雨上がり 初夏の想い
連日降り続いていた雨が止んだ。
バケツをひっくり返したように降っていた雨が止んだ。
空は切り裂いたように青空が雲と交互に広がる。
その片隅に小さく
七色の虹が空の端っこを染めた。
「廉!雨止んだよ!!」
窓を覗いていた涼はベッドに身を放り投げて寝ている男に声をかけた。何度かそうしているうちに、ゆっくりと廉は顔をあげる。
小学生のくせに髪は薄い茶色。左耳には空色の丸いピアス。目は切れ長で、だるそうに開けられた目は光を反射させて輝く琥珀色。きゅっと結ばれた口からは2度と言葉は出てこないような感じだ。その口から発せられる声は小学生とは思えないほどの高さで心地よく耳に残る。
「・・・・何?」
「あーもーだからっ!外っ。雨止んだの!!サッカーしよーよ」
しばらくぼーっと夢の余韻にひたっていた廉は、やがてきょとんと目を丸くして窓の外を見た。
あんなに降っていた雨の名残はなく、今は晴れ渡る青空が見えるだけだ。その端っこにある虹を見つけて、廉はフと微笑んだ。
(あ・・・廉が笑ってる・・・)
廉の行動を一部始終見ていた涼は、目を細めて窓の外を見ている廉を見て頬を染めた。
涼が“恋”という言葉を知ったのは幼稚園のときだ。いつも外で楽しそうにサッカーをしている幼馴染の廉に惹かれた。あれからもう5年とちょっと。涼の想いに廉は気づかない。言ってないから当たり前なのだが。
「涼、サッカーしよっか」
しばらく窓の外を眺めていた廉は、くるりと振り返って涼に言った。
昔はコロコロ表情を変えていたのに、今はムスっとした、不機嫌そうな表情しかしない。それでもサッカーをするときだけは今も笑顔が浮かぶ。その笑顔が、涼は大好きだ。
「だからしよーって言ったじゃんか」
そう言って、サッカーボールを片手に涼は玄関から外に飛び出した。
雨上がり特有の、湿ったにおいが空気を漂う。それに重ねるように、お日様の暖かい香りがする。地面はまだ湿っているが水溜りはもうない。
コンクリートで固められた地面を走って、高いフェンスで囲まれた広場に足を踏み入れる。
雨上がりだからか、広場に人影は見えない。その隅っこに置かれたサッカーゴールに向かって、涼はボールをけりながら走り出した。それが合図かのように廉も涼を追って走り出す。
ボールだけを見つめて、涼が蹴っているそれを奪おうと左右に動きながら涼に近づく。
「ぅわっと・・・」
ボールを狙う廉に思わず驚きの声をあげて、涼はまたにっと笑ってゴールに向かって走る。廉はそれを追いかけて、タイミングを狙ってボールを奪おうとする。
初夏特有の蒸し暑さを忘れて、2人はただ一心にボールを追いかけた。
「はぁっはぁっつかっれたぁ・・・」
涼が肩を上下に揺らして呼吸をするのを見ながら、廉はすっかり乾いた地面に座り込んだ。
その横に涼も腰を下ろして、空を見上げた。
いつのまにか雲も虹も消えていて、ただ不気味なぐらい青い空だけが瞳に映る。
しばらくそうしていたが、突然廉は立ち上がって、フェンスに向かって走り出した。
「廉?」
涼の呼びかけはむなしく気の早い蝉の鳴き声にかき消され、廉はどんどん遠ざかっていった。
フェンスまで行くと、廉はフェンス越しに誰かと話している。
胸がチクリと痛む。
廉より少し濃い茶色の髪は肩甲骨より長く、頭には桜色のヘアバンド。肌は貴石の輝きで、強い日差しを綺麗に反射させている。白く細い指を時々形のいい唇にもっていき、嫌気のしない程度の笑みを隠す。桃の花をそのままの色で染みこませたようなワンピースを着て、胸元には銀細工のペンダント。
フェンス越しに話している廉と先の少女は、親しそうに話している。それだけでも心が壊れそうなのに、時々聞こえる笑い声がさらに涼の胸に爪をたてる。
―――彼女。
そう言って廉が紹介してきた、同じ学年の女の子。
心が刻まれていくような感じがした。
廉にとって涼は所詮、幼馴染。恋の対象ではなく、サッカー仲間。
嬉しそうに、楽しそうに。
フェンス越しにしゃべっている2人を見ながら
涼は日の光に溶かされていくような
そんな感覚を味わった。
どどどどどーでしたでしょうか・・・
思いつきで書いてしまったためにまとまりのない話になってしまいましたが・・・読みにくくてスイマセン。精進します。
感想等いただけると嬉しいです。
縁があればまた。三沢でした。