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第十七話 閃光の晩餐会②



 静まり返った会場に現れたのはツインドリル……じゃなくて真紅のドレスに身を包んだ高貴かつ傲慢な性格が透けて見える冷たく鋭い目付きをした美女だった。


 特に目を惹かれるのはその髪型だろう。


 黄金のように美しい髪はこれでもかというくらいにくるっくるにカールしており、一言でいうとドリルみたいだった。 それが二本もぶら下がっているのだから目立つ目立つ。

 そんなツインドリルを装備した第一王女ルイナス様の登場に会場はもちろんゼニス様まで飲まれている。

 いや、仕方ないよこれは……まだ若い領主の主催する晩餐会、参加した貴族の中には当主ではなくその息子や娘といった社交界の練習台として寄越された人たちもいるというのに初手王族との邂逅である。何なら当主クラスだって事前連絡無しはビビだろう。


 私は来賓席から見えないように身を屈め、大きな音を立てて拍手をする。


 会場にいる人からは私は見えないだろうがその音が拍手である事と目の前にいる王女の存在が現実であると頭の中で結びついた瞬間、一斉に会場が万雷の拍手で満たされる。

 それに対してルイナス様はさも当然といった様子で会場内を歩く。第一王女は見え透いたお世辞や遜った態度を不快と受け取らず、そうさせている自分の美と権力に酔いしれるタイプだというのは昔で聞いたことがあったが正しかったようだ。


「あ、トニーさん」


 すごいドヤ顔をしているルイナス様の後ろを歩いているのは私もよく知る冒険者、トニーさんだった。

 相変わらずキラキラとした雰囲気と光を纏い、そのイケメンっぷりを遺憾なく発揮している。

 服の趣味が変わったのか冒険者然としていた革鎧からまるで物語に出て来る騎士のような白いマントをたなびかせ、腰に佩いた剣もまた白い鞘に金の装飾というやけに派手な代物だ。


 なんとなく、私の胸がざわつく。


 トニーさんは生まれも育ちも辺境の片隅にある小さな農村だったがモンスターによって滅ぼされ、今はもう存在していない。それがトニーさんが冒険者になるキッカケだったと話してくれたころの素朴な青年から変わってしまったような気がしている。


「都会デビューしちゃったかな?」


 田舎から都会に出た冒険者は色々と環境が変わるためガラリと性格が変わる人が稀にいる。

 トニーさんみたいに素朴で純情なタイプは意外と染まりやすい……でもその辺りはセレナちゃんが上手くやりそうなんだけどなぁ。

 私がトニーさんを目で追っている間にルイナス様は壇上に上がっていた。

 会場を見渡すその美貌に会場内を埋め尽くしていた拍手が止むと凛とした声が会場に響く。


「ルイナス・セント・エルドラドよ。皆の衆、今夜は彼女が主催した晩餐会によく集まってくれたわ……意外と人望はあるのねサーティン卿」

「はっお褒めに預かり光栄です殿下」

「別に褒めてはないけれどね。さて、私が今夜こうして非公式に来た理由を説明する前に腹拵えといきましょうか。いつまでも待合室でいるのも窮屈だものね……サーティン卿、ホストとして会場までエスコートをお願い出来るかしら?」


 嫌なやつだなぁ。それが私の率直かつ素直な感想だ。

 周りを見たってここがその会場なのは分かり切ってるのに性格が悪い。

 流石にこんなシチュエーションは想定していなかったのかゼニス様が固まっている。うん、私もせいぜい会場の狭さをディスるくらいだと思っていたが会場とすら認めないとは王族の価値観にビビる。いや流石にルイナス様が性格悪いだけだよね?

 ゼニス様がどう返したものか硬直しているとルイナス様はネチネチとここに来るまでの警備の質の悪さや憲兵の態度など今ここで言うべきではない話を始める。

 まるで大勢の部下の前で失敗した一人を怒鳴り散らす上司のようだ。ホストの落ち度を招待客の前で指摘するなよマジで。褒めるのは大勢の前で、叱るのは一対一でなんて常識ですよ。

 そしてついにはゼニス様のドレスの質素さにまで領主としての誇りがうんぬんかんぬんと喋り出したあたりで私はつい行動に移した。いや、動いてしまっていた。


「ファイナンス様!?」

 

 マリーさんの悲鳴のような呼びかけを背に、私は貴賓室から下の会場に向かってダイブした。

 大丈夫大丈夫、受付嬢の制服には様々な魔法を付与している。2階くらいからの高さなら落下速度を減衰させながら華麗に着地出来る。


 惜しむらくは今夜は受付嬢の制服ではなく一張羅のドレスだったという事だ。



 華麗な着地で会場の息を飲むつもりがド派手な着地で度肝を抜いてしまったらしく会場警備の憲兵はもちろんトニーさんまで剣に手を伸ばしたところで固まっており、ルイナス様を含めて会場の注目を独り占めである。

 ……おお、この視線の冷たさと空気の重さはクライムさんのやらかした一件で謝罪しに行った商業ギルドのお歴々が並ぶ大会議室以来だ。ゾクゾクしてきた。


「失礼、道に迷ってしまって遅れてしまいました」

「……なんだ貴様」


 よかった、流石に興味を引けたらしい。


 幸いお洒落は足元からという教えに倣って靴には予算を掛けただけあってヒールも折れていない。足はめちゃくちゃ痛いけどそんな痛みは無視して壇上の前に躍り出る。


「冒険者ギルド辺境支部を預かっております、ギルドマスターのフランドール・ファイナンスと申します。此度は領主ゼニス・サーティン様から晩餐会での司会進行を仰せつかっております」

「ちょ」


 ゼニス様たちの顔が強張る。そりゃ頼まれてないしね。

 まあそんな事はお構いなしだ。ここで王女のヘイトスピーチを止められるのは国のしがらみがない冒険者ギルドの私だけだ。支部では一番の権力者であることを示すためにあえて代理という事も伏せておく。


「遅ればせながらここからは私が取り仕切らせていただきます。そろそろレバレッジ様からも会場の皆様へ一言いただきませんと!」

「レバレッジ……?」


隅っこにいた青いドレスを着たモニカさんが自分を指差しながらマジで? って顔で驚愕の表情を浮かべている。私が手招きすると覚悟を決めたのかモニカさんは壇上へと向かって歩いて来た。


「ご無沙汰しております殿下。この度はお目にかかることができて、大変光栄に存じます」

「……レバレッジの娘が何故ここに?」

「レバレッジ様と今代当主のゼニス様は以前から懇意の仲ですから。此度の晩餐会の知らせを聞いて馳せ参じてくださったのです」

「貴様は黙ってろ。で、今の話は誠か? モニカ・レバレッジ」

「もちろんです殿下。ゼニス様とは長年乗馬仲間でして」


 ゼニス様乗馬出来たっけ? ……あ、あの顔は絶対出来ないな。

 それに本当は今日顔を合わせた間柄だけど友情に時間は関係ない。出会ったその日に親友なんてよくある話だ。特に王女のようにヘイトを稼ぐ共通の敵がいれば尚更だ……なんか私を見る二人の目がおっかないけど。共通の敵はもしかして私? まさかね。

 ……というかレバレッジの名前は当然としてモニカさん個人まで把握してたとは。流石十二貴族の一角だけあって王族とは顔合わせは済んでいたか、話がスムーズで助かる。


「ではモニカ・レバレッジ様からの一言をいただきましたらゼニス様より乾杯のご挨拶を」


 壇上に上がっていたルイナス様がゴミを見る様な目で私を見下ろすとそのツインドリルを翻して壇上を降りる。王族としては品位に欠けるヘイトスピーチをレバレッジの参加する晩餐会でつらつらと続けるのは悪手と判断したのだろう。

 威圧すら感じる歩き方で私の横を過ぎ去る瞬間、低くドスの効いた声でルイナス王女が囁いた。


「このままギルドマスターなどという地位にいられると思うなよ? 貴様など木端の受付嬢に貶めてやる」


 そう言って過ぎ去ったルイナス様の後ろで私はついグッと握り拳を作る。


 というかそっちが本業だからむしろ望むところだが!? いやー王女の圧力じゃしょうがないし王国とギルドの関係性のためにもギルドマスター代理は辞任しなきゃなぁ。必要な犠牲になるのは仕方ない、本当に仕方ない。しゃあっ、思わぬ方向から私の味方が現れた!

 人助けをすると巡り巡って自分に返って来る事を実感しながら私が内心テンションを上げている間に調子を取り戻したゼニス様から乾杯の挨拶と共に晩餐会は幕を開けた。



多分ヒーロー着地してます。

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