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第十一話 ワンオペレーション⑥

 人には何故目が二つあり、耳が二つあり、腕が二本あるのか?

 それは人一人が二人分の事務作業をこなす為である。


「はい、ではご用件をどうぞ。はい、その書類で大丈夫です。それでは明日もう一度いらしてください。お気をつけて。畑に住み着いたワーム駆除のご依頼ですね。体長や体表の色や模様はわかりますか? はいそちらの杖を持った方、ゆっくりでいいですから足元にお気をつけていらしてください。あ! そこの紺色のコートを着た方、ギルド内での喫煙はご遠慮ください。ええと体長は成人男性ほどで色は緑、模様は丸い斑点……一般的なグリーンワームですね。刺激しなければ人は襲わないので村の人たちには畑に近寄らないよう注意喚起をお願いします。冒険者さんでしたら明日までに派遣が出来ますので……はい、冒険者ギルドへようこそ。ご用件をお伺いします。はい、そのまま話していただいて結構ですよ。えーと畑の被害に関しての補償については農業ギルドに登録されている農村でしたら被害を起こしたモンスターや災害によって金額が決まっておりますので後ほど農業ギルドへご確認をお願いします。証明となるモンスターの遺体は討伐後そちらにお引き渡しになります。はい、ご依頼内容を復唱いたしますね。隣町に住む息子夫婦さんへのお荷物の配送ですね。冒険者ギルドを利用しての配送ですと中身の確認が必須事項となりますがよろしいですか? はい、ではお預かりいたします。この椅子に掛けてお待ちください。 よいしょっ……あ、すいませんありがとうございます。はい次の方どうぞ! 依頼内容をお伺いいたします……モンスターの遺体搬送は有償となりますが……構いませんか? 承知いたしました。では依頼金をお預かりいたします。確認いたしますので少々お待ちください。お待たせしました問題ございません。そうしましたらこちらの配送は明日となりますがよろしいですね? はい、確かにお預かりしました。依頼金は……はい、結構です。あ、椅子はそのままでいいですよ。お気をつけてお帰りください。 はいこちらも問題ございません。お待たせしてしまい申し訳ございません。農業ギルドは東門まで行けば看板がありますので、はい。ではお気をつけてお帰りください。次の方どうぞ! ええとすみません、ちゃんとお聞きしてます。鉱山から交易都市までの護衛ですね。期日は三日後。帰りは交易都市で待機している専属契約の傭兵団の方に頼むので片道分。積載資源はこの鉱山ですと鉄鉱石ですか? 魔鉱石はモンスターを引き寄せやすいため少量でも混ざっていると護衛する冒険者を増やさないと危険なため正確にお願いします」


 今朝の遅れを取り戻すが如く、一秒足りとも手も口も思考も休めず動かし続ける。

 腕が二本あるなら仕事が倍こなせるじゃないかという天才的発想により元々右利きだった私は左手も右手に遜色ないほど達筆になるまでギルド内で処理する書類で訓練し、今ではほぼ見分けがつかないレベルにまで至った。後は口が二つあれば通常の三倍の速度で仕事が出来るのだがその見た目では凄腕の受付嬢というよりは化け物になってしまう。

 というかシンプルにあと一人受付嬢が増えるだけで大きく改善されるのだ。そのたった一人がまるで現れないんだけど。

 依頼人に混じって冒険者たちからの完了報告や斡旋も始まり表向きの営業時間の終わりが間近だと悟る。

 街に残っている冒険者の人数と今日受けた依頼に必要な人数は問題なく捌けるはず。大型案件さえ被らなければ、だけど。

 とはいえ今キャパオーバーするような依頼なんてドラゴンの襲来や王族の護衛なんていう数も質も必要な案件くらいだろう。

 ドラゴンなんてそう滅多に現れるモンスターではないし王族なんてそれよりレアだ。というか王都にいた時だって王族が関わる案件なんて一度しかなかった。


「冒険者ギルドへようこそ!」


 だから再び姿を見せたアルムさんにだって私は満面の笑みを見せるのだ。


◼︎



 どれだけ私の運が悪かったって今朝の出来事が底値、そう思っていた私の考えをアルムさんは見事に打ち砕いてくれた。


「王族の方がなにしに来るんですか」

「それをギルドマスターに共有する義務はない」


 万が一にも他人に盗み聞きされない場所をという事でギルドマスターの執務室に案件するや否や本題に入ったアルムさんから語られた内容は王族の来訪というとんでもないビッグイベントだった。


「こちらに来られるルートは護衛の面から前日までは秘匿情報となる。ギルドマスターにはこの三つのルートに最低でも二級以上の冒険者を配置してもらう」


 アルムさんから提示されたのは王都から辺境に向かうまでの代表的な所要ルートだ。

 三箇所も配置したら街の二級以上の冒険者が枯渇してしまうが幸いな事にその心配は無くなった。


「いやここだけでいいですよ」

「何故だ」

「他のルートにはしばらくガルボーさんたちとシュラさんが それぞれ別件で依頼をこなしているので。もしそこで馬車を襲撃しようとするモンスターや野盗がいたら倒してくれますから」

「依頼もされていないのにか?」

「私が信頼する冒険者さんは目の前で困った人を見捨てない人間が出来た人たちですから」


 だから事後報告で死にかける時もある。いや、報告されないよりかはマシだけれども。


「クライム・エッジの件はどう考えている?」


 むふー、と自慢げに胸を張る私にアルムさんが冷や水をかけて来る。

 あれは例外だ。過ぎたお人好しは常識では測れない行動に移すのだから。


「それにシュラとかいう冒険者、確か二年前に冒険者ギルドで立て篭もり事件を起こした奴だろ? 全く信用出来ないが」

「大丈夫ですって。あれからシュラさんは一から常識を学び人間社会の仕組みを理解したスーパーシュラさんへと成長を遂げました。悪人と善人の区別もちゃんと付くんですよ?」

「それを聞いて安心しろと? 無茶を言うな……で、残りのルートには誰が付く?」

「……アルムさんなんか急いでます?」


 いつもなら散々嫌味を混じえたほのぼのトークで盛り上がるのだが妙に先を急いでるように見える。

 もしかしてこの計画書の締切今日じゃないよね?


「別に……」


 めちゃくちゃそっぽ向くじゃん。図星?

 アルムさんってフルフェイスの兜を被っているから全く表情が読めないのに感情がわかりやすいんだよな。


「まあ私としても急いでいるので……ちなみに王族の方に付いている警護は何名ほどなんですか? 五十? 百?」

「御者や侍女を除いて一名だ」


 ひょっとして計画的な暗殺か何かで?


「大丈夫ですか? 私たち碌でもない話に巻き込まれてません?」

「……殿下自ら決められた事らしいからな。あちらの人員に口など出せんよ。だから万全を期す為、こうして冒険者ギルドにも依頼を出しに来たんだ」

「大変ですねぇ……で、護衛はどこかの騎士様ですか?」

「トニーとかいう冒険者だ。なんでも二つ名を最近得たと聞いたが有名なのか?」

「……」


 仮にもこっちでエースだったんですが。もしかしてアルムさんって問題児しか記憶に残らないタイプ?

 とはいえ久しぶりに名前を聞いて私は安堵から背伸びをする。


「あーなんか色々考えて損しちゃいましたね。もう他の護衛とか無しで大丈夫ですよ」

「いや、そうはいかんだろその冒険者がどれだけ強かろうとだな」

「アルムさんアルムさん、これこれ。トニーさんは一人でこれ倒して来るような人ですからどうせ力を入れるなら別のところにしましょうよ」


 私が指差す先に視線を向けたアルムさんが兜で隠れている目を見開くのがわかる。

 ギルドマスターの執務室とはそのギルド支部最高権力者の部屋である。増改築するにあたって力を入れた部屋の一つだ。例え趣味でないとしてもあらゆる調度品は最高級に、かといって下品な派手さは控えてるけどただ一点、悪趣味なモノを飾ってある。

 冒険者ギルドが力を示す為にギルドマスターは支部で倒した最強のモンスターの剥製を飾るという習わしがある。

 それに従ってギルドマスター代理になった私が新しく何かを飾ろうとした時トニーさんがある物を用意してくれた。


 討伐不可とまで呼ばれた七体のドラゴン、その中でも最も人類圏を脅かしたとされる赤帝竜の首で私はそれを執務室の天井から見下ろすようにして飾っている。


「一人……?」


 アルムさんは見上げたまま固まってしまった。まあ無理もない。

 死後二年が経過してなお生きているかのような圧倒的な存在感だ。

 仮に生きたコレに対峙すればそれだけで私なら死ねる……たまにだけど唸り声のような音が聞こえて来るのは家鳴りみたいなものだよね?

 それにしても狙い通りの効果が確認出来た。

 普通剥製はギルドのエントランスに飾ることが多い。まあ誰もが目にする場所だしね。王都もドラゴンを飾っていたはずだ。

 しかし私は普段誰も目にしない執務室を選んだ。

 目的は私に全く足りていない覇気を補うためだ。

 

 ハッキリ言おう。他の支部のギルドマスターみんな怖い!


 同じ空間にいたら殺されそうな雰囲気すらある。前ギルドマスターが蒸発し、残された受付嬢の中で最も古株となっていた私は彼らの前に引き摺り出され散々な目にあった。

 もはや会話の内容すら覚えていないがなんか周りを固められてめちゃくちゃ詰められたのは覚えている。

 あの覇気の前には嫌なことすらハイと答えなければならない圧があった。

 

 そうして気づいた時にはギルドマスター代理である。


 なってしまった以上腹を括るのが私だ。

 ギルドマスター代理になった以上、ギルド関係者だけでなく国の御偉方と会う機会もあるだろう。そのための戦いの場こそこの執務室だ。

 大抵の人はまあこの部屋に入ったら雰囲気に呑まれる。おかげでギルドマスター代理になった後にクレーマーが来た時もなんとか乗り越えた。


「そんな訳で道中はトニーさんに丸投げで大丈夫です。それより王族の方が来るのに街の治安良くなくないですか? そっち先潰しましょうよ。いたいけな庶民が朝っぱらから矢で射抜かれるような街は不味いですって」

「その犯人は今牢にいるだろう」

「牢に入れられてんですか!? 早く返してくださいね?」

「あの男自分から牢に押し入って来たからな? 後で引き取りに来い……というかギルドマスター、お前矢はどうした?」

「引っこ抜きました……あの……なんで引くんですか」


 なんで赤帝竜の首を見た時より後退りするんですか。


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― 新着の感想 ―
 思うんですが所属する冒険者は、少数ながら精鋭揃い、実力はトップランカーどころかイレギュラークラスまで混じってる。ギルドへの依頼も充分取れているしそのタスクもさして滞ることなく達成されているようだし。…
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