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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

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第29話 隣を譲らない



 朝までアルに付き合い、お互いに相当酔っ払った所で、新婦が迎えに来た。

 アルは、フラフラとした足取りで部屋を出ていく。


「あはは。アルがこんなになるのは珍しいね。迷惑かけてごめんね、キアンくん?」


 目の前に水が入ったコップを置いて、こちらに笑いかける女性。

 それにお礼を言い、俺はよく回らない頭で彼女に聞いた。


 昔、何度か言葉を交わしたはずなのに、名前が出てこない。


「君は……アルで良かったの?こいつ、適当だし意外と繊細だし……。アルは幸せにしてくれそう?」


 一瞬だけ、きょとんと俺を見た後に、彼女は朗らかな声を出した。


「あはは。違うよ。二人で幸せになるんだよ。私もアルを幸せにしなきゃいけないの」


 彼女は、アルに比べたら少し地味な印象で。平凡そうで。 

 でも、とても素敵な笑顔で言った。


 ――ああ、お似合いだ。

 自然とそう思った。


 ◇◇◇


 馬車に揺られて村に着く頃には、既に夕方だった。

 もう日が落ちるのが早い。夕日に染まった広葉樹が美しかった。

 何故か無性にルミアの顔が見たくて、辺りを探す。


 すると、薬草園から声が聞こえてきた。


(ルミア……)


 走りだしそうな足が、地面に縫い止められた。


 少し先で座り込んで、何かをしているルミア。

 それはよく見る光景だった。

 一つだけ違うのは――。


 (ベイル。あいつも一緒なのか)


 二人で、座り何やら話し込んでいる。

 ここ数年で、ベイルの俺に対する敵意は消えていた。

 きっと大人になり、偏見も跳ねのけられるほど強くなったのだろう。


 そして、ルミアに対しての態度はさらに気安くなった気がする。


 俺はそっと二人に近づいていった。


「ここのグリップがね、もうちょっと細いと、女性も使いやすいかも。ほら、園芸好きな女性も多いでしょう?」


 ルミアが鎌や手持ちのシャベルについて話し込んでいた。

 それを、ベイルが真剣に聞いている。


「あとね、水やり用のジョウロ!あれ、もっと軽くて繊細にしたら奥さんに人気出るかもよ!結構人に見られながらお花に水をあげる人も多いから」


「……なるほど。参考になる」


 会話に夢中なルミアは気づいていない。

 後ろに回り込んだ俺に気づき、ベイルは軽く手を上げた。

 俺もそれに答える。


 ――普通の会話だ。なのに、何故か胸が落ち着かない。


「ルミア、髪解けてる。……結び直すからじっとしてて」


「あれ、キアン?え、ちょっ……!」


 慌てるルミアの、細い銀髪に、そっと指を通す。

 リボンを解き、三つ編みを解していく。


「よう。……久しぶり」


 ベイルが苦笑いで、立ち上がって俺に挨拶をした。

 くそ。やっぱり体格いいな。


「ああ。久しぶり。それと、独り立ちおめでとう」

「……ありがとう。まだまだ駆け出しだけどな」


 独立。駆け出し。

 どちらも俺が言えない言葉ばかりだった。


「じゃあ、ルミア。お前の意見をもとに作ってみるよ。あと、お前のその鎌は売り物として初めて作ったものだから、修理やメンテンナンスは無料で請け負う。じゃあな」

「うん、ベイル!ありがとう!またね」


 彼の遠ざかる背中に、ルミアが声をかける。

 夕日に霞んでいくベイルは、少しだけ方手を上げただけだった。


「キアンおかえり。結婚式、どうだった?」

「……あぁ、うん、ただいま。羨ましいほどだった。あいつ、ずっと緩みきっててさ」


 ルミアの髪を結び終え、リボンを付け直す。


「幸せそうだったよ。あいつも……奥さんも。六ヶ月後には、また違うお祝いをしなきゃいけないみたいだ」


「そっか、良かった。でも六ヶ月後……?何かあったっけ?」


 ルミアが首を傾げて考えている。

 やっぱりわからないよな。

 俺すら、想像していなかった。アルは本当に規格外なことばかりだ。


「妊娠4か月らしい」

「うわぁ!じゃあ、妊婦さんにいい薬草でお茶をあげなきゃ!」


 指折りで、何やら考えているらしいルミア。


 ――今、俺たちはどうする?って聞いたらどうなるんだろうか。


 ルミアは断らない?

 わからない。

 けれど俺自身、まだ自信がない。

 ベイルが本当に羨ましい。あいつはすでに、社会的な地位だって持っている。


 俺はまだ、立ち位置すら決まっていない。



 ルミアの恐怖も過去も、偏見もわかっているつもりだ。

 だが自分のことさえ満足に何も解決出来てない俺が、今の彼女に将来の話をしてもいいのか?


 アルみたいに、将来を誓う。それは自分が伝えていい言葉なのか……。


『恋には期限があるらしい』


 アルの言葉が耳に残る。その声が心を騒がせる。


『二人で幸せになるんだよ』


 アルの妻になった女性の言葉も頭に繰り返される。


 ――それは、今なのか。

 まだ早いのか、その期限がギリギリなのか。俺には判断すらつかない。


 思わず目の前の彼女に聞いてしまった。

 ここ数年で女性らしく成長したルミア。

 その仕草一つ一つに何故か色気を感じて、隠したくなる俺の気持ちに気づいてすらいない。


 街の男がどんな目で自分を見ているか知っているのだろうか。

 それほどまでに綺麗になった。


「ルミアは……誰かとの未来を考えたことある?」

「……え?なんで?」


 一瞬、彼女は動きを止めて俺を見た。そして……諦めたように笑った。


「今でも幸せなのに。これ以上求めていいのかな……」


「何?贅沢だって?」


「ううん。私が、全部自分の手で壊しちゃう気がするの。……後悔して泣きたくない」


 予想通りの言葉だった。

 それは……。彼女に刻まれた恐怖そのものなんだろう。

 俺にはどうしようもない。


 ――俺たち二人、一緒に進む未来は無いんだろうか。


 いや。諦めるなよ、俺。

 そんなに簡単な想いなら、もうとっくに忘れられてるはずだ。


「ルミアは、自分から壊したりしないよ。でも、そうだな……。まだ問題は多いよな」


 何故か、村を出る時に祝福されたローレンス神父の灰色の瞳が頭を過ぎった。

 彼の、ルミアを見る視線が気に食わない。

 巧妙に隠した『何か』を感じる。


 ルミアはもっと色々な視線や感情に晒されているんだろう。

 自分を引け目に感じてしまうほどに。


 それでもきっと、俺は諦められない。

 だからルミアの側を離れないで――彼女の隣を独占してしまうんだ。

 たまにどうしょうもなく、抱きしめたくなってしまう。

 誰にも渡したくなくて、その唇を奪ってしまいたくなる。


 ――こんな感情、ルミアの前では見せられない。


 だけど、いつまで俺は我慢できるだろうか。


「情けないな」

「キアンは素敵だよ」


 わかって言っているのか、こいつは。

 でも……これが今の俺たちの形なのかもしれない。


 出来るなら、いつまでもこのままで――。

 それが無理なことは、とっくに知っていたはずなのに、俺は無意識に願っていた。



 

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