第四話 『デート商法』
「恋に落ちた」
ダスキリアに戻り、いつもよりは少し安い酒場で夕飯を囲んでいたフィーコとローラに、俺はハッキリと言った。
「ハァ!?」
至って真剣な言葉だったのだが、ローラは驚きの余り首の力が抜けたのか額をテーブルに打ち付けた。ガコン、と鈍い音が鳴る。いわゆる顔ドンというやつだ。
「人を好きになってしまった」
もう一度噛み砕いて言う。声に出すと、それが自分の中で固まるのを感じる。形のない恋という感情が、心の中に根を張っていく。水をやって、花が咲くまで育てたいと思う。枯れてしまうかもしれない。咲かないかもしれない。けれど、そもそも勝手に育ってしまうものなのかもしれない。花は自分で咲く。咲かせようだなんて、烏滸がましいものだ。
「いやいやいや!騙されてるから!私見てたけど、アレは悪い女の顔だから!」
何故か大慌てしているローラが失礼なことを叫ぶ。最悪だな、コイツ。
「お前に彼女の何が分かる?ブスは黙ってろ」
「ブス!?」
初めて言われたのか、相当なショックを受けているご様子のローラ。まぁ、顔は可愛いからな。皇女様の真似が出来るほどに。髪の金髪だって、ヅラでも何でもなく地毛だ。
「あの、何か買わされてませんか?」
横で落ち込む顔だけ美少女の代わりに、フィーコが質問してくる。
「あぁ、宝石を」
「宝石!?」
お、復活した。
「騙されてる!なんで初対面の人に宝石なんて買ってるのよ!どんだけおねだりに弱いの!」
「ねだられたわけじゃない、俺が彼女に似合うと思ったから買ったんだ」
「そんなバ……あれ、宝石?最近どっかで聞いたような……」
ローラの疑問は、先ほどのメモを取り出したフィーコが解消してくれた。
「フルース家が仕切っている商売ですね」
「デート商法じゃん!!」
「違う、プレゼントだ」
「だあっ!ダメだこの男!クソっ!」
ローラはわしゃわしゃと頭を掻いて机にうずくまる。
「まぁ一応仕事の話もしてきたぞ。今度フルースの屋敷に行って直接当主と話すことになった」
「一応って言った!一応って!」
いい加減面倒だな、この女。何なんだ?
「なぁローラ、なんでお前がそんなに気にしてんだよ。関係ないだろ」
「ハァ……もういい。死ね、アンタは。ちょっとお手洗い行くから」
ジロッとこっちを見てから立ち上がり、お手洗いのある奥ではなく表へ向かった。えぇ……。
気が付けば、フィーコまでこっちを見ていた。
「お前までなんだ?」
「いぃえ?なぁんでもないです」
あっ、違う。これ全然表情が違う。コイツなんか面白い展開を楽しんでるだけだ。ただのクズの顔だ。
まぁいいや。話は通じそうだから。
「そうだ、屋敷へは俺が一人で行くからな」
「当たり前じゃないですか。急に私たちが行くわけないですよね?」
「そ、そりゃそうだな……」
誰だよコイツらってなるよな、そんなことしたら。
「あのですね、私はユージンが誰にだま……恋しようといいですけど、仕事は忘れないでくださいよ?」
「任せとけ」
ドンと胸を張る。大船に乗ったつもりでいて欲しい。
「大丈夫かな、本当に……」
フィーコの不安を表すかのように、猫耳がしゅんと垂れた。




