表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/41

第31話 未来に触れた日


 秋も深まったある日。

 すっかり暑さも抜けて、朝晩は肌寒さも感じる。


「ねぇキアン!見てスペシャルブレンドのお茶を5種類作ったんだ。体が温まるの。こっちは少し酸味があって――」


「待てルミア。いきなり何の話だよ?」


 キアンは、帳簿から顔を上げて眉を寄せる。

 邪魔をしてしまったかな。

 出直そうと足を半歩下げると、キアンが私の腕を掴んだ。


「邪魔じゃないから。――で?お茶が何だって?」


 パタリとノートを閉じて、こちらを見上げる。

 座っていても、あまり目線が変わらなくなった。


 昔から整っていた顔が、さらに精悍になってしまった。村の女の子がたまに告白しているのも知っている。


 それにモヤモヤした感情を抱く私も大概に狡い。

 堂々と彼を独占する勇気が持てればいいのに。


 まだ私は、臆病な孤児時代のままだった。いや、あの頃のほうがもっと強かったかもしれない。


 ――今は失うことが怖くなった。


「あ〜。出直しても良かったのに。ごめん。えっとね、アルの奥さん用のお茶。妊婦さんに冷えは大敵だからさ……どう?お節介?」


 私は、五つある小袋をまとめたものをキアンに見せた。

 キアンの口元に笑みが浮かぶ。


「で?一緒にアルに会いに行こうってお誘いか?」

「……うん。だって、キアンの友達で……。いきなり会いにいけないし」


 私は言い訳がましく、口を尖らせてしまう。

 ただ、不安なだけだ。

 アルの奥さんの人柄も知らない。

 それにいまだに初対面の人には緊張してしまう。


「いいよ、じゃあすぐに出発しよう。……暗くなる前に帰りたいしな」

「いいの?というか今すぐ!?」


 キアンは立ち上がって、私の頭をポンポンと叩いた。


「善は急げって言うだろ?どうせルミアのことだから、考えすぎると変な方向に行くから」


 壁際に掛けてあるコートを羽織りながらキアンが言った。

 ――見抜かれてる。


 私も、急いで部屋にコートを取りに戻った。


 ◇◇◇


「わー!あなたがルミアちゃん?」


 アルの奥さんは、キアラと名乗った。

 落ち着いた赤毛に、小柄ながらも、意思を感じる瞳だった。


 後ろで、アルが落ち着かない様子で手を動かしている。

 ――本当に彼は変わった。

 出会った頃はもっとわかりにくい感じだったのに。


「はじめまして、ルミアです。……えっとこれ。妊婦さんの体にいいお茶で……」


 袋を差し出しながら、上手く説明できない私に代わり、キアンが説明してくれた。


「ルミアの特製ブレンドで体が温まるらしいぞ」

「まぁ!ありがとう……!最近、浮腫みも酷いし、悪阻も酷いし最悪だったのよ」


 ああ。

 本当に『お母さん』は大変なんだ。


 その後、いつのまにかキアラさんと二人きりでソファーに座っていた。

 主に妊娠中のつらさや、アルの愚痴だったけれど幸せな雰囲気が滲み出ていた。


「キアラさん……。母親になるって、どんな感じなんですか?」


 私は思い切って聞いてみた。

 しかし、キョトンと目を丸くした彼女は少し笑った。


「見てよ、まだ少しだけお腹が膨らんだだけ。――きっとこれから少しずつ実感して。そして、無理やり成長させられるんじゃないかしら?」


 ゆっくりとお腹を撫でながら笑う彼女。

 しかし、私の瞳にはすでにしっかり母親になっているように見えた。


「そういうものですか」

「うん。毎日不安だしね。無事に産んであげられなかったら?その子に何かあったらって。完全な幸せなんて、最初から描けないよ」


 しばらくの間、アルとの馴れ初めや今の生活の話をしていた。


 ――頃合いを見計らっていたのだろうか。

 キアンとアルがお茶を持って部屋に戻ってきた。


 自然とキアラさんの隣に座るアル。

 背中にクッションを追加してあげて邪険にされたり、見たことのないような顔で笑う彼の姿に驚きが隠せない。


 アルは自然とキアラさんのお腹に手を当てている。

 それを当然のように受け入れる彼女。

 きっといつもの光景なのだろう。


 キアンを見ると、窓の方に視線を逸らしていた。


 でも――。

 窓に映る、彼の表情は何かに耐えているような……。

 その横顔は、どこか諦めたようにも見えた。


 帰り際に、キアラさんに声をかけられた。

 そっと囁かれるその言葉。


「彼、一途そうじゃない。……不安ならね、彼に飛び込んでみるのもいいと思うよ。だって、二人で解決できるから」


 私はその言葉に、曖昧にしか返事ができなかった。


 キアラさんは飛び込んだの?

 アルは受け止めてくれたのかな。


 それならキアンは?


 ――きっと受け止めてくれる。


 いつから、私は伝えられなくなってしまったんだろう。

 大好きなキアン。

 ずっと一番だった彼。


 私は、彼を――。




 二人に手を振って、夕日の方角へ歩を進めた。少しだけ眩しくて、手で目元に影を作る。

 虫の音が、私たちの沈黙を和らげてくれた。


 夕焼けの中、キアンが私に手を差し伸べた。足下が不安定な時に、そっと気遣ってくれる。

 私は自然とその手を取る。

 いつもよりも力強く感じた。


 大きくて温かい彼を手放したくない。


 ――そう、実感してしまった。


 無意識に彼の琥珀色の瞳を覗き込む。

 甘くて、溺れてしまいそうだ。

 私はきっと、もう随分と前からこの瞳に囚われている。

 でも、まだ口に出す勇気がない。


 もう少ししたら、ちゃんと伝えたい。

 このぐちゃぐちゃな感情も、出口の見えない未来への不安も。


「帰るか。あまり遅くなると、またセラに文句を言われる」

「ふふふ。あれは、心配してるだけだよ」


 その手を取り、私たちは馬車に向かった。

 未来――。

 その言葉が、私に降りかかった一日だった。そして、それは心を少しだけ暖かくしてくれた。








 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

もし少しでも心に残るものがありましたら、★で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ