魔法使いと反省
「それで?マドカ、あなたはどうなのよ」
アンナは出て行った後すぐに彼氏に別れを告げ、これまたすぐ私の店に帰ってきた。一応用意しておいた冷たいタオルは、アンナのさっぱりとした笑顔の前に不要となってしまい、あっという間にお茶会という名のアンナによるアンナのための愚痴大会が始まった。そして今、あらかた元彼氏の愚痴をしゃべり終えたのであろう彼女から、なんとも私に縁の無い言葉が飛び出してきた。
「どう・・・って」
「誰かいい人いないの?この世界に来て5年でしょう?もうそろそろいいなあとか思う人出来たんじゃないの」
「いいひと・・・」
「そう!・・・例えば、よくお店にいらっしゃってる騎士団長様とか!」
「騎士団長様?・・・誰」
「え?よくこちらにいらっしゃってるでしょう?クロード・アスカム騎士団長様よ」
「アスカムさんって騎士団長だったの!?」
そんなに身分の高い人だったなんて!
知らなかった・・・。あれ、なんかこの世界に召喚されたばっかりの時、キールさんから紹介されたような・・・。まずい、いくら忘れてたとはいえ、そんな身分の方に結構失礼な振る舞いとかしてたんじゃないか私。
「マドカ、まさか知らなかったの・・・?」
「知らなかったんじゃないよ。・・・・・・忘れてただけで」
「あきれた!あなたのお得意さまでしょうに。・・・団長様も報われないわね」
「店を営むものとして、返す言葉も無いわ・・・。反省します。ところで報われないって何が?」
「いいえこっちの話。それより、今度団長様がお店にいらっしゃった時、ちゃんとお話しなさいよ?お世話になってる方なんだから。そういう日常的な世間話とか、コミュニケーションがないからこんなことになるのよ」
確かにそうだ。
お客様と信頼関係を築くことは経営者として当然のことなのに、アスカムさんが優しいから甘えてしまっていた。だからこんな、お得意様の役職をうろ覚えで日々を過ごすとかこんな事態になってしまったんだ。というか普通思い出すだろうよ私・・・。どこまで関心ないんだ、自分でも少し落ち込むよ。
「そうね、そうする。今まで失礼なことしてたかもしれないから謝らなくちゃいけないしね」
「うん、まああの方がマドカのすることに失礼とか思うわけ無いと思うんだけど・・・。まあいいわ、折角の機会だし一度ゆっくりお話してみなさいな」
所々聞き取れなかったのを問おうとしたのに、アンナは自分の分のお茶を飲んで帰ってしまった。テーブルの上にはアスカムさんがくれたクッキー。あの人は、こんなに私に気遣いしてくれるのに、私は。
「だめだなあ・・・」
ポツリと。
思わずこぼれた言葉は、甘いクッキーの香りがした。




