幕間二 『似た者同士(スペードとハート)』
「うわぁ……」
ユージンがメイドにまるでナンパのような絡み方をしているのを、ローラとフィーコはジト目で見つめていた。
指定の時間になったが、3軒目は来ない。ユージン曰く、この手の犯罪は数撃ちゃ当たるが基本であり、一人でも引っかかってくれれば御の字だという。であれば、持ち場を放棄してしまっても構わないようにも思えたが、念の為に指定場所を見張れる位置から二人は動かなかった。
しかしそこからでもユージンの醜態は十二分に見えていた。むしろ見たくなんてなかったとローラは思うのだが。
「あーあ、あんなに鼻の下伸ばしちゃって。何よアレ?」
ローラは吐き捨てるように呟いた。それは回答を求めていたというよりは、同意を求めている発言だった……しかし。
「うーん、多分だけど……アレは承認欲求が満たされてるんじゃない?」
フィーコはそのままに受け止めて答えた。
「え?承認欲求?」
「うん。ほら、ユージンってあの性格だし、こっちに来てからは勿論、来る前もニート……だったっけ?働いてもいなかったんでしょ?多分、女の子の知り合いとかほとんどいないと思うのね」
「そりゃそうでしょ。あんなのだもん」
「それどころか、男の子の友達もあんまりいない」
フィーコは知っていた。そう、ダスキリアに来たばかりの頃、ユージンがあっさりと優しげに近付いて来た男色二人組に誑かされ、危うくバージンを失いかけたことを。あの時、あの二人は多分ヤバいですよと何度忠告しても聞く耳を持たなかったのだ。
「はぁ、そう聞くと可哀想な奴ね」
「そうなんだよ。だからユージンはああ見えて、認められると弱いの」
「はぁ?」
「要はおだてられると気持ち良くなっちゃうタイプ。人に自分を肯定してもらった経験が少ないから。ほら見て」
フィーコは小さくユージンを指差す。そこからはこんな会話が聞こえてきた。
「私にはとても好ましく映る……」「……様付けはしなくていい」
……何よアレ、とローラは先程と同じ台詞を頭の中で呟く。何故自分がこんなに苛ついているかは、正直に言えば分かっているのだが、分かりたくない気分だった。
「ね?デレてるでしょ?」
「え、えぇ……だったら普段のあの態度を何とかしたらいいのに」
「あれはむしろ予防線なんだよ。ほら、ああやって女の子に酷い態度を取っておけば、勘違いして傷付くようなことがないでしょ?下手に好かれてるのか嫌われてるのか分からない状態よりも、明確に嫌われておいた方が分かりやすいじゃない」
「う、うわぁ……なんでそこまで分かるのよ」
思っていたよりもえげつないフィーコの分析。それは単なるガールズトークのレベルを超えていて、思わずローラは閉口する。唖然としてしまっていたとも言えた。だから、この言葉も先と同じ、回答を求めていたのではなく、ただ漏れてしまった感想。
「それはね……」
故に、この後の言葉をローラは聞き逃す。
「……似た者同士、だからかな」
その種類の笑顔は、フィーコにとって二度目のものだった。




