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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第一章 小さな種と冬の陽だまり

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第2話 赤いお茶と、初めての朝

『光』はきっと彼女自身じゃなくて照らしてくれる存在なんですよね。



 その後、私は彼に住んでいる村まで連れて行ってもらった。

 そこには、エレナという薬屋の女性と、私とほぼ同年代の女の子、セラがいた。夜中に訪れた私達を見て、エレナさんはキアンを叱った。


「こんな時間に、女の子を連れてきて……。理由は言えない?もっと言い方を考えなさい!ちゃんと説明して、この子にも安心させてあげなさい!」



エレナさんは、茶髪に髪色より少し薄い瞳の、少し白い毛が混ざっている四十代の女性だった。セラと紹介された女の子も似た色合いだ。明らかに親子だとわかる。


 そう。あり得ない。本当にごめんさない。

 まず、私は『家』という所に入ったことがない……。

 隣では、キアンが叱られている。

 

「あの!違うんです!キアンは一時的に連れてきてくれただけで……私はすぐに出て行きます!ただ、骨が折れたりしてあまり動けないので、しばらくだけでもお願いします」

 

 私は、痛む胸を押さえながら頭を下げた。

 迷惑を掛けている自覚はある。

 キアンが責められる必要もないんだ。だって、ここまで私を支えて歩いて来てくれたから。


「いいんだよ、勘違いさせちゃったね。キアンの態度が悪かったから叱っていたんだよ。説明不足でお願いの仕方も知らないからね。躾けだよ」


 そうして、エレナさんは私の体中を見て眉を顰めた。

 そっと私の手を取り膝をついて、目線を合わせて聞いてくれた。


「傷だらけで、追い出すなんて薄情に見えるのかい?ほら、早く入りな。この村特性の『赤いお茶』を出して上げるから」

「――赤い?」

「そう、カーマイン・ベールって名前の花。そのお茶だよ」


 赤は嫌いだ。私が嫌われる理由だから。

 それが表情に出ていたのか、エレナさんは優しく諭すようにゆっくりと語った。


「この花はね、虫にも強くて香りもよくて育てやすい。力強いんだよ。更に、内緒だけどね――人を元気にしてくれるんだ」


 人の為になる、赤い花?

 赤は嫌われるんじゃないの?わからない、この気持ちはよくわからないけれど、この花は幸せだね。


 初めて入る、温かい『家庭』。『家族』の家。

 居心地が悪くて、モゾモゾと身じろぎしてしまう。

 椅子に勧められ、その赤いお茶を受け取り、一口飲んでみる。

 それはほんのりと酸味を感じる味だがが、お茶の温かさに心の中の何かが溶け出していく。


「あんた名前は、何ていうの?」

 

 エレナさんが私に聞いてくれるけれど……。名前。名前か――。

 なんて答えようか考え悩んでいると――。


「ルミア!前にエレナ母さんが言ってた『光』ってやつ!」

 

 間髪入れずにキアンが答えた。


(ここまで来る途中で名前が『あかいろ』だって言ったからかな)

 

 気を使わせてしまったみたいだ。

 そして、それはエレナさんにも伝わっていたのだろう。

 キアンの頭をポンポンと撫でて、


「これからよろしくね『ルミア』。ほらほら子供は気を使わない!もっと、ね。自分を出していきなさい。……少しずつでいいから」

 

 私の頭も撫でてくれた。初めての経験だらけで、よくわからない。『これからよろしく』?受け入れてくれるの?

『ルミア』――光?こんな私が?

 

 どう感じていいかもわからない。

 上手くやらないといけないのに。

 それしか生きる方法を知らないのに。笑顔で返事をしないといけないのに――。


 私は、下を向いて、膝でギュッと拳を握ってか弱く返事しか出来なかった。

 制御できない。わからない。温かい涙が止まらなかったせいだ――。


「『ルミア』です。私、ルミアって名前、です……」

「じゃあ、ルミア。そのお茶を飲んだらその酷い怪我の治療をするよ!幼い時の骨折を放置したら大変なことになるからね。傷口も消毒するよ。セラー!消毒薬と痛み止めの薬を出してきて」


 温かい。家の中ってこんなにも温かいの?

 他の家の扉は重くて、ノックしても話も聞いてくれずに閉められた。その中に私が居る。


 見ることの無かった『家族』がこんなにも近くで私に優しくしてくれる。

 

 セラと呼ばれていた女の子が泣きそうな顔で私の傷口に消毒をしてくれる。

 

「痛い?大丈夫?でも、お母さんの薬はよく効くの。もうちょっと頑張れば元気になるよ!」

 

 優しい子だ。キアンも優しい。エレナさんも優しい。

 

 私は生きるのに必死で、誰かに優しくした事なんて無かった。なんて恥ずかしい人間なんだろう。

 人の親切が、こんなにも心に痛いなんて。

 私の今までの愚かさを実感させてくれる、この胸の痛み。


「ありがとう。ごめんなさい……」

 

 そう繰り返して、涙を堪えるしか出来なかった。


 夜が深まり、エレナさんはセラを部屋で眠るように促した。

 

「一晩中暖炉をつけておくから、ここで休むかい?」

「え……と。ありがとうございます。まだベッドは眠り方がよく分からなくて……」

 

 椅子に毛布をかけながら声を掛けてくれる。

 エレナさんは細かい気遣いが凄い。

 初めて路上以外で寝るのに、初めて家に入れてもらえたのに、ベッドまで使うのは緊張する。


「そう。じゃあ、明かりもつけておいてあげようね」

「……。」

 

 暗くなるのを怖がると心配してくれているのか。

 確かに、夜は幼い子供にとっては恐怖だった。

 

 人攫い。ただの快楽で子どもを痛めつける人。孤児を利用してお金を稼ごうとする大人。そしてただ飢えと寒さで死んでいく仲間。


 だから孤児は生きるためにグループで生活して、ずっと離れずに夜を過ごしたんだ。


「ありがとうございます。……今日は、ここで過ごしてもいいんでしょうか?」

「うん、勿論だよ。――ほら、キアンも部屋に戻りな。女の子と二人になろうなんて十年早い。あんたじゃ役者不足だよ」


 私に笑顔を向けてくれた彼女は、キアンの腕を引っ張って、一緒に階段を上がっていく。


「ちょ……!そんな事考えてないって……。ただ――」


 彼が反論している時に一瞬だけキアンと目が合った。

 心配の色が確かに浮かんでいた。


「エレナさん、キアン。今日はありがとう。『おやすみなさい。いい夢を』」


 私はどこかで聞いた、寝る前の挨拶を口に出してみた。

 いつ聞いたかは忘れてしまった。けれど、素敵な言葉だと思ったの。だから、この瞬間に使ってみたかった。


 フッと笑って、エレナさんが言った。その笑顔は見たこともないような笑顔で……。


「ルミアおやすみ。明日は起きたらちゃんと『おはようございます』だからね。忘れないように」

「ルミア……!お疲れ。本当に……お疲れ様、おやすみ」

 引きずられながらキアンも私に声を掛けてくれる。


 感情が追いつかない。

 安心?恐怖からいきなりこんなに安心な場所へ来た。

 夢じゃないだろうか。

 私は、あの時、キアンに助けられないでそのまま死んでしまったんじゃないだろうか。

 そう考えた私の、その左手の薬指に、まだ、赤いお茶の温かさが残っていた。

 

 ◇◇◇


「――誰ですか」

 階段から、降りてくる足音がして声をかけた。

 案の定、私は眠れないでずっと、暖炉の火を見ていた。

 ゆらゆらと揺れる火を見ているだけで何時間も経っていたらしい。


「いや、ごめん。心配だったから、ちょっと様子を見に来ただけ……のつもりだった」

 

 バツが悪そうに頬を掻きながらキアンが降りてきた。

 

「いや、途中で『やめとけ』って心の声が聞こえてさ。でも、聞かなかった」

 その姿に、ホッと息をつく。

 ――ホッとする?何で?

 

 許可も出していないのに、私の隣の椅子にドカリと座る彼。


「お前さぁ、本当に凄かったな。あんな状態で、俺に言い返してくるとは思わなかった。諦めていたみたいだから、助けてって言われたら、抱き上げて逃げるつもりだったのに」


 今さら褒められるのも恥ずかしいものだ。

 でも、これだけは彼に伝えたかった。


「うん、私はあそこで諦めたの。なのに、自分勝手に上から目線で声をかけて来た人に反抗しただけ」

「嫌味?皮肉?それとも褒めてる?そんなに上から目線だったかなぁ」

 

 キアンがポリポリと頭を掻き、首を傾げる。


「嫌みな、上から目線に聞こえたよ。『助けてやる』って感じでしょ」

「……違うよ。『一緒に逃げよう』って言おうとしてたんだ」

「……!私は、ただ、貴方の言葉で力が出たって伝えたいだけ。早く部屋に戻った方がいいよ。エレナさんにバレるよ」


 あの場で目を逸らさずに受け止めてくれたのは彼だった。

 でも、何故か私の口からは可愛くない言葉が出てきてしまう。

 

 私のその言葉に、会話を諦めて彼は立ち上がり、頭を撫でていった。


「本当に、格好良かったよ。お前」

「それは……ありがとう……」

 

 そこで彼は動きを止めて目を見開いていた。

 

 ――何?何でそこまで驚くの?そこで信じられないものを見たような目で私を見る。


「なんか、野良猫が初めて自分の手からご飯を食べてくれたみたいな感動……」


 意味不明な言葉を呟いて、フラフラとキアンは階段を上がっていってしまった。


 そういえば、名前をくれた彼にお礼も言えていなかった。

『光』でルミア?あの時は真っ暗闇にいたのに。

 むしろ、貴方のほうが――。


 

 そうやって、私の夜は過ぎて行った。

 朝日をこんなに穏やかに見たのは初めてかもしれない。


「おはよう」

 

 一人で呟いてみた。

 今まで必要のなかった挨拶。上手く出来るだろうか――。


「おはよう、いい天気ですね?……これでいいのかしら……」


 ガタッ!

 後ろから音がして驚いて振り向くけれど、誰も居なかった。


 ◇◇◇


『こら!音をだすんじゃないよ!』

『ごめん、つい……』


 エレナがキアンを羽交い締めにして階段をそろそろと上がっていく。

 挨拶の練習を、何度もする彼女。

 その姿に、二人は何とも言えない苦い感情と、それ以上に、純粋な彼女の本質を見た気がした――。

 複雑な笑顔で。

 エレナが少し眉を下げて痛ましげにルミアに視線をやる。そして、キアンの鼻先に指を突きつけて注意した。


『素知らぬ顔で挨拶するんだよ!絶対にからかわないこと!』

『わかってるよ……!あんなの見たら……出来るわけないじゃん』

 エレナはキアンの頭を撫で回した。

『あの子が心配かい?』

『それは……。俺が勝手に連れて来ちゃって。エレナ母さんに迷惑かけてさ……』

 キアンが気まずそうに視線を床に落とす。

 『馬鹿いわない!あんなボロボロな子供一人助けられないで『薬屋』なんて名乗れるかい!あんたは心配しないで大丈夫。ほら、早く寝なさい』



今日も、書き終えました。

また、明日も、少しずつ書いていきます。

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