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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

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第28話 親友の結婚と、恋の期限

  

 ――キアン視点――



 村を出る途中、ローレンス神父に呼び止められた。

 何故か、苦手な人だ。

 よく観察してみると、彼は『人に好かれる自分を作る』のが上手い。

 ――アルとは違う、別次元の、言いようのない不安を感じさせる。


「村を離れるのですか?」

「ええ。薬を卸しに。それに、親友の祝い事もあるので……」


 ローレンス神父は、ことさら笑顔で祝福した。


「それはおめでたい。神は、彼らに祝福を与えてくれるでしょう。……あなたにも、新たな祝福が訪れますように」


「新たな?」


 何故かその言葉に引っかかり、疑問となって言葉になった。



「ええ。神のお示しになる道は、一つではありません。きっとあなたにも理解出来る時が来るでしょう」


 そうして、灰色の髪を揺らして、お辞儀をする神父。

 俺も反射的に頭を下げる。


 ――しかし、意味不明な事ばかり言う。


 でも……脳裏に浮かんだのはルミアの顔だった。

 無意識に拳を握りしめていた。

 しかし、神父はそれ以上言葉を発さず、村の集会場へ向かっていった。

 その背中は、どこか異質に感じ――しばらくの間、視線をそらせなかった。


 どこかがズレている気がして、体が落ち着かない。

 これから、アルに会いに行くのに。


 正直、ローレンス神父は昔から苦手で、あまり会いたい相手ではなかった。

 頭のどこかで、警鐘が鳴っている。

 ただの気のせいだと思って、馬車乗り場へ向かった。

 今日はやけに、背中の荷物が重く感じる――。


 大丈夫。

 大丈夫だ。俺は、あの時よりも成長しているはずだ。

 こんな不安なんか、上手くやり過ごせるだろう?


 そう自分に言い聞かせ、数時間馬車に揺られていた。

 その間、握り込んだ拳には爪の跡がくっきりと残っていた。


 ◇◇◇


 ――アルが結婚する。


 今日の結婚式は、最小限で抑えたらしく、始終和やかな雰囲気だった。


「キアン!来てくれたのかぁ」

「親友が結婚するんだから当然だろ。おめでとう」


 白の礼装をスマートに着こなしたアルは、いつもより背筋が伸びて、凛々しく見える。


 いつも軽口ばかり叩いているあいつとは、まるで別人だ。


「ありがとう。……はぁ。心臓が口から飛び出しそう。今日から、俺……既婚者だわ」

「いや、それは……そうだろ?なんだ?いつもみたいに逃げたくなったのか?」


「逃げない!」


 俺がからかって言った言葉に、アルは食い気味に否定した。

 その瞳は、何年も付き合ってきた俺でさえ見たことがないほど真剣味を帯びている。


「そっか……。お前、本当に結婚するんだな。最初はなんの冗談かと思ってたけど。そっか。そっかぁ」


 不思議な感覚だった。

 こいつが結婚という選択をするのもそうだけれど……まだ遠い未来のことだと思っていた。


「花嫁……。幸せそうだな」

「……そうかな?」


 遠くで人に囲まれている、白いウェディングドレスの女性。

 何度か、アルの周りで見たことがあった。

 笑顔がとても満たされて溢れている。


 ――本当に、愛しているのだろう。

 二人からは、何か特別な繋がりを感じた。


「お前、今日は一晩付き合えよ」


 アルがワインのボトルを掲げて、俺の肩に腕を回してくる。


「は!?今日って初夜じゃ……」

「あれ?お前知らなかったっけ?今、奥さんは妊娠4か月だから、無茶できないの」


 アルが言った言葉に、体が硬直する。

 ――こいつ。

 後出しが多すぎる!


「わかった。今日はとことん付き合うから。詳しい話を聞かせろよ、本当」


「あ〜了解了解。俺が捕獲されて、飼いならされた話をとことん語ってやろう」


 アルは自虐的な言葉を使っているけれど、明らかに目尻が下がっている。

 そうなのか。

 こいつでも、こんな顔ができるのか。


「じゃあ、挨拶回りに行ってくるから。料理でも酒でも楽しんでいけよ」

「あぁ。じゃあ遠慮なく」


 返事とともにグラスを掲げると、アルがウィンクをして離れていった。

 そうだ。いつもこんな軽い感じだったのに。


 花嫁の隣に自然と並ぶ姿。

 そして、二人で目を合わせて笑い合う。


 それはとても幸せそうで――俺は、離れた所から、拍手を贈った。

「すげぇなアル」


 ◇◇◇


 夜も深くなり、アルは約束通りに俺の泊まっている部屋を訪れた。

 両手には、上質なブランデー。

 俺はテーブルにグラスを二つ置いて、迎え入れた。


 俺の向かいに座るが、あの後も祝福されて飲んだのだろう。

 彼からは酒の匂いが漂ってくる。


「乾杯」

「飲み過ぎじゃないか?大丈夫かよ?」


 目元が赤くなっているので少し注意をしたが、今のアルには通用しないみたいだった。


「お前ねぇ、そんなお硬いことばっかり言っちゃう所が駄目」

「そりゃ悪かった。今日くらいいいよな。――おめでとう」


 注がれた酒に口を付ける。

 程よい苦味とアルコールが喉を刺激するが――。


「お前、ルミアちゃんとどうなのよ?」

「……ぶっ!」


 タイミングよく、こちらに話を振られたので、噴き出しそうになってしまった。

 手の甲で口元を拭うが、ニヤニヤとしたアルと目が合った。

 なんとなくそれが気に入らなくて、視線を逸らす。


「まぁ、何もないよなぁ。キアンは置いておいても、ルミアちゃんが奥手だしな。でもさ……」


 ――コトン。

 グラスがテーブルに置かれた。まだ入っている液体が波打った。


「いつ、どこで掻っ攫われるかわかんないぞ?美人だし――ベイル?あいつともよく会ってるみたいじゃん」


 ベイル。

 鍛冶師になったあいつは、さらに体格も良くなり、もう『赤い瞳』がどうのと言われるような事はなくなった。

 その為なのか、棘が抜けたような柔らかい雰囲気を纏うようにもなってきている。


「……ルミアは、俺のことを……好きだって言ってくれてる……」


 確かに、アルから見たら子どもみたいな関係かもしれないが。


「俺も、ずっと好きだって伝えられてたんだよね。でも、何もしなかった。客やただの女友だちの一人だと思ってたんだけどなぁ……」


 グラスに残った酒をぐっと呷ってから、アルは少し、乱暴にグラスをテーブルに叩きつけた。


「でもなぁ!恋には期限があるんだと!『もう諦めます』って言われちゃったんだよ。他の男を探すんだと」


 ――ああ、自分の話か。

 酔ったアルは本当に絡んでくるな。

 いつもはもっと掴みどころがない奴なのに。


「一週間顔を見なかった。そりゃ焦ったね。ずっと頭から離れないんだ。しかも最悪なことに、他の男と並んでる映像まで流れてくる」


「……だから、踏み切れたのか?」


 俺も、中の液体を飲み干す。そして、次を注いだ。

 昼間の結婚式が答えなのだろう。

 お互いに寄り添って、未来を誓っていた。


「ほぼ、後がなくなってからな。俺はギリギリ間に合った。けど、親友を慰めたくないからな。……ちゃんと手放すなよ」


 軽く流すには、あまりにも胸が詰まるような言葉だった。

 だから、俺も少しだけ真剣に返した。


「……ああ。覚えておく」


 そう答えながら、視線を落とす。


 アルの説教臭い話は明け方まで続いた。

 さすがに最後の方は記憶がとんでいて、二日酔いで午前中は動けなかった。



 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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