一章 別世界へGO! 壱
こんな事になるなんて…。
何も楽しくない…。何もしたくない…。何もできない…。俺に生きる資格なんてものは存在しない…。
この日記を過去の自分に見せてやりたいものだ。そうすればもう少しましな結果になっていたかもしれない。もっと気持ち良くこの日本に戻ってこれたのかもしれない。
何故人間はこんなにも醜いんだ?
領地を奪い合い、人を殺し、金や資源や権利を手に入れる。
もうこんな醜くて腐った世界はうんざりだ…。
だけど俺は死ねるほどの度胸も無ければ簡単に死んでいいほど良い人生を送れていない。
だったら生きよう。
どんなに酷く腐った世界でも、自分には生きる資格なんてないって思い絶望が心から消えなくても、自分は前を向き歩いていくしかないのだから。
‘‘偽りの騎士”と呼ばれし者の最後の日記より引用
何時もと同じ朝。何時もと同じようにご飯を食べる服を着替えるといった行為を流れ作業のように終わしパソコンに向う。そんなこんなで時間が過ぎ昼時を少し過ぎた頃。
ピンポーン…
(ん?誰か来たみたいだけど、どうせ母さんが出るでしょ。)
俺は何時ものように気にもせずパソコンで二◯二◯動画を見続けた。
ピンポーン……ピンポーン…
「ごめん下さーい!
どなたかいらっしゃいませんかー!」
(あれ?
母さんいないのかな?)
ヘッドホンを外し動画を止める。
「はーい!
今行きまーす!」
よいしょっと呟きながら立ち上がり一度背伸びした後にヨロヨロと玄関に向う。
ガチャッ…
「えっと…どちら様ですか?」
玄関の扉を開けると、そこにはキッチリと髪を七三分けにし黒のスーツをビシッと着こなした40後半に見えるおっさんが立っていた。夏だというのにご苦労なことだ。
「突然押しかける形になってしまい申し訳ありません。私、こういう者です」
「あ、いえこれはご丁寧にどうも…」
名刺の受け取り方なんてものは習っていないため、突然差し出された名刺を慌てて片手で受け取ってしまう。
(国家特別機密保護推進課の佐藤さん?
なんでそんな凄そうな人がうちに?)
受け取った名刺にパパッと目をやり、名刺には佐藤と名前の書いてある七三分けの男性に視線を戻す。
「えーと母に何か用事でもあったんですか?すみませんが今いないようなので、また次にいらしてくださると助かります」
久しぶりに敬語を使ったものだから慣れなくてどうしても変な節の入った話し方になってしまう。
「あ、いえいえ違います。私が用事があるのは早坂舟希さん貴方にです」
髪を七三分けにしたおっさんが目を細めて微笑む。
「俺に…あ、いや僕にですか?」
予想だにしてなかったことを言われて思わず聞き返してしまう。だって自分は大学を出た後にろくに就職もせず引きこもりニートになったのだから、国の使いが来て驚かないわけがないのだ。
「はい。では、あまり時間もありませんし本題に入らせて頂きます。
早坂さん、日本のため…いや世界のために山形県に行ってみませんか?」
七三分けのおっさんは顔色ひとつ変えず言う。
「………はい…?」