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逢魔ヶ時の赤マント〜穢れし花の貴公子の物語〜  作者: 語り部ファウスト


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1/5

第一幕

やあ、君。

逢魔ヶ時の太陽に、

照らされた事はあるかい。

血のように大地を染め上げる日光。

白き潔白の着物は、

やがて異界の色へと変貌する。

そうして僕は、

怪異のごとき存在へ堕ちる。

繰り返し。

繰り返し。

赤い光に照らされて


僕が誰かだって?

ーー僕は”赤マント”。

本当の名前なんて、意味は持たない。

そうだろ?


和と西洋の混じりあった時代、

1920年頃の大日本帝国。

大正9年に生きた日本男子の一人だ。

とある財閥の三男としてうまれ、

優秀な兄たちの影として生きなきゃならぬ。

最近あった戦争により、

この国はバカみたいに肥えた。

その事で僕らは飢えもせず、

それどころか、

快楽を好きなだけ得られる。

人によっては、

最高なんだろな。

好き勝手にできる、と。


さて……先に言っておくよ。

こんな生き方はクソのようなものだ。

虫ケラのようなもんだ。


僕は誰からも期待されない。

過去から未来。

今後とも誰からも期待されないし、

応えるつもりもない。


こんな僕の日々の退屈は、

君にはわからないだろう。


朝に目覚めて、

居場所を求めて、

快楽を求めて、

彷徨い、

すみかで眠る。

繰り返し。

繰り返し。


こんな風に生きるだけなら、

虫ケラにだってできる。


真剣に“金集め”や”愛”を求めて走ろうと考えた事もあった。

だが、冷たすぎる知性がムダな事だと、あざ笑う。

「もっと命を使う理由を探すべきだ」と言ってね。


僕という個人に、

そんな高尚な理由は見当たらない。


なぜかって?

誰かの「期待」がないからだ。

虫ケラのように生きなきゃならない男に、誰も期待なんかしてくれない。


だから錨のない船のように、

時代の海の上を浮かぶ事でしか、生きられない。


そんなら愛にでも、

溺れるのもいいと思ったんだ。

僕の居場所は駒込の豪邸にはない。

東京の吉原のどろどろとした欲望の吐口にこそあった。

虚構の愛を囁ける女もいた。


今日も、その女に会いに行った。

それ以外やる事がないんでね。


高いところから見下ろす太陽は、

僕の世界を鮮明に映し出してくれた。

浅草では、行き交う人々や商売人の呼び声、時々の笑い声が響いた。

その浅草の賑やかさを背に、五十間道の緩やかな曲がり道を歩いた。


そして目の前に、

巨大な黒塗りの門が見えた。

イタリアの哀れなる詩人ダンテの書いた地獄門も、

このような黒なのだろうか。

異国の芸術家たちが、

この門を通ったら、

何を作るのだろうかーー。

僕にとっては、いつも通りの背景に過ぎないものだけど。


日中の吉原の中にて、夜の終わった臭い。香のたかれない生の人間のもの。

それらが僕に幽鬼のようにまとわりつくのを、そのままに僕は女に逢いに行った。


しかし、その日は普段とは違った。


吉原の玄関先で、僕の姿を認めた女将が近寄って、僕にこう言った。


「若旦那。大変申しあげにくい事ですが、

あの女は死にました。」


この言葉は、ひどく遠くで起こったことのように思えた。


こうして、

第一幕は吉原の女の死にて幕を閉じる。

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