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エピローグ 『ようこそ、手遅れの異世界へ!』

 

 雑魚二人をあっさり沈めた後。

 俺たちはいつもの酒場で祝勝会を行っていた。


「乾杯!」


 カラン、と。俺がこの世で最も好きな音が鳴る。


「……かぁーっ!美味い!」


やっぱり、仕事あがりはビールに限るな!これを不味いとか言う奴の心が信じられん。


「お疲れ様です」


「いやいや、言うほど疲れちゃいないけどな。瞬殺だったし」


「あの、私それあんまり信じられてないんですけど。ユージンって本当に強かったんですか?」


「だからそう言ってるだろ。お前、まだ俺の本気見たことねぇの?つくづくメインヒロインじゃねぇ奴」


「要りませんよ。ユージンのメインヒロインの座なんて」


 俺たちが馬鹿話をしていても、フレアはまるで乗ってこない。どうやら俺に何か言いたいことがあるようで、俺の方をチラチラと見ながらずっと機会を伺っていた。しゃあない、切り出してやるか。


「どうした?」


「ありがとうございます……本当に……あなたに出会えたのは運命だったのだと思います」


「運命じゃねぇよ」


 フレアの言葉を、俺は一刀両断した。


「俺は運命に従えば、勇者になってるはずだったんだ。もしそうなってたら、食うに困って盗賊娘と組む羽目にもなってないし、お前とも出会ってない」


 それは意味のない仮定。


「いや、だから信じられませんって」


 ……そして信じてもらえない仮定。


「だぁっ、もういいよ!もう言わねぇよ!でもとにかく俺たちが出会ったのは、言うなれば『運命じゃない出会い』だ」


「は、はい。ふふっ」


 俺の言い回しが面白かったのか、フレアは少し苦笑する。


「でも、これだけは言わせて下さい。本当に、ありがとうございます」


 それからそう言って、頭を深々と下げてから、こっちに向けて手を差し出してきた。言いたいことは分かる。俺はその手のひらに、アイツらから奪い取った王家の指輪を……。


「こちらこそありがとよ」


 ……乗せずに、自分の懐にしまった。


「……え?」


 見事なまでに、フレアは茫然自失に陥った。もし辞書に映像が載せられるなら、『呆然』の頁に載せてもいいくらいだ。

 俺はそんなフレアに追い打ちをかけるように言葉を続ける。


「だから、ありがとよ。旨い話を持ってきてくれて」


「……へ?」


「『奪ってくれ』って言ったじゃないか、お前」


「……ちょ、ちょっと待って下さい!あれは……え?あれは……!もしかして、『彼らから』じゃなくて……!」


「いやぁ、自分から奪ってくれと言うとはね。中々マゾだなお前も」


「そんな訳ないじゃないですかー!?」


「あぁ、割と自分で言ったりするか。『私の初めて、奪って下さい……』とか」


「何の話ですか何の!ど、どうして……」


 まるで理解出来てないようだった。

 それはそうだろう、フレアからすればそうだ。説明してあげなきゃな。フレアからすれば分かりきったことを。


「どうしてって……本人に返すならともかく、別人に返すわけないだろ?」


 イタズラをするような気分で軽く。

 ネタバラシを開始する。


「え?」


 良いね、その顔だ。その顔が見たかった。何せ俺は性格がよろしくないもんでね、神様にお墨付きをもらうほどに。


「偽者だろ、お前」


 故に俺は続ける。別に弾劾しようというわけじゃないが。ただまぁ、面白いじゃん?


「な、な、なんでそんなこと……」


 おお、今度は『動揺』の頁かな。なんかぷるぷると震えてるぞ。可愛いな。


「しらばっくれるな。犯人が解決パートでゴネる話は俺ぁ嫌いだね」


「そ、そんな無茶苦茶な……」


「別にハズレだってんならいいよ。お前を王城に突き出して確かめてやろうか?」


「や、やめてくださ……」


 そこで、ようやくフレア――偽フレアは観念したのか。

 ギュッと自分の服の袖を握り、半ば強引に自らの震えを止めて。


「……はぁ、分かってたの?」


 自分の言葉で俺と向き合った。


「当たり前だ。大体、お前がもし王女様なら、俺だって『盗賊の心得』を説いたりしねぇよ」


「え、てことは……最初からバレてたの?」


「……あれ、俺その台詞いつ言ったっけ?」


「出会ってすぐの時に」


「ふーん、そう……」


 …………。

 ………………。


「後付けだ!コイツ後付けの理由を偉そうに語ってやがった!」


「うるせー!結局バレてんだからお前こそ偉そうにするな!てか敬語が取れてるぞ偽者!」


「どうして盗賊男に敬語なんて使わなきゃならないのよ!しかも適当な嘘つきだし!」


「後付け嘘つき上等よ!俺の故郷じゃ後付け設定ばっかりの漫画が伏線SUGEEEE!!国民的名作!!って讃えられてたんだよ!」


「何言ってるのか分からないけど全然関係ないことだけは分かる!」


 いきなり舌戦になってしまった。

 ん?よく考えてみれば皇女ぶってた頃のフレアとも割と言い争いをしてたかもしれないが。


「……なんで分かったのよ?」


 無意味な罵り合いをやめて、偽フレアは核心を訊いてきた。まぁ、そこは気になるところだろうな。


「お前、アイツらと会った時、ずっと顔を隠していただろ?そこで変だと思ったんだよ。既に見られてるんだから、隠す意味はないはずなのにってさ」


 あの時のフレアは、単にビビってるだけにしちゃ徹底して顔を見せないように動いていた。しかし一度襲われているのだから、皇女様は相手の顔を分からなくても、相手は皇女様の顔を知っているはずだ。

 それにもかかわらず、俺が『高重力』を食らっている時ですら頑なに物陰から体を出さないで、顔を伏せていたのは何故か。


「逆に考えればすぐに答えは出た。『相手が皇女様の顔を知っていたからこそ、顔を見られてはならなかった』のだとしたら。それは……お前が本当の皇女様じゃないからだってことになる」


「……っ!」


「思い返してみれば他にも不審な点はあった。例えば……アイツらはお前を廃屋に寝かせておいたと言ってたな」


「そ、それがどうしたの?私もそう言ったでしょ」


「そう。お前も『寝かされていた』と言っていた。矛盾はない。何一つとしてな。でも、矛盾がないのは変なんだ」


 皇女様の視界と、アイツらの視界は違う。見えているものは違うのだ。それが一致するのは、おかしい。


「『寝かされていた』……どうして受身形なんだ?」


「え?」


「皇女様は急に道端で意識を失い、次の瞬間には廃墟で『寝ていた』んだぜ?誰かに『寝かされていた』だなんて、分かるはずがない」


「あ……」


 そう、矛盾がないとしたら。それは、第三者の視点でしかあり得ない。


「お前はその時、陰から皇女様とアイツらを見ていたんじゃないか?」


「ま、待って!尤もらしく聞こえるけど、自分で寝た覚えのない場所に寝ていたら、誰かに連れてこられたと思うのが普通だし!」


「確かにな。しかも王女様は指輪を盗られている」


「そうよ!同じ相手に寝かされていたと思っても不思議じゃないと……」


「でもさ、お前最初は盗まれたってことも気づいてない体だったじゃねぇか」


「う……」


 世間知らずお人好しキャラを作ろうとしたのかもしれないが、墓穴を掘ったな。

 それに、やっぱり俺もいきなり訳の分からない場所で目覚めたら、『寝かされていた』とは言わないと思う。俺だったらそう、多分……『気が付いた時には何故かそんなところで寝転がっていた』とかな。


「俺の読みはこうだ。お前はたまたまその場に居合わせた、何の関係もない一般人だった。しかし、アイツらが去るのを見て、これ幸いと金目の物を奪うために眠っている皇女様に近づいたんだ」


「違うから!最初は本当に守ってあげようと思ったの!」


「お、やっと自白したな」


「……そうよ!悪い!?」


 少し拗ねるような顔で俺から視線を逸らす偽フレア。だから、別に責めてるわけじゃないんだって。何故なら、俺はそんなお前が……。


「いや、悪くねぇよ。そう、この後のお前の行動も、俺は嫌いじゃない。お前は皇女様の安全と自分の報酬を両立するウルトラCを思いついたんだろ?それがこの『入れ替わり』だ」


「え?そんなこと出来ますか?」


 黙って話を聞いていたフィーコが、ふと疑問を呈してきた。


「出来るさ。皇女様の顔を民は知らないんだ。服と持ち物さえ変えてしまえば簡単だ。そして、そうなれば皇女様はただの盗賊娘になる。ダスキリアを一人でほっつき歩いていても襲われたりしない。逆に偽皇女は皇女のフリをして指輪を捜索するよう誰かに頼んで……」


「あぁ、それで指輪をそのまま盗んでしまおうと……」


「その通り。仮に皇女様の家出がニュースになるようならマズいが、逆に言えば、家出自体を内密にする場合、皇女様が城に帰ってきたというニュースも流れない。本物の皇女様が家に帰っても、王城に偽者がダスキリアで何事かやっているということがバレるまでの間は普通に指輪探しを継続できるってわけだ」


「あっ、しかもダスキリアを歩き回るなら変装して身分を隠しますね」


 そう、ここで行動の意味が反転する。

 本物の皇女様だから街中でドレスなど着ずに街人として変装するのではなく。

 偽者だからこそ変装するのだ。するとどうなるか。

 顔は違う。服も違う。最早、皇女様である部分が見た目からは消失してしまう。こうなれば、王城の手の者も簡単には見つけることが出来なくなってしまうという寸法。余りにも鮮やかに時間稼ぎが出来る。


「だろ?違うか?」


「……大した奴ね、アンタ。よくそこまで分かったものだってちょっと感心する」


 言葉の割に、尊敬というよりは呆れた眼差しで俺を見る偽フレア。


「他にも色々あったんだよ。ほら、金貨を何枚か盗まれたとか言ってたけど、あれも逆だろ?お前は何枚か盗んだんだ。だから少ししかない」


 皇女様を助けるつもりなら、盗賊服にする以上、彼女に何枚か聖金貨を置いておかないと本物の皇女様が身分を証明出来なくなってしまう。だから全額盗むわけにはいかなかったのだ。

 逆に、何枚かは偽者の自分の身分証明に頂く必要があるのだが。


「後はなんだ、勇者が来た時やたら動揺してたのは、自分の嘘が発覚するのを恐れたってのもあるだろうが、もっと大きかったのは『本物の皇女様がまだ城に帰れていなかったこと』だったのかもな。これは今思えばって感じだが」


 しかし、それを受けてこれ幸いと自分の指輪漁夫の利作戦を続行するのだから大したもんだ。いいね、いい感じに悪い。


「あの、良いですか?つまり、ユージンは途中でフレア……偽フレアの演技に気付いてたんですよね?」


 フィーコはまた、何気なく気が付いたという様子で俺に尋ねてくる。


「あぁ」


「ということは、それでも件の強盗犯を襲いに行ったのって……ただ自分も強盗しに行っただけってことになりますよね?」


「うん、勿論」


 ……。

 …………。


「クズじゃん!お前!」


 偽フレアの方が指差して叫んできた。


「るせーよ!お前だって泣き真似までして俺を騙そうとしてきたじゃねぇか!」


「ふん、女の涙には騙されてやるのが男の甲斐性ってものでしょう?」


 もう完全に開き直ったな、偽者。


「だから騙されたフリしてやっただろうが」


「ああ言えばこう言う……屁理屈ばっかりの男はモテないわよ」


「お前に言われたかねぇよ。大体、俺に惚れないようなセンスのない女はこっちから願い下げだ」


「信じられないことを言うわねアンタ!」


 顔を真っ赤にして俺に突っかかってくる偽フレア。


「そう言えば、本物の皇女様はどうなったんでしょう。実際家出してたんですよね?」


「さぁ、知らね」


「酷っ!」


「いや酷くないだろ。知ったこっちゃねぇよそんなの。アレだろ、勇者しゅじんこう様が何とかするだろ」


「まぁ、そうかも……」


 何か納得している、勇者への信頼度の高い偽フレアはまぁ良いけど、ムカつく奴が一人いるな。


「いやぁ、全く酷いですねユージンは」


 隣でうんうんと頷くフィーコを見る。この女、ヘラヘラしおってからに。


「おいフィーコ茶番はやめろ。気付いてんだろうがお前も」


「……え?」


 ほらまたお前のせいで世間知らずちゃんがショックを受けてるぞ。


「やだなぁ、何を言うんですか。私は全然分かってませんでしたよ?」


「惚けるな。ていうか、今回は協力体制だろ?俺に嘘ついても意味ないじゃねぇか」


「ま、それもそうですね。あーあ、バレちゃったかぁ。にしし」


 あっさりと認めやがって。楽しんでたな、コイツ。


「フィーコも私を騙してたの……?」


「それは語弊があるよ。私が理解したのはユージンに教えてもらってからだし」


「え?……だって、ニノマエが気付いたのってダラスとカイルの二人に会ってからでしょ?あの後、フィーコと会ったのは今が初めてじゃ……?」


「ほら、アイツらを荒野におびき出す時、結構無駄に寄り道したろ?それでなんかアイツらちょっと怒ってたけどさ……」


 別に俺だって好きで追いかけっこをしてたわけじゃない。


「お前が本当に皇女だった時の仕込みだったんだが、実は王城へ『中継器』を敷いててな。それを使ってフィーコにテレパスで連絡した。丁度フィーコはその点検をしてたし。回り道をしてたのは、その回線があるところを通りたかったからだ」


「でも言葉足らず過ぎでしたけど。『指輪が手に入る』と一言だけ。最初は大事な使い捨てを何無駄にしてるんだと思いましたけどね」


「急いでたんだよあの時は。それに、逆だろ?大事な一回を使ったからこそ、お前は大事おおごとだと受け止めたんじゃねぇの?」


「まぁ、そう言われたらそうですけど」


 つまりそれは、指輪の優先度が皇女様の身代金の優先度を上回ったということに他ならない。本来であればこれはあり得ない。何故なら、金目的の俺たちにとって、その二つを売りつける相手は同じだからだ。すなわち、どちらも王家に売るしかない。なのに指輪の方が大切だということは……皇女様が偽者ってことになる。

 勿論これだけで確証の持てるような話ではない。これは所詮補強証拠だ。ある程度別の材料がないと、結論には至れないだろう。


「実際お前、結構前から疑問に思ってたんじゃねぇの?」


「うーん、まぁそれなりにですかね」


「えぇ!?」


 おお、驚いてる驚いてる。気持ちは分かる。この女、とぼけたフリして鋭いからな。


「ふふ、あのね。女の子は女の子の嘘を見抜くのが男よりずっと得意なんだよ?」


「え、キモお前……」


 素で引く台詞やめてくれ。お前、本当に時々キャラがブレるな。自分をしっかり持ってくれよ。俺の好きなアニメのキャラみたいに。


「何か言いました?」


「キモいって言った」


「とぼけて下さいよそこは!」


「俺は自分の発言に責任を持つ男だ」


「その発言に責任を持って下さいね、本当に」


「悪い、今の嘘。撤回」


「いい加減にして下さい!」


「だからいい加減にしてるだろ」


 と、また話が脱線してしまった。会話の相性が良すぎてダメだ、フィーコは。そこは何故かブレないな。


「で、この後呼んでくれてるんだろ?」


「そのお見通しって態度は腹が立ちますけど、まぁ勇者になら伝えましたよ。バッチリです、さぁ褒めて下さい!」


「うし、上等。後はコイツの値段交渉だな」


 アホを無視して俺は指輪を手の中で転がす。そこまでの価値があるものなのか、俺にはよく分からないが。

 ……おっと、偽フレアのこと忘れてた。


「ま、言っただろ?お前はまだまだ甘ちゃんってことだよ……『ツメが甘かった』な」


 置いてけぼりになって意識が宙に飛んでいた偽フレアの方に向き直る。


「そんな……」


 泣きそうな顔をするなよ。泣きそうな顔をするくらいなら、いっそ泣けばいいのに。それが出来ないなら、それは泣きたいんじゃなくて。泣きそうな自分を知って欲しいだけじゃないか。

 ……あー、何というか。この女は多分、結構素だったんだろうな。フレアの時のあの態度。

 いや、当たり前か。本物を知らないのに真似てたんだから。そんなの自分に決まってる。

 でも俺は割とコイツが嫌いじゃない。

 何故なら、コイツの弱さは強かだ。自覚して、何かを得るために、その弱さを使ってる。利用してる。使用してる。だからそう、俺は嫌いじゃない。手の内がクズ手だからって、勝負を投げるような奴よりもずっと。

 ……そうだ。だから、もう一つ言いたいことがあったな。


「最後になぁ。お前をお姫様抱っこしたことあったろ?あの時……」


 そこで、俺は一つ咳払いをして。


「お前、結構重かったぞ。あれはお嬢様の体つきじゃない。筋肉がある体だ」


 そう言い切った瞬間。ピシッという、時が凍る音を聞いた。


「ユージン、それは流石に……」


 フィーコが何か言おうとするよりも前に。


「……『高重力』のせいじゃ?」


「いや、それは解けた後」


「あーあ、今せっかくのチャンスをふいにしましたね。もう私は知りませんよ、むしろザマァ見ろ」


 ゴゴゴ、という効果音でも出そうな勢いでキレた偽フレアには、最早フィーコの声すら届いていないようだった。


「……つまり何ですか?私が軽ければバレなかったってことですか?私の計画に足りなかったのはダイエットだと、そういうことですか?」


 なんか敬語に戻ってるな。ん?どうかしたのかな。もしかしてこれマジギレ?チッ、しょうがないなぁ。ここで暴れられても困るし、ここで言うべき台詞は……。


「むしろ体重が足りすぎてたのが問題だったな、ガハハ」


「……」


「……」


 一瞬の沈黙の後。


「この野郎ぶっ殺してやる!!」


 偽フレアはいよいよブチ切れて俺の首を絞めにかかってきた!


「お、なんだやる気か?いよっしゃ、赤コーナー……ユージン・ニノマエ!」


「ちょこまかと逃げるな!!」


 机の上のグラスをぶっ倒すような勢いで身を乗り出しておい危な……よし、ナイスだフィーコ。そのまま押さえとけ。

 ド派手におっ始めた俺たちに対する周囲の反応は当然決まっている。なんたってここは『掃き溜めの街』だ。

「お、乱闘か?」「痴情のもつれだな」「キーッ!アタシというものがいながら!」「二股か?いいぞお嬢ちゃん!殺せ!」「二股?なら、俺にも股をかけてもらおう」「しかもアイツはユージンだ、殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「むしろ俺が殺す」

 ……おいお前らを後で俺が殺してやるぞ震えて待ってろ。


「おっと。ほら、お前も言えよ。青コーナー……」


「何よそれは!」


「名乗るんだよここで。俺の国の戦いの宣誓だ。ほら、青コーナー……」


 偽……彼女は掴んで投げようと振り上げていた椅子を持ったままで。


「……ローラ・クリーム」


 と嫌そうに呟いた。


「本名のほうがメルヘンしてるじゃねぇか……」


「ほっとけ!」


「まぁいいや。ローラ、お前自分をクズだと思ってる節があるんだろ?」


「はぁ?」


「自分は悪い。自分はクズ。自分は善人じゃない。そんな風に思ってないか?」


「……そ、そんなこと」


 ローラがまだフレアだった頃、俺はコイツから引け目のようなものを感じていた。何か自分を責めるような……案外、フィーコが察したのはこの辺りだったのかもしれない。

 でも、そんなものは。


「お前、この街の出身じゃないんだろ?」


 当然だ。『入れ替わり』を実行するためには、皇女様の顔が知られていないだけでなく、自分の顔も知られていてはならない。ダスキリアで過ごしたことがあったら到底無理だ。恐らくは、来たばっかりってとこだろう。


「そうだけど……」


「お前が今まで生きてきた世界じゃ、盗賊は極悪人だったか?犯罪者だったか?だけどな、ここじゃ違う。お前の知らない世界だよ」


「いや、ここでも泥棒は犯罪ですけどね」


 うるせぇ泥棒。お前は黙ってろ犯罪者。


「下には下がいるってこと、嫌というほど分からせてやる」


「知りたくないけど、そんなの」


「いやダメだ。俺が気に食わない。お前程度の雑魚が悪ぶってるのはムカつく……俺たちのパーティーに入れよ、下をたっぷり教えてやるぞ」


「……何かすごく言い方が嫌。嫌というかいやらしい。それに、あなた達を騙してたのよ私は。そんな人間を仲間にするの?」


 またそういうことを言う。そんなこと、ただ誇ればいいだけなのに。


「騙してたからだよ。その演技力に目をつけたんだ。お前にピッタリの詐欺のプランがある。デート商法って言うんだけどな……」


「何か知らないけど、その言葉からもそこはかとなく嫌な雰囲気を感じる」


「まぁまぁ。答えなんてどうせ二択だろうが。YESかNOかだよ」


「……YES」


 結局、俺の勧誘術の前にローラは屈した。

 憮然として、吐き捨てるように。誰が見てもNOな仕草で、YESと言い放った。

 それでいい。受ける側はその顔でいい。その分の笑顔は、俺が持っている。


「よろしい。では、素晴らしく最悪なこれからの人生に乾杯」


 片頬だけを上げた、完璧な悪人笑いとともに。俺はテーブルにあったグラスを天に掲げて。


「あ、ちょっとユージン!それ私ので……」


 泥棒なんて日常茶飯事。

 ロクな奴などいない。善人などいない。

 ――手遅れな奴しかいやしない。


「ようこそ、手遅れの異世界へ!」


 一気に黄金色の酒を飲み干した。

 その時の俺の笑顔は多分。

 いつかの、どこかの、誰かに、きっとよく似ていた。


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