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第七話 外注

主人公にいいように使われるお人好し視点のお話です。

 山中に出たゴブリンの退治。似たような依頼が数ある中、少しだけ報酬がよかったから選んだ冒険者モニカの冒険は終わりを迎えようとしていた。

 手足を拘束され、視界を塞がれたモニカは自分たちの不運を嘆く。

 山中のゴブリン退治は楽勝だった。冒険者になって早一年。新人向けのゴブリン退治はこれで卒業。次からはよりレベルの高い依頼にチャレンジしていつかは英雄と呼ばれるようになるはずだった。

 しかしゴブリンを追い詰め倒した場所は地図にもない山中に埋まる様に作られた建物で、そこを根城にしていた連中と遭遇した。

 モニカたちでは手も足も出ない強さをした男たちがざっと十人。たった三人しかいないモニカたちにどうにか出来るはずもなくあっさり捕まってしまった。

 いや、あっさり捕まったからこそまだ生きているとも言える。

 捕まってからまだ一日と経っていない筈だが視界を塞がれているせいでもう何日も過ぎた様な錯覚に精神が摩耗するなら、唐突に声をかけられたモニカはビクリと反応する。


「おい」

「ッ!?」


 自分たちを監視していた男とは違う声。

 少なくともこれまで監視していた連中はモニカたちに手を出しては来なかったがこの新しい声の主はどうかわからない。

 少しでも身を丸め、無意味な抵抗を見せるモニカに男が続けて質問を投げかけてきた。


「モニカ・レバレッジだな?」

「……あなた誰?」

「俺のことはどうでもいいだろ。イエスかノーか?」

「……」


 男の質問にモニカは口をつぐんで丸一日眠らずに疲弊した頭で思考を回す。

 モニカは元々は貴族の令嬢だったが後継ぎとなる長男が産まれた時に縁を切って冒険者の道を選んだ。

 冒険者になってからレバレッジの性は名乗っていない。だというのに家名を知っている以上貴族である事はバレているだろう。

 であれば素直に認め、家名に泥を塗ることになってでも貴族という立場を利用して仲間だけは見逃してもらうか?


「おいあんまり深読みすんな。助けたのが目的の奴か赤の他人か確認してるだけだ」

「……イエスよ」

「そうか、無駄足にならなくてよかったよ」


 モニカはいつの間にか手足を縛っていた縄が解けている事に気づき、目隠しを取ろうとする。

 だがそれを男が制止する。


「おっと待て待て。見られたらこっちも都合が悪いんだ。そのままちょっと待ってろ」


 そう言って男が何かを投げ、ガラリと大きな音がする。


「ちょっと、あんまり大きな音を鳴らしたら人が」

「今は俺らの貸し切りだ。アンタらの装備は処分されてたから街に帰るまでは連中のお下がりで我慢してくれ。じゃあな」

「ちょっと!」


 モニカが目隠しを取ると部屋を照らす燭台の灯りに目が眩む。

 すぐに視界は回復するがそこには誰もおらす、目の前にはモニカたちを捕らえた男たちと同じ剣や盾が人数分転がっていた。

 仲間たちを起こし、武器を手にしたモニカたちは恐る恐る部屋の外に出る。


「ッ!?」


 そこにはモニカたちが三人がかりで手も足も出なかった連中が気を失った状態で床に転がっていた。

 これだけの人数を相手に戦い、モニカたちがその騒ぎに気づきもしなかったという事は恐らく戦いにもならない一方的な蹂躙だったのだろう。

 モニカたちは自分たちが捕らわれていた部屋にあった縄を使って男たちを拘束していく。

 単なる山賊にしては装備が統一されており、若い女に一切手出しをしない辺り統率が取れ過ぎている。

 何かしら目的を持った組織であるに違いない。

 モニカは自分たちでそれを突き止めるかどうか迷い、その考えは捨てる。

 もし彼らの仲間がまだ残っていて、戻って来たら先日の二の舞だ。

 一度脱出し、ギルドに報告すべきだと決断したモニカたちは日が昇る前に闇夜に乗じて下山した。




 そんなモニカたちを後方から見ていたクライムはようやく一息つく。

 あの調子なら日が昇る頃に麓には降りるだろう。そうなればまず安全だ。


「しっかし気味が悪い」


 ここにはいないフランドールの顔を思い出してクライムは顔を顰める。

 月の雫で見た依頼書に書かれた地図と共に記載された冒険者たちの進行ルートの想定に沿って行動したクライムだったがその想定がおかしいくらいに一致したからだ。街を出発してから山に入るまでの間のどこで野営するか。山に入ってからどう進み、どの辺りで件のゴブリンと遭遇するか。その遭遇ポイントでゴブリンとの戦闘跡を見つけた時は目を覆った。まるで見て来たようで不気味としか言いようがない。

 流石に謎の黒ずくめ集団に捕まっているまでは当ててはいなかったがそもそもあの隠れ家めいた建物を見つけられたのもゴブリンを取り逃した際の追跡ルートの想定に沿ってみたからだ。

 仮にゴブリンを倒し、無事戻れていたら受付嬢の予測通りの時間にモニカたちはギルドを訪れたに違いない。


「そういえば報酬の受け渡しもクソ早かったな」


 クライムは冒険者の頃をふと思い出す。いつ冒険者ギルドに行っても受付に座っており、依頼達成の報告をしてから報酬の用意をしにいく他の受付嬢たちと異なり、報告を聞いたその場で出して来た。今思えばあれもクライムたちが帰って来るタイミングを見計らってあらかじめ用意していたのだろう。

 クライムがやらかしたあの時もそうして待っていたのだろうか? そんな考えが今更ながらよぎる。

 当時、クライムの妹ルティが大病に罹り治療のために大金が必要だった。そんなタイミングで護衛中の隊商の馬車がモンスターに襲われ、積んでいた財宝が目の前で散乱したのを見た時ついそれを懐に収めた。


 魔が差したとしか言いようがない。


 妹の治療が済んだ後にそれが露見し、冒険者としての地位も仲間もルティからの信頼も失った。

 それから兄の負債を払うためにとルティはその隊商が所属する商業ギルドに入り、国を出た。それから一切連絡も来なくなってから程なくして亡くなったという訃報が届いていよいよどうでも良くなって裏稼業にまで手を染めたのだ。


 天職に出戻った方がいいんじゃないですか?


 あっけらかんに言うフランドールの言葉が蘇る。

 間違いなくあの一件で一番貧乏くじを引かされた奴が言う台詞ではない。クライムに代わって隊商と商業ギルドに土下座までしたのを忘れたわけではあるまいに。

 今更冒険者に戻る気はない。だが、たまには顔を見せて今回のような表に出せない仕事をするくらいなら僅かにでも贖罪になるかも知れない。



 結局街までモニカたちが無事に帰れたのを見送ったあたりで眠気に襲われる。完徹なんて久方ぶりだったからだろう。

 

 クライム一眠りしたら今後の身の振りをもう一度考える事にしてあくびを噛み殺しながら歩き出した。



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