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第十話 『強者の特権(チートコード)』

 洞窟から上がるのは楽勝だった。一角を崩して跳べばいい。オッサンを脇に抱えての跳躍なんてもうやりたくないけど。


 フルース家の屋敷を訪れるのも簡単だった。誰にも警戒されちゃいないし、尾行もパートナーに変わったからな。

 そして。

 ……俺は鬼神と化していた。


「シャッ!!」


「ぐっ!?」


 手刀で警備兵を一人沈める。楽勝だ。オールグリーン、なんら問題ない。

 そう、圧倒的なステに加えて身体能力を向上させるだけでも、十二分に一般人相手なら無双できる。

 訳の分からん半人半魔の怪物双子とかに出会わなきゃ魔法系スキルなんぞなくてもざっとこんなものよ。


「くたばれ!!」


「……っ!?」


 また一人。温いぜ、フルース家。


「どこだ……出て来いクソメイド!!」


 俺の目的は当然一つ。俺をハメたクソメイドへの復讐のみ。

 別にこんな雑魚共はどうでもいいのだが、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。

 後はまぁ、一応契約がある。この屋敷の警備兵は殲滅するという約束だ。それを対価に一応今回の件は見逃してもらえることになってる。今上の階でオッサンがカレオと対峙しているだろう。そこに邪魔が入らないようにしないとな。


 さて、だが俺の『気配感知』にもうほとんど武装した人間は見当たらない。大方昏倒させたのだろう。警備兵は後……一人だな。


「こっちか……?」


 手近なドアを開ければそこには探し求めていた人物がいた。


「な、何なんだアンタは……?」


 震えながら剣を構える警備兵のこと……ではない。


「ど、どうして……?」


 幽霊でも見たような顔をしている奥のクソメイドのことだ。


「グッ、やあああ!!」


 不審人物おれを発見した警備兵は、即座に叫びながら襲いかかってくる。

 しかし、あまり好かれてなかったようだな、フルース家の人間は。警備兵は俺を撃退しようとしているものの、裂帛の気合いとは言い難い。命を懸けてでも主君に仕えるのだという気迫は感じられないな。

 しかし……。


「やる気ないんだったら逃げておけよ。命ってのは懸けたフリで落とすのは余りにもバカバカしいぜ?」


「なっ……カハッ!?」


 慎重に、相手の勢いを使いながら背負い投げ。柔道の技術は相手の力を使うが、それは逆に言えばこっちの力を使わないということ。下手に力の入れ過ぎで殺してしまうことがなくて助かる。


「さぁてと」


 大の字で転がった警備兵を跨いで前へ。


「ひっ!」


 呻き声を漏らすメイド。あぁ、俺だって。


「さぁてと、どうやってブチ殺してやろうかなぁ……」


 俺だって今の俺の顔を鏡で見たら、同じように悲鳴を上げるかもしれないな。


「あ、あぁ……」


 シーズは怯えて後ずさる。その細い体はガタガタと震え、唇から漏れるのは呻きだけ。そうだよ、その顔が見たかった。だがまだ足りない。絶望を。狂わんばかりの絶望を。


「クク、面白くなるぜ……」


 低く。獣の唸りのような声で呟く。あぁ、俺はこの女を……。


「……って痛っ!」


 いつの間にか後ろからナイフを投げられていた。

 ていうか、腕に刺さっていた。


「ふっ……!」


 振り向けば、さっきの警備兵がこっちに向かって倒れたまま第二射を構えている。

 なるほど、一射目でこっちを向かせて、二射目で心臓か頭を狙ってんのか。やるじゃん。

 ……ただ誤算は、振り向いた俺にはそんなもん当たらないってことだけだが。


「っと」


「なっ!」


「えっ!」


 俺の行動に警備兵と後ろのシーズまでもが驚きの声を上げる。

 俺がやったのは単純。ただ、飛んできたナイフを右手で上にかち上げて軌道を変え、一回転して背面キャッチしただけ。さっき怪我した腕から血しぶきがちょっと飛んでしまったが、概ね格好良く決まったな。


「そんな……バカな……」


 警備兵が呟く。どうやら俺の煽りに奮起してちょっとやる気を出したようだが、やる気程度で倒せるほど俺は弱くない。


「ま、根性は評価してやる。10秒以内に逃げれば許してやるよ」


「ば、化け物……!」


 絞り出すように叫んで逃げていくまでにかかった時間はノータイムだった。5秒で逃げなかったらナイフを投げ返してやろうかと思ってたから懸命な判断だったな。


「はは、化け物、だってよぉ……」


「あ、あぁ……」


 振り返るとシーズは相変わらず呻き声を上げている。だから、まだ早いっての。


「化け物になるのはこれからなのになぁ?」


「あ、あぁ……」


 さて、もう邪魔は入らない。

 どんな拷問を試そうか。アイアンメイデンか?ファラリスの雄牛か?

 この世界にはそんなものありはしないが、ゼロから作るのだって俺は辞さない構えだぜ?

 クク、楽に死ねると思うなよ。


「あ、あぁ……」


 どれほどに引き攣り濁った叫び声を聞かせてくれるのか今から楽しみでならない。


「あ、あぁ……」


 過程はどれだけ考えても尽きないアイデアが湧いてくる。


「あ、あぁ……」


 だが結論は決まっている。最終的には、俺は。この女を。


「あ、あぁ……ご主人様!!」


 殺……え?


「貴方様こそ、貴方様こそ私の生涯お仕えすべきご主人様ですぅ!!」


「えぇ!?」


 何が……起きた!?











「つまり何だ?まずお前は吸血鬼で、カレオのガキと吸血の契約を結んでいたと。んで、さっき俺の血が偶々口に入って、それが最高に旨かったと?本来は契約している人間以外の血を飲むと拒絶反応を起こすはずなのに、それもなかったと?」


「はいぃ!じゅる……おっと失礼致しました。つい涎が。はしたなくて申し訳ありません」


「どうでもいいわ」


「おっと、下の口からも涎が……すみません」


「マジではしたねぇなお前!?」


 何だ!?コイツ一体何だ!?

 一瞬でもコイツにメイドの真髄を見ていた過去の俺をブチ殺したい。


「あぁ……愛しています。この溢れんばかりの愛を私はどう表現したらいいか分かりません」


「死んで表現しろ」


「殺して頂けるのですか!?あぁ、なんたる光栄!」


「何ぃ!?」


 そんな反応になるの!?


「愛する者の手により死を。最高の人生、いえ吸血鬼生となりました。さぁどうぞ!一思いに……いえ、むしろゆっくりとお願い致します。出来るだけ長く痛みを味あわせるような、そんな殺し方で!さぁ、さぁ!」


「死が罰にすらならない!?」


 え、なにそれ。おかしくないか?

 こっからは俺のターンじゃなかったのか?

 おかしいだろ。どうして俺が……追い込まれてるんだよ!


「申し訳ありませんが、死の瞬間、私が絶頂することだけはお許し下さい」


「何も許せねえよ!何を言ってんだ!」


 そんな恍惚とした表情で言うな、せめて申し訳なさそうにしろ。


「しかしご主人様は素晴らしいです。あんなに美味しい血を飲んだのは初めてで……恐らくですが、ご主人様の強さに私のような絶滅寸前の吸血鬼の血が共鳴し服従してしまったのでしょう。はっきりと子宮で感じました。この方の子供を産まねばならぬ……と」


「違うんだ……俺はそんな安っぽいエロゲーみたいな強者の特権チートが欲しかったわけじゃないんだ……」


 いや、コイツ以外からならまだ嬉しいんだけどさぁ……。


「ですが殺すというのなら仕方ありません!どうぞ!子供を作るか、私を殺すかの二択です!」


 途轍もない択一問題を突きつけられる。俺はもう負けを認めて叫ぶしかなかった。


「誰か助けてくれ!!」


 誰も助けない俺を、助けてくれる人なんて誰もいなかった。


「ご主人様ぁ!」


「うわぁぁぁぁ!!」


 俺は逃げ出した。

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