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第九話 『再会その三?』

 それから俺は、ロリっ子……ミルという名前の幼女と一緒に街を歩いていた。街と言ってもダスキリアではなく、王都だ。ここに入れてやることが俺の出来る最大の貢献であると告げると、ミルはそれだけでも有り難いと言った。

 だから王都に着いた時点で契約は完了なのだが、アフターサービスとして今日一日くらいは付き合ってやることにした。というよりも、ボロ服の幼女一人が王都を歩いていたら追い出されかねない。せめて保護者は必要だ。


「タイムトラベル、ね」


 詳しい話は聞いてない。俺は契約したからにはきっちりこなす。夕方まで付き合ってやって、その後に聞くということにした。だから本当か嘘かもまだよく分からない。

 しかし、適当に口に出す嘘としては余りにもぶっ飛んでいるように思えた。

 何故ならこの世界には……SF小説はないのだ。そんな世界においてただの一般人がタイムトラベルという概念を思い付くことのほうが異常だ。まだ真実であるという方がマシに思える。


「もし本当なら、面白ぇ」


 俺は異世界転生物語の次にタイムトラベルの物語が好きなのだ。

 それに……俺にとって、この世界は手遅れだった。

 今更もう一度やり直そうなんて思ってるわけではないが、例えば過去に戻って魔王を俺が倒してみるとか、そういう展開はアリな気がする。

 ……いや、もっと。もっと。

 もし時間を巻き戻せるなら。

 もっと最近。具体的には、きの……。


「っ!?それだけはありえねぇ!!」


「うわ!何いきなり叫んでんだよ!キモいな!精神異常者か?」


「あ、すみません……」


 ヤバい。謝り癖がついてきてる。このままじゃ俺のキャラがヤバい。


「しかし、久しぶりだなこっちは」


「あー、そういやお前そっか。初めて会ったのは王都の近くの街だったか。なんでこっちにいたんだ?どう見たってお前はダスキリアの住人なのに」


 ミルはガリガリに痩せこけているわけではないが、身なりが整っているわけではない。明らかに掃き溜めよりのビジュアルである。

 しかしコイツとの初対面はすなわちフィーコとの初対面の日だ。あの時俺がいたのは王都から出てすぐの街だったはず。


「私が汚いって言いたいのか?」


「そういうわけじゃないが、少なくとも王都の住人には見えないね」


 そんなざっくりとした俺の言葉を聞くと、少しだけテンションを落としたミルは。


「……そういうオーラみてぇなもんは、生まれで決まる訳じゃないってことか」


 と小さい声でつぶやいた。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だ。私は元々王都の生まれだよ。ただ産まれただけ、だが」


「親は?」


「……遠慮しないな、お前。まぁいい……王都が無菌室ってのはわかるか?」


 そこからミルが語った話は、それなりに重い話だった。

 犯罪者を放り出す王都。それはいい。いい悪いはともかくとして、殺すよりマシだとは思える。

 犯罪者たちはダスキリアという無法地帯の新天地を手に入れて、喜ぶ奴すらいる始末だ。

 しかし……子供は違う。

 親が犯罪を犯したというだけで、王都から掃き溜めに放り出されることになる、子供は違うのだ。

 いや、掃き溜めに放り出されるのならまだいい。それは一応、親としての責任を果たそうとした結果だ。

 最悪は――王都に放り出されること。つまり、置いていかれること。


「私の両親は私を捨てたんだ」


「それで?」


「……今の話の感想がそれか?」


「親に捨てられたなんてカワイソー。俺なんてついこないだまで親から金貰って働かずに生きてたけどな!……とか言ってほしいのか?」


「……前者もさることながら、後者の発言は本当に最低で聞きたくなかったよ」


 だって、事実だし。


「俺に同情してほしけりゃ、もっと面白い話を出してこい。親に捨てられたくらいゲームじゃありきたりだ。むしろ親に捨てられてないキャラは二流まである」


「意味が分かんねぇ上に、同情が嫌いな私を逆に苛立たせる素敵な発言を有り難う。死ね」


「やれやれ。まぁその話はもういい。で、次は皇女様との馴れ初めの話か?」


「……そうだな。それも話そうか。王都で一人になった私を助けてくれたのが、たまたまお忍びで街に出ていた皇女様だ。皇女様は私に仮の寝床といくらかのお金をくださった。信じられるか?見ず知らずのガキにだぞ?ただの乞食かもしれないのにだ。私はそのことに心から感謝して、お礼をしようと思った」


 はぁ、話に聞く限り物凄い良い人らしいですね、皇女様は。偽皇女の金髪とは大違いだ。


「ふぅん、それで皇女様を探してんのか?」


「あぁ、いや一応、恩返しはしたんだけど……あんなことで全て返せるとは到底思ってないし……違うか。ただ単に私は……」


 もじもじとし始めるミル。見た目だけ見ると可愛い幼女に見える。


「つーかお忍びで皇女様って街をぶらついてるもんなのか?」


「聞けよ!」


 だって、さっきの姿をこれ以上見るのは嫌だったんだもん。頼むから普通の幼女みたいな態度は取らないで欲しい。騙されそうになる。


「だってこの世界の皇女って出歩かないんじゃねぇの?」


「いや、それはそうなんだが理由があって……皇女様の顔は王都でも割れてないし、普通の格好をしておけばバレないもんなんだよ。そう、あんな感じで……」


 ミルは白いスカートを穿いた女の子を指差す。

 ダスキリアにアレがいたら高級すぎて浮くだろうが、王都じゃアレが普通か。なるほどねえ。

 と、女の子を見ていたら。


「……おい?」


 ミルが指を元に戻さない。失礼じゃね?と思ったのもつかの間。


「あ、あぁ……皇女様!」


 ミルは一目散にその女性の元に走り、腰のあたりに抱きついた。


 ……最近、このパターン多すぎ。















「なっ!」


 抱きつかれた女は、分かりやすく驚きを顕にする。

 というか、俺も驚いてる。いくら王都とはいえ、皇女様が一人で出歩くのか?本物?偽物じゃなくて?いや、偽物が二人も三人も出回るわけないけどさ。


「会えて嬉しいですぅ、皇女様ぁ……」


 グズグズに崩れた表情でミルは女を見上げる。あぁ麗しき姉妹愛。という感じだ。ドラマか映画に出来るだろうか。ていうか、お前そっちの『モード』なのかよ。


「ちょ、どうしてここに……と、とにかくその呼び方はやめて頂ける?し、静かに……目立ちたくないのですわ」


 が、姉側は慌てて周囲を見渡す。もし皇女様が本物であれば、それこそお忍びのはずだ。誰にもバレたくはないだろう。つーか、隠すならまずその怪しげな言葉遣いからじゃねぇのか?


「うええぇぇぇん!!」


「ああっ!?泣かないでくださいまし!」


 皇女の思惑は露知らず、大泣きして注目を集めるミル。そして慌てふためく皇女。しかも何人か足を止める奴らも現れ始めた。何なら司法局に通報されるかもしれない。

 ……うん、これは絶対に面倒くさくなる。

 俺はここまでミルを連れてきただけで契約は履行したし、もうここでおさらばしよう。

 報酬の話は後で聞けばいい。ミルの普段の家は聞いたからな。訪ねればいいだけだ。

 以前は金につられて皇女だなんだの問題にかかわって大変なことになった。もう俺は平凡に生きていくと決めたのだ。

 本物かどうか知らんが、じゃあな、ですわ言葉の皇女様。

 俺は背を向けて歩き出し……。


「……お待ち下さる?」


 がしっ。


「おい、離……」


「お礼は弾みますわ」


「隠れるのに良い場所がある。行きましょうか」


 俺は成長していなかった!














「ここは……」


「そう、思い出深いだろ?」


 俺たちがやってきたのは、王都にしては珍しい廃屋。

 ミルが引ったくりで逃げていた時に、逃がしてあげた場所だ。


「王都にこんな場所があったのですね……」


「探してみりゃあるもんだよ」


「探しているのですか?何のために?」


 皇女様が不審がった目で質問してくる。俺を王都に巣食う犯罪者か何かだと思ったのかもしれない。失礼な話だ。実際に俺が犯罪者であるということを差し引いても、な。


「アンタに関係あるか?」


 俺はそのクエスチョンを突っぱねた。やはり、お礼を貰えるとしても人に優しい態度をとることは得意じゃない。自覚がある分『偽王女様』と会話してた時よりはマシだろう。


「この国に起こることで、私に関係のないことなどありません」


 皇女様は、見た目に反して『っぽい』ことを言う。


「そうかい。でも俺にはこの国に起こることの全てが関係ねぇんだよ」


「左様ですか。では私も貴方のことだけは関係ありません」


 コイツ……!

 やっぱり、全然『っぽく』ない。


「王城では皇女様に皮肉の言い方を教える家庭教師でもいるのか?」


「いえ、残念ながら。貴方を雇おうか検討しているところです」


「お断りだ。人に物を教えるのは苦手でね」


「成る程お上手な返しです。勉強になります」


「……チッ」


 やり込められてしまった。

 とんだペテン師だ。舌が回ることにかけてはフィーコ以上かもしれない。

 全く以って皇女様というタチではない。

 改めてその容貌を見る。

 ショートカットの黒髪はフィーコと似ているが、若干この娘の方がサッパリと短い。

 体型はローラと同じくらいなものの、胸は奴に比べてない。

 目鼻立ちは整っていて、決して不細工ではない。むしろ美少女と言っていい。

 だが……まるで王族っぽくない。

 日本で言えば陸上部の中学生みたいな感じがする。

 キツめの目つきに対してですわ口調が恐ろしく似合っていない。しかし、皮肉的な言い回しは似合っている。なんというか、チグハグな部品を集めて出来た奇跡的なスクラップみたいな奴だ。

 これが本物の皇女様か。疑わしくなってしまう。

 そもそも……。


「俺……お前とどこかで会わなかったか?」


「えぇと?いえ、記憶にはありませんが」


 フレアは上品に首を傾げる。仕草は貴族か。もう滅茶苦茶じゃねぇか。

 というか、会ったことなかったかな。何だろう、この顔を見たことがあるような気がするのだが、思い出せない。まぁいいか、思い出せないなら大した関係じゃないんだろう。


 しかし……なんというか、逆だよな。

 ローラは金髪巨乳お嬢様の見た目のくせに実はただの天涯孤独盗賊で。

 フレアは黒髪活発系少女の見た目のくせに実は本物の皇女様だっていうんなら。

 この二人が入れ替わっていただなんて、面白すぎる。


「あの……いいですか?」


 おずおずとミルが手を挙げた。そうだ、コイツもいるんだった。

 っつーか、皇女様の前だと猫被ってんのがムカつくな。俺の前だと猫というよりも虎というよりも、もはや化物みたいだったのに。


「そうでした。お話があるのですよね?」


 応えるはフレア。俺に対する態度とは打って変わって柔らかい。おい、どいつもこいつもなんで俺にだけキツく当たるんだ?俺が一体何をした?


「話?」


「え、ですからそれで私を探していたのでは?」


「あ、それは特にないんですけど」


 …………。


「「えぇっ!?」」


 ハモった。さっきまでの言い争いが嘘のように仲良しハーモニーしてしまった。


「ちょ、待てよ。じゃあ何のために俺にここまで連れてこさせた?」


「え?皇女様にもう一度会うためですけど」


 ってことは用事があるんじゃ……待てよ?まさか。


「会うことだけが目的だったのか?」


「はい。私の恩人なので」


「おいおいおい」


 とても腹立たしい。

 何がムカつくって、そんな青春劇場に俺を巻き込んだことがムカつく。


「私は……私は貴女に恩人と呼ばれる資格なんてありません。逆、ならともかく」


 斜め下に目線を逸らしてフレアは呟く。

 しかし逆、ときたか。


「そんなことありません。フレア様がいなかったら私は野垂れ死んでました」


「先程も申し上げた通り、この国の問題は私の問題。貴女があのような状況に追い込まれたこと自体が私の責任なのです」


「違うもん!私は……私は……!」


「違いません。私は当然のことをしたまでです。国民は私のものです。自分のものを、自分で守るのは当然でしょう?」


 フレアは堂々と言い放つ。

 この女……本気だ。

 本気でそこまで傲慢に生きるつもりか。

 国に生きる全てを背負うつもりか。


「いいねぇ、お前……嫌いじゃないぜ」


「それは重畳ですわ」


「俺とは相容れないけどな」


 俺は個人主義者だし。勝手に背負われてたまるか。


「えぇ。だから私は貴方を憐れまないし、慰めないし、助けませんわ。貴方も私のものであることには変わりませんけど」


「はっ、言ってろ」


 それをこの女は理解している。

 俺たちは相容れないが……それは思想の問題だ。行動でぶつからなければ何とかやっていける。


「あの、私を放置しないでほしいんですけど!」


「あら、すみません」


 ミルが横から声をあげる。まるで俺と皇女様の仲の良さに嫉妬するように。

 ……全く仲良くはないと思うが。


「皇女様のお考えは分かりました。でも、私は……感謝しているんです。これだけは言わせてください。私の感謝を止める権利は皇女様にもありませんよね?」


「その通りです」


「では……ありがとうございました!」


 深々と頭を下げるミル。その角度は45度を超えていた。


「どういたしまして」


 フレアははじめからこの落とし所が見えていたように答える……いや、実際見えていたのだろう。フレアが嫌がったのは『恩人』という呼ばれ方だ。


「これで貸し借りは……」


「なしで行きましょう。だって私と貴女は……お友達、でしょう?私にとって国民を守るのは義務であり権利ですが、お友達を助けるのは……そうですね、強いて言えば趣味ですわ」


「はい!……う、うえぇぇぇえぇええん!!」


 ミルはもう一度泣き出した。


「まったく、泣き虫ですわね?」


 フレアはその背中を優しく叩く。その姿は皇女と国民というよりは、ただの姉妹のように見えた。

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