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第六話 『道化と勇者』

「はぁ……」


 と言っても、見つからない。

 捜索を開始してから3日が経過したが、全くと言っていいほど手がかりなし。そもそもダスキリア住民じゃないって情報だけじゃ無理だろ。こういう時、物語ならもっとヒントがあって然るべきだ。やっぱりバグってるぞ、この異世界転生モノ。


「つまんねぇ、何か話の種をくれ」


「真面目に探して下さいよ」


「目は探してるよ。でも暇なんだよ。歩きながら話すだけだから」


「はぁ……じゃあいつものアレでいいじゃないですか。ほら、自称別の世界から来ましたって話」


「だから、本当だっつの。俺は日本ってとこから来たの」


「ニホン……?」


 そのフレーズはもう耳にタコな様子のフィーコと違い、フレアはウチの国名に食い付いた。


「地球って星の日本って国から転生してきたんだよ、俺は」


「……ご冗談でしょう?」


「まぁその反応も分かるけどさ……あー、そうだな。何というか、皇女様って存在も俺には割と違和感があるんだよな」


「どうしてです?」


「だって、日本には皇女とかいなかったから。ていうか、国王もいなかったし」


 天皇陛下はいたけど、それは少し違うだろう。


「国王がいない?それではどうやって政治を行うのですか?」


「議会制民主主義」


「……はい?」


「いや、つまんないからこの話やめない?」


 俺は政治の話なんてしたくない。特に興味もなかったから知識は多分中学生レベルだし。二十歳超えてからも選挙行ったことすらないし。


「いえ、お聞きしたいです」


 が、フレアは引かなかった。まぁそうか。皇女様だもんなぁ。政治の事とか知りたいのかな。


「はぁ、アレだよ、国会議員ってのを選挙で国民が選んでだな……」


 俺は嫌々ながらも説明することにした。普段なら絶対しなかっただろうが、何しろ暇だ。するとフレアの興味津々ぶりは予想以上で、様々なことを質問攻めにされて、三権分立や憲法、果ては生活保護についてまで喋らされてしまった。


「……もういいだろ、疲れてきた」


「はい。ありがとうございました。すごい、そんな仕組みの国があるなんて……」


「……もしかしてユージン、異世界から来たっていうのは本当なんですか?」


 成り行きに身を任せて俺の話を聞いていたフィーコが、半信半疑という風に尋ねてきた。

 ……今までは無信全疑だったからな。


「あぁ。やっと認めてくれたのか」


「最強とか勇者候補とかそういうのはともかく、転生は本当かもしれないですね。今まで言ってたカップ麺って食べ物やらインターネットって遊びやらは妄想って感じでしたけど……」


「おい」


 インターネットは別に遊びじゃな……まぁ俺にとっては遊びみたいなものだったが。


「でも、政治機構なんてユージンが妄想できるわけないですし。本当に見てきたのでもなければ」


「お前喧嘩売ってんのか?それ、俺が政治について詳しいことの不思議さが、人が異世界から転生してくるということの不思議さを上回ったってことじゃねぇか」


 どんな異常事態なんだよ。大体、日本は教育水準が高かったから今くらいのことは誰でも喋れるんだぞ。


「あの!」


 俺が更に反論しようとしていると、口元に手を当てて、何事か考え込んでいたフレアが急に声を張り上げてきた。


「ど、どうした?」


 余りの剣幕に思わず立ち止まってしまう。幸い、周囲に人が少なかったから良かったものの、それでも何人かは一瞬こっちを振り返ったぞ。


「ニノマエさんは、そのお考えを使ってこの国を変えようとは思われないんですか?」


「あぁ?」


「魔王が倒されて、今この国に最も必要なのは内政です。ですから……」


「嫌だね。俺は一切この国で政治とかするつもりはない」


「どうしてですか!」


「だって、俺はそんな日本で社会不適合者のニートだったんだもん。なんでせっかく日本よりは生きやすいこの国を日本風に変えなきゃならねんだ」


「ニートって何ですか?」


 フィーコが口を挟んでくる。あれ、教えたことなかったっけ。


「ニートってのは働かず勉強もせず職業訓練もしない人のこと」


「人間のクズじゃないですか!?」


「一理ある」


 むしろ理しかなかった。


「そんな……そんなの、だって……それで苦しむ人が減るかもしれないんですよ?」


 フレアは俺の考えにどうしても納得がいかないようで、どもりながらまた突っかかって来る。


「だから知らんし。大体、そんなにやりたきゃ自分でやれよ。今教えてあげただろ」


「それは……」


「ま、無理だと思うけど。改革ってのはそんな簡単に成るもんじゃない。人間の現状維持メカニズムは甘くないからな」


「……そんなのやってみなきゃ分からないですよね?」


「確かにそうだけど、無理だと思うからこうして喋ったんだって。出来ると思ってたら喋ってない」


 だって、俺はそうなって欲しくないんだから。


「とにかく、俺はもうこの世界じゃモブとして生きていくと決めたの。内政チートとかそういうのは面倒だからパスだ」


 脇役に徹する人生でも、日本にいた頃よりは遥かに楽しめてるし。むしろ、今となってはなんで最初魔王とか倒そうなんて思っちゃってたの?ってレベルだ。そんな面倒なこともう絶対やりたくない。ハッキリ言って、倒すこと自体は容易いだろう。俺より強い奴がこの世界にいるとも思えない。面倒なのは倒してしまった後だ。英雄扱いにしろ、化物扱いにしろ、自由には生きられなくなってしまう。


「私、は……私には、確かに出来ないかもしれないですけど」


 フレアの声はもう、途切れ途切れになってしまっている。それでも彼女は言葉を紡ぐ。それはまるで、義務みたいに。


「哀しむ人が減るのなら、そういう世界になってくれれば良いと、願います」


 だから、俺が哀しむんだよ、ここが日本になったら。

 俺はそれ以上、その話には付き合わなかった。





 今日の収穫、ゼロ。

 むしろフレアの好感度、マイナス。

 最悪の雰囲気の中、俺たちはいつもの酒場で夕食を取っていた。


「……」


「どうしたの、フレア。食べないの?」


 中でも一際暗かったフレアは、持とうとしていたフォークから手を離し、少し難しそうな顔をして皿の料理を見つめ出した。


「お二人は、盗賊なんですよね?」


「そうだよ」


「ですね」


 ノータイムで頷く。俺たちがこれを誤魔化すことがあるとすれば、それは官憲の前でだけだろう。


「ということは、このサラダも、誰かから盗んだお金で注文したということになるんでしょうね……私、やはり他人から奪ったお金で何かを頂くというのは……」


「バカめ!今さら何を言うんだ皇女様の分際で!」


「え?」


 突然の罵りに、慣れていないフレアは愕然とした。俺も虫の居所が悪かったので、何も考えずに発言してしまっていた。まぁいいや、言っちまえ。これも大丈夫だろう、アニメ理論で。


「いいか?お前ら王族なんてもんはな、どうせ民から巻き上げた税金で食ってるんだよ。権威のある盗賊のことを王族と言うんだ!分かったかこの……ってぇ!」


 叩かれた。勿論俺にこんなことをしてくるのはフレアではなくフィーコである。


「あなたはもう少し人の気持ちを考えられないんですか?」


「へん、お前も俺と同じ考えのくせに」


「……言い方と時と場合の問題です」


「逃げたな」


「そもそも、王家の話とかやめましょうよ。こんな誰が聞いてるかもわからない場所で」


「チッ、一理あるな」


 そろそろ王家との交渉も始めたい。慎重を期すに越したことはないと言える。未だに皇女が消えたというニュースは流れてこない。これはもう間違いなく公にはしたくないのだろう。


「……少しお手洗いに行ってきます」


「あぁ、行ってらっしゃい」


 フレアは俺の暴言が堪えたのか、更にテンションを下げてトイレに行ってしまった。ヤバい、流石にやっちまったかもしれない。王家ディスは拙かったかなぁ。

 ……まぁいいや。切り替えが早いのが俺の美点。とりあえず飯を食って今日は寝て、明日からまた頑張って好感度を稼ごう、うん。


「すいませーん、ビールもう1……」


 と、俺が注文しようとした時、入口のドアが開いた。





「失礼する」

 その瞬間の様子は、初めてフレアが見せに来た時と似ていた。

 徐々に広まる静寂。しかし、あの時と異なるところもある。そこにあったのは警戒ではなく単純な疑問。何故こんなところに――かの男が?と。


「勇者、ギルフォード……?」


「僕を知っているのかい?」


 来訪者は、当たり前のように俺たちのテーブルにやって来て、当たり前のようなことを訊いてきた。


「知らなかったら逆に驚くだろう。世界を救った男を」


 皇女と違い、彼の見た目は有名だ。銀髪碧眼の甘いマスク。その腹が立つほどに整った容姿は、俺がこの世界にやって来た日に嫌というほど見た。街中に新聞の号外が撒かれていたからだ。最早、あの日から数日間の天気は『晴れ、時々ギルフォード』という勢いだった。

 その呼び名にも事欠かない。曰く『剣聖』。あるいは『当代最強の剣士』。俺がなれなかった『勇者』。そんな生ける伝説であるはずの彼は、しかしなぜか俺の言葉に少し顔をしかめて。


「いやいや、所詮世界しか救えなかった男だよ」


 と言った。


「はぁ?どういうことだよ?」


「深い意味はないさ……と、マスターは貴方ですか?」


 そこでギルフォードは奥で知らぬふりを決め込んでいた店主に語りかける。


「は、はい。そうですが。何か御用でしょうか?」


 おお、あの店主のこんな畏まった言葉遣い、初めて聞いたぞ。普段は客に「死ね」「出て行け」「クソ」「出て行け」「でも有り金は置いて行け」と連発する男なのに。


「いや、少し大事な話があるのだが、この店に個室は?」


「すみませんが、狭い店でして……」


「ふむ、2階はどうなっているのかな」


「上ですか?物置というか、倉庫というか……」


「ではそこを使わせてもらっても構わないかな。すぐに済むのだけど」


「ど、どうぞご自由になさって下さい!」


「有難うございます。さて、では行こうか」


「いや、話が見えないんだけど」


「これから話すのだから当然だ」


 悪びれもせずに言うギルフォード。

 強引な野郎だな。面倒なことになりそうだ。仕方ない……。


「……ちょっと手洗いに行ってくる。先に行っといてくれ」





「入るぞ」


 俺は平然とトイレのドアを開いた。


「え、ええっ!?……むぐっ!?んー!んんー!」


「騒ぐな。声を出せば殺す」


 あれ?ちょっと台詞のチョイスを間違えた気がする。いや、気分が乗っちゃって。まぁいいか。騒いで欲しくないのは本当だし。


「ん、んん……」


「良し。そのまま聞け。今勇者が来ている。恐らく、お前を探しに来たんじゃないかと思う」


「……ん!?」


「それで、どうするかという話なのだが……」


「んんっ!」


「おい、んんんだけじゃ分からん。ちゃんと喋れ」


 するとフレアはパシパシと俺の腕をタップした。しょうがないから俺は腕を離して自由にしてやる。


「レ、、レイルが来て……!?」


「声がデカい。あとレイルって誰だよ」


「あ、すみません……ギルフォード、さんのことです」


「へぇ、あだ名か?そっか。婚約者なんだもんな」


「えぇと、ミドルネームなんですけど、その……」


 フレアは何か言いにくそうにしている。そうだ、この点は触れて欲しくないんだったか。


「まぁいいや」


「はい……って、ニノマエさんはどうやってここに入って来たんですか?解錠スキルですか!?」


「違うよ、ただの技術だ。ピッキング」


「ピッキ……?」


「分からんなら分からんでいい」


 この世界の鍵は正直に言って破りやすい。何故なら、本当に大切な金庫の鍵などは魔法によって閉めたり、そもそも見えないように偽装したりするから、普通のドアの鍵が余り発達していないのだ。トイレの鍵なんて朝飯前である。


「……犯罪ですよ、女性のお手洗いに入ってくるなんて。私がその……途中だったらどうなさるつもりだったんですか?」


「小躍りして喜んでたよ」


「変態ですか!?」


「あ、でも大は勘弁して欲しいな。俺はそういう趣味はないから」


「お、女の子は大なんてしません!」


 マジか、知ってたよ。


「じゃあ小をしていいぞ」


「はい……って、しませんよ!何がじゃあなんですか!」


「話が進まないぞ、脱線しすぎだ。ちゃんとしてくれ」


「もう!あなたが……はぁ、それで、ギルフォードさんが来たっていうのは?」


「本当だ。どうする?今待たせてるから時間がない。端的に言ってくれ」


「何を、でしょうか」


「誤魔化して欲しいか、突き出して欲しいかだ」


「それは……勿論、誤魔化して頂きたいです」


「ほほぅ。皇女様も黒いところがありますねぇ」


「う……ご迷惑でなければ、ですけど」


「良いよ。まぁ元々そうする予定だったしな。ただ、誤魔化し方は任せてもらうぞ」


「はい。ニノマエさんのほうがそういうことを考えるのは得意そうですから」


「よろしい。じゃあ俺が帰ってくるまでここにいろよ」


「は、はい……あの、ありがとうございます」


「礼なら後で身体で払って貰う」


「いや、それは無理ですからー!」


 俺はフレアの声を無視してトイレを出た。





「遅かったね」


 ギルフォードは腕を組んで暗い倉庫の壁に寄りかかっていた。そんなポーズすら似合うのだから鼻持ちならない野郎だ。

 その隣ではフィーコが落ち着きなく指を組んでいる。何を話せばいいのか分からなくなってるな。コイツも大概コミュニケーション能力が高いわけじゃないし。

 俺はあえて大仰な身振りで割って入ることにした。大人しくしてたらあっさり主導権を握られそうだから。


「おいおい、勇者ともあろう者がその発言はデリカシーが無いぜ」


「そんなものを教わっていたら、僕は剣士になんてならずに貴族の放蕩息子をやっていたさ」


「……一々、面倒くさい言い回しをするな」


「性分でね、迷惑をかける……さて、本題に入っていいかな」


 ギルフォードはスッと壁から離れ、俺の正面に向き合う。


「どうぞ」


 俺も負けじと……クソ、身長負けてるな……じゃねぇ!負けじと視線で対抗する。

 それを真っ向から受けて……いや、柳のように涼しい顔で受け流してギルフォードは口を開いた。


「単刀直入に訊くが、皇女フレア様を見かけていないか?」


 やっぱりそうだよな。さて、ここが問題だ。

 嘘を吐く訳にはいかない。何故なら、ここで知らないと言ってしまって、後でそれがバレた場合、きちんと口止め料を頂けるかが怪しくなってしまう。嘘つきに払う口止め料なんて糠に釘を打つに等しいからだ。

 あくまでも誠実に、『保護した』という名目でなければ。故に、俺がここで吐くべき『真実』は。


「見かけたな。少しの間匿った」


「本当か?」


「あぁ。でも……逃げられてしまった」


 これだ。大体、皇女様自身も誤魔化してくれと言っていたのだから、後でこの線で口裏を合わせる。初日に皇女様が来たのを酒場の連中は知っている。だから、少なくともその日は一緒にいたというアリバイを作らなくてはならない。


「皇女様が?君から逃げおおせたと?」


 しかし、そう簡単にも行かないようだ。


「あぁ。大体、どうやったのか知らんが彼女は王城から逃げてきているんだろ?何らかのスキルでも使っているのかもしれない」


「本当だな?」


 ギルフォードは明らかに疑念を抱いている顔で俺の目を覗き込む。コイツは勘が鋭そうだ。ここは感情を無にするべき場面。目をただのガラス玉に。ただ世界を知覚するだけの器官に。


「ふむ」


 5秒ほど経っただろうか。ギルフォードは軽く目を閉じてから顔を離した。


「納得してくれたか?」


「君からは何も分からないということが分かった」


 そう言って隣のフィーコを見る。

 拙いな。一端の盗賊として嘘を吐くのはフィーコも得意だが、この勇者様の眼力はちょっと強力過ぎる。しかしここで変に俺が出しゃばるのも怪しすぎる。さて、どうしようか。


「……良いだろう、君の言い分を信じよう」


 色々と策を練っていた俺を嘲笑うかのように、ギルフォードはあっさりフィーコから目線を外した。

 え?いいのか?まぁ、お前がいいならこっちは問題ないけどさ。


「ふむ。しかし、これは僕の勘なのだが……」


 そして、再び俺の目をじっくりと見て。


「君は、自分の使命から逃げているような印象を受ける。僕は好きじゃないな、そういう生き方は」


 勇者様は俺に向かってそう有り難いお言葉を下さった。

 ……。

 …………な。

 ………………殴りてぇー!!

 ふざけんなよその使命とやらを横から掻っ攫っていったのはお前だお前!!

 お前が魔王を倒しちまったせいで俺がプー太郎になったの!!分かる!?

 ……落ち着け。そうだ、俺はコイツを恨まないと決めたんだった。

 別に俺は聖人でも何でもないが、流石にこの勇者様を憎むのは筋違いだというのは分かる。恨むのも憎むのも、どう考えてもあのクソ神様であるべきだ。それが道理というものだろう。むしろ、コイツのおかげで俺は面倒から開放されたとも言えるしな。


「さ、左様ですかぁ。でもすみません、ワタクシの如き凡人には使命などありませんのでぇ」


 俺は分かりやすくアホみたいにとぼけた。


「君がそれでいいなら、僕はもう何も言わないさ」


「……何なんですか、この会話」


 意味不明なやり取りに置いて行かれて困惑しているフィーコ。安心しろ、俺にも分からん。

 しばらく俺の目を覗き込んでいたと思うと、勇者は話は終わりとばかりに踵を返した。


「それでは僕は失礼するよ。もし皇女様を見かけたら、悪いけれど連絡を貰えないかい?王都にある『サーベイジ』という店で『ギルヴァレイに繋いでくれ』と言えば伝わる筈だ」


「ギルヴァレイ?」


「僕の名前を並び替えたようなものかな。深い意味はないよ」


「そうかよ。で、その場合報酬は弾んでくれるんだろうな」


「僕に決定権はないよ。でも、善処させてもらう」


「嫌な言葉だ。日本で何もしてくれない政治家が言ってるのを何度も聞いたことあるぞ」


「ニホン?」


「あー、何でもない」


 もっときちんとした言質が取りたいが、これ以上とやかく言うと俺たちがフレアを匿っているのに気付かれてしまう可能性がある。本気で確約を取り付けられれば、強請りなんてする必要もなくなるから賭けてみてもいいんだが。ただなぁ、どうもこの勇者様は食えない。コイツと交渉事をするくらいなら、まだ王家の人間のほうがマシそうだ。当り障りのないこの辺りで止めておくべきだろう。


「じゃあな、勇者さん」


「あぁ。君とは何だかまた会えるような気がするな」


「やめてくれ。男にそんなことを言われて喜ぶ趣味はない」


「そうかい?むしろ、もし女性がこの手のことを言うようなら気を付けたほうが良いよ。十中八九、悪女だからね」


「違いない」


 なんて、まるで勇者らしくない台詞を台詞を吐いて、しかし厭味ったらしいほど鮮やかに後ろ手を振ってそのイケメンは去って行った。

 でも俺よりはマシか。アイツを見て分かったけど、やっぱり俺は勇者なんて柄じゃない。精々が道化だろう。道化と勇者、か。悲しいほどしっくり来るなぁ。


「いやほんと、あなた達何なんですか?十年来の親友ですか?」


 フィーコはどうやら俺との会話を聞いたせいで、元から大してなかった勇者への信心を地に落としてしまったようだった。

 知らね。俺のせいじゃないだろ。


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