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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第二章 優しい手、小さな息吹

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第23話 俺の覚悟を消さないで


『キアンは大丈夫だよ。会いたいって言ってるから、行っておいで』


 エレナさんに促されて、彼に食事を持っていった。

 扉をノックする手が震える。

 それを必死に隠して、声をかけた。



「キアン?食事を持ってきたよ。……入っていい?」

「……うん」 


 少し、声が上擦ってしまったかもしれない。失敗した。


 部屋に入ると、ベッドに座っている彼と目が合った。

 起きられるようになっている。

 それだけで涙が溢れそうだ。


 そんな事をしたら、困らせてしまうけど。

 でも回復して良かった。


 ――私のせいで、巻き込まれたキアン。

 その瞳を伺うけれど、差別的な色は滲んでいない。


「キ、キアン。……ありがとう。今回は本当にキアンが……居てくれて――」


 エレナさんの言うとおりに、お礼を伝えたかった。

 でも、言葉が続かない。


『キアンが居てくれたから、私は無傷だよ』

『キアンが居てくれて私は……』


 そんな言葉は、口からでなかった。

 だって全ては『間に合ったから』言えるだけだ。


 キアンが刃物で刺されていたら?

 治安隊が来るのがもっと遅かったら?


 私一人で済んだ被害なのに、キアンを死なせてしまっていたら……?

 そんな悲劇は、そこら辺に転がっている。

 ――ベイルが言うとおりに。


 私の居場所はここじゃないのかもしれない。

 少しだけ、彼から距離を取る。

 それは完全に無意識の行動だった。


「ルミア」

 その私の手を力強く握ったのはキアンだった。

 彼の純粋な好意が伝わってしまう。

 深く考えずに、彼に甘えた結果がこの大怪我だ。


「キアンは、明るい所が似合うと思うんだ。多分、本来ならこんな大怪我することはなかったと思う。だから――」


 そこまで意識していない、反射的な発言だった。

 私の口から出た言葉の数々。

 きっと、ただ、自分が楽になりたくて言った台詞だったんだろう。


「――だから?もっと頼りになる人の所に行く?」

 その声は、静かで……、私の弱さを逃さない強さを秘めていた。


「あの瞬間、自分で選んで助けに入った。あの時、手を離さなかったのは俺の選択。……自分でいうのもなんだけど……。やっぱり、やればできる奴だよなぁ」


 キアンは沈んだ空気を、わざと軽くしようとしているみたいだった。こういう所が……凄い。


「うん。……キアンは格好いいよ。だから、こんな目にあうのは間違ってる」

「……じゃあ!」


 布団を払い除けて、キアンが私の両肩を掴んだ。

 彼の握力で肩が沈み込む。

 でも、それ以上に痛々しい彼の表情から目が離せなかった。


「ルミアならいいのかよ?……ルミアなら理不尽な目に遭っていいって?……なんで?なんで自分も大切にしてくれないんだ」


「だ、だってそれが普通……だから」


 私は、絶え絶えに答えた。

 キアンが怒っている。それだけが恐怖だった。

 優しい彼に怒られている理由もわかる。でも……。


「俺は子どもだけど……まだまだだけど。あの時の自分を褒めたい。目の前で好きな女の子を拐われて、絶望しなくて本当に良かった」


 そこで言葉を切った彼の瞳が暗く沈んでる。

 それは本来あったはずの未来を想像しているのだろうか。


「多分、あのままだったらルミアは……」


 それは私にも想像できる。きっと彼に聞かせてはいけない話だ。

 そして、そんなのはよくある悲劇だ。


「だから、あの時の俺は、よくやった。俺が俺でいられる。――でも、ルミアに否定されたら……。それはあの時の俺を否定されてるってことだ」


 そこで言葉を区切ったキアンの瞳は、射抜くように強い光を帯びながら……。

 目元に光るものが見えていた。


「否定しないで。――逃げて、俺を消さないで」


 それは、祈りのように狭い部屋のなかで響いたのだった。

 静まり返った空間に吸い込まれて消えていく。


 私からも言いたいことが多かった。

 今、この場で彼にぶつけてもいいのだろうか。


 ――いや、今しか言えないのかもしれない。そう思ったら、ちゃんと伝えるべきだと、心の奥から後押しされた。


「でも……無茶しすぎだよ!凄く怖かった。不安だったよ。キアン……無事でいてくれてありがとう……でも……本当に死んじゃうかと思った」


 今は素直に喜べる。だって、キアンが死んじゃうかと思った。それでも、今、ちゃんと目の前に居てくれる。

 キアンがいないそんな未来……今の私には想像もできないほどつらい。


「私は、最初からずっとキアンを選んでる……。だから、こわい。私がどんな目に遭ったっていい。でもキアンだけはイヤなの。……お願い、今度から無茶をしないで」


 そこで、目に溜まった涙が零れ落ちた。

 泣きたくはなかったのに。

 それで一番、自分を責めちゃうキアンだから……。

 彼の前でこんな弱音を吐いたら駄目だったはずなのに。


「多分、キアンがいなくなったら……私は全部諦めちゃうよ」


 ――ゴチン。

 彼は、私の頭を小突いた。

 軽く、痛くない程度に。

 でも、きっとそれ以上の感情なんだろう。


「俺は最後まで諦めないし、簡単には認めない。……だから、お前もすぐに諦めるのはやめるって約束してくれ。それでここに居る馬鹿なヤツは報われるよ」


「あ……それは」


 ――あの夜のこと?キアンだけは助かってほしかったから、言った言葉の事だろうか。


 でも、あの時、私にできることは他になかった。

 ……本当に?

 キアンが体を張って守ってくれたのに、あの時の私にできることは一つもなかったのだろうか。

 もしかして、すぐに諦めたから、何もできなかったのだろうか……。


「俺は、あの時お前が諦めた瞬間に、一度心が折れた」


 それは、どうしようもなかった場面だったけど――。

 彼に真正面から言われると胸がちくりと痛んだ。


「お前も責任取れよ。男のプライドをズタズタにした悪い女だろ」

「え?えぇ!?」


 それは、いたずらっぽく言った彼の精一杯の強がりのように見えた。

 それなら、私は……。

 彼の信頼を裏切っては駄目なんだろう。


 ――簡単に、自分を諦めない。

 初めて、誰かと約束してしまった瞬間だった。


 それはとても……重くて。

 私に守れる気がしなかったけれど。


 でも、キアンの、この温かさを裏切りたくなかった。






 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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