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4話 消えた音、響く声



「コスプーレ…?コスゥ…すまん、もう一度頼む。」


先ほどまで変な生き物を相手にしていたとは思えない顔をしている。もしかしてコスプレって知らないの…?


「…皆さんの服装のことです。何かのキャラですか?」


私の問いかけに4人全員が顔を見合わせて「何言ってんだ?」というような雰囲気を出している。その中で女性が心配しているかのような、変な人を見るような目で私を見てくる。


「ねえ、アンタ。頭かどっか怪我してるんじゃないの?あたし達の服装なんて、冒険者なんだからそこらへんに似たような恰好している人たくさんいるじゃない。」


冒険者…?待って。冒険者って何?あの少女が言っていたように私がいた世界とここは本当に違う世界なの…?


4人に目を向ける。

剣に鎧…?見たこともない物を持っている。どう考えても現実じゃない…?

頭ではわかってるはずなのに、それを認めたくないのか、はたまた現実逃避しているのか…。たしかに私は柵を超えて身を投げた。そのあと、目が覚めたら森の中で…。歩いていたら建造物があって、中には女の子がいて…。



「本当に…どこに来ちゃったの…。」


静かにこぼしたその言葉に今度は全員が目を見開いて顔を合わせた。


「…どういことだ?」


リーダーらしき男性が聞いてくる。だけど…。


「そんなの私が知りたい…です。」


自分でもまだよくわからない状況なのに…。

森の中。変な生き物。そして目の前の人たち。私は意識不明の重体とかで病院に運ばれていて、夢の中にいる可能性だって充分ある。

でも―――…夢にしては鮮明すぎる。


「気づいたらここにいたんです。」


「記憶喪失ってやつー?」


軽い声が横から入る。おちゃらけているような、そんな声。


「”この森”だぞ?一人でいること自体が普通じゃねーだろ。」


「確かにそうよね。記憶があろうがなかろうが此処にいることが一番おかしいわ。」


「――ですが、嘘をついているようには見えません。」


眼鏡をかけている落ち着いた男性がジッと見てきた。見透かされているようでなんだか怖い。


信じてもらえるわけない。だって私だって信じてない。ここが別の世界だなんて。



「…とりあえず、だ。ここに長くいるのは危険だ。A級の俺らでさえ、死を覚悟しなきゃいけねぇ場所なんだ。話は移動してからにするぞ。」


その言葉に他の三人は頷いて準備を始めた。


「アンタも一緒に行くわよ。」


「え…」


「アンタからしたらあたし達は警戒しなきゃいけない奴らかもしれないけどさ、この森は危ないのよ。平民だろうが貴族だろうが、記憶喪失だろうが…一人でこんな場所にいたら死ぬわよ?」


死ぬ…?そんな当たり前みたいに…。


「ほら」


女性は私に向けて手を差し出してきた。


「守ってあげるから。一緒に行くわよ。」


その手をジッと見つめる。見つめていた時間はほんの数秒だけど、心が温かい気持ちになってきて…。少し迷いながら女性の手を掴む。…久しぶりい人と手を繋いだから…やっぱり温かい…。そんなことを考えながら立ち上がると足がふらついた。


「うわっ!」


「危ないわね~。シャキッとしなさいよ。」


呆れながらも女性は支えてくれる。言い方はキツイし口調も荒いけど優しい人なんだな。


「ごめんなさい…ありがとう。」


少しだけお礼を込めて微笑むと女性が顔をバッとそらした。


「別に…このくらい普通よ。」


そっけない返事。でも手は握ってくれていて、そらしていてもわかるぐらい首も耳も真っ赤に染まっていた。









さっきまで必死になって走っていた場所なのに、今は少し違って見える。周りには四人。前にはリーダーの男性。私と女性が真ん中を歩いていて後ろに二人。挟まれるような形で進んでいく。

すぐにわかった。守ってくれているって。


…人の温かさに触れるのはいつぶりだろう。

あの日から、誰かに優しくされても温かさなんて感じなかったのに。胸がじんわり温かくなる。



「あ~早く可愛い子たちに会ってあんなことやこんなことして~。」


「シオン…。あなたは本当に節操がないですね。」


「クラウスもたまには羽目外したら~?」


後ろ二人はすごくにぎやかだなあ…。

それにしてもあんなことやこんなことってなんだろう…?


そう考えている時、ふと違和感を感じた。



「…?」


楽しそう話す二人の声は聞こえるのに。なんで、こんなにも音が聞こえないんだろう。そういえばさっきも同じことを考えていたな…。さっきは音はあるのに耳に響いてこなかった。この森で目が覚めてから、何度か音が聞こえない時もあった。黒い塊の生き物?の時は羽を広げるときに音が聞こえたし、風の音も聞こえた。あの建物に入った時も自分の歩く音は確かに聞こえていた。だけどあの虎…トラペ…?なんだっけ…。それに追われているときは声は聞こえるのに足音とかは聞こえなかった。それに今も―――…。



「…ねえ。」


「ん?どうかした?」


「なんで、こんなに音がないの?」


「はっ?」


「んーと…違うなあ。耳に響いてこない?なんて説明すればいいのかな…。」


自分でも変なことを言っている自覚はある。

でも、


「今、何も聞こえないの。」


不思議な感覚なんだよなあ。音がある時、ない時。響く時と、響かない時。



「…何も?」


すぐ後ろを歩いていた男性。―――シオンが小さく眉を動かした。


「今は何も聞こえないです。あ、皆さんの声は聞こえますよ。だけど足音とか風の音が聞こえなくて…。たまに聞こえる時もあるんですけど…。この森って何かあるんですか?」


今度はもう一人の男性、クラウスと呼ばれていた男性が口を開く。


「…聞こえてますよ。風の音も、足音も。魔物の鳴き声も遠くのほうから聞こえます。」


「え…」


クラウスが静かに呟く。私の様子をシオンがジッと観察しているように見てくる。先ほどの軽い雰囲気とは違う。真剣な目をしている。


「――まあいい。」


「あっ…」


「今は森を出るのか先だ。その話は出てからにするぞ。」


その一言で会話は打ち切られた。




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