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第十話 不良在庫に救われた命

 冒険者ギルド支部内に作られた浴室横の脱衣所にある長椅子に座った私は目を固く閉じて覚悟を決める。


「〜〜ッ!」


 このままでは私の血を吸って成長しかねない矢を引き抜き、私は苦悶の表情を浮かべた。

 万が一体内に鏃が残ったらここから抉り取るという地獄の始まりだったがそれは回避出来たようだ。

 血に濡れた鏃を舌を噛まないように咥えていた手拭いで拭き取り、鏃が欠けてないかをしっかりと調べる。


「……よしっ!」


 欠けなし傷なし。体内に破片が残ってはいないだろう。

 グイグイと矢が刺さっていた箇所を指で押さえ、中で痛みがないことを確認すると湯を溜めた桶に手拭いを浸して固く絞り、血糊のついた肌を拭う。

 そこにはもう傷跡はなく、白くきめ細かな肌が見えていた。

 私が胸を射抜かれても冷静でいられた要因はこの異常なまでの治癒力だ。

 もちろん生まれ持った特殊な力でもなんでもない。

 

 原因はポーションの過剰摂取と思われる、らしい。


 本来ならポーションは怪我を癒すためにつかう戦いに身を置く人たちの虎の子だ。

 しかしポーションは高いくせに硝子以外の容器に入れておくと劣化が早まりただの不味い青汁となる。持ち運びに不便な硝子容器での運搬を余儀なくされる以上冒険者も必要最小限しか持ち歩かないし高いから不用意に使わない。

 結果どうなるかというとギルドに在庫が貯まり、硝子に入れていても二月とは持たないので大量の不味い青汁が完成する。当然価値はない。

 なので余ったポーションは破棄することになるのだが仮にも傷を癒す魔法薬だったもの。その辺の川や池、下水に流すなど論外で廃棄方法がしっかり定められている。それを委託するとまた高い。

 じゃあそもそも過剰に入荷するなよという話なのだが冒険者の維持管理として彼らの生命を守るポーションは所属する冒険者の数に比例して定められた数を常に常備しておかなければならないのが冒険者ギルドの規定だ。

 万が一にも冒険者がポーションを買い求めたが在庫が無く、その一本のポーションがあれば助かったかもしれないという事がないようにするためだ。

 ちなみに使用期限が間近だからといってギルド支部の判断で値引きは出来ない。その裁量権はギルド本部及び各国の支部を取り纏めるグランドマスターだけだ。

 私も何度も値引きさせろと申請しているが通った事はない。なんせ他の冒険者ギルド支部ではポーションがしっかり売れているから値を下げる必要がないからである。もちろん冒険者と支部が公平であらねばならない為、ウチだけ特例で安くなる事もない。

 だから私が少しでも経費を抑えるために取った手段が廃棄となったポーションを飲んで処理である。

 硝子容器だけなら廃棄する中身がない分回収にかかる金額はめちゃくちゃ抑えられる。やらない理由はない。

 そうして定期的に廃棄ポーションの一気飲みが始まるのだが効果が切れたと思われていたソレは体内で意地を見せたのか傷を癒す効果から自己治癒力を高める効果に変質したっぽいのだ。

 もちろん一本だけではそうはならない。私が異様な治癒力に気付き、アイテム屋のエリクさんに話して彼も試したが一本だけでは普通に怪我したままだったらしい。となれば数だろうという話になったが一本でもキツいと言って早々に諦められてしまった。

 これを公表すれば廃棄ポーションにも価値が出るのではと進言したがそもそも廃棄ポーションを飲むという発想自体常軌を逸しており、下手すると取扱資格を剥奪されかねないと言われたら彼とその家族の生活に多大な影響を与えてしまうので無理強いも出来ない。

 冒険者ギルドに勤め出した頃に起きたいざこざで死にかけた時は今見たいな治癒力はなかったので間違いなく廃棄ポーションが原因だとは思うのだけれど、私だけそういった特異体質になったかもしれないと言われてしまえばそれまでなのである。


「ってそんな事はどうでもいいって」


 私は血染めの制服と下着類を洗濯籠に入れ、予備に着替える。家に帰らない生活が長いから私の生活用品一式が更衣室に揃えていたのが功を成した。

 脱衣所の姿見を覗けば朝の凄惨な見た目から一新し、完璧な受付嬢がそこに立っていた。

 出来れば湯浴みもしたかったがお昼休憩ももう終わりだ。私は抉り出す用のナイフと万が一の為に用意していた使用期限ギリギリのポーションを鞄にしまう。


「これはどうしようか」


 私は血を拭った矢を手に取る。

 鏃も欠けてないし矢羽も綺麗だ。矢一本だって金が掛かるのだからラーゼンさんに返すべきだろう。

 鞄の中身が傷付けないように鏃に手拭いを巻いて鞄に差し込み、受付へと戻る。


「うわっなに?」


 ガヤガヤとした喧騒が扉の向こうから聞こえて来る。まさかまた弩弓を持った人がいたりしないよね?

 とはいえもう昼の営業時間が近い。開けないという選択肢は無いので私は扉を開けて外にいる人たちに声をかける。


「皆さんこんにちは〜! お昼からの受付業務を開始しますよぉ!」


 私の声と姿に反応し、喧騒が止む。


「あれ? 生きているぞ?」

「誰だよギルマスが死んだって言った奴」

「だって矢が胸に刺さってたって聞いたぜ?」

「でも刺さってないし」


 どうやら依頼では無く今朝の話を聞いて集まって来ただけらしい。ちょっとだけホッとする。


「はいはい、この通りなんとも無いのでギルドに用がない人は解散してくださいね〜」


 …………いや誰も帰らんのかい。


 私が死んだと聞いてそれでも冒険者ギルドに依頼を持って来るとか……ひょっとして他にも受付してくれる職員がいると勘違いしているのだろうか?

 そんなヤな予感を抱きつつも私はこの数を捌き切る為に腹に力を込めるのだった。


「……よしっ! それじゃあ整理券をお持ちの方から順番にどうぞ! それ以外の方はこちらから二列に並んでくださいね!」


 扉を開け放ち、依頼人や冒険者たちを誘導する。


 やってやんよ。本気を出した私の力はこの程度の数に押し負けたりしないのだ!


ブックマークや評価をいただきありがとうございます。

引き続き楽しんでもらえると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
あー、前回の話とこの話でなんか察したけれども完全に独立国家化してるから中央から狙われてるのねこの領土領とギルド…太平も良し悪しですねえ
 こちらの作品を見つけて、ここまで一気読みさせていただきました。  最初は主人公は、「リーダーを引き受けてはいけないタイプ」の人が、組織のトップになってしまったのかぁ、と思っていましたが、話が進むにつ…
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