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第二話 ワンオペレーション②

 私が現着した時にはすでに駆けつけていた冒険者たちによって戦闘は収まっていた。


 結果的に魔導式ゴーレムによる被害は貸し倉庫三棟、厩舎二棟、馬車三台、馬三頭、積荷類が十二箱。幸い人的被害は軽微で倉庫番が一名。御者の男性が二名。駆けつけた冒険者五名。いずれも軽傷だ。

 一方で暴れた魔導式ゴーレムは見事な壊れっぷりで原型は皆無の木っ端微塵である。

 私は周囲からの聞き取りを済ませると今回の功労者に話しかける。


「あー派手にやりましたねぇ」

「再生機能まで備えたゴーレムだぞ? 手加減なんてできねーよギルマス」

「ギルマス代理ですから。ここ大事ですよガルボーさん」


 在籍している冒険者の中では最年長の白髪でマッチョな男性ガルボーさんにもう何度目かわからない指摘をする。本当はギルドマスターなんて重責は背負いたくないのだ。まあもう誰も彼もギルマスと呼ぶようになってるから手遅れかもしれないけど。


「そちらは怪我人は出ましたか? 一応ポーションは持って来てるんで必要ならあげますよ?」

「コッチは誰もやられてねぇよ。この俺が率いたパーティーだぞ? というかタダで配ってんのか?」

「まさかぁ、消費期限ギリギリのヤツを押し売りしてます」

「いらねぇ……ところで後ろからぞろぞろくっ付いて回ってんのはなんだ?」


 ガルボーさんが指差しているのは私の書き置きを見て現場までやってきた依頼人たちだ。

 木っ端微塵になったゴーレムを見ながらどよめく彼らから依頼内容を聞き出して依頼票を作るのは手間だが放置したら後が地獄なので事後処理と受付業務を並行しているのである。


「午前中に受付が済まなかった依頼人の方々です。あ、ちょうどガルボーさんたちにやってもらおうと思ってた依頼があったんですよ……はいどうぞ!」


 鞄から引っ張り出した依頼票の束を手渡されたガルボーさんの表情は何とも言い難い味のある表情をしていた。


「まあ、やるけどよ……ちったぁ休めよギルマス」

「大丈夫ですよ休んでますから」


 当人比ではあるけど。


「で? このゴミ……ゴーレムの持ち主は?」

「さあな。見た奴の話じゃバラしてたゴーレムが一人でに組み上がって暴れたとよ。どこにも銘が刻印されてないから違法だぞこのゴーレム」

「まだ事態がややこしくなるんですか」


 ゴーレムの暴走の時点で面倒なのに製作者も持ち主も不明の違法ゴーレムとかもはや事故ではなく事件の香りしかしない。

 私は依頼人の中から目当ての人物を見つけて声をかける。


「ロックさーん」

「あ、やっと僕の番が回ってきた?」


 灰色のつば付き帽子を被った眼鏡の優男はへらへらとした表情を浮かべながら手にした依頼票を出してくる。

 この街唯一の新聞屋の記者だけあって事前に依頼内容を書いて来てくれるから受付が手早く済む優良な顧客だ。

 依頼内容を流し読みして依頼金の算出を済ませた私は上着の内ポケットから金貨を取り出し握らせる。


「え? 何このお金怖いんだけど」

「お預かりした依頼は手配しておきますのでロックさんにはこのゴーレムの出所洗ってもらえます? 壊れた馬車や厩舎はローゼン商会の所有になるのでそっちから調べてください」

「何で依頼に来た僕が逆に依頼されてるの……?」


 などと言いながら金貨を懐にしまうと手にした手帳にメモを取り出す。私が依頼しなくてもこの騒ぎを記事にしない記者など記者ではない。

 どの道事件に首を突っ込むのだから安全なところから調べさせた方がいいだろう。


「集まった情報は明日教えてください。あとどうせ号外も出すでしょうから私が、即座に、冒険者の皆さんを手配して解決したことは強調してくださいね? あ、私からのコメントはこれで」


 羊皮紙の切れ端にささっとペンで書き込んで渡す。それを見てロックさんは怪訝そうな表情を浮かべた。


「これいいの? ……ギルマスってトラブルを嫌う割にはいつも自分から首突っ込むよね?」


 そんな疑問に対し、私は笑顔で答えた。


「だって突っ込まなくても巻き込まれますし。なら早く対応して早く終わらせたほうが効率がいいじゃないですか……あ、すみませーん。受付滞ってました。整理券二十八番の方来てくださーい!」


 呆れたような顔をするロックさんを送り出して私はまだまだいる依頼人たちの受付業務を再開する。

 その間にも鐘の音を聞いて今更ながら集まってきた冒険者たちが暇を持て余していたのでゴーレムの破片や瓦礫を撤去するよう依頼を投げる。

 土木作業をしに来たわけじゃないと文句を言う人もいたが迷子のペット探しに比べたらマシだと言いくるめる。

 結局現場の後処理と受付業務が終わったのは日も暮れ始めた頃だった。


「はい皆さんお疲れ様です。有事に際してこの集まりの良さにギルドマスター代理として誇りに思います。私からの感謝の気持ちを胸にお気をつけてお帰りください」


 深く礼をする私に対し、それはいいから金を払えとヤジが飛んでくる。もちろん踏み倒す気は毛頭ない。ワンチャンあるかもと期待はしたけど。


「やだなぁ冗談ですよ。それじゃあ報酬をお渡しするので皆さんギルド支部まで行きましょう」


 先頭を歩く私は強面だったり怪しい風貌だったりと見た目が派手な冒険者たちをゾロゾロ引き連れてギルド支部に向かう。


「……」


 チラリと振り向き付いてくる冒険者たちの顔を見る。仕事を終え、臨時収入で飲みに行く話で盛り上がったり私が合間を見て個別に渡していた依頼票と睨めっこしながら予定を立てる冒険者たちの中に混じって私が知らない顔がチラホラ見える。


「ギルマス〜」

「シュラさん。どうかしましたか?」


 私の隣にやって来たのは赤い目をした金髪の美少女、シュラさんだった。

 小柄な体格にブカブカな白いローブを着込んだ彼女はギルド支部に所属するシーフの中ではトップ帯の実力者なのだが素行の悪さが原因で他所の冒険者ギルドで等級が三回降格し、いよいよ除名処分が下るかどうかという時にこの辺境の街に移り住んだ冒険者だ。


「なんかさぁ、ギルマスにやーな視線を送ってるクソが何匹かいるからシメちゃっていい?」

「……三人ですか?」


 殺しちゃっていい? と言わなくなった事に成長を感じながら私が見知らぬ冒険者の数を答えるとシュラさんの目が丸くなる。


「当たり。えー、ギルマス殺気とかわかるようになったんだぁ。えらーい」

「いやわかんないですよ。え? 殺気送られてるんですか? 現在進行形で? こわ」


 現場で受付業務をしながら集まって来ていた野次馬から聞いた話だと倒壊した建物の一部は冒険者たちによる攻撃が原因らしいが大部分は違法ゴーレムの暴走によるもの。損害を受けたのは主にローゼン商会の所有する建物とその関係者だけ。

 あの辺りは他の商会などの建物も立ち並ぶ商業地区にも関わらずだ。


 偶然にしては出来すぎている。


 冒険者たちによりゴーレムが早期に破壊されたから他の商会には被害が出なかったとも言えるが、倒壊した倉庫は以前から仕入れていた情報によるとローゼン商会が裏でこっそりと密輸している商品を保管していた倉庫というのもきな臭い。

 証拠隠滅か商売敵による妨害か迷ったが……。


「私の命を狙ってるってことは外から来た人かなぁ?」


 仮にも冒険者ギルドのギルドマスター代理だ。この街に暮らすアウトローな連中ならそれくらい知ってるので冒険者ギルドに喧嘩を売ったりはしないはずだ。


「じゃあ殺す?」

「ダメですよ? それに業務妨害のツケを払ってもらわないといけませんし」

「……妨害されてんの?」


 私が肩から下げた鞄に詰まった羊皮紙の束を指でなぞりながらシュラさんが怪訝そうな表情を見せる。

 結局現場確認をしながら整理券を持っていった依頼人から依頼受託を全て済ませ、冒険者への委託書まで書き上げた。 何なら現場での駆け込み依頼もあって羊皮紙が足りなかったので頭の中で受けた依頼内容を忘れないようにするのが大変だ。


「まあこれくらいなら通常営業みたいなものですけど……シュラさんの時は業務が丸一日停滞して死にましたが」


 昔の事を蒸し返そうとしたらシュラさんは目を逸らす。


「は、反省してるよ?」


 藪蛇を突いたような顔になってシュラさんはそそくさと離れようとしたのでそのローブの裾を掴む。


「ちょうどシュラさんに依頼したい案件が沢山あるのでお願いします。三日で終わりますよね?」


 受け取った依頼票の束を流し読みしたシュラさんが眉間に皺を寄せる。


「……本気出したら一日で済ませるけど?」

「ダメです。冒険者さんは身体が資本。無理してはいけません。しっかり休まないと」

「そっちこそ最近休んだ? 家に帰って来てる様子が見られないんだけど」


 なんで私の家を知っているのだろうか? 私だって覚えてないのに。


「今後帰る時は案内してください」

「……ギルマスの自宅だよね?」




◼︎




「臨時クエストの報酬を受け取った方はこちらにサインをお願いしまーす。字が書けない人は拇印でも結構でーす」


 ギルド支部に戻るや否や、冒険者たちへの報酬支払いに取り掛かる。


「ねぇギルマス、俺の報酬少なくない?」

「レオンさんは最後の方に来て瓦礫をちょっと運んだだけじゃないですか。出るだけ感謝してください」

「えぇ、いつ見てたのぉ」

「虚偽報告は降級に直結しますよ。あと少しで昇級試験なんですから……また三級試験を受けますか?」

「はい、ちょろっと岩運んで後はダベってました」

「よろしい。はい次」

「相変わらずだな、どこに目をつけてるんだか」

「みんなと同じところですよ。はいガルボーさんたちの分。内訳はそっちで決めてください」


 金貨が詰まった皮袋をカウンターに置く。一度の仕事でこれだけ稼げる仕事は滅多にない。冒険者になりたがる人が多い理由だ……大半は大成するまえに引退するか死んでしまうが。


「いいのかこんなに? 今日のヤマは誰がギルドへ支払うんだ?」

「そんなの領主様に決まってるじゃないですか。自分の自治領での事故なんですから。払いたくなかったら違法ゴーレムの持ち主探しの依頼を流すよう促しますよ」

「事故ねぇ……表で張ってる連中が犯人なんじゃねぇの?」

「あ、ガルボーさんも気付いてました?」

「当然だ……アレを暴れさせた奴からすればギルマスは速攻で冒険者を寄越した邪魔者だからな。消しに来たんじゃねぇの?」

「別に私が何かしなくても近くにいた正義感のある冒険者さんが倒してくれてたと思うんですけどね」


 そんな話をしながら今回の騒ぎで動いてくれた冒険者全員に報酬が行き渡ったのを確認し、書面をまとめていく。今回ゴーレムを直接倒したガルボーさんたちのパーティーが最も額が大きい。

 そんな功労者がわざわざ最後まで待ってから受け取りに来たのも彼らと自分たちの報酬の差を目の当たりにして金額を吊り上げられないかいちいち交渉してくる冒険者によって業務が遅延しないよう気を遣ってくれたんだろう。まさにデキる冒険者だ。花丸。


「そうすると犯人が次にどう行動するか読めなくなるからゾロゾロ人を引き連れて目立ってたんだろ? 計画的な犯行だとしたらそれを邪魔した奴に報復しにくるだろうからな」

「人を引き連れてたのはそれが理由じゃないんですけどね……はい、午後の受託分でガルボーさんたちなら楽勝な依頼です。お納めください」

「まだあんのか……それより表の連中はどうするんだ? 知らねぇ仲じゃないんだからとっ捕まえてやろうか?」


 サラッと依頼票の束を受け取るあたり本当に頼りになる。でも仕事で甘えている分、私事に手を借りるつもりはなかった。


「ほっといていいですよ。多分私が帰路についたところで攫う気だと思うのでしばらくは仲間を集めてるでしょうから」

「帰路で? 連中ギルマスが家に帰ると思ってるのか」

「だから夜になったら痺れを切らしてここに押し入ってくるでしょうから大丈夫です」

「……わかったよ。そっちは心配なさそうだがたまには休まねーと身体を壊すぞ」

「大丈夫ですよ。これがありますから」


 ガラス瓶に入った緑色の液体を揺らして笑顔を作る。


「疲れも眠気も身体の痛みも吹っ飛ばすハイポーションです。流通量は少ないんですが無理言って仕入れてもらったんです。これ飲んだら三日三晩は不眠不休でいけます」


 ちなみに価格は私の一月分の給金に相当するので仕事を片付けるために使ったらタダ働き確定の最終手段であり、今がまさにその時である。


「何でもう経験済みなんだよ……マジで過労死するぞギルマス」

「あ、ならガルボーさん、娘さんがそろそろ成人ですし受付嬢なんていかがですか? 今なら面接無しの即採用高待遇で私が手取り足取り」

「おっとこの依頼手早く済ませねーと」

「はーい、いってらっしゃい。お気をつけて〜」


 目にも止まらぬ早さで消えるガルボーさんに手を振って書類に目を落とす。


「いいもんいいもん。今年は新人確保のための求人募集に予算をかけたからきっと沢山応募がくるもん」


『急募! 貴女も冒険者ギルドで働きませんか? 笑顔が絶えないアットホームな職場です!』


 そんな見出しで笑顔でポーズを決めた私の写真がデカデカと載った求人チラシをロックさんの協力を得て新聞に挟んだり街の至るところに張り出したのが数日前。聞いた話では普段新聞を読まない層も購入に訪れたり張り出したチラシは軒並み剥がされ持ち去られているらしい。

 面接日は一週間後。私は来たる新人たちが働きやすい環境造りを一年以上前から業務の合間に行い続けて来た。


「次の新人はみんな長続きする! 目指せ定時復活! ノー残業! 頑張れ私!」


 私は自分に喝を入れ、ハイポーションをあおる。

 相変わらず効能に振り切った結果体内に入れるモノとしては最低最悪の味に辟易しながらも羽ペンをインク壺に浸して記憶にある依頼内容の書き出しに取り掛かるのだった。



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