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S市

 リーゼント頭とピンク頭が上空へと打ち上げられた瞬間、その場にいる全員に戦慄が走った。

 リーゼントは首都圏で放送されるワイドショーで取り上げられるほど活躍した珍走団の首領(ドン)であり、ピンク頭はトゥイッターやフェースブッコに数々のキチガイファッションをアップし「うちの市とあれは関係ありません」と市長直々にコメントを出されるほどの強者だ。

 言わば今年のメンバーの中では最強タッグともいえる二人があっさりとのされたことは周囲の恐怖をあおるのに十分な出来事であった。


「残るは金髪、グラサン、改造袴、バイク野郎、地球外生命体みたいな頭の女か。どいつからでもいい、かかってこいイカレポンチども。俺を倒さねば貴様らは永遠に未成年だ」


――成人の儀――


 日本では年に1度、1月の第2月曜日の成人の日の前後に成人式が行われる。

 そこで新成人たちは袴や振袖を身にまとい、かつての友人や恩師と顔を合わせ昔を懐かしみ、大人の社会に足を一歩踏み入れたことを自覚して心新たにするのだ。


 しかし21世紀初頭に入ると成人式は変わってしまった。

 キチガイファッションで堂々と現れる者、木刀を持ち込んで振り回すもの、バイクで式場に乗り込み勝鬨を上げる者、爆竹を破裂させる者……

 成人式は無秩序による秩序、無法による法がまかり通る混沌へと姿を変貌した。

 まともな親はそんな成人式から子供を遠ざけた。

 常識人がろ過されますます頭の足りないDQN成人ばかりが集うことになった成人式の様相は混迷を極めていた。


 そういった現象を食い止めるべく、2029年に国は新たな『新・成人条例』を制定した!

 成人式とは別にDQN成人候補達だけを集めた『成人の儀』を行うことに決定したのだ!

 受験生のみんなはニンニク(2029)臭いDQN成人と覚えよう!


「どうした、かかってこないのか。貴様らはまだ成人の儀の会場にすら入れていないのだぞ」


 成人の儀の実行委員である門番は指をバキボキと鳴らしながら挑発をするがその挑発に乗るものは一人としていない。

 この場にいる全員が圧倒的な実力差にすくみ上っていた。

 TPOも道交法も分からぬDQN成人達だが目の前のスーツの男が危険であることだけは本能で察知できた。


「ちくしょう、S市担当の実行委員がこんなヤベェ奴だなんて聞いてねえぞ!」

「や、やべえよ……あのリーゼントとピンク頭があんなにあっさり……勝てるわけがない! 逃げるんだぁ!」


 金髪とバイクが逃げ腰になったのも無理はない。地元の選りすぐりの無法者200人が成人の儀の会場に入る前にたった1人のリーマンみたいな男の手で残り5人にまで減らされてしまったのだから。

 残る5人もそんじょそこらのDQNとは一線を画すワルだが目前の門番はそれでも分が悪いと分からされていた。


「馬鹿野郎! あんな奴に俺たちの成人を妨害されてたまるか!」


 それでも俺たちには成人になるという使命がある。この場で引いてしまえば俺たちはこれから一生ナメられて生きていくことになる。

 グラサンは自分を含めた5人を鼓舞した。


 新・成人条例により成人式の一月前から全国の成人式に参加する者たちの調査が行われる。

 その調査にてDQN成人候補であると判断された者には従来の成人式の招待状ではなく、黄色い紙に書かれた『成人の儀』への招待状が送られるのだ。

 『成人の儀』では数々の試練とトラップが繰り出され、そのすべてを潜り抜けた者だけが成人として認められる。

 残念ながら脱落してしまったものは一生未成年児として扱われる。

 何をするにも保護者の同伴を必要とし、周囲からは「アラ、あの子不良みたいなカッコしてるけど、未成年なのね(笑)」と後ろ指をさされることになるのだ。


 そんな未来を打壊すべくグラサンは近くの金髪に極力小さな声で作戦を持ち掛ける。

「オイ金髪……このまま距離をとって奴との会話を続けるんだ……奴がしびれを切らして誰か1人を仕留めに来た瞬間、残りの4人は入り口へダッシュ、会場に侵入するんだ」

「ちょ、待てよ! それじゃあ残った一人はどうなる?」

 一人を犠牲にする作戦に金髪は小声で抗議するがグラサンの意思は揺るがない。

「普通にやって5人とも地獄行きになるのと1人が犠牲になって4人が生き残る方法、どっちがいいかはわかるだろ?」

「……確かにそうだ。分かった、他の奴にも伝えてくる」


 金髪は門番から距離を取りながら他のDQN達に作戦を伝えに行った。


「貴様らノータリンどもにしてはいい作戦だな」

「なにっ!?」


 突然の門番の声に驚愕するグラサン。

 先ほどの二人の会話の声量はごく小さなものだった。

 加えて屋外であることを考慮すれば20メートル離れた門番に会話が聞かれる道理はなかったはずだ。


「あいにくと俺たち成人の聴力は貴様ら未成年児共のそれとはわけが違うんでな。ばれたくないのなら筆談にするなりスマホを使うなりするべきだったな」


 そんなグラサンの心の内を見透かしたように耳をトントンと指しながら言い放つ。


「貴様らの作戦が上手くいくか、俺が試験してやろう」


 そう言うや否や門番は改造袴の近くへ瞬間移動した。


「いっ今だ! 走れぇぇええええええええ!」


 改造袴の袴が八つ裂きにされケツ丸だしで地面に頭からめり込むのと4人が走り出したのは同時だった。

 まず地球外生命体女が捕まった。

 頭のうず高く盛られた真っ赤な髪をブチブチとむしりとられて絶命した。

 次は金髪が髪の毛ごと頭部を炎上させられて死んだ。

 作戦立案者のグラサンはグラサンを貫き手でグラサンごと目と脳を貫かれた。


「いやだぁああああ! 死にたくねえええええ!」


 足の速さで優るバイク野郎は難を逃れて会場の扉を開けた。


「屋内は乗り物禁止だ。小学校で習わなかったか?」


 扉を開けたさきに居たのは門番だった。


「な、なんで! お前はさっきまで後ろに……!」


 言い終わる前に門番のチョップが炸裂する。

 バイク野郎は潰れてバイクの一部になった。



 5人を始末した門番は周囲を見渡す。

 会場入り口は死屍累々。もはや立ち上がる人間は一人としていなかった。

 誰もいなくなった会場入り口で門番はスマホを取り出すとどこかへと電話をかけた。



「こちらS市成人の儀実行委員。今年度の新成人は……ゼロだ」

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