの映画で泣けるんだよ」
「なんであそこで泣けないの?大好きな相手を殺したんだよ?」
「なんで、なんで獣人はいつも出てきても大した役じゃないんですか。かわいがられてるるけどいっつも損な役回りばっかりです」
いや、そんなことを俺に泣きつかれても困るんだが。原作者に言ってくれ。
「た、たしかに悲しいエンディングではあったな」
「いやいや、合わせなくて良いわよ。泣ける要素ないから」
碧先輩はドライなことを言ってくる。
「ひっく、ひっく」
「ユノ、なんでそんな泣くんだよ」
「お腹減ったからです」
「そっちかよ!獣人の出番が少ないからって泣くのもアレだけどさ」
「ていうか、ユノちゃんはポップコーン三人前食べたばっかりよね」
「ボクもお腹減ってきたよ。もう夕方だよ」
「わかったよ。駅前にファミレスがあるからそこ行くぞ」
というわけで、しょうがなくファミレスにはいってしまった。
現在、ふたりはものすごい勢いでステーキにがっつき、さらにおかわりの注文を済ませている。
「碧先輩。俺もうのこりの残金が6000円くらいしかないんですけど、先輩いくらもってます?」
「な、なにをいってるの天満?もうとっくに1万はいってるわよ。一人だけで」
「そろそろ止めましょうか。あっ、おいエレイン!注文すんな!よせ!そんな高いもの頼むんじゃない!あー、もう無理だ。俺帰ります。さようなら」
「待ちなさい、天満。あなたは帰るんじゃなくて、コンビニに行ってお金おろしてきなさい。いい?逃げるんじゃないわよ?」
「わかりました。もし、もし優等生な俺がド忘れして家に帰ってしまって二度と戻ってこなくても・・・・・・」
「ニゲタラコロす」
「いってきます」
俺はそう言って店を出た。
天満が店を出るのを確認した碧は一気に脱力する。
「三宮天満の様子はどうですか?金雀児さん」
声をかけてきたのは明るい茶髪の清純そうな女性だ。
「誰ですか?」
「だれだいキミは?」
いままで食に没頭していた二人も突然話しかけてきた少女を怪訝そうに見つめる。
「この人は春桐春那、うちの高校の生徒会長よ」
「はじめまして、金雀児部隊の皆様」
ふー、と碧は一息おいて重々しい表情で切り出す。
「実は同じ部隊になったふたりに天満のことで話しておかなければならないことがあるの」
「てんまのことでですか?」
「なんだい?」
「単刀直入に言います。三宮さんの魔力のことです。これは機密事項なので他言は控えてもらいたいのですが、実は5つの高等学校では生徒の魔力の危険度を定めています。そして三宮さんの魔力は通称・絶対領域。その魔法は、自身の魔力を高密度に散開させ、その範囲内で絶対的な力を発揮するというものです。おそらくまだ本人にその自覚はありませんが」
春那は笑顔を崩すことなく淡々と言う。
「そのことは本人には伝えていませんので本人は知りません。ただせめて同じ部隊のあなた方には伝えておこうかと思いまして」
「それは本当なのかい?アオイ」
「ええ。本当よ。あいつは間違いなく周りから危険視されてるし、この部隊が私とあいつだけだったのも、ももともといた隊員たちが天満のことを恐れてやめてしまったからなの」
「なるほどね。まあうすうす気づいてはいたんだよ。テンマの魔力は真っ黒だったからね。ユノくんが初めてあったときあんなに警戒してテンマの後ろを取ったのだってテンマの魔力に反応したからなんだろ?」
エレインはうつむいているユノに問いかける。
「はい、でも、まさかそんな能力が存在したなんておどろきです」
「はい。解析結果ではもし三宮さんの魔力の性質は未だに謎ですがあきらかに他の魔力性質とは別種の物だということは間違いありません」
「本当はしかるべきところに閉じこめるか、処分するべきなのだけど、天満の魔力制御が異常に高いこともあって常に厳戒態勢を取ることによってそれを免除されてたの」
「そういうわけです。ですから金雀児さんにはすでに指令が出ていますが、おふたりも、もし三宮天満が暴走した場合、する兆しが見えた場合はすぐに処分するか、天満さんに能力を使用されないよう、あなたがたで対処をよろしくお願いします。下手に能力が使用されると、じきに制御ができなくなり暴走するという可能性もありますので」」
変わらぬほほえみを浮かべた顔の言葉にエレインとユノは反応を示さない。
春那はふたりの返事を待つことなく、深々と敬礼をするとそのまま店を出ていった。
俺は今コンビニで週刊誌を立ち読みしている。今読んでる話はすでに3週している。
筋肉ムキムキの男たちが最高のグルメを目指す物語。1話から読んでたし、アニメもちゃんと見た。
二人の大食漢のせいでコンビニに金を下ろしに来ている。
いっそのことあいつらもモンスター倒して、それ食って生きてくれないかな。
ぶっちゃけ、もうあそこには戻りたくない。
前に通帳まで食らいつくす勢いってたとえたけど、あれはリアルだ。
さっき、ATMの画面を見て凍り付いた。
今月の光熱費・食費はおろか俺が小さい頃から貯金してきたお小遣いにも魔の手が忍びつつある。
ああ、帰りたくないな。碧先輩が払ってくれないかな。
よし、一応2万円下ろしてきたけど足りなかったらそのときは碧先輩にお支払い願おう。
「こんにちわ、三宮くん」
そのお声に俺の体がビクーンッとハネる。
俺はカクカクしながら後ろを振り返る。
声をかけてきた人物は肩まである紺色のきれいな髪に、ぱっちりした目、形のいい鼻に薄い唇。
春桐華那さんは口元に手を当てながらくすくす笑っている。
「春桐さん。ど、どうしてここに」
「私はお仕事の最中に三宮くんを見かけたから」
小首を傾げながら言う。
「あ、そうなんだ」
春桐さんは休日までお仕事をするなんて、なんてできたお方なんだ。
家に居候している妖精と獣人なんて家でぐーたらしているのに。
まあでもあいつらのおかげで俺は春桐さんと会うことができた。帰りにうまい棒買ってあげるとしよう。
「そういえば三宮くんのところに獣人の子がはいったんだってね。この前みたいに手続きの時は私を頼ってくれていいのに」
実はエレインを部隊に入れる手続きのとき、さっぱり分からなくて困り果てた俺を助けてくれたのが春桐さんだ。
そのときの春桐さんが優しすぎて、かわいすぎてヤバかった。
今回のユノのための手続きも春桐さんに手伝ってもらおうと思ったのだが、碧先輩とエレインに邪魔されたうえに、結局あの長い伝票は俺が持って行った。そのときの食堂のおばちゃんはものすごい上機嫌だったのをよく覚えている。
「そう思ったんだけど、先輩がやっちゃってさ」
「ふーん、そうなんだ。その獣人の子はどんな子なの?」
なぜか不機嫌になって聞いてくる。そんな顔もかわいいけど。
それにしても、難しい質問だな。
ユノは、家事できないし、お腹減ったからってうちの非常食まですべて食べ尽くしたし、すぐに迷子になるし、完全に素で暴論を並べるし。
あれ?良いところがなにも思いつかないぞ?
「えーと、いい子だよ?家事は手伝ってくれるし、ごはんもおいしそうに食べてくれるし。ほ、本当だよ?」
「へー、そんなにいい子なんだ。三宮くんのところには女の子ばかりでよかったね」
「怒ってる?」
「怒ってない」
「怒ってるよね?」
「怒ってないって言ってるでしょ!」
「はい」
言う度に表情が険しくなってきたため俺が引き下がった。
ピピピピピピッ
「あっ、私そろそろ仕事に戻るね、それじゃあね」
春桐さんはスマホ片手に手をひらひら振りながらコンビニの外に出ていく。
あっという間だったな。
「おっ、俺もそろそろ戻らないと」
あんまり遅いと今この瞬間にもあいつらが注文をしてるかもしれない。
人混みの中を早歩きでファミレスに向かう。
ファミレスとコンビニとの距離は歩いて2、3分程で着いた。
やけに重たい扉を開くとちょうど出てきた人とぶつかりそうになある。
「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそすみません」
丁寧にお辞儀するとその女性は足早に去っていった。
やけに行儀のいい人だったな。それに今の人うちの学校の制服だった気がする。
どうでもいいけど。
「お待たせしました。あれ、どうかしました?ふたりも俺が出て行ってからなにも注文してないな」
「なにがよ。それよりちゃんとお金下ろしてきたの?」
「あ、はい。2万円ほど」
「まあ、それくらいあったら足りるか」
なんだろう。碧先輩はまだしも、エレインとユノの表情がいやに固いような。
「ほんとうに、ふたりともどうしたんだ?」
「な、なにもないよ。ボク食べたら眠くなってきたんだよ」
「わたしもです」
「食い過ぎなんだよ!それじゃあもう帰るか」
「たしかに、いい時間にもなってきたわね」
「それじゃあ、会計してきますね」
レジまで行き、店員さんに伝票を渡す。
うわー、この人もなんかうれしそうな顔してるな。煩悩が見え見えなんだよな。
「お会計2万6000円になります~」
おいおい、俺の手持ち全部じゃねーか!
それに、この店員いま語尾がやけに上向いてたぞ。
電車賃はなんとかICカードで済ませることができ、東京に入ることができた。
それにしても良いことを聞いた。
エレインやユノみたいな亜人を扶養するのは高校生の俺たちには厳しいということで月々学校から食費や雑費をもらうわけだが、その中に収まりきらない場合は個人で経費申請書を事務所に提出すれば使った金が戻ってくるらしい。
ということを碧先輩に聞いた。
さすがの碧先輩もあの悲惨な情景を見て同情してくれたらしい。
まあ、それでも赤字なんだけどな。
「あ、それじゃあ私はここで」
唐突に碧先輩が切り出してくる。
「あれ、でも女子区はそっちじゃないですよ?」
「私はこれから一回学校に行かなきゃいけないのよ」
「俺は行かなくていいんですか?」
「個人的な用件よ。あんたは早く帰ってそのふたりをちゃんと布団で寝かしてあげなさい」
「わかりました。それじゃあ、さようなら」
「また明日ね」
碧先輩が見えなくなると、俺は背中で小さな寝息をたてているユノを背負いなおして帰路に就いた。