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幕間五 『ノーライフキング』

 吸血鬼は不死の王。そう呼ばれていた時期もある。

 確かにあらゆる人間から血液を吸い、それによって無限に生き永らえるのだとすれば、限りなく不死に近い存在と言える。人間を殺し過ぎて食料がなくなる可能性はあるが、個体数が少ない吸血鬼にとってそれは余程強引な搾取をしない限り問題ではない。自らの寿命を無駄に縮めるような行為に及ぶ馬鹿もいないから、ほとんど永遠の命を持つ怪物であった……かつては。

 全ては今は昔の話だ。

 現在における吸血鬼は、弱者の代表格とすら言える状況下にある。

 他者に寄生することでのみ生きていくことを許される生物、それが吸血鬼だ。

 何故こうなったのかと言えば、それは彼らが敗北したからに他ならない。

 吸血鬼はかつて人間との戦いに敗れ、絶滅した。

 絶滅というのは正確に絶え滅されたのであり、ただの一匹も真の吸血鬼は残らなかった。

 では現在の吸血鬼とは何か。それは劣化コピーの眷属である。

 死ぬ間際の真の吸血鬼に無理矢理作らせた眷属。それが、シーズを含む奴隷一族の吸血鬼だ。

 眷属の吸血鬼は、主人から得る血液しか受け付けない。他の人間から吸血すれば拒絶反応を起こしてしまうのだ。

 本来であれば、その主人とは勿論吸血鬼である。それが眷属ということだ。

 しかし、人間の傲慢は留まるところを知らなかった。恐るべきことに、インプリンティングを行うことが出来るという事実に気がついてしまったのだ。すなわち、眷属の吸血鬼は最初に飲んだ血液の持ち主と契約される。それは……人間でも構わない。この習性を利用し、とある貴族は主人に絶対服従する吸血鬼の奴隷を生み出すことに成功する。

 弱くて脆い吸血鬼……『不生王ノーライフキング』の誕生だった。


 シーズは、そんな奴隷吸血鬼の一人。カレオ・フルースに仕える奴隷だ。


「それで、首尾はどうなんだ?」


「はい、滞りなく。あの詐欺師はまず生きてはいないでしょう」


「ふぅん、ご苦労」


 まるで労うようには聞こえない口調で言う。実際、彼はただ頭に浮かんだ言葉を口に出しただけで労うつもりなどなかったし、むしろ暖かいとも言える言葉をかけてしまったことに後悔すら感じていた。

 しかしシーズはそれを何とも思わなかった。シーズが主人に声をかけたのは、もっと切実な理由からだ。


「ご主人様……」


「何だよ、奴隷」


 カレオはシーズを名前で呼んだことがない。筋金入りの差別主義者レイシストであり、吸血鬼に人並みの名が存在することすら許しがたいと考えているような男だったからだ。


「その……そろそろ血液を頂けませんと、存在が消滅しかねません」


「チッ、穢らわしい……」


 吐き捨てるように言ってからカレオはソファから立ち上がり、机の引き出しを開ける。そこには一本のナイフがあった。カレオは当然、吸血鬼なぞに肌を噛まれることを良しとしない。まだ自らを軽く斬って流した血を分け与えたほうがマシだった。


「っ……!ほら、飲め」


「はい。ありがとうございます」


 その血が注がれたのは、犬用のエサ入れ。しかも、シーズは床に転がされたそれに口を近付けて舐める。その飲み方以外、カレオは許さなかった。


「はっ、いつ見ても滑稽だね」


 カレオがそこまでシーズを嫌っておきながら生かしているのには理由がある。それは吸血鬼の能力が有用だからである。特に『魅了チャーム』を使い男を誑かし、フルースの息のかかった店から宝石を買わせる詐欺は面白いように儲かる。

 愚かだな……とカレオ自身は考える。いくら見目麗しいからと言って、この女は人類ではない。何が起きれば惚れるなどということになるのか、率直に言って検討もつかない。世の中、愚民ばかりだ。


「まぁ、そのおかげで僕は儲けられるわけだから、感謝してるけどね。ははっ!」


「かはっ!」


 気まぐれにカレオはシーズの腹を蹴り飛ばして笑う。さも愉しそうに。


「僕がいなけりゃ生きてもいけない寄生虫が……」


 そう、カレオは気付かない。依存しているのは果たしてどちらなのかということに。

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