少年と少女は樹の下で眠る
世界樹により、支えられている名もなき世界。
その世界樹を存続させる為に、人々は、百年に一度、巫女を糧として、世界樹に捧げなければならなかった。
その巫女に選ばれたのは、少年の幼馴染である、最愛の少女。
少女は、その役目を静かに受け入れ、周囲の人々も、偉大な役割を託された少女を、喜んで送り出そうとする。
悲しんでいたのは、少年だけだった。
逃げるよう、何度も少女を説得したが、少女は頑として聞かず、周囲から危険な存在として見られた少年は、牢獄へと捕らわれてしまう。
彼が牢から出された時には、少女は既に、その身を世界樹へと捧げていた。
少年は、嘆き、悲しみ、人々の前から姿を消しまう。
そして数年後、魔導へと身を堕とした少年が、呪われた鎧をその身に纏い、世界樹を滅ぼそうと、再び姿を現わせたのだ。
彼女を犠牲にした世界など、滅べばいい。
彼女のいない世界など、滅んでしまえ。
憎き世界樹を斬り倒すべく、少年は憎悪と共に突き進む。
幾多の勇者や英雄達が、少年の行く手を阻んだ。
それでも、少年を止める事は、誰にも出来なかった。
呪いにより、命を削られ、両腕を失い、片目を失っても、少年は止まらない。
そして遂に、少年は、世界樹の根本へと辿り着いたのだ。
多くの人々の返り血により、全身を真っ赤に染めた少年が、世界樹の根元を、見詰める。
大量の血を失い、視界は既に、ぼやけていた。
だが、少年の瞳には、世界樹と一体となった、愛しい少女の姿が、はっきりと映っていた。
……ああ、やっと会えたね。
持てる力を振り絞り、少女へと向かい、よろめきながらも進む少年。
しかし、少女の下へと辿り着いた時、遂に少年は力尽きてしまう。
悔しいなぁ……もう少しで、この憎い世界を滅ぼせたのに……
世界樹の根へと、倒れ伏す少年。
だが、その表情は、憎しみに満ちてはいなかった。
今際の際に、愛しい少女に会えた事で、彼の憎悪は薄れていたのだ。
世界樹の根が、倒れた少年を優しく包み込む。
そして、少年は、世界樹の一部と化した、少女の心を知る。
自分の事を、一途に想ってくれた少年がいたからこそ、少女は、世界を存続させたかったのだと。
少年は、少女の愛を知り、その想いに涙を流す。
自分のしてきた事は、彼女の想いを踏みにじってしまったのではないかと。
少女は、少年に答える。
そんな事はないよ、と。
こんなになるまで想ってくれて、嬉しかったよ、と。
その少女の答えに、少年の心は、満たされてゆく。
そして、彼女の温もりに包まれて、彼は、その目を静かに閉じた……。
世界樹は、少年の亡骸を少女の横へと運び、二人の身体を、優しく、その根で覆い尽くす。
もう二度と、引き離されないように。
安らかに、眠れるようにと……。