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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第一章 小さな種と冬の陽だまり

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第3話 初めての『ただいま』

人の視線が、自分の瞳を見られるのが怖いルミアが一歩前に進んで声を出しました。そして、「ただいま」と初めて言った瞬間です。

 

 そこは村の人達がよく集まる場所。共用の井戸があり――話し合い等をよく行う広場だった。


「エレナ!何を考えているんだ!」

「そんな子供を引き取ろうって?その赤い瞳!不吉な色じゃないか。エレナ、あんたは信用してるがそれはあまりにも……」

「ああ。子供とはいえ、よそ者を簡単に信じるんじゃない。何かあったらどうするんだ」

 

 

 先程、井戸の前でエレナさんは他の村人に事の経緯を説明して私を引き取ると宣言した。

 それを聞いた村の人達の反応は様々で、同情的な人もいれば排他的な意見の人もいる。

 私とエレナさんは村の人達に円を描いて囲まれていた。


 ただ、歓迎される空気ではないのは確かだった。

 

  (ああ、やっぱりどこへ行っても迷惑を掛けてしまう)


 キュッと拳を握って、自分のつま先を見つめてやり過ごそうとした。その私の拳が不意に温かいものに包まれた。

 ――エレナさんの手のひらだった。


「大丈夫だ、顔をあげなさい。あんたはただの子供だ。まだ幼いくて小さい、本来なら大人に守られるべき子供なんだよ」

 

 エレナさんが、私の肩を掴んで自分の身体に引き寄せた。

 怖いけれど。私を見つめる沢山の視線が怖いけれど、エレナさんの言う通りに顔をあげた。様々な人が私から目を逸らす。


「これだから、頭の硬い奴らは。迷信を信じて誰が助かる?なら医者も薬屋も要らないね!今度から、神様にでも祈って病気を治してもらいな!」

「そういう話をしてはいないだろう!」


 彼女は、バッと手を広げて、周りを見渡した。誰もが彼女の迫力に圧倒されている。


「あんたらは本当に無知だねぇ。赤い瞳なんて、ただの遺伝で偶然生まれてくるんだ!――不吉?迷信?そんな物は、ただの偶然起きた不幸を、珍しいものに全部押し付けて安心しているだけの馬鹿野郎の妄言だ!」


 エレナさんの声が、村人たちの間に響いた。

 その声に、そのエレナさんの言葉を、優しさをここで裏切っては駄目だ。

 ここで私も行動しないと。

 踏み出そうとする足が震える。

 周りの視線が怖い。


 ――でも、私はもう証明できる。あの時、ちゃんと自分で立ち上がって証明したじゃない。


 村の人達と一人一人目を合わせる。

 嫌悪。忌避。同情。心配。

 色々な感情が浮かんでいる人々から目を逸らさずに、声を出した。

「ル、ルミアです。私は、私は皆さんに何もしません。傷つけたり、酷いことなんて絶対にしません……!不吉な色持ちですが、私は誰かの不幸を望んだことなんて一度もありません。だ、だから、だからここに居させてください……!」


 声が震えて、吃ってしまって、格好もつかない挨拶だった。

 こんな事も上手に出来ない自分。

 緊張で、唇が震える。それを止める為にそれを噛む。

 血の味が、私の不安のように広がっていく。


 その瞬間――誰かが、かすかに咳払いをした。そして。

「……よろしくな、ルミアちゃん」

 と、老人の声がぽつりと落ちた。

 それが皮切りになったのか……。

 何人かが私に声をかけてくれた。

「よろしくね、私もエレナさんにはお世話になってるのよ。これからはよく顔を合わせるわね」

 四十代くらいの女性が声をかけてくれた。

「私は、私はね!リナ!キレイなお姉ちゃん、何歳?私は五歳だよ!」

 小さな女の子も笑顔で声をかけてくれた。


「私は十二歳だよ。よろしくね、ありがとう。リナちゃん」


 私が年齢を言った時に、エレナさんの手が少し震えた。

 そして、周りの空気も少し和らいだ気がした。

 何故かはよくわからない。


「頑張ったね、偉いよルミア。あんたは本当に凄く強い子だ」

「――そうかな?ありがとう、エレナさん」


 エレナさんがそうやって私の頭を撫でてくれた。

 擽ったくてむずむずとするけれど、心の中が一番むずむず、ソワソワとする。でも何故か嫌な感じじゃない。

 何かが心に溜まっていく感覚。


 エレナさんは凄い。

 皆に認められていて、こんな私を引き取る事も他の人に認めさせてしまった。本当に凄い。


 エレナさんは、まだ私の手を離さなかった。

 そして、私よりも小さなリナちゃんの瞳に、私の『赤』が映っている。

 でも、何故か不吉な色に見えなかった。

 リナちゃんの純粋な笑顔のお陰だろうか。

 彼女の柔らかい茶色い瞳に混じった赤色だからだろうか――。


 ◇◇◇


 まだ、家の扉を開けるとドキドキしてしまう。

 でも、さっきエレナさんに教えられた。こういう時は――。


「えっと、ただいま。キアン、セラ」

「――おう。無事だったみたいで良かった。流石に泣いて帰ってきたらどうしようかと……!痛っ!……くっそ!この馬鹿セラ!」

「おかえりなさい!ルミアは可愛いからみんな大丈夫だったでしょう!?キアンったら本当にウロウロウロウロと部屋中動き回って目障りだったんだから!」


 セラは純粋に聞いてくれる。キアンは――きっとあの出会いもあったから、それがどんなに困難なのか既に知っている。


 ――でも、大丈夫。『ただいま』ってここに来たんだよ?

 私も、多少は他の人にも受け入れてもらえたみたい。

「ほら、大丈夫だったよ。()()()()()()()()()()()()()


 凄い。ただいまって言葉は凄い。帰ってきたって普通に思えた!


「んーー、じゃあ、お待ちかねの、ルミアの歓迎会といきましょうか!」

 エレナさんがパーンっと手を叩いた。

 それを待っていたのが、セラがキッチンに走る。

「そうそう、それを待ってたのよー」

 そう言って大きなチキンを食卓に運んできた。

 エレナさんは、手作りで作ったのか、バターの香りが強いカップケーキを持ってきてくれた。


 キアンは――。

「また無理したんだろ、お前」

 

 ポンポンと私の頭を撫でる。

 そっか、結構無理して頑張ったかもしれない。今日ほど、嫌悪の目を見つめ返した事は無かったかもしれない。いつも相手が目を逸らすと同時に私も目を逸らしていた。

 傷だって治っていない。昨日の暴力の跡がお腹にも背中にも足にも残っている。

 そっか。

 心配。そう、心配してくれていたんだ。

 エレナさんはきっと治療中に私の怪我の理由に気づいて居るだろう。でも、詳しく聞かないでくれていた。


 でも、その場面を見ていたキアンは――。

 同じ場面を想像して心配してくれたんだろう。

 先程の胸の中のむずむずがまた復活してしまった。


 でも。

「ねぇ、キアン――」

 ちょっとだけ、彼の温かさに触れたくなって手を伸ばそうとした瞬間。


「よーーし!今日はご馳走をたっぷり用意したよ!セラとキアンに負けずにいっぱい食べな?」


 エレナさんが、温かそうなスープを鍋ごとテーブルに置いた。

 その音に、ビクッとして動きが止まる。


(あ、あれ?なんで勝手に触れたくなったの、私!)


 そんな事をされたらキアンを困らせるだけなのに。そういう事は、もっと年上になってから。私が、娼婦になれる年齢になってからでしょ!


「――あ。エレナさん。私、十五歳になったら外で稼いできて恩返しします。前から誘われてはいたんです。多分、そこに入ったら外には出して貰えないから、お金だけでも送って……」


「ルミア」


 エレナさんは厳しい口調と声で私の発言を遮った。怖いほど真剣な彼女の視線に、私はそのまま口を閉ざすしかない。怒っている。怒らせてしまった。


「ちょっと黙って、ね?ここには世間知らずがいるから。そして、私はそんな事は絶対にさせない。わかった?二度と言わないのよ」


 エレナさんのあまりの迫力に、私は首を縦に振った。

 じゃあ、どうしたら。

 キアンやエレナさんの恩に報いることが出来るのだろうか……。


「じゃあ、ルミアの歓迎を祝して――。かんぱーーい!」

 セラがジュースの入ったコップを掲げる。

「おー!これからよろしくな!」

「うん、ルミア。これからここがあんたの居場所だ」


 さっきの発言を無かったことにするような明るいセラの声。

 そしてそれに乗って聞かなかった事にして許してくれるエレナさん。


 じっくりとローストされたチキンは絶品で、お肉なんてほぼ食べたことがなかったから感動した。

 エレナさんが作った、カップケーキは初めて食べたスイーツだった。こんがりと焼けたバターの香りとほんのり甘くてとても美味しかった。


「ほら、もう寝る時間!セラ!あんたもう半分寝てるじゃないか。キアン!あんたは昼間に整えさせた部屋にルミアを案内してあげな!」


 ――こんなにしてもらって、私はどうしたら返せるんだろう。さっきはきっと、娼婦になる事をエレナさんに止められたんだ。じゃあ、私の稼ぎ方ってなんだろう?


「よし、じゃあ部屋に案内するからついてこいよー。お前、さっきからぼんやりし過ぎ」

「ありがとう」


 少し心配そうな表情を見せるキアンに、大丈夫だと安心させる為に笑顔を作る。

 彼の後を付いて階段を上がっていく。

 キアンの少年らしい、それほど大きくもない華奢な背中。


 エレナさんへのお礼は後で考えよう。

 キアンへのお礼――。

 まずはそこから始めてみよう。




 

今日も、書き終えました。

また、明日も、少しずつ書いていきます。

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