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幕間八 『利己主義者×目の前にぶら下げられた人参』
「行ったか?」
バルゾイ・ミトーはクズである。そう言われれば、彼は一も二もなく頷くだろう。そしてこう言い返すだろう――「ダスキリアにクズ以外が一人でもいたか?」と。
「まさか、ユージンが連れてるとはな……」
さる貴族とか言われた時は半信半疑だったが、聖金貨を見せられては信じざるを得ない。貴族どころか、皇女様だと。
彼は片手で手元の『感話器』を操作する。これは通常の感話器ではなく、単に指定されたメッセージを遠くへ届けることしか出来ない簡易版だ。言ってしまえばただ遠くで何かを知らせるベルを鳴らせるだけの機械。
しかし、それで問題ないこともある。例えば、探しものが見つかった時などは。
「ダレル金貨で3枚貰えるっていうんだから、肉の一本や二本安いもんよ……いらっしゃい!」
そうして屋台の店主、バルは明るい表情で接客に戻る。
目先の利益が彼の全てだった。




