セディーとニクス
今さらですが、かわいい弟が欲しかった…。
「ねぇ、ニクスゥ。ぼくシルウァに乗せてもらいたいんだけど、どうしたらいーい?」
軒下の、ほど良く陽の当たる酒樽の上でのせっかくの転寝を幼い声が邪魔をする。
仕方なしに瞼を開くと樽の端についたぷくぷくとした手と、それに続く小さな肩、大人の掌で掴めてしまいそうな細い首、ふっくらと丸い頬、妾を見ても何の怯えもない瞳が目に入った。
その瞳には、雪のように白い妾の姿が映っている。
「妾に聞くな。シルウァに直接言えばよかろう。」
「言ってみたけど、ねーねと一緒じゃなきゃダメって。」
何度もお願いしてるのに。と小さい声が続く。
「なら、諦めるがよかろう。マールが戻ったら一緒に乗ればよかろうに。」
「ぜんぜんよくないよ。だからさぁ。ねーねとじゃなくて、一人で乗りたいの!ずるいよ、ねーねはぼくより小さい時からシルウァに乗ってたんだよ。」
誰じゃ、余計なことを言うたのは。
「わらわが此方に来る前の事なぞ知らぬわ。」
「むー。」
大人の真似をして短い腕を組み、思案しいる風なのが可愛いやら可笑しいやら。
シルウァのヤツめ、馬の形をしておるのだから、もったいぶらずに乗せてやればよかろうに。
まあ、妾がこの幼子を気に入りのように、あやつもマールを誰よりも気に入っておるだけなのだろうが、ほんに大人気ない。
「次の新酒を妾に一番に飲ませると約束するなら、口を利いてやってもよい。」
「ほんと!とうさんにおねがいしといてあげる。」
実のところ古株のシルウァに先に献上されるとは思うが、気に入りと言うても、そう易々とお願い事を聞いては妾の矜持が許さぬゆえ、一応それなりの条件を与えねばな。
「ならば往こうか。セディー案内せい。」
笑顔で差し出す腕をするすると登り首にクルリと巻きつくと、幼子は元気に陽の下に駈け出した。
お気づきになりました?
ニクスは白蛇ちゃんです。
(蛇嫌いの方ごめんなさい)