第四幕
やあ、君。
逢魔ヶ時の太陽がきた。
血のように大地を染め上げる日光。
白き潔白の着物は、
やがて異界の色へと変貌する。
そうして怪異のごとき存在へ堕ちる。
繰り返し。
繰り返し。
赤い光に照らされて
ーー僕は”赤マント”だ。
本名なんて意味はないーー。
第三幕では、上野駅にいた女が財布をすられた。
上駅の前で、女はうろたえて叫んだ。
「ゼニがねぇと、オラァとまるとこねぇぞ」と言って、女は泣き出した。
背の高い身体を縮こませて震えていた。
女なんて別に放っておいても良かった。だけど、何か見捨てきれないものがあった。
「おい。君は頼る者がいないのだろう。」と僕は女に聞いた。そして、言葉を続けた。
「ここで田舎の人情なんてあてにするな。路地裏で客をとらされる目になるぞ。僕についてきたまえ。」と女に提案した。
だが、女は疑いの目を向けた。
「ゼニさ、貸してくれたら、必ず返しますぅ。どぉか、おねげえします」
僕は、しばらく女を見つめていた。
「ーー手持ちの金は、持ってない。」と言った。
父上からは、小遣いをもらえているが。大金を持ち歩かせてもらえなかったからだ。吉原への支払いはツケですませてあった。
女は恨みがましい目を僕に向けた。
無視した。
「どうするんだ?」と僕は女に聞いた。
「自分で決めろよ。」それから、僕は女を置いて離れようとした。
「旦那さま!おねげぇします!
見捨てないでください」と女から声をかけられた。
僕は女についてこいとは言った。
だが自分の屋敷に、連れて行く事はできない。
こんな女を屋敷に連れ込んだら、
僕は兄たちに殴られかねないからだ。
だから僕は、女を吉原の女将に預けることにした。どうせ人手は欲しいだろう。
なぜかって?
女が一人減ったのだから。
僕に感謝をするだろうさ。
再び黒い門へと、僕は向かった。
太陽が沈みゆく中で、
周りの赤は強まった。
「旦那さま。
その白い外衣、
始めから赤のように見えます。
オラァ、それ見ながら歩くのはこえぇ。」
女は僕の後をついてきながら文句を言ってきた。
「いずれ暗くなる。そうしたら、服の色なんぞ気にする事はないさ。
足元に気をつけろよ。」
僕らは、しばらく黙って歩いた。
女は時々、僕に質問をした。
「旦那さまーーこれから行く場所は、どこです?
どんなとこなんですか?」
「休める場所とキレイな着物をもらえる所だ。お前のような田舎から出てきた娘にとって、地上の楽園なのだろうな。」
「地上の楽園?」
浅草の夜のざわめきが大きくなった。
食べ物の匂いが店からただよい、
仕事終わりを楽しむ連中の甲高い笑いが聞こえた。
女は都会の夜に好奇心を刺激されたのか、またキョロキョロと見回していた。
「おい、はぐれるぞ。」と立ち止まり、女の裾を掴んでひいた。
触り心地のザラっとした感触がした。
「安心しろ。旦那さまの目立つ外衣から、オラァ、目を離さない。」
「ふん。夜の道を白い服を着た男についていく!まるでダンテの神曲だ。
お前の行く先は地獄かもしれんな。」と僕は独り言のように呟いた。
それから僕らの視界に、闇の中に巨大な黒塗りの門が見えてきた。
夜の地獄門だ。太陽の光の下では陳腐なモノも夜の力が加わると、別のものに見えた。
仲町通りの本道には、
提灯が祭りのように吊るされていた。
道の両側には楼閣が並んでいた。
そこから花魁たちが、
僕らを見つめていた。
騒がしい男たちが後ろから、追い越していった。
女たちの視線は僕らから離れていった。
こうして、吉原の夜によって幕をとじる。




