表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢魔ヶ時の赤マント〜穢れし花の貴公子の物語〜  作者: 語り部ファウスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第三幕

やあ、君。

逢魔ヶ時の太陽がきた。

血のように大地を染め上げる日光。

白き潔白の着物は、

やがて異界の色へと変貌する。

そうして怪異のごとき存在へ堕ちる。

繰り返し。

繰り返し。

赤い光に照らされて

ーー僕は”赤マント”だ。

本名なんて意味はないーー。


第二幕では、

女の死により、僕の中が変わった。

人は、それにより特別へと変わる。

知ってしまった僕は黒い想いに、

魅力すら感じていたーー。


期待もされないモノ。

なんの取り柄すら、

持つことが無意味な人生。

誰かの影。

日陰者。

役立たずーー。

それでもーー満たされたい。

そう願うのは悪いことなのだろうか。

屋敷の中にいたら、もっと気が滅入る。


僕は人の集まる場所へと行きたかった。

外から内にやってきて、

内から外に出る連中の様子を見て、

人の中で生きている事を実感したくなった。


白い外套を着て、僕は上野駅の行き交う人の中で、彷徨うことにした。

少しでも、黒い思いから逃れたかったからね。


上野駅は街への期待と、現実を知って去る者たちの入れ替わりが顕著だった。

まるで希望が見えているように力強く歩く若者もいれば、肩を丸めて周囲に怯えながら去る者もいた。

誰もが目的を持ち、

誰もが目的を失い、

行き交う者同士の顔は見ない。

そうさ。

誰もが自分が可愛いのだよ。


人混みの中、立ち止まっても、

人の流れは止まる事は知らない。

避けて、流れは続く。


しかしだよ、君。

僕は……この時にーーある出会いを果たす事になった。

目の前の人混みの中、煤けた顔の、女にしては背の高い娘がキョロキョロとあたりを見回しながら、フラフラと僕の方へと流れてきた。荷物を風呂敷いっぱに押し込み、後ろから押され、前へ前へと押しやられてくる女だ。

明らかに都会の輝きに、圧倒された女であった。

避けようと思えば、避けられた。

だがーーこの女は、流れによって僕の懐へと飛び込んだ。

なぜ、避けなければならない。

この女が災厄になるとは思えなかった。

そう考えているうちに、その女の黒い頬は僕の白い上等な外套に擦り付けることになった。

女は一瞬、「ひゃあっ」と悲鳴をあげて、僕を見上げた。それから、自分がやったことを知ると、口をワナワナと震わせて絞り出すように謝罪してきた。

「ああ、おゆるせ! 旦那さま!

服汚してしまった……怪我ねえが?

汚ねえもん触らせて、

すまねえ、

すまねえ……」


「謝るな。ーーやめたまえ。

たかが、服だ。」

僕は女を見つめながら、

外衣の煤を叩いてみせた。

女は目を丸くして、見つめ返してきた。

「そう言っでもらえっと思わながった。

オラぁ、殴りつけられるかと思った。」

「なぜだい?」

「悪く思わんでくれ。

アンタの目は、

手負いのケモノの目をしてる。」

女の言葉に応えようとした時、

目つきの悪いがっしりとした男が、

女の肩を突き飛ばした。

僕は彼女を抱き寄せると、人混みからかき分けるようにして離れた。

僕にとっての、花魁ではない普通の女の匂いは、崇高な香りではなかった。

ただ汗臭かった。


女はブルブルと震えていた。

怒りと怯えが交互に女の表情に浮かんでは消えた。


「大丈夫かい?」と僕は内心の動揺を抑えつつ女に聞いた。

手負いのケモノという言葉が、苛立ちを誘うけどね。

「あんがとぅ。オラぁ、頑丈だ。心配いらねぇよ。」と女は、そういうと笑った。

吉原で見かけたことのない類の笑顔だ。男を見透かし、包むようなもんじゃない。ただの笑顔だ。

僕は思わず、ハンカチを取り出すと女の顔を無遠慮にふいた。

純白で柔らかな布は、優しく女の皮膚の上をすべった。

女は一瞬だけ抵抗したが、黙って顔をハンカチで拭われた。

「どうして、こんなになった?

まるで、異国の黒い肌をもつ連中のようだ」

僕は笑ってやった。

「故郷の汽車の窓あけて、

ずっと見てた。オラぁ、故郷から離れたくなかった。けんどぉ。」

そう言って、女は地面を見た。

「あそこには、ゼニがねえ。

キレイな着物を買えねぇ。

東京さぁ来たら、何か変われるとぉーー」

女の言葉は急に途切れた。

日焼けした肌から、血の気が引いていった。それから叫んだ。

「ゼニが!オラの財布が!」とね。

女の叫びと共に時刻は逢魔ヶ時へと堕ちた。

煤で汚れたはずの白き外衣は、

太陽の光に合わせて、

血糊を浴びせたかのように、

色が変わった。

女の抱いた都市の幻想は崩れて

ただ夜が来る。

繰り返し。

繰り返し。


こうして、第三幕は都会の洗礼によって幕を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ