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第一話 『ナイジェリアからの手紙』

「タダぁ!?」


 値段交渉でボコボコに負け、すごすごと酒場の店内に帰った俺が浴びたのはローラの半ギレな罵声だった。


「嘘でしょ!?アンタ無能なんじゃないの!?」


「じゃあお前は無能に出し抜かれた無能の中の無能だろうが、ええ?」


 そっちがその態度なら、こっちも強気で行かざるを得ないね。ていうか、弱気で行ったら普通に全面降伏になってしまう。だって正しいのは向こうだから。今回に限って言えば俺は無能だった。


「……はぁ。ってことは何?私たちは一銭にもならないもののために騙し合いを演じてたってワケ?」


 本気でしおらしく溜息を吐くローラ。

 ……一銭にもならなくした原因は俺にあるみたいだったが、うん、これは黙っておこう。


「そういうことになるな。何のための5日間だったんだか」


「ホントよ。銀貨1枚得られないなんて」


 実際は俺とフィーコは火事場泥棒で小銭を稼いでいるのだが、まぁこれも黙っておこう。人間関係を円滑にするには隠し事が必要不可欠。


「という訳で、儲け話のプランを募集する」


 しかし大金を手に入れて悠々自適とは行かなかったので、次の『楽働』の計画を立てねばなるまい。


「そうですね。どうしましょう」


 俺の発案にフィーコが乗っかる。


「……たくましいなぁ。まだ一日も経ってないのに」


 ローラは若干引き気味だったが、パーティーに入った以上ついてきてもらうしかない。


「さっき言ってたデート商法……でしたっけ?それはどうなんですか?」


 金の匂いに敏感なフィーコは俺の言った犯罪をしっかり覚えていたようで、ワクワクした小学生のような視線で質問してくる。いや、質問内容はまるで小学生と思えないものだったが。


「あー、簡単に言えば、相手に恋愛感情を抱かせて物を買わせる詐欺かな」


「はぁ!?」


 ざっくりと俺が説明すると、質問者とは別の方向から怒りマークが飛んできた。


「何それ!嫌よ私そんなのやるの!」


「何故だ。さっきまでやってた皇女様の演技と大して変わらんだろ」


「全然違う!」


 どうやら本当にやりたくないようで、ローラは大声で反論してくる。コイツいつも叫んでんな。声だけ大きくて使えない奴め。


「チッ、恋愛経験ゼロ女には荷が重いってことか」


「ハァ!?私は超経験豊富なんですけど?」


「お、何だお前、処女ビッチか?そういうキャラで売ってきたか」


 そう来たか、面白いじゃないか。


「いや処女じゃないし?ビッチでもないし?」


「じゃあ何だよ」


「……普通?」


 首を傾げながらローラは訳の分からない受け答えをしてくる。


「何だ普通って。アレだろ、お前将来の夢はお嫁さんとか言っちゃうタイプだろ」


「い、いい、言わないし!」


 もうその動揺が言ってるようなものなんだけど。


「まぁいいや、どうでも。で、お前らに案がないなら俺の……」


「いやいや!どうでもいいって何!?」


「えぇ……」


 せっかく話題を変えてやったのに、なんでキレてんだよ。どんだけ面倒なんだこの女。


「どんだけ面倒なんだこの女」


「酷っ!」


 あ、うっかり声に出てた。


「お前が白馬の王子様に憧れてようとそんなのは知ったことじゃない。あぁ、そういやお前勇者への好感度がやたら高かったような……ああいうのがタイプか?」


「そういう……わけじゃ」


 何かモゴモゴと口ごもってしまうローラ。よく分からんが丁度いい。続きを話そう。



「さて、俺が提案する儲け話は……『ナイジェリアからの手紙』という詐欺だ」


「ナイジェ……何ですか?」


「ナイジェリア。俺の故郷の世界にある国なんだが……まぁそこはどうでもいい。大事なのはその手法だ。まず複数のターゲットに詐欺の手紙を送る。内容は何でもいいが、テンプレは金を持っているのにそのままでは使えないから資金洗浄を手伝ってくれってやつかな。その詳細を詰めるために一度会いましょうとか、返信を下さいとかそんな感じ。本当は一斉メールで出来れば手っ取り早いんだけど、それは妥協しよう。とにかくポイントは複数ってところだ」


「不特定多数に送るんですか?」


 フィーコは俺の説明を聞いて絶妙なところにツッコミを入れてきた。


「そう。流石にいい犯罪センスをしてるな。このやり方の画期的なところは、接触の前段階でターゲットの選別が出来るところだ」


「なるほど……」


 フィーコは得心している。すげぇな、今の一言で理解したのかよ。


「……選別ってどういうこと?」


 それだけじゃ分からない様子だったのはローラ。いや、それが普通だと思うから解説を続けるが。


「つまりな、頭のいい奴はそもそも引っかからないんだよ。釣れた時点でバカなんだ。この時点で、金まで巻き上げられる可能性が高いターゲットを絞り込める。頭が良くて騙しにくい奴とは実際に会うことすらない」


「な、なるほど……よくそんなあくどいことをポンポンと考えつくわね」


 ローラは若干引いていた。やっぱり、そういう反応になるか。むしろその反応が見たかったのだ。俺の予想を裏付けるために。


 この世界はどうも、犯罪が発達していないようなのだ。勿論窃盗や強盗、殺人に恐喝は普通に存在しているし、日本なんかよりもよっぽど件数は多いだろう。しかし、詐欺などの所謂知能犯と呼ばれる犯罪はあまり行われていないようだ。理由はいくつか考えられるが、やはり大きいのは魔王軍の存在だったのだろう。暴力で対抗せねばならない強大な敵が存在していれば、人間同士で騙し合いを演じている暇はない。安全圏にいた貴族なんかの間では頭脳戦も昔からあったのだろうが、少なくとも庶民レベルの浸透率は低い。

 例えば、『ナイジェリアからの手紙』は21世紀の地球では有名な詐欺の一つで、誰もが一度は見たことのある、所謂迷惑メールがこれに当たる。「主人がアリクイに殺されました」っていうぶっ飛んだアレなんかもこの一種だ。しかし、現代では有名なこの詐欺も、どうもこの世界には存在していないようだった。当然、この手法の発展形である振り込め詐欺なんかもない……って、それは電話も銀行口座もないんだから仕方ないか。とは言えやはり犯罪のバリエーションが少ないのはラッキーだ。規制の甘い犯罪をやり放題と言える。


 実は、フィーコがやってた当たり屋、あれも本人曰く自分で考えた犯罪らしい。と言ってもあれは捨てたものではない。詳しく聞けば、予想外に緻密な計画だった。フィーコが弁償を迫ってきたあの懐中時計は真っ二つに割れていたわけだが、あんなのものはこの世界では楽に直せる。『修理リペア』のスキルホルダーに頼めば一発で、専門店も存在しているのだ。額だってそこまで高額ではない。故に、王都で金を持っていそうな奴にぶつかって泣き顔で見上げれば、さっさと小銭を渡して何とかしてしまおうという奴が99%。大した額じゃないから誰も被害届なんて出さないし、半永久的に続けられるため塵も積もれば理論でそれなりに稼ぐことが出来るというシステム。実に賢いと感心する。1%のイレギュラーにぶつかってしまったのが運の尽きだったのだが、ちょっと申し訳なさすらある。


 ちなみに、ダスキリアでその当たり屋をやらないのは、冒険者や盗賊は基本的に『修理リペア』なんて持ってて当たり前で、何の意味もないからだ。王都みたいな場所でやらねば意味がない。ただし、仮にスキルで直されたとしても何の損もないプラスマイナスゼロになるだけだから、聞けば聞くほど素晴らしい。


「あの」


 ひたすら脳内で当たり屋を絶賛していたら、その張本人が現実で話しかけてきた。


「ん?なんだ?」


「資金洗浄っていうのがよく分からないんですけど、どういうことですか?」


 と、それもだな。マネーロンダリングなんかこの世界の一般庶民には分からないだろう。貴族は絶対にやってると思うのだが。


「うーん、例えばこんな文面でどうだろう……」


 俺は、即興で考えた手紙の内容を語り始めた。


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