いつか獣耳っ子に出会えますように
いつか獣耳っ子に出会えますように
「今日の訓練は前々から言ってたとおり実践をやる。今日は部隊で実践に挑んでもらう。基本的には事前に打ち合わせておいた通りだ。なにか問題があった場合はすぐに連絡するように。あー、あと亜人種と遭遇した場合は、襲ってこない限りは危害を加えるなよ。いいな?」
「「「ハッ!!」」」
東京都をまるまる覆っている障壁の中には8つの高校がある。
8つの高校はモンスターベントを囲むように東西南北、そして北北東、南南東、北北西、南南西に配置させられている。
モンスター討伐という名目で高い魔力を持つ生徒を集めているはずなのだが、その実俺たちで魔力の実験をしているのもまた事実だ。
そしてここは8つの高校のうちのひとつ、北を守る我らが多聞天高校。
実をいうと、学校名はもっとカタカナが入っていて欲しかった。頭良さそうだから。
多聞天高校の広いグラウンドに300人くらいの生徒が整列している。
生徒達にみどりのジャージにスピーカーを持って実践の説明をするのは、体育科教諭の工藤恵先生。
恵先生は、学校に絶対ひとりはいる鬼教官だ。
それも、ノーマル鬼教官が裸足で逃げ出すくらいだ。
異能力者としての力はもちろん怒るとめちゃ怖い、ほんとうに引くぐらい。
怖いのは怖いが先生のその容姿から隠れファンもいる・・・・・・らしい。
身長は170前後できれいな顔立ちに豊満な胸、長い黒髪をポニーテールにしてまとめている。
でも怖い。どんなに柄の悪い生徒にも気後れすることなく怒鳴りつけ、言葉より拳で多くを語るある意味職人さんみたいなタイプ。
事実、いつもは校則無視で好き勝手やってる生徒達も彼女の前では、ワックスを洗い流し、実践服を着崩すことなく生徒手帳の見本そっくりに着こなしていた。
今の恵先生の話にだって、進撃の●人の心臓を捧げるポーズでの返事だ。うむうむ、感心感心。
エレインにもこいつらを見習ってほしいもんだ。
先生は人間だけでなく、亜人達にも厳しい。部隊に入ったからには人間と同じ扱いをするのは当然だ。風紀を乱す奴は誰だろうと許さん、というスタンスだ。
エレインは以前に恵先生にしごかれてからトラウマになったらしく、さっき恵先生が前に出てきた途端に顔色を変えて飛び去っていった。
「では、準備が出来次第出発しろ!」
再びハッ!!と返事をするといっせいに生徒達は自分の部隊と合流して、校門へと向かっていく。
「天満。体調は大丈夫?気分悪くない?なにかあったらすぐに言ってよ?」
まわりが出発する流れになるなか、俺の体をペタペタ触りながら聞いてくるのは碧先輩だ。
俺と碧先輩は同じ部隊だ。
もちろん自分からの望んでなったわけがない。
俺は半年前この高校に入学した。
当然入学する前からこの高校がどんなものなのかくらい知っている。
部隊を結成することも含めて調べてきたつもりだった。
入学前は部隊なんか学校で仲良くなったやつと組めばいいんだろ?って思ってた。
でも実際は、部隊への勧誘なんてのは入学前からもうとっくに始まってて、入学時にはもうみんな自分の入る部隊は決まってた。
あぶれた俺はどこでもいいからと、部隊を探しまわり巡り巡って碧先輩のとこにたどり着いたわけだ。
そりゃ初めて会ったときは、美人だし、おっぱい大きいし、性格が明るくて笑顔がかわいいし、それに一人だけだったからワンチャンあるんじゃね?なんて思ってましたよ。
でもね?
そんなすばらしいメリットが全部ぶっ飛ぶくらいにこの人はネジが外れてたの。
プラマイゼロじゃなくて明らかにマイナス。
とりわけ、校則破りについては生活指導の先生よりさらに厳しかった。
校則をすこしでも破ったりなんかしたらボディーブローに回し蹴りに、腹パンetcetc・・・・・・
もし俺にマゾ気質があったならどれほど楽しめただろうかって、何回も思ったりもした。
しかも、碧先輩がリーダーを勤める我らが金雀児部隊には同学年どころか、先輩もいない始末。
まあ、大方先輩の回し蹴りに耐えられなくなってやめちゃったかそんなとこだろうとは思うけど。
先輩の回し蹴りの威力は異常。絶対全国ねらえるって。俺は太鼓判を押すね。
「大丈夫ですよ。すこぶる快調です」
俺は落ち着いてください、と薄く笑いながら、逆に
「碧先輩の方はどうですか?なにか問題があったら言ってくださいね」
と聞き返す。
「え?あ、うん。大丈夫だよ」
普段の印象とはかけ離れたそわそわしている自分を見られたことが恥ずかしいのか少し頬を火照らせながら胸に手を当てて深呼吸をする。
こういうところは普通に可愛いんだけどな。朝もなにげに起こしてくれるし。
ん?そういえば、校則破りをこよなく嫌う碧先輩だけど、ほぼ毎朝女子立ち入り禁止区域に校則違反してまで進入して俺を起こしに来てくれるのはなんでなんだろうねぇ。さっぱりわからん。まあ、大した理由はないんだろうけど。
「みんなもう出発するみたいですよ。俺たちも行きましょう」
「そうね。でも天満はまだ一回も実践したことないんだよね。それじゃあ、今から私が戦い方を教えて上げる」
「え、いや、もう授業で習ってますんで大丈夫でよ」
ノーサンキュー、いらないですよとばかりに、手のひらを前に向けて言うが・・・・・・
ヤバい!ヤバいよ!先輩の顔からみるみる笑顔だけが流れ落ちてる!
コホン、一つ咳払いをした俺は
「是非とも聞かせてください」
深々と頭を下げた。
「よろしい。それじゃあまずは武器の具現化の仕方だね。知ってると思うけど、アダム細胞は人それぞれによって性質が違う。だから当然魔力を具現化して武器の形にするのにも細胞の性質によって適した形が変わってくる。たとえば私の武器でいうと」
碧先輩はそこで言葉を区切って、手のひらを前に出す。
するとさっそくその手の周りの空間がゆがみ始める。魔力が集中し始めたからだ。
キィィィィィン
甲高い音とともになにもなかったはずの空間から、突如として白を基調とした大型な弓が出現する。
碧先輩の身長とは不釣り合いなほどに大きなその弓をクルクル回しながら、
「私の細胞は弓型の武器に特化してるの。剣とかにもできるけど、やっぱり性質に沿った形のこれが一番使いやすいし、火力も出るね」
「なるほど、よく分かりました。ではさっそく実践・・・・・・」
「次は魔法についてね」
俺の提案をかき消すように先輩はなおも続けようとする。
くそっ!これじゃあ、いつまでたっても実践に出れないだろ!なんか他のみんなは戦い始めてるみたいだしさ。
再び爆音とともに砂煙が上がる。
あー、早く実践に出たい!
「魔法も基本的には具現化と同じで・・・・・・」
「おまえ達!早く出発しろ!他の連中はもうとっくに戦い始めてるぞ!」
突然後ろから聞こえた男性教諭の図太い声に先輩はビクッとする。
「行きましょうか、先輩」
努めて残念そうに言う俺に先輩はしぶしぶといった感じで、わかった、といって歩き出す。
ファインプレーだったぞ、名もなき教師!
内心ガッツポーズを決める俺と邪魔されたと男性教師をにらみつけている碧先輩、以上金雀児部隊2名は戦場へと向かった。
「「「キュイーーーン」」」
俺たちは危険区に入るなりさっそくモンスターと遭遇した。
出現したのはゴブリンという小鬼のようなモンスターだ。
ゴブリンは基本的に群れて行動する。
いま俺たち二人のまえにいるゴブリンの数はざっと10匹そこら。ゴブリンの集団にしてはかなり少ないらしい。
「私が援護するから天満は突っ込んで!」
「分かりました」
そう言って俺もゴブリンと戦うための武器を召還する。
群にむかって走りながら右手に魔力を集積。
キィィィィィィン
俺の右手に柄だけでなく刀身まで真っ黒に染まった日本刀が握られる。
力強く握った刀を使ってゴブリン達を順調に屠っていく。
「天満!頭下げて!」
部隊長である碧先輩の指示にとっさに頭を下げると脳天すれすれのところを4本の赤い矢が通過する。
矢はすこし距離のあるところにいるゴブリン一体に突き刺さり、一気に燃え上がる。
異能力者である俺たちが召還する武器は魔力を流すことによって属性をつけることができる。
碧先輩は火の魔力も持ってるから、放つ矢に付与することができる。
ただ・・・・・・。
「あっぶな!いま頭ぎりぎりだったぞ!」
さすがに今のは近すぎるだろ。
髪が燃えたらそうするんだ!
「手が滑ったのよ。ていうか天満の頭が高すぎるのよ!ほら、あとは天満がやってよね」
手が滑ったってあんた。
胸にわだかまりを残しつつも残りのゴブリン3体ほどを一掃する。
「きゅーーーー」
最後の1体を仕留ることに成功した俺は日本刀をぶんっと一回振る。
「ぷぷぷ、テンマったらなに格好つけてるんだい」
頭上からクスクス笑ってくるのは、恵先生から敵前逃亡したエレインだ。
「かっ、格好なんてつけてない。あとお前はいままでどこにいたんだよ」
「あいつから逃げて戻ってきたらいつの間にかみんないなくなってたから探してたんだよ。テンマっていっつもボクを置いてけぼりにするよね」
「お前がいつの間にか消えてるからだろ。ちっちゃいから忘れそうになるんだよ」
「ちっちゃい!!て、テンマがちっちゃくなったら、養ってくれるっていったんじゃん!あ、髪の毛が焦げてるよ」
「うぉっ、さっきから漂うこの異臭の原因はこれが原因か!碧先輩!どうしてくれるんですか!」
「ま、まあまあ。すぐに生えてくるって。それにしても臭い。ちゃんと髪洗ってるの?」
「洗ってるわ!髪が焦げたらこんな臭いがするんですよ!」
「ぷぷぷ、てっぺんの髪の毛だけチリチリになってる」
初めての実践で敵は難なく倒せたが、まさかの味方からの攻撃によって精神力を大きく削られた俺は頭にフードをかぶった状態で実践を続けていた。
ほんとうに信じられない。
碧先輩って訓練の時も誤射が多かったけど、今回はマジでダメージが大きい。
「先輩って弓の扱い下手なんですか?」
「だからごめんって言ってるじゃない。本当に手が滑ったんだって」
「先輩の攻撃って威力が強いから当たったら助かる気がしないんですけど」
「ていうか、碧の攻撃が当たったらそのまま消し炭になるよね」
「その話はもういいでしょ!それより、さっきからなんか周りが静かすぎて怖いんだけど」
「たしかに、静かだね。なにかヤバいヤツが来てるんじゃない?」
やめてくれよ!いま一気にフラグがたったぞ!
「ちょっとまって。あ、あそこにいるのなに?」
先輩はそう言ってビルの屋上の方を指さす。
やっぱりきたよ!フラグたたせたのは間違いなくエレインだからな。
屋上にしゃがんでじっと動かずに俺たちを見下ろしてくる黒い影。
「仲間じゃ、ないですよね」
どう考えたって仲間じゃないのは分かってはいるけど、わずかな希望を口にする。
さすがにさっき初戦を終えたばかりなのに、モンスターの強化種である亜人なんかがもし襲ってきたりなんかしたら勝てる気がしない。
キィィィィィィン
碧先輩が弓を召還する。
「天満も準備して。いつ襲ってきてもおかしくないから」
「はい」
俺も武器を装備するとさらに空気が張りつめられる。
「なんで、武器をむけるですか?」
「「え?」」
突然真後ろから、子供の声を聞いて思わず振り返る。
そこには黒の短い髪に獣耳をピョコピョコと動かし、髪と同じ色のしっぽが生えた少女がいた。
碧先輩やエレインでさえも唖然としている。
なにか喋ろうとしているのか碧先輩は口がパクパクしている。
「質問に答えてほしいです」
キッと目を細めながら俺を見ながら言う少女。
「えっと、き、君は獣人かな?」
「そうですが。それより、なんで武器を出したのか教えてほしいです。知り合いの話ではこっちの世界の住人はわたしが襲わないかぎり攻撃はしないと聞いていたのですが。あ、あとわたしはユノです。名前はきみじゃありません」
「えっと、それは、その・・・碧先輩?」
男としてここで女の子に丸投げするのはいかがなことかとは思うが、そもそも臨戦態勢を指示したのは碧先輩だし、こういうとき隊長が隊員を守るのは当然の義務だ。
それに俺はいま、人生に一度は見ておきたいベスト5に入ること間違いなしの獣耳美少女を脳にインプットするのに忙しいんだ。
「臨戦態勢に入ったのは、その、念のためであって、本当に戦う気はなかったのよ?」
碧先輩はにこっと笑って弁明する。
「そうだったですか。まあいいです。あなた達がわたしになにもしないならわたしもなにもしません。さっき、いきなり人間に魔法を打たれてびっくりしたです」
ユノちゃんが本当になにもしていないのにも関わらず攻撃されたというならそれはこっちに非がある。
ここはいったん話をそらす方向でいこう。
「ユノちゃんはさっきであのビルの屋上にいたはずなのにどうやって一瞬でここまで来たのかな?」
「子供扱いしないでほしいです。これでもわたしはもう12歳です」
んー、難しいところだね。
俺的には12歳って十分子供だと思うんだけどね。
帰ったら、さっそくグーグル先生に相談に乗ってもらおっと。
ふすー、と威張るようにしていう獣っ子に俺は笑顔を絶やさず
「そっか、ユノちゃんは12歳なんだね。ごめんね」
「分かればいいです」
しっぽをふりふりしながらいうユノちゃんに心暖められふにゃ~っとなる俺を冷たい目で見つめてくる二人。
はっ!危ない危ない。
危うく獣人の少女を好む異常性癖の持ち主として一生後ろ指を指されるところだった。
「ごほん!えっと、それでユノちゃんはどうやって一瞬で移動したのかな?」
「魔法です。私の魔法です」
「「「魔法?」」」
「はい。わたしの魔法は肉体の超強化とリミット解除です」
「それで、あんなに速く動けるものなの?」
「はい。それにわたしは獣人なのでもっと速く動くこともできるです」
たしかに獣人は運動神経がもともと高いっていう話は聞いたことがる。
でも魔法を行使しているとはいえ、さっきスピードは瞬間移動だと言われたら信じてしまうほどだった。
「ところで、相談があるですが」
「なんだい?相談ならボクに任せてくれよ」
エレインがずずいっと前に出てきて胸をぽすっとたたく。
「お前に相談してうまくいったことないだろ!」
「えっと、相談っていうのは?私でよければ相談にのるわよ?」
「実は、この世界にきてからなにも食べてません。お腹が空きました。それに寝床もありません。仲間もいません」
・・・・・・あれ?
なんかこの展開に覚えがあるな。
なんなの?異世界から来た奴らはなんでそんなに食べ物に飢えてるの?
「あ、おい!]