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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

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第30話 薬屋


 今日は朝から冷え込んでいた。

 こういう日は、『エレナの薬屋』の扉を叩く人は多い。


 私は、収穫した薬草に" 癒しの力 ”を込めていた。

 エレナ母さんとセラが調べた結果、私の力は主に植物に強く作用して効果が跳ね上がるらしい。


 キアンは、最近は薬屋ギルドにも顔を出しに行っている。

 彼のお陰で販路も広がり、情報が集まる。


 母さんは特に止めない。

 セラも、その辺は任せているようだった。


 私が作業を終えた後、薬屋の扉が叩かれた。

 季節のかわり目だ。

 また誰かが体調を崩したのかもしれない。


「おばあちゃん、凄い熱なの!助けて!」


 私を見るなり抱きついて、必死に訴える。

 幼い少女だ。

 見知った子だった。そして数日前にも顔を合わせている『リナちゃん』。


 彼女の祖母は、いつもお世話になっているエミさんの事だ。

 詳しく容態を聞こうにも、要領を得ない。


「朝はちょっと元気で。でもちょっとつらそうだったの。お母さんもお父さんもお仕事に行っちゃった……。さっきから熱が上がって、凄くつらそうなの!」


「わかった。熱が高い……。解熱剤と、あと胃薬、下痢止めも持っていこうかな」


 私が薬を鞄に詰め込んでいる間、リナちゃんは心配そうにこちらを見ていた。


「エレナおばさんは?セラお姉さんは?」


 エレナ母さんは外出、セラは調合室にいる。

 どうしようか。

 重篤なら、セラのほうがいいかもしれない……。


「ちょっと待っててね。セラとお話してくる」

「……うん」


 心細そうに、彼女は自分のスカートを握りしめる。

 その指は小刻みに震えていた。

 私は思わず、彼女の目の前に座り込みその指をそっと包んだ。


「大丈夫だから。ね?」


 ◇◇◇


「この時期に高熱か……」


 調合室の椅子に座ったセラは腕を組んで考え始めた。

 私は、チラリと彼女の作業を確認する。

 ――なるほど。

 解熱剤、咳止め、冬に向けての準備だ。


「本当に深刻なら医者を呼ばないと……。でも、ただの風邪なら解熱剤で何とかなるかもしれない」


「そうだね。でも、私じゃ不安そうだから……」


 言い訳がましく、さらに言葉を重ねようとした私をセラは容赦なく遮った。


「私たちは、医者じゃない。薬屋。今の症状を聞いて薬を持っていきなさい。それと医者を呼ぶ判断はご家族よ。あんたは様子を見てきて」


 ――もし、私が間違えたらエミさんが?

 その重みを想像して、胸の動悸が激しくなった。指が震える。


 駄目だ。

 私が揺れていたら、リナちゃんはもっと不安になってしまう。

 ぎゅっと拳を握る。

 爪が食い込んだ。これは現実で、私は目を逸らしては駄目なんだ。

 この痛みが、それを思い知らせる。


「わかった。私が行ってくる」

「ルミア。……わかってるわよね?」


 私は、その言葉に一瞬だけ喉を詰まらせた。

 それは、五年前に約束したこと――。

 緊急時以外では、人前では " 癒しの力 ” を使わない。

 私の身を心配してのことだ。

 セラは、きっとその事を伝えているのだろう。


「大丈夫。わかってるよ」

「ん。応急処置はお母さんに叩き込まれてるでしょ。行ってきて。……ルミアなら出来るから」


 ◇◇◇


 リナちゃんとエミさんの家に向かう。

 何しろ高齢だ。

 最悪の事態を想定しなければいけないだろう。


 ――エミさん。私に文字を教えてくれて、ずっと親切にしてくれた人。

 薬を入れた籠を持つ指に力が入る。


「リナちゃん。大丈夫だからね」

「お姉ちゃん……」


 ずっと涙を流して、目元が腫れている。

 私よりもこの子のほうがずっと怖いはずだ。

 それでも助けを求めに来てくれた。


 大丈夫。

 自分に言い聞かせながらリナちゃんの手を引いた。


 ◇◇◇


(熱が高いけど他に症状は無い。嘔吐も無し。痙攣も、黄疸もない)


「リナちゃん、おばあちゃんにお薬を飲ませたいからキッチンに案内を――」


 私の言葉を遮るように、激しくドアが開いた。

 思わず肩が跳ねる。


「すみません!母の容体は!?」

「あぁ……!朝はまだ平気そうだったから……!」


 そこで、エミさんの息子夫婦が飛び込んできた。

 きっとどこからか話を聞いてきたのだろう。

 それなら、もう大丈夫だ。


「熱冷ましの薬と胃薬を持ってきています。今後お腹を下すようならこの薬を使ってください。飲みやすいようにぬるま湯か、蜂蜜で溶かしたものがいいですよ」


 私はご夫婦に説明する。

「蜂蜜……!」

 そこで、はっと顔を上げて奥さんがキッチンに向かって走り出した。


 戻ってきた彼女が手に持っていたのは、懐かしい物だった。

 12歳の私がお小遣いで買ったものと同じだ。

 ラベルは少しだけ色褪せている。


「お義母さんが、ずっと大切に飾っていました。でも、今うちに蜂蜜はこれしかありません」


 その言葉を聞いた瞬間に、胸の奥が締めつけられた。

 大切にしてくれていた。

 視界がわずかに滲む。


 ――でも、それは今じゃないでしょうルミア!


「それで大丈夫ですよ。温めのお湯に薬と一緒に溶かして、ゆっくり飲ませて上げましょう」


 奥さんと一緒にはちみつ湯を作り、小さなスプーンで少しずつエミさんの口に含ませる。

 しばらくすると、荒かった息が落ち着いてきた。


 うん、大丈夫そうだ。


「ありがとうございます」

「お姉ちゃん、ありがとう!」


 私も、ほっとして彼らに手を振った。

 念のために注意書きを渡して玄関をくぐると、既に日が傾いている。


 それを見た瞬間に緊張が緩んだ。

 ずっと気を張っていた。

 体も心も限界で、とても疲れている。


 でも悪くない気分だ。今日の私はちょっと頑張れたみたいだ。



 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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