手紙
今年も1年あっという間だったな・・・
年内に終わらせなければいけない仕事は終わらせた
久し振りの連休に「何しようかな?」なんて思いながら、冷たくなった扉を開ける
急いで暖房を入れながら、コンビニで買ってきたお弁当をレンジに入れる
休みの予定は毎回、思いつきで行動する
温泉に行こうと予定を入れてみれば、雪で通行止めになったり
海外に旅行でも行こうかとツアーに申し込んでみれば、政権交代で渡航自粛になったり
何度か続けば、予定組むことがバカバカしくなってくるもので
それならいっそ、その日の気分で行動するのもいいかと一度やってみれば
自由気ままな旅行とは気楽なものだと、その自由さに虜になってしまった
それ以来は、あえて予定は立てず
その日の気分で行きたい所を決め、旅に出る事にした
泊るところは、それなりに苦労はするが
まぁ、お金があればなんとでもなるし
それほど使うところもないから、貯蓄は増えていくばかりだったから丁度いい
今日はゆっくりして、明日起きてから温泉地にでも行こうか、久し振りにスキーにでも行こうか
沖縄にでも行ってみるか?なんて思いながら、温まったお弁当を食べる
寝る準備を終えてから、スマホを開いて適当にメールのチェックをする
仕事関係以外からの連絡なんて来なくなって久しいが、取引先から緊急の連絡なんて着てたら休みが台無しになってしまう
その為にも確認は必用だよな・・・なんて思ってしまう
ついでに溜まっている迷惑メール関係も捨ててしまう
初めてのアドレスなんかも迷惑メールカテゴリになっているので、一応チェックは入れてみる
くだらない誘い文句だったり、貴方に遺産が・・・なんて
そんな遺産持ってる知り合いなんて居るわけないじゃん!
数百は溜まっているメールに、さっと目を通しながら「ん?」と思うの以外はすべてゴミ箱に捨てて
選別したメールをもう一度確認する
まぁ2回見たからって、迷惑メールは迷惑メールなんだけど 一応ね
そんな感じで確認していると、一つだけ気になるメールが・・・
ウイルスじゃないよな・・・なんて思いながら開いてみると
=○○(旧姓)悦子の息子です=
いきなりすいません、某SNSであなたを見つけました
あなたからの手紙も持っています
助けてください
お願いします
ふむ・・・ウイルスではなさそうだけど
2カ月前に届いた見たいだけど、今からでも間に合うのかどうか一応連絡してみるか
=初めまして、いきなりで申し訳ないのですが事情がさっぱりです
つきましては詳しい事情などを教えていただけると助かるのですが・・・=
まぁ、簡潔にこんなものだろうと送信して
んーそれにしても、息子さんにあの手紙を見られたとしたら気まずいものがあるな・・・とか思っていたら
ピコンッとスマホが鳴る
=事情は長くなるので一度こちらに来ていただけませんか?
無理を承知でお願いします
住所と電話番号を送らせていただきます
どうかよろしくお願いします
和歌山県○○市○○町○○ 〇丁目-〇〇 ℡090ー○○○ー○○○○ =
いったい何があったのか・・・一度電話で話してから行くか
なんて思いながらも、簡単に出かける準備を始めている自分に
やっぱり久しぶりに会うのだから、ドキドキはするよな
まぁ、お互いおじさんおばさんになっていようともだ
取り合えず息子さんに電話してみるかと、スマホを手に取る
「もしもし」
「あぁ、山川と言いますけど悦子さんの息子さんでいいのかな?」
「は、はい すいません名前を伝えていませんでした」
「いや、それはいいんだけど よっぽどなんだね?」
「はい・・・言っても信じられないと思うので、来ていただくのが一番なのですが、これそうですか?」
「残念だけど・・・今日から正月休みなんだ、道路事情はわからないが明日の夕方前には着くと思うよ」
「き、来てくれるのですね!やっぱりあの手紙は・・・」
「あぁ、その手紙は捨ててくれ とりあえずそちらに向かうから」
「ありがとうございます」
取り合えず行くか
まだ温まり切っていない部屋の電気を消して、車のキーを握りしめ部屋を出る
いったい何があったのか・・・
夜の高速を走る
世の中も今日から連休入りだからなのか、それほど交通量も多くはない
時間はまだ21時半を少し回ったあたりだ
途中で仮眠を挟むにしろ、明日の朝までには東京は越えておかないと渋滞が始まるだろう
眠る準備をしていたから、すぐに眠くなるかな?なんて思ったいたが意外と意識は覚めている
まぁ、まだ22時にもなっていない
高速に乗る前に買った缶珈琲に口を付けてから、煙草に火をつける
今年はまだ雪が降りださなかったから、追い抜いていく車たちのスピードはすっこし早い位だ
気持ちは逸るが、これで事故など起こしたら本末転倒だ
慌てず焦らず、それでも急ぐ
若い頃には到達しえなかった考えに「俺も齢をとったものだ・・・」と独りごちながら
高速を走る
そろそろ気が抜けて来たのか、目蓋さんが名前の通りの仕事をしようと蓋をし始めたので
パーキングエリアで少しの休憩と、冷たい空気を肺に込める
背伸びをしながら見上げた夜空は、冬のせいなのか随分近くに星が見える
何年経つのだろうか?
二人で夜空を見上げて「あの星が私で、隣でひっそり光っているのが山川君だね」なんて
いって笑っていた悦子に会うのは・・・
まぁ、今考える事じゃないか
本人の意思じゃないとしても、息子さんが来いというなら行くしかないだろう
あの”手紙”をもっているのだから
自動販売機でちょっと濃いめのブラック珈琲を買ってからまた車を走らせる
走りながら思う
よくまぁ、俺のSNSなんて見つけたものだ
本名で載せてはいるが、山川なんて結構いる名前だし
随分昔にアカウントだけ作って放置していたものだ
作った理由も、別れた彼女がいつか連絡してくるかもなんて・・・
代わりに息子が連絡してきたわけだが、一応役目は果たしたのか
なんて、周りの流れなんか気にしないトラックを追い抜きながら
未だ更けない夜を抜けていく
首都高速に乗る前に少し仮眠をとり、明るくなる前に東京は抜けた
明るくなり出すのを待ってから、富士山でもゆっくり見たいものだけど
それは帰りの楽しみにとっておこうと、迷わずにアクセルを踏み続ける
ようやく空も白みはじめた頃、周りに車が増えだしてきた
この調子なら本格的な渋滞が始まる前に大阪も越えられそうだ
途中で朝食をとりつつ、午後2番くらいで和歌山に入った
あとは・・・てっきり高速道路を降りて42号線を南下と思っていたのだが
意外と高速道路が繋がっているようで
しばらく帰省なんてしていないんだなと思いつつも
この感じだと思ったよりは早くつきそうだ
目的のインターチェンジを下車して、教えてもらった住所を目指す
やっぱり地元は離れられなかったか・・・
色々と思うところはあるけれど、そんな事はどうだっていい
コンビニに寄って少しだけ身だしなみのチェックをしてから
少しづつ近付いていく
町から少し離れた、山の入口あたりに1軒だけ
黒い靄に包まれた家が見える
あそこだな・・・
迷わず車を乗り入れ、少し気合をいれる
いや、動悸がやばいな・・・きっとまだ好きなんだろう
「よしっ!」行くか
車を降りて玄関前にたどり着く
インターホンを鳴らそうか、そのまま入ろうか・・・なんて思っていたら
ガラガラッと扉が開き
「山川さんですか?」
「あぁ、初めまして 君が連絡をくれた・・・息子さんだね?」
「はい あ、まだ名前言ってなかったですね『修平』と言います 中にどうぞ」
『修平』か、あの頃二人で考えた名前じゃないか・・・
勧められるままにリビングのソファーに腰を降ろし
「それで?悦子さんは?ッとその前に、お父さんはいるのかな?」
「え、えと長くなるのでお茶入れてきます」
キッチンに向かいながら、小さく「父はいません・・・」と聞こえてきた
出されたお茶に口をつけてから「それで?」と目で訴えてみる
「えーと、信じてもらえないと思うので一度母をご覧になったほうが早いかと・・・」
言いながら立ち上がり、隣の和室の襖を開けて私を呼ぶ
布団の中で眠っているのが、悦子か・・・「病気か何か?」と言いながら
眠っている彼女を見て、息をのんだ
そこには、付き合っていた頃の悦子がそのままの姿で眠っていた
「若返る病気にでも患ったか・・・」ふと漏らした声に
「病気ではなく、何かの方だと思いますが・・・説明します」
ソファーに腰を降ろし、お茶を一気に飲み干してから修平君がいきさつを説明し始めた
最初はなんて事のない話だったのだと
母が初恋の未練を断ち切って私からの思い出になりそうなものを処分しだした事
一つ一つ思い出の品が無くなっていく度に、母の元気が無くなって行ったこと
最後に残った”手紙”を燃やそうと庭で火を付けようとしたら倒れてしまったこと
それから年々若返って行ったこと
倒れてから一度も目を覚まさないこと
若返っていってるのに気が付いているのは、修平君だけで
病院の先生方は、齢をとったままの悦子に見えていること
そしてあの”手紙”は修平君にしか見えていないこと・・・等々
「それで、どうして私だったんだい?」
このままだと、下を向いたまま何かをこぼしそうだったので声を投げかけてみた
顔をあげ 私を真っすぐ見つめながら
「夏の終わりまでは、母あての封筒に入った白い紙だったんです。何がそんなに大事なのかもわからず、きっと本当の手紙は捨ててしまって、封筒だけを大事にしまっているんだと・・・ましてあの”手紙”が原因なんて思ってもいなくて・・・私にとっては只の封筒なんです。母にとってどうかわかりませんが・・・それで、申し訳ないのですがあの”手紙”を処分しようと・・・母もあのままいつまで寝ているのかもわかりませんし それでもう一度中身を確認してからと思ったら『何があっても俺が守る!』て書いてあって、その下に焦がしたような字で『山川を呼べ』と・・・」
それから修平君は、山川って誰なんだと卒業アルバムを調べ私に辿り着いたが・・・
実家はもうないし、私の行方を知る人も見つからず
SNSサイトを漁って同性同名の人に連絡をして、あきらめていたところに私からの連絡がやっと来たみたいだ
「一度その”手紙”を見せてもらえるかな?」
守るってのは書いた記憶はあるが、山川を呼べなんて書くわけがないだろうに
それにあれは、そんなものじゃない
あれは二人で・・・なんて思いにふけっていたら
悦子の枕元にあった”手紙”を修平君が「どうぞ」と渡してきた
その”手紙”を受け取り、中を確認する
中身は当然、二人で書いた誓約書だ
「私、山川蒼平は向山悦子を何があっても愛しています
私、向山悦子は山川蒼平を一生愛し続けます
何があっても俺が守る!
何があっても傍にいるよ♡
19○○年8月31日 蒼平 悦子 」
高校3年 夏休み最後の日に近くの神社で二人で照れながら書いたものだ
ちょっと照れくさいなと思っていたら、その下に文字が増えていく
『よく来た、二人で来い』と・・・
「修平君、見えるかい?」
増えた文字の辺りを指さしてみる
「は、はい 見えます。『よくやった、後は待て』と・・・あれ?これって僕宛てですよね
山川さんには違う言葉なのですか?」
そうきたか・・・
「そうだな、私には『よく来た、二人で来い』とあるな」
え?っと顔をした後「二人で来いって、母とですか?」
「そうゆう事だろうな」
「で、でも母は寝たきりのままで・・・」
「何か問題か?おぶって行けばいいだけだろう?これでも私は体力には自信があるんだよ」
ハハハッと笑い飛ばすと「え、でも・・・え・・・」と戸惑っている修平君を置いておいて
「悪いけど修平君のお母さんと、久しぶりのデートでもしてくるか」
と、立ち上がり寝ている悦子の元に向かう
おぶって行くよりは、お姫様抱っこの方がいいか・・・デートだしな・・・フッ
まだ、戸惑ってる修平君に「何かコートかなんか、掛けるのないかな?途中で気が付いたら寒いって怒られる気がするよ」
「母は起きるのですか・・・」
迷いながらも何か探しに行ったのを見て、悦子をそっと抱き上げる
「軽いな・・・」呟きながらも、そのまま玄関に行き 修平君を待つ
「すいません、母はずっと寝たきりで意識もなかったですから何にもなくて、僕のダウンジャケット持って行ってください」
と、真っ赤なダウンジャケットを優しく掛ける
そうして私の方をキッと見て「母を、母をお願いします」と綺麗に90度傾けて見せた
どんなに不安だったろうか、修平君の葛藤までは量れないがそれでも
「まかせろ!」と振り向いて・・・
「修、修平君悪いけど、玄関ドア開けてくれないか・・・」
少し間があって「あ、気が付きませんで・・・」と何とも言えない空気のまま
確かここから道なりに登って行けば、あの神社があったはずだと
「もう少しだからな」と語りかけながら、歩いて行く
母を抱えながら、一歩一歩と歩いて行く山川さんの背を見ながら
不思議な人だな・・・と思ってしまう
ある日、母が思いつめたような顔で「そろそろけじめ付けなきゃね」なんて
初恋相手だった人から貰ったぬいぐるみやキーホルダー、シルバーリングなんかを
一つ、一つと自分の未練を断ちいるように処分しだした
「誰も気にする人なんか居ないんだから、良いじゃないか!大事なものなんだろ?」
そうは言ったが母は受け入れず、だからといってまとめて捨ててしまえなくて
一つの思い出話しを僕に教えながら「これはね、初めての誕生日にもらったぬいぐるみ」
自分では自分の誕生日を言い出せなくて、友人に頼んで山川さんのいる前で「悦子、誕生日おめでとう」なんて言わせていたらしい
「これは初めてのデートで手をつないだ時にドキドキして転んじゃって、その時に掴んでいた石よ」
なんて、一体誰が母親の惚気話しをエピソードと一緒に聞かされて喜ぶのだろうと
それでも一つ、一つと思い出が無くなっていく度に元気を無くしていく母を見て
「この思い出は、僕が心にしまってやろう!」と思い出の品が無くたって
母が思い出したい時に「こんなの貰ってたよねー」とか言ってあげたくて
母の思い出というより、母と僕の思い出が増えていくようで、すこし嬉しかったんだ
そうしてすっかり元気を無くした母が、最期の手紙を焼こうとして
あの時、泣いていたんだと思う「これで、最後だから・・・これで最後」
自分に言い聞かすように手紙に火を付けようとして、何かに弾かれたように倒れてしまった
慌てて駆け寄ったが、母は反応を示さず
救急車を呼んで、病院で検査をしてもらったが「異常はなし、ただ寝ているだけです」と
しばらくは入院して検査を続けてもらっていたが「異常はなし、本当に寝ているだけなんです」と
どうして良いかわからなかった、家に連れ帰って毎日話しかけたりもした
それでも何も反応がない
僕ももう、危なかったかも知れない
気が付けば母が少し若返っているような気がした
始めは気のせいだって思っていた
それがどうだ、明らかに僕よりも若くなってしまえば、明らかに異常だ
再度病院に連れて行ってみたが「何も変わりがありませんが・・・」と
そうですか・・・と病院を出る時には「若いのにとうとう・・・」「可哀そうに・・・」なんて言葉が聞こえてきた
母を家に連れ帰って、僕は頭を抱えた
いっそこのまま二人でなんて思ったけれど
それじゃあ、あまりにも母が可哀そうだ
どれだけの思いを捨てながら、過去を断ち切ろうとしていたのか
最後に寝たきりで、子供に無理心中なんてさせられたら
そう言えば、この”手紙”のエピソードはまだ聞いていないなと
今更隠し事をする母でもないだろうと、”手紙”を読んでみることにした
今まで何回か母が読み返しているのをチラッと横目で見たことはあるが
ただの白い紙だった、だけど燃やそうとしたんだから本当の手紙が入っているに違いないと
「見るよ」って声を掛けてから封を開けて、中の便箋を取り出してみれば
『何があっても、俺が守る!』
なんだよ、それ・・・だったら守ってくれよ・・・
手紙を握りつぶそうとして、今無かったはずの文字が浮かびあがった
『山川を呼べ』
山川って誰なんだよ・・・多分人の名前だよな、そういえば初恋相手は同級生だと言ってたな・・・
僕は母の部屋から、卒業アルバムを引っ張りだして「山川」ってやつを探した
「山川」ってやつはすぐに見つかった「母さんと同じクラスか」
顔は、まぁまぁって感じだけど目はすごく優しそうだ
集合写真を見てみれば「なんだこれ?見つめ合ってんじゃん・・・」
絶対嫌な奴!って思いたいけど、母さんの思い出全部聞いちゃってるから
良いやつなんだよな・・・
母さんの時代の卒業アルバムには、プライバシーなんてものは存在しないらしく
後の方に個人情報駄々洩れって感じで、住所や電話番号迄書いてある
意外と簡単に連絡が付きそうだと、書いてあった番号に連絡をするも
「・・・現在使われておりません・・・ツーツーツー」
くそっ!とりあえず住所を控えて、「山川」の家に行ってやる
休みの日に母さん独り寝かせておくのは心配だけど「行ってきます」と声を掛けてから
「山川」の家に向かった
家に向かったはずなのに、ナビはここが到着地だと空き地を指す
隣に理髪店があったので「すいません、この辺りに山川さんって方がいると聞いて来たのですが・・・」
「あぁ、山川さんなら何年前かな・・・随分前に亡くなられて・・・って息子の方か?」
亡くなったと聞いて「まじか!」なんて思ったが「息子さんの方です!どこに居るかなんてわかりますか?」と食い下がった
「おーい、理子ー!蒼君何処にいるか知ってるか?いや、うちの娘が同級生でね」
「蒼君?高校に行ってからあんまり話したことないし、蒼君って孤独が友達みたいなとこあったからさ・・・あぁ、高校行ってから、彼女が出来たって惚気てたことはあったけど、そっちの方が知ってるんじゃない?」
うちの母さんより、母さんって体形の理子さんが言ってるのは、母さんの事だな・・・
「いきなりすいませんでした、もう少し他で探してみます」
「見つかったら、こっちに連絡するように言っといてもらえる?同窓会とかあるからさー」
自分たちで探せよ・・・なんて言えないので「見つかったら言っておきます」と告げて家に帰った
帰る車の中で「やまかわーーーーーどーーこーーだーー」って叫んだのは、しょうがない
家に帰ってから、母さんと同じクラスの人だった人達へ電話をかけまくった
結果わかった事と言えば「山川」ってやつは、うちの母さん以外に親しいと呼べる友人なんかいないって事だけだった
こうなったらとスマホを片手に名前を検索するも見つからない
母さんがSNSなんて、使っているのを見たことも無いし・・・無理なのかな
最近のがダメなら昔流行ってそうな所ならと検索し続けた結果
それらしい同性同名が3人いた
母さんの名前を使って反応があればと思ったけれど
10月11月と音沙汰もなく、12月も終わりに近づき
僕はもう自分の限界に気付いてしまっていた
後3日で今年も終わる
年を越したらもう、探す気力もなくなるな・・・と
母さんの眠る横に座って「僕はもう無理かも・・・」なんて泣き言を言おうと思ったら
ピコンッとリビングのテーブルに置いてあったスマホに呼ばれた気がする
届いたメールを確認んしてみれば
=初めまして、いきなりで申し訳ないのですが事情がさっぱりです
つきましては詳しい事情などを教えていただけると助かるのですが・・・=
思わず拳を握りしめてしまった
「おせーよ・・・」と思ったけれど
=事情は長くなるので一度こちらに来ていただけませんか?
無理を承知でお願いします 云々・・・ =
と、一応住所と電話番号も記入しておいた
「さぁ、どうする山川!忙しいって断るのか、昔の事って断るのか・・・」
いや、断わられるの前提で考えしまうのはやめて期待してもいいのかな・・・
なんて思っていたら、スマホが鳴ると同時震えた
知らない番号からの着信だ「山川だよな・・・」
ドキドキしながら受けてみれば
「もしもし」
「あぁ、山川と言いますけど悦子さんの息子さんでいいのかな?」
「は、はい すいません名前を伝えていませんでした」
「いや、それはいいんだけど よっぽどなんだね?」
「はい・・・言っても信じられないと思うので、来ていただくのが一番なのですが、これそうですか?」
「残念だけど・・・今日から正月休みなんだ、道路事情はわからないが明日の夕方前には着くと思うよ」
「き、来てくれるのですね!やっぱりあの手紙は・・・」
「あぁ、その手紙は捨ててくれ とりあえずそちらに向かうから」
「ありがとうございます」
僕は電話に向かって頭を下げ、大粒の涙をこぼしてしまった
そうして母さんに「明日、山川さんが来てくれるってさ」と告げて
母さんの手を握ったまま寝てしまった
久し振りに熟睡出来た気がして目を覚ませば、目の前に母さんが・・・
少し照れくさくなったが、お客さんが来るんだからと少々散らかっている家の掃除を始めた
そうして山川さんが来てみれば、あれよあれよと何かが進んでいく
最初に母さんを見た時は驚いたようだったけど、後は僕の話を聞いてくれて
『二人で来い』と書いてあるから「久しぶりのデートでもしてくるか」って
何も迷わずに母さんを抱き上げて、行ってしまった
何なんだろうあの人は?あれはまだ母さんの事好きなんじゃないか・・・
夜の帳が降りだして、二人の姿が見えなくなるまで見送った後
『後は待て』とあったんだから、僕は夕飯の準備でもして待って居よう
「なんだか安心させられちゃうな、あの人・・・」
あぁ、だから母さんが大好きだったんだな
悦子を抱いたまま、緩やかな山道を歩いて行く
たしかここの神社って初めて二人で初詣に来たところなんだよな
慣れない着物きて、転んで泣いて笑って・・・
何やってんだか、息子に昔の男に連絡迄させて
普通は来ないぞ、俺だから来るんだぞー
どれくらい寝ていたんだか・・・
それにしても良く出来た息子さんだ
母親大好きっ子だな 本当にバカ野郎だ
クソッ
前が見えなくなって来たぞ・・・
悦子に聞かせるように、声を掛けながら歩いて行く
高校三年生の夏休み、殆ど毎日二人で過ごしていた
理由は何でも良かったんだ、ただ一緒にいたかったんだよ
夏休み最後の日に、二人の気持ちを確認しあおうって
将来は悦子と結婚すると思ってた、悦子だって俺と結婚したいって思ってたはず
だから、二人だけで結婚式をしようってこの神社にきて
ここであの”手紙”を書いたんだよな
近くのデパートで買ったシルバーリングを、お互いの薬指につけてさ
誓いの言葉なんてわからないから、二人で”手紙”に書いたんだ
お互いの気持ちを
あの時は変らないって思ってた
変わらないはずだって・・・
卒業して、就職して
生活するために働いているのか、働くために生活しているのか
何が何だか分からなくなってしまった
それでも、悦子に会えば全部忘れてしまっていたのに
いつからだろうか、お互いに距離を置くようになっちゃって
それでも早くお金を貯めなきゃって思った
生活基盤を整えて、二人でちゃんとした結婚式をあげなきゃって
だから、今我慢しようって・・・
言い訳だな
気が付いたら、転勤の辞令を素直に受け入れてしまって、それからは転勤に次ぐ転勤
物理的な距離は二人の心の距離に繋がってしまった
いつの間にか、連絡もしなくなって連絡も来なくなった
俺なんかよりきっと良い人が見つかるって思った
だからこっそり、俺だけ思い続けてやろうって思った
俺が幸せを遠ざけていればその分、悦子が幸せになるんじゃないかって勝手に思い込んで
あの日、二人で誓った日聞こえたんだ
誓いを書き終えた2人が、誓いのキスだからって初めて唇が触れた時に
『汝等の誓いは見届けた!』って声が聞こえたような気がした
悦子にも聞こえたらしく、二人で”手紙”を見直したら
読めない文字が浮かんでいて、「神様に認められたよ!」って悦子は喜んでいたけど
俺にはなんか怪しく思えてしまって、そのまま”手紙”は悦子が持ってることになった
だからこそ思うんだ、悦子の今の状況って「こいつ」の仕業だって
『待て』だの『来い』だの、誓いを守らなかったから怒っているんだろう
だから迷わない
悦子がもとに戻るのだったら、なんだってしてやろう
そんな事を思いながら、ようやく神社の鳥居をくぐる
一度も悦子を降ろさずに、ここまで来れた自分をちょっと見直した
手水舎は飛ばして、階段を上がっていく
本殿迄来ると、勝手に本殿の扉が開いた
少し怖いけど、今更だな
男は度胸と本殿の中に悦子を抱いたまま入っていくと光に包まれて
目の前に見知らぬじーさんが座っている
「・・・」
こちらが誰か確認しようかと戸惑っていると
『まぁ、座れ よく来たな』と・・・
戸惑いつつも悦子を抱いたまま、ゆっくりと座る
「それで、どうすればいい?何をすれば悦子は元にもどるんだ?」
思わず叫びそうになるのを我慢して、冷静に話しかけてみる
『ふむ、二人の誓いを見届けてやったのに一緒にもならず別れてしまうとは、人とはこんな奴らばかりだと見下げておったのじゃがな・・・お主等はどうやら違うようなのでな、ちょっとした手助けじゃ』
手助け?一緒にならなかった罰じゃないのか・・・
『人の子よ、我等神との約束を守らない者等ごまんとおるわい その度に罰等と言っておったらやってられんわい』
今俺の意識を・・いや、そんな事より「じゃぁ、悦子は元に戻るのか?」
『そんなに、そこの子が大事なら何故一緒にいてやらん』
「お、俺だって本当はずっと一緒に居たかったんだ・・・それでも事情が・・・」
なんの事情だ・・・只々仕事が忙しくなって、恋愛が何て言ってられなくなって・・・
俺が逃げ出しただけじゃないのか?
このまま結婚して、仕事して、家に帰る毎日
そりゃ楽しいこともあるだろうけど、当たり前の日常を想像した時につまらないって思ってしまった
数年で気付いたんだ、このままいっても大して出世も出来ず、定年になる前に部長位には成れてもそれ以上はないって
だから、地元に戻ってもう一度悦子となんて思ったけど都合がよすぎるだろそんなの・・・
俺の事なんて忘れて、きっと幸せになってるって思って・・・
いや、信じ込もうと そうであってほしいって
俺なんかが幸せになっちゃいけないって・・・
いつの間にか声に出しながら、話し出していた俺に
「んーん、私が悪かったんだよ 私だって蒼平裏切って結婚しちゃって・・・寂しかったんだよ」
腕の中から悦子が泣きながら「ゴメン、ごめんね」って
「バカ 悪いのは俺なんだから・・・謝るな」
そう言って腕に力を込めた
それでもまだ「ごめん」って言ってる悦子の声を聴きながら
「で、神様でいいのか?どうすればいい?何をすれば許してくれるんだ」
何か対価が必要なのだろうと聞いてみたが
『人の子よ 言ったであろう 手助けじゃと お主等は離れておってもずっと思い合っていたであろう?』
そうなのか?と悦子の顔を見ると恥ずかしそうに俯いてしまった
「それじゃ、何もしないでこのまま帰っていいのか?」
『好きにしろ あとは二人でよく話し合う事じゃな お主等はちと離れてる時間が長すぎただけじゃ 一つ注文するなら、毎年参拝に来ればよかろう』
そう言って神様は消えてしまった
ふ、それだけの為にこんな事をしてくれたのか・・・
いや、やり直す時間をくれたのか
「悦子、修平君が待ってるから帰るか?」
「修平?・・・あら、やだあの子の事忘れてたわ・・・帰りましょう」
と腕の中から出てこない悦子に「もういいだろ?」と床に降ろし
2人で頭を下げてから、本堂を後にし、手を繋いで悦子の家まで夜道を帰る
「ねぇ蒼平、私ね寂しかったんだ・」
「俺も本音を言っちゃえば、寂しかった」
「じゃぁ、なんで連絡もしてくれなかったの?」
「いや、負けたって思っちゃうじゃん」
「は?それだけ?」
「それだけ・・・」
「バッカじゃない!」
「バカだなーって今なら思うけど、考えさせられたんだ」
「何を?」
「悦子の事をさ・・・すっごく愛してたんだなーって思い知らされたっていうか、だから今更・・・とか思ったんじゃないかな?」
「思ったんじゃないかな?って自分の気持ちでしょ?」
「うん、自分の気持ちだから後になって気づいたんだよ・・・それが遅すぎて余計に連絡が出来なくなった・・・」
「バカだね・・・」
「本当にバカだ」
「私もね、バカなんだ・・・」
「知ってる・・・」
「知ってたかー・・・蒼平が居なくなったんなら、だれでも良いから結婚しろって両親がうるさくてねー 蒼平絶対帰ってくるから!って待ってたんだけど・・・寂しさに負けちゃったよ」
「それが普通だと思うぞ 俺は何も言えないけど、旦那さんは?」
「お見合いでね 結婚してすぐ修平を身ごもって・・・でも蒼平忘れられなくてさ・・・そんな気持ち旦那にばれちゃっててね・・・ある日いきなり本当の愛を見つけたとか言って離婚届置いて出ていったわ・・・」
「・・・もう少し気持ちの整理を付けてから結婚すればよかったんじゃ・・・」
「蒼平に言われたくはないわね」
「それもそうか・・・悪かったな」
「そんな事より、蒼平結婚してるの?」
「してるぞ」
「なんだ、結婚してたのか・・・で、奥さんは可愛いの?子供は?」
「おぉ、俺の奥さんはめちゃくちゃ可愛いぞ、子供は一人血は繋がってないんだけどな・・・受け入れてくれるかどうか?」
「最近結婚したの?写真ぐらいあるんでしょ?見せないさいよ」
胸ポケットから財布を取り出して、1枚の古ぼけた写真を取り出して見せながら
「結婚したのは、高校三年生の8月31日だ」
俺と悦子が並んで撮った色褪せた写真をジッと見た後
「ごめんね、ごめん・・・」
涙を落す悦子の肩を抱いて
「いや、遅すぎた俺が悪い 今更だけどもう一度俺と結婚してくれないか?」
そう言って悦子が返事をする前に、そうじゃない
「ずっと、悦子の事が好きでした 離れてようやく解った 俺には悦子が必要なんだ これからずっと俺が悦子を守ってみせる」
丸い目を、更に丸くしてから
「今度は絶対に離れないから!」って抱きしめあって、ここはもう二人の世界・・・
「遅いから心配で外に出てみれば、恥ずかしいから家に入ってくれないかな?」
修平君の声がして前を見れば、いつの間にか悦子の家の前まで来ていたみたいだ
ちょっと二人で照れくさそうにしながら家に入る
「母さん、気が付いたんだね・・・良かった」
涙ぐむ修平君に「男が泣くんじゃないよ・・・」って言いながら「修平?老けた?」なんて・・・
「母さん・・・」悦子それはないだろう って、何年寝てたのか悦子は知らないのか・・・
それで「山川さん」と少し強い口調で修平君が私を見る
分かっているぞ、きちんと挨拶をしろって事なんだろう
私だっていい大人だそれ位の分別は付く
察した悦子も私の横に座り直し
「修平君、私は君のお母さんと結婚をするつもりだ 反対なら言ってくれ、説得できるまで頑張るつもりだから」
どうだ?と悦子を見れば頷いているので、最初の1っ歩は成功だろう
さぁ修平君、君はなんと答えるのかと顔を向ければ
「そっちは反対する気もないですけれど、山川さん!いえお父さん!母さんの姿は若いままですが、戻らないのですか?」
と、怪訝な顔をされて気付く・・・
「も、戻ったほうが・・・いいのか・・・」
「何?なんの話し?私の姿っておかしいの?」
そこで、今までのあれこれを掻い摘んで悦子に説明すると
「二人には私が若く見えているのね、でも何か問題が?他所の人には普通に見えるんでしょ?」
「それはそうだけど・・・母さんって呼びづらいじゃないか」
「気にすることは無いわよ、母さんは母さんなんだから」
いや、そうゆう問題じゃ・・・って何やらモゴモゴ言ってる修平君を見ながら
「私も何も気にすることは無いと思うぞ、悦子さんは悦子さんだ」と言ったところで
ポンッ『忘れてたわい』
「母さん・・・」
「え、悦子さん・・・」
「何かあったのかい?」
「山か・・・お父さんになってくれるんですよね?」
「い、今はそんな話は良いじゃないか・・・さぁ、せっかくご飯を用意してくれているんだ、食べようじゃないか」
「なんだか解らないけど、ご飯にしようかね?」と悦子さんがキッチンに行く
「お父さんでいいんですよね」
「あ、あぁ・・・姿かたちに惚れたんじゃないからな・・・」
「それにしては随分がっかりしているように見えますが」
「そ、そりゃ・・・いきなり女子高生が近所のおばちゃんになれば・・・」
「へぇー伝えましょうか?」
「はは、修平 お父さんをイジメないでくれ・・・」
「取り合えず、これから母をよろしくお願いします」
「任せておけ」




