表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少年と少女は樹の下で眠る

作者: 馬之屋 琢

 世界樹により、支えられている名もなき世界。

 その世界樹を存続させる為に、人々は、百年に一度、巫女を(かて)として、世界樹に(ささ)げなければならなかった。


 その巫女に選ばれたのは、少年の幼馴染である、最愛の少女。

 少女は、その役目を静かに受け入れ、周囲の人々も、偉大な役割を(たく)された少女を、喜んで送り出そうとする。

 悲しんでいたのは、少年だけだった。


 逃げるよう、何度も少女を説得したが、少女は(がん)として聞かず、周囲から危険な存在として見られた少年は、牢獄へと捕らわれてしまう。

 彼が牢から出された時には、少女は(すで)に、その身を世界樹へと捧げていた。




 少年は、(なげ)き、悲しみ、人々の前から姿を消しまう。

 そして数年後、魔導へと身を堕とした少年が、呪われた鎧をその身に(まと)い、世界樹を滅ぼそうと、再び姿を(あら)わせたのだ。


 彼女を犠牲にした世界など、滅べばいい。

 彼女のいない世界など、滅んでしまえ。


 憎き世界樹を斬り倒すべく、少年は憎悪と共に突き進む。

 幾多(いくた)の勇者や英雄達が、少年の行く手を阻んだ。

 それでも、少年を止める事は、誰にも出来なかった。

 呪いにより、命を削られ、両腕を失い、片目を失っても、少年は止まらない。

 そして(つい)に、少年は、世界樹の根本へと辿り着いたのだ。




 多くの人々の返り血により、全身を真っ赤に染めた少年が、世界樹の根元を、見詰める。

 大量の血を失い、視界は(すで)に、ぼやけていた。

 だが、少年の瞳には、世界樹と一体となった、(いと)しい少女の姿が、はっきりと映っていた。

 

 ……ああ、やっと会えたね。


 持てる力を振り絞り、少女へと向かい、よろめきながらも進む少年。

 しかし、少女の下へと辿り着いた時、遂に少年は力尽きてしまう。


 悔しいなぁ……もう少しで、この憎い世界を滅ぼせたのに……


 世界樹の根へと、倒れ伏す少年。

 だが、その表情は、憎しみに満ちてはいなかった。

 今際(いまわ)の際に、愛しい少女に会えた事で、彼の憎悪は薄れていたのだ。




 世界樹の根が、倒れた少年を優しく包み込む。

 そして、少年は、世界樹の一部と化した、少女の心を知る。

 自分の事を、一途(いちず)に想ってくれた少年がいたからこそ、少女は、世界を存続させたかったのだと。


 少年は、少女の愛を知り、その想いに涙を流す。

 自分のしてきた事は、彼女の想いを踏みにじってしまったのではないかと。

 少女は、少年に答える。


 そんな事はないよ、と。

 こんなになるまで想ってくれて、嬉しかったよ、と。


 その少女の答えに、少年の心は、満たされてゆく。

 そして、彼女の温もりに包まれて、彼は、その目を静かに閉じた……。




 世界樹は、少年の亡骸(なきがら)を少女の横へと運び、二人の身体を、優しく、その根で(おお)い尽くす。


 もう二度と、引き離されないように。


 安らかに、眠れるようにと……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ