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第十一話 『最弱の敗残者』

「な、なんだァ……これは……」


「弱いだろ、それが僕だよ。普通の人間では、僕の弱さに耐えられないんだ」


「い、意味が分からねぇな……アンタ。どういうスキルだ、こいつ……は」


「言ったままだよ。僕と同じくらい弱くなるだけのスキル。大したことじゃない。僕の自己評価が下がれば下がるほど、このスキルはつよくなるってわけで……本当に、最低な能力だね。僕が昔のことを思い出したから、余計につよくなったんだろう」


「クソ……よく分かんねぇけど、俺が動けないってのだけは事実みたいだな。だけど、まだ負けたわけじゃねぇぞ。この屋敷には一人、俺の協力者がいるんだよ……おい!さっさと出てこいニノマエ!」


 オッサンに呼ばれた俺は、仕方なくドアを開けた。


「ったく何だよ、負けてんのかよ。だっせーな」


「う、るせー。さっきまで格好良くキメてたんだよオジサンもよぉ」


「俺だって格好良くキメてたはずなんだけどなぁ……」


 今も命からがら逃げている最中だ。死ぬほど走って、具体的には一度屋敷を駆け下りてから壁を登って上に逃げてきたところで、オッサンの死にそうな声が聞こえたから入ってきたところだ。


「メイドは、どうなっ、たんだよ?」


「……思い出させるな」


 しばらくは来ないと思うのだが、ヤツの行動は読めない。足もマジで速かったし。吸血鬼は伊達じゃないようだった。


「ニノマエ・ユージンか……珍しい名前だな」


「あぁ?」


 そうだ、そういやコイツもいるんだったな。カレオ・フルース。しかしなんか前と顔つきが違うな。

 珍しい名前って、そんな今更なことを……。


「お前は……そうなんだろうな。考えてみれば、あの手紙……まるでスパムメールじゃないか」


「……『スパムメール』?」


 何?

 聞き逃せないフレーズが今、聞こえたような。


「君の人生はどうなんだ?僕はダメだった。ダメだったよ。容姿が良くても、金持ちでも、幼馴染の女の子がいても、結局心が弱いままだった。おかしな話だ。僕をいじめてた奴らのことがあんなに嫌いだったのに、今度は何故か僕がそっち側に回ってしまっていた。自分でもびっくりだ。両親とも上手くやれず、ただちょっと小金を稼ぐことに成功したくらい。記憶がなかったんだから仕方ないとは言え、異世界転生して僕ほど失敗した奴も珍しいんじゃないか?」


「……お前、地球から」


 カレオの独白は衝撃的なものだった。

 コイツも転生者なのか。名前があまりにも洋風だから気がつなかったが、考えてみれば地球は地球でも日本からではないという可能性はあった。

 となると、どいつもこいつもその可能性はあるのか?

 しかしコイツはどうやら『思い出した』みたいだ。何故だ?忘れていたのか?それは他の転生者の共通ルールか?それともコイツだけか?分からないことだらけだ。


「お前、ちょっと話を……」


 口を開きかけた俺は。


「ご主人様ー!!」


「のわっ!?」


 後ろから抱きつかれて押し倒された。

 忘れていた。俺は既に分からないことだらけな状況だったんだった。


「ご主人様ご主人様ご主人様ー!!はぁ、はぁ、はぁ」


 荒い呼吸を隠そうともせず全体重を掛けてのしかかってくるシーズ。貞操の危機を感じる。


「離れろ!発情するな!」


「ふふ、発情と言うか……疲れ切って、動けなくなりました!」


「俺の上をどいてから寝てろ!クソが!」


「いえなんか、この部屋すごく体がダルくなるのですが……ご主人様は大丈夫ですか?」


「あぁ、それでオッサンもそんな無様に寝てんのか?チッ、軟弱者共が。鍛え方が足りねぇんだ、よっ!」


 駄メイドを振りほどいて立ち上がる。確かに多少ダルいが、微熱程度のものだ。問題ない。


「わっ!……流石ですご主人様!」


「逆にどんな鍛え方したらお前さんみたいになんのか、こっちが聞きてぇよ」


「……それは思い出させるな」


 発狂しそうになる。なんだ?俺の人生本当にろくな事ないな。


「そうか、シーズはお前に惚れたのか。当然だな。流石に主人公は違う」


 嫌な感慨に耽る俺に、カレオは淡々と言う。


「何を意味の分からんことを。気持ち悪ぃ。そんなことよりさっきお前」


「大正解です!初めて良いことを言いましたね元ご主人様!あ、もう血はいりません!ご主人様の血液でこれから生きていきますから!」


「話がややこしくなるから黙ってろメイド!」


 話がややこしくならなくても黙ってて欲しいけど。


「そのポジションも取られたというわけか……はは、もう益々どうでもよくなってくるな」


 変に達観したように言うんじゃない。クソ、なんか嫌な予感がするぞ。これ以上事態が悪化する前に話をさっさと聞くぞ。


「おい、お前は転生者なんだな?地球から来たのか?あの神様に連れて来られたのか?答えろ」


 さっきつらつらと自分語りをしてたんだ。別に今更隠すということもないだろう。

 そう思っていたのだが。


「そうだな、それは……僕に勝てたら教えよう」


「は?」


 とてもお約束臭い条件をつけられた。


「もう手遅れなのかもしれないけれど、僕はお前には負けたくないんだよ。それは嫌なんだ。だって、君もニートだったんだろう?」


「な、なんで分かったんだよ!!」


 まさか転生者はみんなニートという隠れた条件が……?


「目を見ればわかる。死んだ魚のような目をしているじゃないか」


「テメェ、死ぬほど失礼だな。お前の目を死んだ人間の目にしてやろうか」


 違った。最悪な予想方法だった。


「そう言うってことは、僕の目は……死んでいないのか。というか、そうか。お前はそのまま来たんだな」


「そのまま来た?」


「いや、それはいい。それで、君の周りにはどれくらい女の子がいるんだ?」


「……あぁ?」


 質問が意味不明なんだが……。


「それは私も気になります!私のご主人様の競争率が」


「お前は黙れと言っただろ」


「二人、いや今日から三人じゃねぇか。モテモテだな、坊主」


「なんで知って……って、俺を尾けてたんだったな。クソが……」


「二人!?二人いるんですか!?顔!顔は可愛いですか?できればブスでお願いしたいです!」


 ブスでお願いしたいってなんだよ。酷すぎる発言だ。


「嬢ちゃん、残念ながらな……」


「美少女なのですか!?では歳!歳では勝ちたいです!ババアであって欲しいんですけど!」


「お前ら、立ち上がることも出来ない癖に口だけ達者だな。殺されてぇのかマジで!」


 もうやめてくれ。本当に、誰ぞ俺を助けろ。

 洞窟に閉じ込められた時の千倍くらい困ってる。


「そうか。ハーレム主人公かよ。やっぱり負けられないな」


 クソぉ、このガキもマイペースだしよぉ。


「ハーレムだぁ?あんなイカレたヒロインばっかのハーレムがあるかよ」


 しかも、みんな別に俺のことが好きなわけではない。


「……負けられない。負けられないんだ僕は。お前だけには負けられない。お前みたいな幸せな奴に、負けてなるものか」


 ブツブツ言うな怖いよ!


「一つだけ言えることがあるぞ。お前のそれは逆恨みだ」


「余裕そうな態度を取るな。殺すぞニート野郎」


「あいにく余裕なもんでな、引きこもり君?」


「今は……違うんだよっ!!」


 カレオがやったことはシンプルだ。手をただ前に出しただけ。


「お、おお?」


 しかし、それだけで俺は膝を突いていた。

 なんだこれ?体の力が抜ける?


「やっぱりお前でも耐えられないだろ。これはスキルというよりギフトだからな。お前も何か持ってるのかもしれないけど……」


 ギフト?何だよそれ。聞いてねぇぞ。

 でも。だけど。いや。これは。もしかして。


「弱体化、だな?」


「よく気付くな。ああ、最初からドアの向こうで聞いていたのか」


「そんな余裕のある状況じゃなかったんだけどな。でもこれって……」


 これって。おいおいおい……。


「はははははは!良いなぁこれは!最高じゃねぇか!」


 俺は笑いだしてしまった。


「な、何だよ?狂ったのか?」


 膝立ちで大笑する俺を見て、流石に驚きを隠せなかったのかカレオは一歩後ろに下がる。

 そんなことには何の意味もないのに。


「『高重力ハイグラビティ』」


「なっ!?」


 ガクン、と。まるで数秒前と立場が入れ替わるように。

 カレオはその場で膝をつき、俺は立ち上がっていた。


「やっぱり、使える……」


 確認するように手を握る。力は入りすぎていなかった。


「どうして使える!?スキルなんて使える強さじゃなかったはずだ!」


「そう、スキルなんて使える強さじゃなかったはずなのにな」


 俺とカレオは同じセリフを違う意味で口にする。

 奴は、それほどに弱体化していてスキルなぞ使えるはずもないという意味合いで。

 俺は、あれほどに強力なスキルを人に向けて使えるはずもなかったという意味合いで。

 ……それが、使えるようになってしまっているという意味合いで。


「素晴らしいな。お前のそれは俺と相性ぴったりだ。お前がいてくれれば、俺はスキルを人に使える。どうだ、俺の仲間にならないか」


 結構、素で思ったことだった。

 せっかく手に入れたスキルを強すぎて使えないことに、俺はだいぶ苛立っていたのかもしれない。

 デリカシーが、そんなもの端から俺にあるはずもないことは百も承知だが、それにしても欠けていたということにも気が付かないくらいには、無意識に口にした言葉だったのだ。


「……ふざ、けんなよ」


「ん?何だ何だ。オーケーか?いよし、君は今日から我がパーティーの一員だ。仲良くやろうぜ」


「ふざけんなって言ったんだよ、この野郎!!」


 あらら、なんかキレてるよこの子。勧誘失敗は明らかだった。


「僕は今の今まで、ここでお前に負けたら死んでもいいと思ってたんだ。どうせ僕は最弱の敗残者だ。一度のみならず二度人生を棒に振ったどうしようもないヤツだ。こんな世界にはもう疲れたし、誰も僕を心配などしない。死んだって構わないと思ってた」


 カレオは言う。その言葉は少しだけ怖かった。俺だって一歩間違えたらコイツのようになっていたのかもしれないと考えたら。


「けど気が変わったよ。何が何でもお前は殺す。たとえ今は負けても……いや、違う。今は絶対に勝てないだろうけど、いつか絶対にお前は殺す。許さないぞ、ニノマエ・ユージン!僕をここまでバカにしたんだ、必ず後悔させてやる!」


 こんな風に……。


「いやお前台詞がマジで三下じゃん」


「うるさい!調子のんなバーカ!」


「三下っていうか、三歳になりつつあるな……」


 こんな風にバカになってたら最悪だったな。良かった。それなりに二度目の人生が上手くいってて。


「顔を洗って待ってろよ!」


 まだ言うか、雑魚台詞を。もういいじゃないか、終わりにしようぜ。


「おー分かりましたよ。あ、そうだ。言い忘れてたけどな…………お前、興奮して能力解いちゃってるからな」


「え?……あ、ちょ!」


 言うが早いか、カレオは手を前にして能力を再発動させようとするものの。


「残念。確保だ、ガキ」


 がちゃん。あ、この世界にもやっぱ手錠はあるんだな。


「あ……あぁっ!?」


 時既に遅かった。

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