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幕間四 『善人ではないけれど』

 ローラ・クリームは善人ではない。

 例えば、目の前でたまたまお姫様が男二人組に昏倒させられて。何やら指に嵌めていた高級そうな指輪を奪われて。廃墟に放置されていたのだとしても、割って入ってヒーローよろしく助け出すようなことはしないだろう。

 仮にその指輪を取り返せたとして、彼女に返すかさえ怪しいものだ。これ幸いと自らの物にしてしまうかもしれない。

 彼女のジョブは盗賊。正にそれを生業とする者であり。件の男二人組と何ら変わりの無い人種だ。

 けれど、そんな例え話を前にして、彼女はお姫様を見捨てることが出来ずにいた。


「どうしようかな……」


 どうも身なりからして、苦しそうに寝息を立てるこの子はウチの国の皇女様らしい。ペンダントには学のないローラでも知っている王家の紋章が入っていた。恐らく奪われた指輪にも入っていたのだろう。それに、財布には聖金貨が何枚も。ただの貴族の放蕩娘だと思うには条件が揃いすぎている。


「なんで私が皇女様の身なんて案じてるんだか」


 勿論、命を懸けて戦うようなことまではしていない。背後で人が倒れる音を聞いて、咄嗟に身を隠したまま賊が消えるのを待っていただけである。

 不幸中の幸いに、彼らの狙いは指輪だけだったのか、あるいは急ぎの事情があったのか、陵辱されることもなくお姫様は廃屋の一室で寝かされていた。

 しかし、このまま放置しておけば何が起こるかは分からない。次にここを無法者が訪れれば、有り金を奪われるだけならまだしも、奪われるのはそれだけでは済まないかもしれないのだ。


「こんなの私らしくないって分かってるんだけど」


 誰かを助けられるほどに自分が助かっている訳ではない。彼女は自身の境遇を客観的にそう評していた。親も兄弟もいない。一人で生きていくのは当たり前のことで。そのために、盗賊などという職にも手を出してしまった。他者から盗み生きる者。決して、彼女は善人ではない。

 けれど、それでも。

 隠されていた愛国心か、それとも単なる同性としての同情か。

 せめて彼女が目を覚ますまでは、何とか守ってやりたいと。そんなことを考えながら、ローラは皇女様の横に座っていた。

 お代として聖金貨を二枚ほど抜いておく。これくらいは貰いたい。それでも、城に帰るくらいの金は十分にあるのだから良いだろう。

 起きたら顔を見られる前に消えよう。帰り道を護衛してやるには力不足だし、そこまでの責任も持てなかった。

 目を覚ますまでだ。ただ、それまでの間。お姫様の寝顔を一人占めできる。

 ――ここが私の特等席だ。


「三人以上が来たら、即逃げるけどね」


 先程からの独り言が何故か楽しげな声音になっていることに、最後まで彼女は自分で気付かなかった。


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