表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第二章 優しい手、小さな息吹

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/32

第25話 黒猫に罪はない


 あの押し花は、本棚にしまった。

 小さな箱に入れて、目立たない所にそっと置いてある。


 花は花だ。

 きっと深い意味はない。

 ただ、神父さまが手持ちの花をくれた――それだけだ。


 ただ、聖書が気になる。

 エレナさんに聞いてみようか。セラちゃんでもいい。

 でも、あの二人は根本的な部分を教えてくれない……そんな気がする。


 キアン――は、駄目かな。昼間もピリピリしていたから。

 いや。どうだろう。

 前はそうだったけど……。

 今のキアンは、ちゃんと教えてくれそうだ。

 でも。

 何が書いてあるか、わからない。

 そんなものを身近な人に見せる勇気は、私にはまだ持てなかった。



 ――翌日。

 エミさんに薬を届けにいき、その空いた時間に、文字を習う授業。


 その時に、エミさんにあの聖書のページを見せてみた。


「あら、ルミアちゃんも聖書に興味が?」

「……はい。最近」


「これ、神父さまが下さったのね……。随分と読み込まれてるページをルミアちゃんにくれるなんてありがたいわねぇ」


 エミさんの笑顔に嘘はなかった。

 きっと村で、彼が積み重ねた時間がこんな笑顔を作っているのだろう。


 私は、貰った聖書の一ページを、エミさんに丁寧に教えてもらった。

 初めて触れた言葉は、今までの私の価値観を覆すものだった。


「神に祈り、罪を洗い流す」

「神は全てを平等に作り、ただ役割を与えた」

「罪を犯した魂にさえ、神は寄り添い、その罪を償う機会を与える」


 今までの私を全て、許してくれる神様の言葉。


「あ!そうだわ。今日、神父さまがいらしてね。文字を覚えるのに、聖書がいいんじゃないかって……。幼い子供がいる家に配ってらっしゃったのよ」


 手渡されたそれはズシリと重く。

 歴史が感じられた。


「親切な神父さんよね。ルミアちゃんもこれで勉強しましょうか?」

「はい」


 断る理由は思いつかなかった。そして、私は

 その先を知りたい……という好奇心にも抗えなかった。


 ◇◇◇


 部屋の中で、何度も同じ言葉を繰り返して声に出してしまう。

 最初の不安をよそに、どこか安心感を与えてくれる言葉が並んでいた。


 ――やっぱり気にしすぎていたみたいだ。


「ルミア。ちょっといいか?」


 部屋をノックして呼びかける少しだけ低い声。

 迎え入れると、案の定キアンだった。

 私の部屋に入った彼は、机から聖書を取り上げる。


 昼間に、エミさんの所で教わった所だった。


 そうだ。キアンにも聞いてほしかったんだ。

 生まれてからずっと、私が背負っていた罪について。


「私、みんなと同じだったんだって!みんなと同じように……平等で神様に許されてるんだって。ちゃんと祈って、改心すれば今までの罪は、許されるんだよ」


 キアンは数秒だけ黙った。


「ルミアが……幸せそうだからいいけど……。許されるって、何……?」

「……え?この「赤」と、孤児時代の色々と悪いこと……」


 はぁ~と彼は一気に息を吐き出した。


「お前は、そう生まれただけだし。孤児でただ生き抜いてきただけだ。罪なんて最初から負ってない」


 私は罪深い。

 だから神様が救ってくれるんじゃないの……?


「お前のやってきた事は、ただ生き延びるためだった。神様がそれを許してくれるならありがたく貰っとけ。……それに」


 一度だけキアンは深呼吸してから、私を見て告げた。


「ただ、お前の赤い瞳はきれいなだけだ」


「キアンには……。ただの綺麗な『赤い瞳』なの?罪には見えないの?」


 キアンが、少し近づいて、私の頭をグシャグシャとかき回した。

「お前の銀髪、珍しいだろ。前に、街で会った男が、後ろを振り返ってた。なぁ。俺が黒髪で黒い瞳だとどうだ?」


 自分の髪が視界に入る。


 ――銀髪。確かにこれも珍しいかもしれない。


「キアンが黒髪でも、黒い瞳でもキアンだけど」

「黒猫は?」

「………」


 黒い毛に、琥珀の瞳。


「かわいい」

「そんなもんでいいんだよ。生まれた時から背負うものなんて何もないし、かわいいか可愛くないかで決めていいと……俺は思う」

「そっか……。うん、そうかもしれない」

「……ルミアは街で目立つほど……かわいい……ってだけ」


 そっか。

 私に罪はない……?


「じゃあ、私が『不吉』なのは何でだろう……」

「俺にはルミアが不吉じゃないからわからない。……けど、臆病者が勝手に言い出したんじゃないか?……それか、ただ目立っただけかもな……」


 キアンの言葉を聞いて、とても理不尽だと感じてしまった。

 目立つことが罪なら……本当の罪はもっと重いのだろうか。

 それとも……。


 考えても、答えなんて出るはずもなく。


「色々と考えて疲れちゃったね。お茶を入れてくるよ。ちょっと待っててね」

「うん。ありがとう」


 立ち上がって、何を入れようか考える。

 やっぱり、安眠効果かな?


 ――扉が閉まる寸前に、掠れた声が聞こえた。


「あの小さな命にも……罪はなかった」


 そっと振り返ると、扉の隙間から、キアンが自分の両手を見つめる姿が見え――すぐに隠された。


 キッチンで湯気をたてるお茶。

 そういえば、キアンが黒猫の話題を出すのは二度目だった。


 ゆっくりと階段を上がる。

 きっと、話したくなったら彼の方から教えてくれる。


 私は扉をノックして待った。

 数秒後、キアンは笑顔で迎えてくれた。


「ただいま」

「おかえり」


 翌朝。

 まだ日が昇るには早い時間に私は目覚め、そっと聖書を引き出しの奥に閉まった。





 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

もし少しでも心に残るものがありましたら、★で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ